Fate/the Atonement feel 改変版   作:悪役

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敗者の不屈

 

月下の下でかつてこの地の領主であったであろう城の屋上で少年と少女が視線を合わせていた。

 

 

 

これで今までの話が全て、嘘や演劇であったのならば、遠坂真とアメリー・ランベールのこの対話も笑い話で済んでいたであろう。

だけど、そうはならない、いや、なれない。

直ぐ傍で這い蹲っている魔術師の男も、下で目を閉じ、眠っている少年の死も──自分と彼女が聖杯戦争のマスターとして参加している事実はどんなに寝ても消す事が出来ない現実だ。

だから、今、どんなに普段通りの綺麗な笑みで俺に微笑みかけようとも……自分が今、両手に握っている剣を離さない理由にはならなかった。

 

 

 

「……正直、マスターになった経緯とかは興味ない。何でも叶えてくれるっていう詐欺師御用達のアイテムが欲しいなら好きにすればいい──それを理由に俺を殺すっていうのは確かな動機になるだろうな」

 

 

何の熱も籠っていない俺の言葉を、少女はどう捉えたのか。

一度、目をパチクリと瞬きをしたら、直ぐにくすり、と一度笑い

 

 

 

「いやだわ、シン。私、そんなふざけた代物に手を出す程、現実を見ていない女に見えたかしら」

 

「……さぁ? 知らない……というより分からなくなった、と言うべきかな……まぁ、そもそも俺程度の人間じゃあ他人の全てを推し量るなんて出来る筈がないんでね」

 

「そう? その割には私がこうして現れた事に余り驚いた様子が無かったけど?」

 

 

どうして? と笑って聞く少女はまるで童話の本から現れたようであった。

まるで無邪気で……世には善意で満ち溢れている、と言わんばかりの透明さ。

明らかに剣を握っている自分に対しているのに……彼女はそれが絶対に振るわれない、と確信しているようであった。

その苛立ちを、より強く剣を握る事で誤魔化し、問われた事に言葉を返した。

 

 

 

 

「別に。特に大仰な理由はない──単に人間は何でもなれる、と思っているだけだ」

 

 

ある時、森に捨てられた赤ん坊がいる。

では、この赤ん坊はこれからどうなるでしょうか、と問われたら、大抵の人間はそのまま衰弱死するか、動物に捕食される等、答えるだろう。

確かに現実的にはそうだろう。

だけど、現実というのは意外に柔軟だ。

例えば、このままだと死ぬだけの運命は、偶然、そこを通り過ぎた石油王に拾われ、何もかもに捨てられたと思ったら、捨てた相手を見返せる程の悪運という名の幸運に見舞われるかもしれない。

逆に、偶々通った死徒にそのまま連れ去られ、死んだ方がマシだと思えるような台無しの人生を送るかもしれない。

 

 

 

全ての道は無限に通じている

 

 

だから、俺は少なくとも命を持つ生物に対して想定という言葉は余り持たないようにしている。

現に、目の前にいる少女がいい例だ。

例え、それが正しいとは思えない方向性であろうとも……ヒトは勝手に想定から外れて生きていく。

その旨を伝えると……少女の笑みはまるで夜空に輝く星のように輝く。

何故、と訝しげるよりも早く、アメリーは両の手を合わせて、己の喜びを伝えて来た。

 

 

 

 

「あぁ……つまり……私は貴方の予想を超えられたのね? ──良かったぁ……」

 

 

……この状況で尚、少女が浮かべるのは出来事に一喜一憂する少女の面であった。

そこには憎悪も嫌悪も……狂気の色すら見えなかった。

意味が分からない、という不理解はそのまま何故、という問いになって口から不意に出た。

それに少女は、小首を傾げて楽しそうに笑いながら

 

 

 

「あら? 人は想定を超える生き物じゃなかったの?」

 

「……想定を超える事には驚く事は無くても、何故、と思う事を止めれないのもまた人間だろ」

 

 

それもそうね、と少女は笑う。

……いっそ、自分勝手に、一方的な形になってくれた方が理解し易かった。

自分の感情に振り回され、暴走するだけなら、哀れではあっても同情する余地はない。

遠慮せずに知った事か、と突き放す事が出来るのに……アメリーは俺の言葉もしっかりと受け取り、理解していた。

いっそ狂っていてくれたら……と歯噛みしそうになり、しかしゆっくりと力を抜く。

 

 

敵だ

 

 

