デート・ア・ライブ 士道デストラクション オープニング 作:夜叉竜
朝のホームルームから3時間後。
「五河ー、どうせ暇なんだろう、一緒に飯いかねー?」
始業式を終え、帰り支度を始め、そのまま教室から出ていく者と、まだ友達と談話し続ける者とにわかれた教室の中で、殿町が話しかけてくる。
その誘いに士道はあ~~、と申し訳なさそうに声を漏らし、
「悪いが今日は先約があるんだ」
「なぬ?女か?」
「まあな。つっても、琴里なんだがな」
「おお、そうか……でもま、琴里ちゃんならいいか。俺も一緒に行ってもいいか?」
「あん?まあ、大丈夫だとは思うが……どうした急に」
士道が首を傾げていると、殿町は声を潜めるようにして言ってくる。
「なあなあ、琴里ちゃんって中2だよな。もう彼氏とかいんの?」
「は?」
「いや、別に他意はねえんだが、琴里ちゃん、三つくらい年上の男ってどうなのかなと」
「なんだお前、浮気。彼女がいながら薄情な奴だ。今すぐそこの窓から空に向かて羽ばたいて、そのまま失墜して地獄の底まで落ちて行けよ」
「いきなり罰が重すぎませんか!?いやまあ、流石に冗談だよ。俺も兄妹団欒をつっつくほど野暮じゃねえよ。都条例に引っ掛かんねえ程度に仲良くしてきな」
「頼むからお前が引っ掛かってくれよぉ。引っかかってそのままなんやかんやで終身刑を言い渡されてそのまま檻の中で朽ち果ててくれよぉ」
「本当に辛辣過ぎない!?朝の件根に持ってんですか五河様ぁ!」
殿町が悲鳴じみた声を上げ、士道はやれやれと呆れたように首を横に振りながら帰り支度をしていると、
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……
窓ガラスを鳴らすほどのサイレンが街中に鳴り響く。
「な、なんだ……?」
殿町や教室に残っていた生徒たちが目を丸くし、中には窓を開けて外を見やるものもいる。その中で士道は静かに目を細め、唸っていた。
そしてサイレンの後に聞き取りやすい様に区切られた音声が街中に響き渡る。
「これは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。前震が、観測されました。空間震の、発生が、予測されます。近隣の皆さんは、速やかに、最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返します……』
瞬間、教室内の生徒たちが一斉に息を呑む気配がした。
「おいおいマジかよ……」
殿町がそう呟くがそれだけで、士道を含む周囲の生徒た士も緊張と不安を滲ませているが、比較的落ち着いていた。教室の外からも慌てふためいたり、パニックになっていると言った雰囲気はしない。
この街は空間震による被害を受けている為、士道たちは幼稚園の頃からしつこいほど避難訓練を繰り返してきた。更に言えば、ここ最近は周辺で空間震も頻発しているからか、悪く言ってしまえば、生徒たちはみな慣れてしまっているのだ。
「シェルターはすぐそこだ。さっさと避難するぞ」
「お、おう。そうだな」
士道の言葉に殿町は頷き、それに続くように生徒たちが廊下に出ていく。他の教室からも生徒たちが続々と出てきて、シェルターに向かっている。
と、そんな中、折紙は一人、シェルターではなく逆の、昇降口の方に走っていく。
「ん?おい鳶一!そっちにはシェルターは……」
「大丈夫」
折り紙はそれだけを言うとそのまま駆け出して行ってしまう。
「大丈夫って……」
士道は軽く顔をしかめながら口をへの字に曲げる。
普通なら忘れ物でもしたと思うのだが、折り紙がまとっていた雰囲気。あれを士道は知っている。あれは……あれは……そう……
「お、落ち着いてくださぁーい!だ、大丈夫ですから、ゆっくりぃー!おかしですよ、おさない・かけない・しゃれこうべー!」
生徒を誘導する珠恵の言葉に士道は思わず呆れたような息を吐く。
「しゃれこうべって何だよ。避難するのに髑髏を持って行かないといけないのか。狂気的で恐ろしすぎる」
「あはは、まあ、そう言ってやるなよ」
肩を殿町に叩かれながら士道は再び息を吐く。視線を昇降口の方に向ければ、すでに折紙は消えている。
士道はポリポリと頭を掻くが、ため息と共に視線を切る。今は気にしても仕方ない。それに彼女は学生で、これは空間震。
そこまで考えて、士道はふと、何かを思い出し、ポケットからスマートフォンを取り出す。
「ん?どうした五河」
「いや、ちょっとな」
そう言いながら士道はスマートフォンで琴里に連絡を取ろうとする。
だが、いくらかけても一向に繋がる気配がない。
「あいつは何をしているんだ……」
