ZOIDS additional story   作:龍大徳

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第二章 プロイツェンの謀略
1 庭園の一時


「殿下―、殿下―、どこにいるのです?そろそろお昼のお時間よ」

優しげな声で殿下と呼ぶ若い女性。長い黒髪が風に揺られなびく。少し地味ではあるが、穏やかなワンピース風の衣装も似合っている美少女である。

「まあ、ルドルフ、いえ殿下、ここで何をしているのです?」

「あっ、姉上。庭園の昆虫を調べていたところです。ほら見てください」

少年は昆虫を指で示した。2匹いるのだが、そのうち一方は金属でコーティングされたような殻を持っている。

「もしかして、この虫はゾイドなのかしら?でもほとんど普通の昆虫と変わりないわ」

確かに金属の殻があるかどうか細かく見ないと違いが分からないくらい両者は酷似している。

「はい、しかし体内にゾイドコアを持っていないから、ゾイドではありません。金属の外皮を持つ小さな虫です」

地球においても深海の巻貝の一種であるウロコフネタマガイは硫化鉄の鱗をもつ。この虫もそれと同じ生態をもつのだろう。

「あっ、殿下。そろそろ昼食のお時間よ。早くしないと」

 

殿下と呼ばれた少年は若い女性に連れられ、庭園の中央にあるテーブルで共に食事をとった。

 

「美味しい!これ全部姉上がつくられたのですか」

「いえ、厨房の料理人の方々と一緒につくったんです。以前からやってみたかったことだから」

 

皇族である姉弟は平和なひと時を送ろうとしていた。

 

「いやーしかし、エリザベート殿下に助けられたなあ。宮廷料理人顔負けの料理の腕だよ」

「料理長、これじゃあ我々もお払い箱ですよー。殿下には今後つくらせないようにしないと」

厨房にてコックたちは談笑しながら、少女の料理の味見をしていた。

 

美少女の名は、エリザベート ツェッペリン。

ガイロス帝国皇位第一継承者ルドルフ ツェッペリンの姉で、ツェッペリン皇帝の孫でもある。年は17である。ガイロス系、ゼネバス系あるいは貴族と平民と分け隔てなく接し、国民から非常に慕われている。

 

「厨房の皆さん、殿下がお呼びです。殿下たちとお食事をとるようにと」

宮廷の侍女が料理人たちに知らせてきた。

「なんだかいいのかなあ。俺たちみたいな身分の高くない連中と食事なんて。でも断ったらそれこそ無礼だがな」

 

食事の席にて、

 

「皆さんのおかげでできた料理だから、みんなで召し上がった方がいいかと思って誘ったのよ。遠慮せずにどうぞ」

 

「あ・・ありが・・いえ・・誠にありがとうございます、殿下」

「そうかしこまらなくてもいいわ」

「キョエー!」

エリザベートの側にいた巨大なクジャクが鳴き声を発した。

「あらあら、あなたもうれしいのね。レインボージャーク。みんなが来てくれて」

 

レインボージャーク

東方大陸に生息しているクジャク型の飛行ゾイド。個体数が少なく東方大陸でもめったに見られない希少ゾイドである。外翼部にフェザーカッターと呼ばれるリーオ(メタルZi)製の刃を持つ。このリーオと呼ばれる鉱物は、大質量の内部重力を持つプラネタルサイトと同じくらい希少で、惑星Zi表層ではほとんど見られない。

 

「しかし殿下、このゾイドは東方大陸の非常に珍しい種類のゾイドですよね。殿下は東方大陸へ訪れたことがあるのですか?」

「ええ、あれは私がまだ幼いころですが、お忍びでお父様やお母様と東方大陸の自然保護区を訪れた際に偶然ケガをしたこの子に出会ったの。保護区の職員さんの指導でけがの手当てをしたら、私になつくようになったのよ。それでこの子を引き取ったのよ」

「ということはこいつ、殿下に惚れたということでしょうか?」

「クエーン!!」

「うふふ、はずかしがってるわ。どうやら本当のようね」

上品に微笑みかけるエリザベート。

「戦争が終わったら、自由に外の世界をこの子やルドルフと旅してみたいわ。そこでいろんな人たちと出会いお友達も増やしたい。それが私の願いだわ」

「はい、僕も外の世界を見てみたいです。まだ見ない珍しいゾイドに出会いたいです」

ルドルフも話に入り、外への世界の憧れを抱く。

「きっと来ます、その時が。そうなると信じています」

 

 

 

楽しい昼食が終わり、皇族としての職務も終え夕方になった。レインボージャークは庭の小屋で休ませている。

 

「姉上、夕日を見ていかがされましたか?」

「綺麗ね、でも思い出すの。あの時あの方も同じ夕日を見ていた。けれどどこか寂しげな眼をされていたわ」

「あの方って、もしかしてヴォルフ大佐のことですか、プロイツェン家の?ずっと前の夕方の晩餐会の時のですか?」

「ええ、何だか少し暗い表情をされていたわ。その時のことが忘れられないの。

「ヴォルフ大佐のことが好きなのですか、姉上?」

「ええ、でもあの方にはアンナさんという大切な幼馴染の方がいるわ。小さいころからずっと一緒だったらしいわよ」

 

空を赤く照らす美しい夕日。それとは反対に、日の当たらない暗い格納庫では、国境地帯のレッドリバー進軍のため、帝国軍ゾイドの整備が進められていた。

 

『ふふふ、共和国軍を倒せば俺も少佐に昇進できる。そうなればあのシュバルツと同格だ。奴の指揮下に入る必要もなくなる』

「マルクス、そろそろ出るぞ。演習のため、これよりレッドリバーへ進軍する」

「はっ!了解です、少佐」

 

シュバルツと副官のマルクス率いる、ダークホーンを中心とした帝国部隊がレッドリバーを目指し、軍を進める。しかし、その目的は演習ではなく、プロイツェンの命令による共和国への進行である。それでもシュバルツは何とか衝突を回避させるつもりでいた。プロイツェンの好きなようにはさせまいと。

 


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