彼女は敵だ。敵なのだ。

例え、どういう理屈があったとしても彼女は敵の筈なのだ。

なら、俺は敵意を持って彼女を睨みつけなければいけない。

それは義務であり責任だ。

少年の死を見届けた者として為さねばならない務めだ。

自分は今、剣を握る……否、振らなければいけないのだ。

その覚悟の是非を──しかし、真は問う事が出来なかった。

 

 

 

「■■■ーーー!!!」

 

 

狂気の咆哮が月光の下で放たれる。

地響きのような震動が足元で響いたかと思った時には遅かった。

何時の間にか自分は影の下におり──つまり、己の背後に月から覆い隠すように立っている存在が居る事を教えていた。

 

 

 

 

 

背後に人/敵、否、英霊──バーサーカー/防御、回避/どれを取っても間に合わない

 

 

 

思考を並列に散らした事と大量のアドレナリンの分泌によって即座に思考だけは間に合うが、思考ですら防御も回避も不可能という答えを弾き出しており、絶体絶命と言うしかない状態だが──真が慌てる事は無かった。

バーサーカーが来ているという事は、己の剣が来ている、という事を感情ではなく感覚が告げていたからだ。

 

 

 

 

即座に刃鳴り散らす甲高い音が空間を引き裂き、発光させた

 

 

 

上を見上げれば、まるで地球と並行して飛んでいるかのように吹っ飛ばされるバーサーカーの姿。

そして背後には少々くすぐったくなるくらい暖かな人の体温を感じる。

 

 

「セイバー、無事か」

 

「──一切問題なく。しかし、申し上げません。バーサーカーをここまで近付けて……」

 

「君との戦闘を放棄したんだろ? 基本、不死身であるバーサーカーじゃあ相手が悪いからしょうがない」

 

 

夜に映える黒髪の女剣士は、俺の言葉にしかし頷かず、申し訳ない顔のまま俺の前に立ってくれる。

……本当に仕方がない事なんだから、そんな気にしなくてもいいのに、と思う。

実際、しっかりと対処して俺を守れているんだから至上の結末だと思うが。

そう思い、今度は主従同士で睨み合う状況になった──と思ったら

 

 

 

「がぁっぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 

何時の間にか、バーサーカーの片手に魔術師が掴まれていた。

それも残った腕を掴んだ腕ごと握り潰す強さでだ。

自身の魔眼による幻痛にすら耐えれなかった男だ。

そんな痛みに耐える事も出来ずに、魔術を編む事すら出来ていない。

 

 

 

その事に──真は特に興味も持たずに、アメリーの方を見た。

 

 

 

「何だ、アメリー。そいつ、まさか人質のつもりか?」

 

「それこそまさか、よ。そんな悪趣味な事は趣味じゃないし──こんな外道に対して大事な存在だ、とか言うくらいなら私は私の口を裂くわ」

 

 

魔術師ならば、魔道の神髄を目指す輩、とか言うのかもしれない。

しかし、この場に立つ二人のマスターにはそんな感情は欠片も存在しない。

血の匂いを発している以上、決して否定は出来ないが、だからと言って同族意識なんて欠片も起きないし──正義なんて抱けるはずが無かった。

故に、魔術師の結末は一切変わらず

 

 

 

「じゃあ、バーサーカー──()()()()()()

 

 

狂気の従者は一切、指示を過たずに従った。

 

 

 

「……ぁ?」

 

 

真は酷く滑稽な言葉を口から漏らしながら剣を腹に刺される人間を初めて見た。

バーサーカーは敵対者を嬲るといった余計な事は一切せずに、ただ剣を突き立てた。

狂気の檻に括られているとは思えない正確な一撃は、未だ流血を流す事を許していない。

──あるいは、それこそが魔剣の神髄であったのか。

 

 

 

 

「ぁ────ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああがぁぁぁぁぁぁあ!!!??」

 

 

唐突な激痛の爆発によって放たれた叫び──そう思っていたら

 

 

 

「く、くわ、喰われ、喰われてる!? な、んななななななんで!? 何で! 何で何故!!? ああぁぁぁ! やめ、やめ、止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ──止めてくれぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

魔術師は刺された腹を見ながら、喰われると叫んだ。

当然だが、剣が唐突に獣の口に変わった、とかそんな事は無い。

あくまで魔剣は刺さっているだけで、肉体を貪っているような事はしていない。

それでも尚、喰われている、というならばそれは物質的な物ではなく霊的な事──魔力か、もしくは魂を食われる汚辱を受けているのか。

 

 

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁ!! いや、いやだ! 喰わないで! 喰わないでぇぇぇぇぇぇ!!! 喰、喰うくらいなら───お願いですから殺して下さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 