警報が鳴っているのだ。学校にいるにしろいないにしろ、最寄りのシェルターに逃げ込んでいるはずだ。しかし、どうしても警報が鳴ろうとファミレスの前で士道を待ち続けている琴里の姿が脳裏をちらついてしまう。
「全く、電話ぐらい出ろよ……流石に避難はしていると思うが……そうだ。あれなら……」
士道はスマートフォンを操作してGPSを使った位置確認サービスを起動させる。琴里のスマートフォンはそのサービスに対応しているのだ。
そしてその位置を確認し、
「っ!?」
士道は息を詰まらせる。
その位置は約束のファミレスの位置から動いていなかった。
「あんの、バカ野郎……っ!」
士道は吐き捨てるように言うと携帯を手に持ったまま生徒の列から駆け出す。
「お、おいっ!どこに行くんだ五河!」
「忘れ物だ!」
士道はそのまま校舎内を駆け抜け、昇降口から外に飛び出す。
外は何とも不気味な光景だった。外の道路には車は一切通っておらず、人影もとんとない。しかし、誰かが尾にいた形跡はそこかしこに残されている。
どこまでも異様、だが、士道にとってはどこか懐かしさすら感じる空気の街中を彼は走り抜ける。
「なんで馬鹿正直に残ってんだ……!」
走りながら士道はスマートフォンで位置を確認する。やはりと言うべきか、ファミレスの前から動いていない。
士道は舌打ちをして周囲を見渡す。やはりと言うべきか人影はいない。
ならば、と士道は躊躇いなく
そのまま近くの家の屋根に着地した士道はそのまま走り、屋根の縁に到達すると、屋根を踏み砕いて再び跳躍する。
そのまま
不意にピリッ、と首筋が泡立つような感覚に襲われ、思わず足を止め、顔を上げる。
「何だ……?」
その視界のはるか先に、何やら空で蠢くものが見える。
その正体を確認しようとした瞬間、士道の前方の街並みがまばゆい光に包まれ、次の瞬間、耳をつんざく爆音と凄まじい衝撃波が炸裂する。
「なん……っ!?」
士道は反射的に顔を腕で覆い、足に力を籠める。
瞬間、衝撃波が士道を襲い、士道は大きくバランスを崩すが、慌てて踏みとどまり、どうにか持ち直す。
「っ……なんだいきなり……!」
士道は軽く頭を振って意識をはっきりさせると、腕を解き、
「っ………!」
目の前の光景に息を呑む。なぜならついさきほどまであったはずの街並みが残らず、無くなっていた。
「こいつは………!」
士道は呻きながらも油断なく周囲を見渡す。
周辺の建物は軒並み倒壊しており、目の前の道路は隕石でも衝突したかのようにすり鉢状に削られ、クレーターが出来上がっている。
そのクレーターの中心地に、何やら金属質の物体が聳えている。
「あれは……?」
よくよく見れば、それは巨大な玉座の様なフォルムをしている。
だが、その玉座のひじ掛けに足を乗せ、少女が一人、立っていた。
「何だ……あいつは……?」
士道は警戒しながら遠巻きから少女を観察し、目を見開く。
金属の様な、布の様な、不思議な素材で構成されたドレスにそこから広がる光のスカート。
そのどれもが士道から見ても美しいと思えるものだったが、少女の容姿はそれ以上だ。背中を覆うほどに広がった闇色の髪。周囲を何とも形容しがたい不思議な色合いの双眸。愛らしさと凛々しさを兼ね備えた女神すら嫉妬するような貌。
その全てが現実感がないほどに整い、暴力的なまでに美しい。当然士道もその容姿に見惚れて……いいや、それには少し語弊がある。
士道が釘付けになっていたのは少女の容姿だったが、見惚れていたのではない。
士道はその物憂げな表情に、
すると、少女が気だるげに首を回し、士道を視界に納める。
しっかりと目が合い、士道がわずかに体を強張らせると、少女は動く。
玉座の背もたれから生えた柄の様なものを掴むと、そのまま引き抜いていく。
そして現れたのは、幅広の両刃の大剣だった。
荘厳な輝きを持つそれを見た瞬間、士道の本能が大音量で警鐘を鳴らし、士道ははっきりと顔を強張らせる。
そして少女が剣を振りかぶると、本能のままに士道は身体を投げ出す。それと少女が剣を横薙ぎに振りぬくのは同時だった。
瞬間、士道が先ほどまでいた場所を剣の軌跡が通り抜けていき、それを目で追えば、後方の家屋や店舗、街路樹など、無事だった景色が一瞬のうちに切り裂かれる。
「ちっ!」
士道は舌打ちをしながら素早く立ち上がり、身構える。以前の自分とも渡り合えるであろう力に力のほとんどを封じられた自分。どう考えても勝負にならないが、それでも何もしない理由にはならない。
だが、
「お前も……か……」
「っ!」
頭上から聞こえてきた声にガバリと顔を上げる。
