森の中
コマンドウルフに気付かれぬよう、息を殺しながら必死で逃れようとするレインボージャーク。どれぐらいの時間走り続けたかわからない。すると、今度はまた別の気配を感じた。ついにばれたか。そう思って気配の方を見ると、何も見えない。どういうことか。途端に、気配の主がぬっと姿を現した。ヘルキャットである。光学迷彩を施していたため、見えなかったのだ。
「おいレインボー!俺たちは味方だ。わかるだろう!?お前を助けに来た!殿下も一緒か!?」
「キエ―!」
味方であることを知り、安堵するレインボー。
ヘルキャットのパイロットがコックピットに返事をよこす。が何も応答はない。ハッチを開けさせると、中には誰もいない。
「一体殿下はどこに?」
兵士たちは不安がる。
「おい!何か近づいてくるぞ!これはコマンドウルフだ!」
これではこちらの存在がばれてしまう。ピンチである。
ところが、
ドカーン!
遠くの方で音がした。
同時に自分たちに迫っていた機影が、音の方がした方向へと移動した。
「もしやあの爆発は・・・ダミーだな!おそらくシュバルツ少佐の部隊の。おい、このスキに逃げるぞ。レインボーお前もついてこい!」
ヘルキャットに誘導され、レインボーはその場を離れた。
レインボーたちはレッドリバー支流にたどり着いた。レインボーはそこで、エリザベートの録音記録を兵士たちに聞かせた。エリザベートが自分を助けるためにチュニスへと向かったことを伝えたのだ。
「そうか。ありがとよ、レインボー!クローディア隊長とシュバルツ少佐に伝えろ!チュニスに殿下がおられると!」
一方、チュニスの街
「馬鹿野郎!なんで易々と純金を盗まれたんだ!せっかくの稼ぎがパーじゃねえか!!」
「仕方ねえだろ兄貴!一瞬のスキを突かれたんだ。それにあのガキどもの向かった方向はわかってる。そこへ行けば取り返せるさ!」
いい争いながらも、スリの少年たちを追うのは、クロスボウ兄弟である。
「兄貴こっちだ、こっち!」
「わーってるよ、ロス。ったく、なんで困難面倒なことに!」
裏町の通りについたエリザベート達。
「ひ・・ひどい!こんな状況だったなんて!」
そこには粗末な服で生活をする子供たちの姿があった。
いわゆるストリートチルドレンである。
戦争などで親を亡くし、路上で生活する少年少女たちだ。
ここチュニスは帝国、共和国から様々な人があふれてくるため、そういった人間たちから盗みを働いているのだ。
『こんな悲惨な生活をしている子たちがいたなんて』
エリザベートはこの状況を認識できなかった自分を恥じた。今まで多くの慈善活動を続けてきた。しかし根本的な解決には至らず、今目にした状況はそれを物語っている。
「みんな盗みで生計を立てている。そうでなきゃ生きていけない。だけど誰も助けてくれない。飢え死にで死ぬ子も多いのに」
シシリーは拳を強く握りしめ、涙を流した。
「シシリーはどうしてここにいるの?あなたの家族は?」
「私たちは元々デルポイに住んでいた。父はヘリック系で、母はゼネバス系。父が死んで生活が苦しくなったから、この大陸に移り住んだの。でも敗戦国民ということでいろんなとこでいじめや差別を受けたわ。そのショックで母は病気で死んで、私はこの街にたどり着いた。ここにいるほとんどの子たちは、同じような境遇をたどってきたわ」
かつて中央大陸ではヘリック共和国とは別にゼネバス帝国という国が存在した。しかし、ゼネバス帝国は滅亡し、その国民は敗戦国民としてそのほとんどが冷遇されていた。ガイロス帝国にわたったゼネバス系住民も同様の扱いだった。覇王ガイロスにより多くのゼネバス兵が前線に送られ、ガイロスの鉄砲玉として利用された。
「歴史の本を読んでそのことを少しは知っていたけど。今でもそんなひどい扱いを受けてるなんて」
歴史書を読んだだけで、実際の状況を知らなかったマリア。
エリザベートに至っては自分の無力さを痛感させられるばかりだった。
苦しんでいる人たちが大勢いることに何も気づいてやれなかった。
「それだけじゃないわ!もっとひどい扱いを受けた女の子がいる。その子は青い小型の恐竜型ゾイドを連れていたけど、共和国の実験に利用されたって。昔ノーデンスってとこに住んでたらしいけど、そこの村人たちによって共和国に引き渡されたって。その時に自分を庇おうとしたお友達が殺されたみたいよ。何とか共和国から逃げてこの街まで来たみたいだけど」
それを聞いてアルバーンは驚愕した。