どれ程の苦痛なのかは知らないが、男の精神はいとも呆気なく崩壊し、惨めったらしく許しを乞うていた。

 

 

 

──もしも、ここに立っているのが正義の味方であるなら、例え罪人でも人を救ったのだろうか。

 

 

どれだけ言葉を重ねても、もしもの話だ。

どんなにIFの話をここで持ち出したとしても、ここに立っているのはツギハギだらけの下らない本物だ。

必死に本物になろうとする偽物にはとても及ばない。

故に、どれだけこちらに助けを求める瞳を向けられても、遠坂真は一切動かなかった。

 

 

 

悲鳴は丁度、一分を過ぎた辺りで途切れた

 

 

ぷらーーん、と剣に吊られる姿はまるで壊れたマリオネット。

嘘ばかり吐き続ける魔術師(ピノッキオ)には酷くらしい結末であった。

故に、俺は放り捨てられる魔術師には目も向けないまま、遠慮なく無感動の瞳をアメリーに向けた。

 

 

「──これは悪趣味じゃないっていうのか、アメリー。それこそ悪趣味だな」

 

「それもまさか。私だって趣味じゃないわよ……だけど、バーサーカーを維持するにはこれくらいしか無いの」

 

「……」

 

ああ、つまり……ここにいたであろう他の魔術師が居ないのはそういう理屈か。

魂食い……とはまた違う、あの魔剣の能力か。

恐らく魂を喰らいつくしたのではなく、魂を魔剣に取り込んだのだ。

 

 

 

魂とは……魔力とは命だ

 

 

命がある限り、原理上、魔力を発生させる事が出来る。

つまり、魂を取り込んだバーサーカーは原理上、魂が魔力を生み出し続ける限り、ほぼ永久機関となった……というわけだが、当然、完璧な永久機関ではない。

あくまでそれは魂が存在しているまでだ。

幾ら魔剣によって喰われたとはいえ、人の魂がそんな場所で擦り切らずに不滅であり続けれるわけがない。

何れ、破綻が発生し、魂は自滅する。

……逆に言えば、取り込み続ける限りはほぼ永久機関となる、というわけだが。

 

 

 

「……どちらにしろ悪趣味だが……外道を相手にするなら外法を持って対処するのは筋道が合っている、か」

 

 

 

──魔術師は素晴らしい、なんて死んでも言わない。

 

 

魔術師なんてものは現代から排斥されるべき存在の筆頭だ。

無駄に過去を追求し、辿り着く事が出来ない根源に必死に命を賭ける。

それだけならば、まだ尊さがあったが……挙句の果てには容易く他人の命を空費する。

無駄、無駄、無駄、無駄極まりない。

 

 

 

……まぁ、その魔術でしか身を守れないという事もあるが一長一短だが。

 

 

分かりやすい例でいえば吸血鬼……死徒のような存在がこの星にいるから魔術をただ害悪だと称する事が出来ない。

ああ……強いて言うならば、魔術は道具だ。

……モノによっては生きた魔術があるから絶対とは言えないが、少なくとも普通の魔術には術者がいる。

それならば現代の殺人事件らしく、道具に罪があるのではなく使う人間に問題がある、といった方が正しいか。

 

 

 

「で、それで? 同じ外道である俺もそうやって殺すっていう宣言か?」

 

「コンセンサスが取れていない今、そうやって言われるのはしょうがないけど……でも、駄目よシン。貴方は今の人みたいに外道じゃないんだから、そんな偽悪者みたいな態度ばっかり取っていたら」

 

「──うるさい。俺の事を見透かしたように語るな」

 

 

思わず奥歯を噛み砕いてしまいそうだ。

今の状況もそうだが、それ以上に目の前でまるで自分の最大の理解者みたいに振舞う少女が苛立ってしょうがない。

自分を理解出来る人なんて()()()()()()()

それを何も知らない敵が、まるで見たかのように語るのがどうしようもなく怒りを沸き上がらせる。

怒りに呼応し、鋼の瞳は爛々と輝いている事だろう。

それだというのに

 

 

 

「──」

 

 

少女はむしろ嬉しそうに笑う。

まるで美しいモノを見れた、と言わんばかりの態度に舌打ちをしてしまう。

その態度に、度が過ぎた、と気付いたのか、直ぐに笑みを消し、その上でごめんなさい、と前置き

 

 

 

「私の目的が何かっていう話だったね。ああ、先に言っておくけど、最初に言ったように聖杯が目的、とかえっと……こんげん? だっけ? そういった何か曖昧な意味の分からないものが目的じゃないから」