いつの間にか、目の前にクレーターの中心にいた少女が立っていた。その顔を見た瞬間、士道の中の闘志とでもいうべきものはしぼんでいってしまう。
(ああ、くそ、本当によう………)
それは目の前の少女が暴力的なまでに美しかったからではない。至近距離で初めて交わった視線。その全てに疲れたような、憂鬱そうな、泣き出しそうな表情。ああ、それは間違いない。それは確かに……かつての自分と同じ、世界の全てから拒絶された者の目。
そんな目をされたら、何も言えないではないか……
「………お前は………」
士道が問うと少女はこちらを見下ろしながら口を開く。
「……名、か………そんなものは、ない」
どこか悲し気な声に士道は小さく顔をしかめる。そして少女が静かに剣を握りなおした瞬間、士道は慌てて声を上げる。
「おいおい!ちょっと待て待て!」
「……なんだ?」
「何普通に構えなおしてるんだ!」
「それはもちろん……早めに殺しておこうと」
「………俺がお前に手を出そうとするから……か?」
「何を当然の事を……」
「……‥いいや、俺にはお前を殺す気は一切ない」
「何?」
士道の言葉に少女が祭儀と驚きと困惑が入り混じった視線を向けた瞬間、再び士道の背筋が泡立つ。更にそれと同時に少女の方も眉を顰め、二人同時に同じ方向の空に目を向ける。
その空には一目で兵器とわかる機械を身に着けた人間が数名飛んでおり、更にこちら目掛けて無数のミサイルを一斉に発射してくる。
「んなっ……!?」
士道は思いっきり目をむくと、気怠に息を吐いた少女をそのまま抱きかかえると、そのまま走り出す。
「なっ……!?」
少女が驚いたように目を見開いた瞬間、走る士道たちの周囲に次々とミサイルが着弾していく。
「だぁ――――――!!畜生が!馬鹿みたいにボコスカ撃ちやがって!ちょっとは周囲の安全確認ぐらいしやがれ!!」
「っ……放せ!」
文句を垂れ流しながら士道がミサイルの中を走り抜けていると、少女が強引に士道を突き飛ばす。呻きながら士道が倒れ込む中、少女はそのまま着地すると手にしていた剣を構えなおし、空に向ける。
「……消えろ、消えろ。一切合切、消えてしまえ……!」
そう言って、少女は手にして剣を空に向けて無造作に一振りする。
「ぬお……!」
瞬間、凄まじい衝撃波が周囲に襲い掛かり、太刀筋に沿うように空に斬撃が放たれる。
それは上空のミサイルを全て薙ぎ払い、そのまま彼らに襲い掛かる。
彼らはそれを慌てて回避すると、今度は少女目掛けてレーザーが放たれる。
士道は思わず腕で目を庇うが、レーザーは少女を直撃はせず、四方八方に弾き飛ばされるが、その瞬間、士道の背後に何者かが降り立つ気配と共に、一瞬、首元がぴりつくような感覚が襲う。
軽く息を詰まらせながらも即座に士道は臨戦態勢で振り返るが、そこに立つ人影を見て思わず動きが止まる。
そこに立っていたのは黒を基調としたボディースーツ、背中には巨大なスラスターに手に砲台のような武器。そして人形のような面差しの肩に触れるか触れないか程の白い髪。
「鳶一………?」
鳶一折紙がそこにいた。士道の言葉に反応した折紙が一瞥し、
「五河士道………?」
怪訝そうに声を漏らすが、すぐに視線をドレスの少女に向ける。
それと同時に少女が折紙目掛けて剣を振りぬき、斬撃を放つ。
士道は本能に従ってとっさに横に跳び、折紙も地面を蹴って回避すると、そのまま少女に肉薄する。
そして新たに手にした光の刃を持つ武器を振り下ろす。
少女はすぐにその一撃を剣で受け止めるが、それと同時に衝撃波が放たれる。
「チィッ……!!」
舌打ちをしながらも士道は踏ん張ってその衝撃波をやり過ごす。
そのまま少女は折紙を弾き飛ばすが、彼女はそのまま着地し、油断なく武器を構えて睨み合う……士道を挟みながら。
「……は?お、おい、ちょっと待てお前等………」
何やら不穏な気配に士道が思わず声を上げるが、二人とも一切そんなの気にしたそぶりはない。
これは不味い。
だが、次の瞬間、士道のポケットの中のスマートフォンが着信音を響かせる。
「「!」」
それが合図になったのか、少女と折紙は同時に地面を蹴り、士道の前で激突する。
「ぬぁ………!?」
とっさに身構えるが、今度は耐えきれず、士道は衝撃波に吹き飛ばされ、塀に激突してしまう。
―――――久しぶり。
どこかで聞いた事のある声が響く。
―――――やっと、やっと会えたね、×××……いや、今は士道か。
懐かしむように、慈しむ様に。
―――――嬉しいよ。でも、もう少し、もう少し待って。
いったい誰だと問いかけると、一瞬間があり、
―――――必ず、解放してあげるから。絶対に、幸せにしてあげるから。
声はそこで途切れる。
本編が開始するかどうかは完全に未定なり。