前話の数日前
帝国領のとある町の酒場
「あーん、んもう悔しいわ~!なんであんな小僧なんかに負けるなんて!思い出しただけで腹たつぅわ~!」
ミルクを飲みながらおネエ言葉で悔し気に文句を言っているのは、賞金稼ぎのスティンガーである。フィッシャーマンの異名を持つ極悪非道の賞金稼ぎだ。オカマだが、切れると口調が男言葉に変化する。数日前にシールドライガーから進化した見たこともないゾイドに自分のセイバータイガーを倒されたそうで、悔し気な様子だ。
「銀色のオーガノイドなんてほっといて、さっさとメッテルニヒから金を受け取ればよかったんだわ~!そうすればあんな恥かかなくてもすんだのに~!」
「もう過ぎたことだろ、スティンガー。クロスボウ兄弟から純金を頂いたんだからそれでいいじゃないか」
酒場の主人はコップを拭きながらスティンガーを慰める。
その様子を一人の男が窺っていた。オレンジ色の髪の毛の若い男だ。
「おいあんた!その話、詳しく聞かせてくれないか!?」
「何よ、あんた!見たところ帝国軍の軍人さんね。ひょっとしてあんたもオーガノイドに興味が?」
男はスティンガーに問いかける。
「ああ、オーガノイドの力は我が軍にも必要だからな」
「いいわよ、教えてあげるわ。でもその前に・・」
「ほら、これなら十分すぎるだろ。」
スティンガーが言い終わる前に、男は札束を渡した。かなりの大金だ。ついでにミルク代も払ってくれた。
「あら、物分かりがいいわね!ありがとう!ちなみにあんた名前は?」
「俺は帝国軍のコウキ デモンだ。さあ、話を聞かせてもらおうか」
スティンガーからオーガノイドの話を聞く。
「ついでにそいつらと一緒に今行方不明の皇太子ルドルフもいるわよ。あんたにとってもいい話じゃない。ルドルフとオーガノイド!一石二鳥じゃない!でも早くしないと手遅れになるわよ。あんたよりも先にクロスボウ兄弟っていう賞金稼ぎにも教えたからね。その時にこの純金を頂いたのよ」
話を聞き終え、外に待機させていたヘルキャットに乗りこみ酒場を後にした。
「ふふふ、オーガノイドを連れてたらあのガキもただじゃすまないわね。さあてと、あたしもそろそろでなくちゃ。じゃあ親父さん、またね!」
「今度からはリスクぐらいは避けなよ、スティンガー」
一方ヘルキャットの男は愛機を砂漠へと走らせる。
『あいつ、極悪非道の賞金稼ぎとして有名なスティンガーだな。だがこれでフライハイトとオーガノイドの情報は聞けた。しかもルドルフ殿下といるとは!』
チュニスの件の後、コウキはシュバルツより銀色のオーガノイドを連れた少年バン フライハイトとその一行を護衛するように依頼された。共和国のアルバーンから彼らがガリル遺跡へ向かったことを伝えられ、彼も始めそこを目指した。しかし、彼が遺跡にたどり着いた時にはすでに彼らはそこにおらず、スリーパーのレブラプターが何体も倒れていた。数日間探したがなかなか見つからず、遺跡から一番近い小さな町にしばらく留まった。その間にルドルフが行方不明であるという情報が帝国よりもたらされた。
『オーガノイドでパワーアップしたライガーなら殿下を守れるだろう。俺が出るまでもないかもしれないが、一応陰からの護衛は必要だ!』
ロッドディガー用の回線で、ルドルフの無事を伝えた。
しばらく砂漠を移動していると、背部を破壊された二体のヘルディガンナーとそのパイロットの男たちに遭遇した。
「砂漠使用のヘルディガンナーとさっきのスティンガーの話。間違いない、あいつらだ!」
コウキは彼らがクロスボウ兄弟だと確信した。チュニスでエリザベートとマリアを誘拐しようとした賞金稼ぎの兄弟だ。
「何だてめーは!俺たちとやろうってのか!」
背の低い小太りの男がイラついた様子でコウキに迫ってきた。兄のアルバートだ。
「お前ら、クロスボウ兄弟だろ!チュニスで若い女二人を連れ去ろうとしたな!」
「けっ!それが何だってんだ!おめーもあの帝国軍人のお仲間か。なら俺たちを逮捕死に来たってのか!?」
弟のロスが銃を向けてくる。
女二人、しかもそのうちの一人が皇女のエリザベートなのだったから、すぐにでも彼らを拘束しておきたいところである。だが、
「そうしたいところだが、あいにくその余裕はなくてね。それよりもお前ら、オーガノイドを狙ってたんだってな。スティンガーとかいうオカマから聞いたぜ」
「あの野郎・・・。ああそうだぜ。確かに俺らはオーガノイドを狙った。このヘルディガンナーでな」
開き直るかのように自分たちがオーガノイドを強奪しようとしたことを述べる。
「だが見たこともねえゾイドに見事にやられちまったぜ。俺と兄貴の必殺のフォーメーションが通じなかったぜ。あれがオーガノイドの力ってやつだな」
「馬鹿野郎、ロス!余計なこと言うんじゃねえ―!相手がオーガノイドたあいえガキにやられたんだぜ!恥ずかしいだろうが!!」
弟を怒鳴る兄のアルバート。
「そんなことはどうでもいい。オーガノイドの居場所を教えろ!早くしないと手遅れになっちまう!」
「奴らならここから北西の方へ向かった。小さな町があるみたいだが、その付近には帝国軍の部隊が集まっている。さっさとお仲間に伝えときな」
クロスボウ兄弟が教えたルートは、ガイガロスへの道のりだ。ルドルフ達は間違いなくガイガロスを目指している。
「そういうことだ。さあて特別に教えてやったんだから、何をすればいいかわかるよな!?」
「ああ、わかってるよ。このまま見逃してやる」
「へへへ、話が分かる奴だなおめーは。しかし、帝国軍も落ちたもんだぜ。オーガノイド欲しさの余り誘拐犯を見逃すたあよ!」
コウキはムッとした表情を示した。バン フライハイトを守るためとはいえ、犯罪を見逃すことになるのだから。しかし、彼らを誘拐犯として拘束し裁判にかける余裕はない。また、仮にそうしてしまったらエリザベートの居場所がばれ、彼女にも危険が及ぶことになるかもしれない。ガイロス皇室を守るため、苦渋の決断をしなければならないのだ。不本意ながら愛機のコックピットに戻り、バンたちが向かった方向へと急ぐのだった。