 

 

……口ぶりからしたら嘘を吐いている様子はなかった。

聖杯についてはまだ嘘かどうかは分からないが……少なくとも、根源は本当に意味が分からない物、と認識しているようであった。

どんな素人でも知っている根源について、全く知らないしどうでもいいと称しているのを見る限り……やはり、アメリーはそもそも魔術師でもない、ただの人であったという証であった。

 

 

 

……ならば、余計に目的が分からない。

 

 

こんな凄惨な殺し合いなんて、普通であった少女からしたら狂ったお祭りにしか見えない筈なのに。

何故、わざわざ参加したという……いや、もしかして偶然、バーサーカーを召喚してしまったから参加したという可能性も……いや、それは己に都合がいい可能性だ。

大体、アメリーは目的、といった。

理由ではない。

この聖杯戦争でやりたい事があるから、目的とアメリーは告げたのだ。

偶然巻き込まれた人間が言う言葉では無い。

なら、何故だ、と思っていると……少女は嫌に上気した顔でこちらを見つめている。

ようやく緊張感でも出て来たか……と思ったが、そんな可愛いモノには全く見えない。

何だ、という想いに呼応するように少女は数回息を吸って吐き、そこで覚悟を決めたかのようにこちらを見

 

 

 

 

「私の目的はたった一つ──貴方に振り向かれるような女になる事」

 

 

 

─ただそれだけ

 

 

そう告げられた俺は間違いなく茫然自失の状態に陥った。

 

 

「…………は?」

 

 

まるで何を言っているのかが理解が及ばない。

まだ全人類全てを虐殺、ただし動機は何となく、とかの方が納得も理解も届くというもの。

だって、そうだろ?

こんな血の匂いしかない修羅場で、少女が願う事がまるで王子様を待つシンデレラの如き願い。

言語も感情も理解しているからこそ、今、このタイミングで言われた事に、まるでおぞましい魔術の完成を見届けたような感覚であった。

同じ愛を理由にした行為なら、まだダイレクトに貴方を愛しているから、とか理屈の通じない理由にして欲しかった。

 

 

 

意味が分からない。

 

 

少女が正気なのか、それとも狂気に陥っているのか。

もう……本当に何も解りたくなかった。

それなのに……まるで少女は解れ、と言わんばかりに勝手に話を進めた。

 

 

 

「ねぇ、シン。私と貴方が最初に出会った時を覚えている?」

 

 

唐突な話題転換。

意味自体は解らなかったが……正直、有難くもあったそれに、俺は乗る事にした。

 

 

「……そんなの、俺が学校に転校──」

 

()()()()()()? 私達が最初に出会ったのはその時じゃない」

 

「──」

 

 

……そんな頃から彼女は理解していたのか、と思いながら、真は答えるべきか悩み……意味が無いか、と思い、結局答える事にした。

 

 

 

 

「……君は初めて出会った時……ここの魔術師の暗示を受け、俺の監視の命令を受けていた」

 

 

 

相当慎重に、あるいは臆病に俺を監視していた魔術師は獣だけでは不安になったのだろう。

ある時、魔術師は年齢の近い少女に暗示をかけて俺の監視をした。

能力柄、一瞬でそれを看破してしまった。

 

 

 

……無視すればいい

 

 

監視の道具とする以上、ある意味で少女の無事は約束されているようなものだ。

やましい事も無い以上、見るだけ見れば、向こうが勝手に見限るだろう、と思考は判断し──何時も通り体は裏切った。

脳には実は肉体に対する命令権が無いのではないか、と思うようなあっという間に己の瞳は少女の暗示を解いた。

そして、結局、その記憶は暗示で消すのだから、やはり俺は魔術師と何も変わらない、と判断し──その後、転校した学校のクラスで少女──アメリーの姿を見て思ったのだ。

そんな些細なとは言い辛いが……魔術世界では大した事が無い出来事を、少女は両の手を合わせ、顔を上気させながら、まるで子供の頃、読み聞かせられた正義の味方の話をするかのような姿で

 

 

 

 

「──あれは一目惚れだったなぁ」

 

 

そんな言葉を呟いた。

 

 

 

「丁度夜であったのも良かったわ。月を背後に、貴方の鋼の瞳がよく光っているのが見えたの。それ自体もとっても美しかったけど……一番キレイだったのは、貴方が本当に心の底からホッとした顔をしていて──うん、本当にそれがキレイだって思ったの」

 

 

知らない、そんなの記憶にない。

そんな──そんな偽善めいた感情を表に出していただなんて恥だけで3度くらい自殺したくなるくらいだ。

しかも、何だ?