「なんだと、人体実験だと!そんな倫理に反すること、帝国でも共和国でも禁止されてるはずだ。そんなことが行われてたなんて!!」
アルバーンは激しく動揺した。自身も国内でのゼネバス系の扱いに憤りを見せていたが、それだけでなくこのような実験が秘密裏に行われていたとは。
「それで、その女の子は今はどこに、お名前は?」
「知らないわ。一か月間だけ一緒にいたけど、その後すぐに姿を消したわ。でもかなり震えていたわ。またいつ共和国に連れていかれるのか不安でいっぱいだったのよ。名前も尋ねたことあるけど、教えてくれなかった」
「そうなの。かわいそうに。・・・でもその子と一緒にいた小型の恐竜型ゾイドって、マリアさん、まさか!」
「はいっ!弟が連れていたのと同じ種類だと思います。そうですよね神父様!?」
「ええ。だとすればそのゾイドは・・オーガノイド!」
エリザベート達はすぐに確信した。マリアも弟のゾイドと同種の個体がこの世界に他に存在することを知らされた。
『青いオーガノイドってことか。それで実験をされてたのか。・・・ん?弟が連れていたゾイド!この娘の弟ってまさか!?』
アルバーンが感づいたその時、
「捕まえたぞ、このガキが!さあ俺たちの純金を渡せ!!」
声の方へ向かうと、男二人が幼い少年を捕まえ、持っているものを無理やり取ろうとしたのを目撃した。
「おい!貴様ら!」
「何をしているんです、あなた方は!子供相手に大の大人が情けない」
アルバーンとレオン神父が注意する。
「何だてめーらは!俺たちはこいつに用があるんだ!」
少年の胸ぐらをつかみ殴りかかろうとすると、
ドウッ!
「わっ!」
レオンは隠していたサイレンサー付きの銃で男たちを脅した。
「てってめー!神父のくせに銃で俺たちを脅すとは!」
「その子を放しなさい!痛い思いをしたくなければ!」
エリザベートやマリアも駆けつける。
「おいおい、別嬪の娘二人もつれてるぜこの神父。こいつはちょうどいいや!」
そう言うと、男たちは隠し持っていたガス弾を投げた。
辺りが煙で覆われた。そのスキに、
「キャッ!」
「ウッ!」
「ゲホッゲホッ!あっ!マリアさん、エリザさん!」
不意を突かれて彼女たちはさらわれた。
「くそっ!おい神父さんよ、奴らを追え!俺も後で向かう!」
「わ・・分かりました!」
煙の中、レオンは二人の男を追いかける。
街の外の砂漠まで追いかけると、突然地面から二体のヘルディガンナーが現れた。
「ハハハハハッ!俺たちクロスボウ兄弟を甘く見ていたようだな神父さんよ!純金を持ってくれば女二人は返してやる。ここで待ってるぜ」
ゾイド相手では銃など話にならない。
「おい賞金稼ぎども!純金ならここにあるぜ!早く二人を解放しろ!」
この声はアルバーンである。
「へっ、そうこなくちゃ!」
「まず彼女らが先だ。早くするんだ!」
アルバーンも分かっていた。このまま純金を渡して彼女らを返すとは限らない。賞金稼ぎとはそういうものだ。安易に信用してはならない。
とその時、
ドゥーン!
ヘルディガンナーのレーザー砲から、網がアルバーンと神父に放たれた。
「ぐわっ!」
「うっ!身動きが取れない!」
ヘルディガンナーから降りて、アルバーンから純金を取る。
「へっへっへっ!これで純金は返してもらった。あとは女どもも頂いていく。あばよ!」
まんまと賞金稼ぎに逃げられてしまった。
中々網を破れない二人。
すると、
「アルバーン隊長!大丈夫ですか!」
ピンク色の長髪の若い女が駆け寄ってきた。
「あ・・あんたは、クローディア隊長!ロッドディガーの」
駆けつけたのはクローディアだった。アルバーンからの極秘情報を受け取るため、そしてエリザベートを捜索し救出するためこの街に来たのだ。
あみを切り、二人を助け出した。
「クローディア隊長、申し訳ない」
「いえ、この無線機のブザーのおかげで、あなたを探し出せましたから」
「いやいや、あなたにいろいろと苦労をかけた。そうだ、これが極秘情報だ。ぜひ受け取っていただきたい」
アルバーンから極秘情報の入ったUSBを受け取り、ファイル表示のためのパスワードを知らされるクローディア。
「そこの神父さんは?」
「彼は偶然この街で出会ったんだ。さっき、二人組の賞金稼ぎらしき男に連れの女性二人が連れ去られた。我々を網にかけたのもそいつらだ」
「了解しました。それでその男たちは?」
「ヘルディガンナーで砂漠の方へ逃げた。応援を呼ばねば」
状況を聞かされたクローディアはすぐにシュバルツに連絡した。