たった、それだけ? ただのクソガキが……巻き込まれた迷惑の恥を雪いだだけで……アメリーはそんな風に思ったっていうのか?

そんなのは──

 

 

 

 

「……馬鹿かお前。そんなの──お前が損をしているだけだろうが……!」

 

 

たかがその程度の事で俺程度の男に対してそこまで狂ったというのなら等価交換が全く釣り合っていない。

俺は精々、俺のせいで巻き込まれたアメリーを即座に解放しただけで、恩なんて考えるようなものでもなく、むしろ仇と思ってもいいくらいだ。

アメリーが愛する価値も無ければ、人生を一秒でも懸けるのも勿体ないくらいな塵屑の男だ。

 

 

 

 

「…っ! 大体……それなら何でお前が聖杯戦争なんかに参加しないといけない! こんなイカレた儀式に付き合う理由なんてお前には一切無いだろう!?」

 

 

そうだ。

その説明が正しいのならば、アメリーは聖杯戦争に参加しないといけない理由なんて欠片も無い。

普通の生活と普通の生き方で十分だった筈だ。

 

 

 

 

こんな穢れた殺し合いなんて参加する必要も無ければ──そこまで狂う必要なんて無かった筈だ。

 

 

 

その問いに、少女は初めて美しい笑み以外の形を顔に出した。

嘲るような、憤激するような──憐憫するような顔を向け、首を振りながら、少女はその問いに答えた。

 

 

 

「──じゃあ、貴方の言う普通の方法で貴方に近付こうとして……貴方は私を受け入れてくれたの?」

 

「──それは」

 

 

それは……その通りであった。

現に俺は、いざという時、彼女に別れの挨拶も告げる事も無く街を出て行くつもりであった。

アメリーが自分に対して不相応な感情を抱いている事は知ってはいたが……それに応えるには、自分は余りにも欠けているから見て見ぬ振りをするつもりであった。

その方が少女にとって幸せだと信じていたし──いや、それは言い訳だ。

 

 

 

 

俺は少女の恋に応えるつもりは微塵も無かった

 

 

 

それが答えで……同時に少女の下した結論が間違いでは無いという証明であった。

 

 

 

※※※

 

 

 

セイバーは自分のマスターが脱力するのを視覚ではなく感覚で気付いた。

手足は死体のように垂れ下がり、持っている剣は今にも落ちそうだ。

……会話を聞く限り、少年と少女は知り合い……否、友人の関係だったらしい。

なら、今の状態は確かに惨たらしい。

 

 

 

少年は何も間違っていなかった

 

 

少女は何も悪くは無かった

 

 

だけど、結果はこうして互いが互いの悪と罪を示し合う事になっている。

人間の知性は時に、こうして絡み合った糸のように何もかもを狂わせていく。

最もおぞましいのは、それら狂気が、決して悪意から作られるわけではない事だ。

 

 

 

心の底からの善意が、結果として人を傷つける刃と化す

 

 

精一杯の愛情が、希望も絶望も奪い去る混沌の坩堝になる事がある

 

 

 

少年は何も間違っていなかった

 

 

少年はただ自分に降りかかる邪悪と神秘の狂気を誰かに触れさせたくなかった。

だから、少年は周りにいる誰かに積極的に関わらせる事なく、何もかもを連れて行きながら、何も持たずに去ろうとしていた。

 

 

 

少女は何も悪くは無かった

 

 

少女は特異な少年を愛し、自分に振り返って欲しかっただけだった。

しかし、普通であるなら少年からは守る為に無視される。

故に自ら神秘と狂気の世界に踏み入った。

全ては少年に振り返って貰う為に。

 

 

 

 

少年の覚悟も、少女の決意も決して悪いものではなかった

 

 

 

敢えて言うなら……何もかもの間が悪かった。

ただそれだけの断裂で、それだけの悲劇で

 

 

 

 

「──なら、君は俺の敵という事だな?」

 

 

糸が切れたように崩れ落ちかけた体を意思の力で捻じ伏せ、殺意と敵意を持って告げる少年。

 

 

 

 

「──ええ、そうなるんでしょうね」

 

 

優雅さすら感じる笑みで、少年の殺意と敵意を受け入れる少女。

 

 

 

 

少年は悪くなかった

 

少女は悪くなかった

 

 

ただ、少年は悪性よりも善性を尊び、少女は善を慮るよりも欲しい物を手に入れる為ならば悪を行う事を躊躇わない。

ただそれだけが二人を決定的に分ける最大の壁であった。

 

 

 

「でも、今回は私は逃げさせてもらうね。真っ正面からだと私じゃ勝てないし、バーサーカーも貴方のセイバー相手には相性が良いようで悪いみたいだから」

 

「それを聞いて、はい、いいですよ、と頷く敵がいると思っているのか?」

 

「うーーん、困ったな。そう言われたら私の力じゃ太刀打ちできないんだよね」

 

 

少女は本当に困った口調で告げる。

セイバーの眼でもそれは本当に困った口調に聞こえるが……しかし、同時に仕方がないな、というような言葉であった。

 

 

 

「追われたならしょうがない。また厭らしい手を使うよ」

 

「俺でも洗脳するか?」

 

「だから出来ないって──だけど、さっきシンが暗示をかけて逃がした人達はまだ近くにいるよね?」

 

 

一瞬だけ視線を背後に向けるとマスターが苦虫を嚙み潰したようかのような表情でアメリーと呼ばれた少女を見ていた。

最悪な発想だと責めているようで……そんな言葉を聞きたくなかった、という絶望にも見えた。

だからか、その策を告げた少女はごめんね、と笑う始末だ。

お陰でマスターは舌打ちをする始末だ。

 

 

 

 

「……悪党が謝るな」

 

「うん、そうね。だから止まれないし、諦めないわ」

 

 

 

そう告げて結局、最後まで笑みを絶やさなかった少女をバーサーカーはゆっくりと抱き上げ、肩に乗せた。

先程までの狂態からは考えれないような紳士然とした作法。

鎧や剣だけを見れば騎士と見間違う姿だ。

それをセイバーはサーヴァントとして最後までバーサーカーに注視するだけしか出来ない。

故に、最後まで少女が吐き出す呪いのような愛の言葉を塞ぐことは出来なかった。

 

 

 

 

「じゃ、今日はさよなら──また今度ね」

 

 

 

まるで、これからも友人だからと言わんばかりの言葉を最後に、バーサーカーは跳躍した。

あっという間に粒になっていく姿を、セイバーは自分なら追えるし、マスターが居る今、打ち倒せれる可能性も出てきたが

 

 

 

「……」

 

 

マスターが何も言う事が無い以上、自分はここから動く事が出来ない。

 

 

 

 

敗北、と言ってもいいのかもしれない

 

 

サーヴァント同士の戦いならば自分は敗北していない、と言ってもいいかもしれないが……あくまで聖杯戦争がマスターを主体としている以上、サーヴァントだけが勝利しても意味がない。

生前も含めて、中々に無い敗北ではあるが別段、自分には気にする事が無い。

敗北など今、生きている事に比べれば、何の傷にもならない。

敗北なんて次の勝利の為の布石にすればいい、がセイバーの持論だが──今、俯いて黙っている少年に対して、それを告げても効果はあるだろうか、と考え、セイバーはマスターに気付かれないように溜息を吐くしかなかった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

その後、セイバーは死んでしまった子供の埋葬を手伝った。

埋葬中、ずっと何も言わないマスターは気がかりであったが、同じ時代を歩んでいない存在として語り掛ける為の立場を持っていない為、自分もまた沈黙を選んだ。

そうして作り上げられた墓……戦国時代を生きた自分にはこんなものだろう、という想いがあるが、やはり今の時代に即すればみずぼらしい墓なのだろう。

それを作り上げた後──まるで糸が切れたようにマスターは両膝をついた。

傷や病ではないのは一目で分かった為、ゆっくりとそちらの方に振り返ると少年は絶望から膝を着いていた。

 

 

 

 

友に裏切られた事か、誰も守れなかった事か

 

 

 

分からないからこそセイバーは膝を着いたマスターには何も言わずにいるとようやく彼から声を掛けられた。

 

 

 

「……なぁ、セイバー。セイバーは邪悪、という存在についてどう思う? どう感じるでもいいよ」

 

 

掠れた問いで問われた言葉に、セイバーは敢えて無視して自分の所感を冷静に語った。

 

 

 

 

「動機と所業にもよりますが、唾棄すべき邪悪であるのならば、人間であっても殺したくはなりますね」

 

 

セイバーは一切隠さずに自分の殺意を述べた。

別に恥じる事は無い。

自分は所詮、人斬り包丁ではあるが同じ斬るなら斬っても特に何も感じる事が無い相手を斬った方が気が楽だ。

その判断にも善悪の判断基準が生まれるのだろうけど、そこまで行けば堂々巡りだし、興味も無い。

 

 

 

サーヴァントとしての自分はあくまで死者であり兵器だ

 

 

なのに、マスターはそれを知っているのに理解せずに、こんな事を告げた。

 

 

 

「なら──目の前に邪悪がいるよ」

 

 

ポツリと漏らした言葉。

幾分か……期待も込められた言葉に、セイバーはだからこそ遠慮しなかった。

セイバーは少年にも覚悟を与える為に、ゆっくりとした動作で、しかし躊躇わずに少年の頭を掴み、そのままみずぼらしい墓に顔を無理矢理向けさせた。

一瞬、少年は硬直したが、即座に視線を逸らそうとしたので無理矢理技と力で押さえつけ、私は一切の怒りのない普段の口調で問いかけた。

 

 

 

 

「もう一度──今の言葉をこの墓をしっかりと見て言ってください」

 

 

マスターは何も答えない。

答える事を拒否するように震えるが……私は決して優しい存在でも無ければ、絡繰りでもない。

本当ならば自分にはそんな資格は無いのだが……彼が頼るべき生者が居ない以上、自分しか出来ないのならば、恥の一字を持って行うだけだ。

 

 

 

 

「私はその墓の子供を知りません。マスターもそう深い仲では無かったのだと思います。ですから分からなくても結構ですけど、質問させて貰います──その子供は、今の貴方みたいにもう死にたい、と思っていたのでしょうか?」

 

 

 

再びマスターが小さく震えるが構わない。

 

 

 

 

「そうであったのならば、別に構わないでしょう。死にたがりが死んで、ここにもう一人死にたがりがいる。それだけで終わりです──ですが、もしもそこの子供がそうでないのなら、貴方は自分の甘さで死んだ少年の前で死にたい等と甘えるのですか」

 

 

 

何て恥知らずな説教だ、とセイバーは思った。

殺す側の言う人間がいう言葉ではないし、何よりも死者がこんな言葉を吐くなんて侮蔑でしかない。

己もまたこの少年を殺す一因となった癖に図々しい。

だけど……サーヴァントは生者に肩を貸す存在だ。

だから、自分が言う。

誰も言う事が出来ないのなら、自分が言うしかない。

それでマスターの心が少しでも楽になるのならば、どんな恥を得ても言うだけだった。

だから、私の言葉に震えながら声を出してくれた事にホッとしたのだ。

 

 

 

 

「……何人もの人の人生を狂わせてしまったんだ」

 

 

 

詳細が分からない言葉。

だから、セイバーは何も問わずにそうですか、と頷いた。

 

 

 

「何も……俺自身が何もしなくても、何時も周りの歯車がおかしく、なるんだ……」

 

「そうですか」

 

「自分の手で壊したこともある。ずっと……ずっとずっと……正義の味方に成りたがっていた人の夢を壊した」

 

「そうですか」

 

「か、母さんもだ……母さんも……アメリーも、さっきの子供も……」

 

 

震えは段々と大きくなっていく。

……無理も無い。

マスターの才能を考えれば、過去にあるのは栄光だけではあるまい。

能力が有ればある程、余計な事も見えてしまうのが世の常だ。

そして、行き過ぎた才能は時に周りさえ巻き込んで狂わせる。

 

 

 

 

全部、自分も体験した出来事だ

 

 

 

だからこそ、セイバーは甘やかさなかった。

 

 

 

「で、あるならば答えは一つです──貴方は、その狂わせた人生の対価を支払うまで安易な救いは与えられません」

 

 

狂わした代価に釣り合う行いなんて一度死した自分でさえ思い当たらない。

贖いは永遠と続く場合もある──今の自分のように。

だけど、マスターが狂わした人間は未だ生きているというのなら……救いはまだある筈だ。

 

 

 

 

殺人は永遠と残る罪という荷物ではあるが……生きているのならば幾らでも戦う事も助ける事も出来る筈だ

 

 

 

全てを決めるのはその時でいい筈だ。

もうこれ以上──私は居なくていいのだから。

 

 

 

「マスター。泣いて謝る事なんて誰にでも出来ます。死ぬ事だって覚悟を決めれば子供ですら出来ます。なら、才がある貴方はそれ以上の事を為さなければいけません。貴方がどれだけ忌み嫌おうとも、貴方の才能(ちから)は貴方を放す事は無いのです」

 

 

「だから、貴方は立ち続けないといけません。両の足で立って、進んで、倒れて、また立って、進むのです。立ち止まらず前に進みなさい」

 

 

「血反吐を吐いても立ち上がるのです。貴方の才の限界にまで、貴方の才の限界を超えても。そこまで進んで──ようやく貴方は自分の限界を知るのです」

 

 

 

──私は死ぬまで止まれなかった

 

 

その言葉は絶対に外には漏らさないように内心で口止めする。

むしろ死ねたから止まれたのだろう、と思うが、私の事はマスターには関係ない。

願うのは立ち上がる事。

殺戮者が願う事ではないが……善良な人が少しでも長く生きて欲しい、という願いは生前から持っていた願いだ。

なら、死者である自分も願う程度なら持ち合わせても構わないだろう。

だから、私は残酷な言葉を彼の頭から手を放しながら告げる。

 

 

 

 

「立ち上がりなさい、遠坂真──ただ死ぬ為だけに生まれる生命なんてありません」

 

 

 

……一分ほど、時間が過ぎる。

よろよろと少年は逸らしていた(げんじつ)を見つめ続け──地面を弱く叩き始める。

 

 

 

「あ……あぁ……」

 

 

漏れる呻き声は痛みを堪える声だ。

現実には存在しない痛みは、だからこそ止める事が無い痛みとして少年の身を焼いているだろう。

きっと、これから先、何十何百何千と彼を焼く自責の焔だ。

誰も肩代わりす事が出来ない、誰も癒す事が出来ない茨の如き焔。

しかし

 

 

 

「──っ!」

 

 

少年は立ち上がった。

誰の手も借りず、自分の足で立ち上がった。

その事に、セイバーは小さく微笑んだ。

それでいい。

絶望の中で誰の手も借りずに立ち上がれるのならば、これから先、幾度の絶望が襲い掛かってきても少年は立ち上がれる足を得れたのだ。

死者の自分にしては、十分な戦果だろう。

そう思って、胸を撫で下ろすと

 

 

 

「セイバー」

 

 

少年の声が滑らかに耳朶を震わせたので、思わず反射で少年の顔を見ると泣き崩れそうな顔で笑い

 

 

 

「ありがとうセイバー──君は優しいくらいに厳しいんだね」

 

「──」

 

 

どうやら今回の主は生前、自分が聞いた事が無い言葉を言うのが得意らしい。

思わず肩をすくめ

 

 

 

「優しさとは無縁ですよ私は」

 

「優しいよ──ここで厳しい言葉を吐いてくれるんだから」

 

 

苛烈だ、とか化け物だなら言われ慣れているのだが……似た者同士の人とはどうにも相性が悪いですね、と苦笑する。

だから私も特に反論する事なく、少年に向かって膝を着いた。

本来ならば召喚された時にしなければならない事。

傷や状況などで流されてしまった契約の言葉を、今こそ告げよう。

 

 

 

 

「改めまして、セイバーのサーヴァント。マスターの召喚と私の意思の下、貴方様を主としてお仕えさせて頂きます」

 

 

 

一呼吸、間を置き──最も契約に相応しい言葉を彼に告げた。

 

 

 

 

「我が真名、上杉不識庵謙信(うえすぎふしきあんけんしん)。又の名を上杉輝虎(てるとら)と申します。以後、この人斬り包丁を存分に使い潰して頂ければ」

 

 

マスターは一瞬、自分の真名を聞いて、目を見開いたが、でも直ぐに努力して作った笑みで

 

 

 

「──使い潰すのは無理だな」

 

 

と強がり、それ以降、少年は空を見上げるのであった。

だから、セイバーも何も言わずに伏して待つだけであった。

 

 

 

 

少年の覚悟と決意は彼だけのものなのだから

 

 

 

 

 




やっとセイバーの真名を言えた……いや本当に……FGOで長尾景虎の絵が出る前から彼女の設定は実は脳内で作っていたのですが、まさかの原作でやり、しかもランサー。


どういう事かと思っていたら、性格はほぼ正反対の癖に微妙に根本だけはそっくりというあいたぁーーな事になってしまいましたが、開き直って彼女のままやらせて貰います。


FGO本編の彼女とはまぁ、エクストラヴラドとアポヴラド以上に違う存在と思って頂ければと思います。
多分、異聞帯くらいに違う存在でしょうね……クラスが違うから大分違うように見えるでは恐らく通じないでしょうし……多分、見る限り長尾景虎の方は生涯負け知らずみたいな感じが見えますしね。
真名も長尾景虎ではなく、上杉の方なので。


根本は同一だけど、大事な所がほぼ違う存在みたいな感じでお願いします。
……あ、でもCVだけは同じでいいかもしれないです……!!


次回は多分、幕間となると思います。
ある一家の幕間……まぁ、隠してもしょうがない遠坂家の幕間ですね。


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