「さて……どうして貴様たちが呼ばれたか、わかっているな?」
今年で47歳になる独身の学園長が低い声で尋ねる。
彼の前には三人の生徒が立っていた。
「勿論、わかっています」
三人のうち、中央の少年が頷く。
華やかな王立クロリア学園の制服とは対照的に、
中肉中背の体格にどこか存在感の希薄な雰囲気。
伸びた前髪が目元を完全に隠しており表情がわかり辛い。
「入学してからの我々の功績、大々的に称して頂けるのでしょう」
その言葉に右の少女が「ああっ!」と感極まったように手を重ねて祈る仕草をする。
「ついに私の愛が、みなに認められたということですね」
長い銀髪に柔らかい雰囲気をまとう彼女には
まさに聖母という言葉が相応しい。
少女しては少し長身で、すらっとし体をつきがとても美しい。
身分の高い子息が多い学園の中でも際立った品格を醸し出していた。
「……日々美しさを探求していた成果が報われる時は今日であったか」
最後の少年は少し芝居ががった仕草で頷いていた。
着崩した制服に肩まで伸ばした派手な金髪。
整い過ぎた顔立ちはどこか彫刻めいている。
全身から独特な雰囲気を放っており、中々に近寄りがたい。
彼らは王国で一番の歴史を持つ由緒正しい王立クロリア学園において
武芸と知識ともに最も優秀とされている三人の生徒。
学園始まって以来の秀才とも噂されている。
本来であれば学園の誇りともいえる生徒たちなのだが……
「……」
頼もしい彼らの言葉に学園長は一度目をつむり、深く深く深呼吸を行う。
そして、目を開けて
「ふっざけるな!」
ブチ切れ叫びながら机を激しく蹴飛ばした。
学園長のための執務机は非常に立派なものでるため蹴った程度では転がったりしない。
だが衝撃に上に載っていた本や文房具は派手に地面に転がった。
「功績だと!? 愛だと!? 成果だと!?」
わなわなと激しく体を震わせて、地の底から響き渡るような声を出す。
「貴様たちがどれだけ他人様に迷惑をかけているのか、自覚もないのか!」
興奮しすぎた学園長は鼻血を噴き出した。
だがそれでも彼は言葉を止めない。
「フローリア! お前の愛というのは淫欲のことか!?
我らが神の尊い導きを代弁するシスターであるはずの貴様が毎日行っているのはなんだ!
導くどころか誘惑し拐かす様はまるで悪魔の行いではないか!」
少女、フローリアはきょとんとした表情を浮かべる。
「我らが女神ディナは常よりおっしゃっております。
愛の前に人は誰もが素直になるべきである、と。
だからこそ私は日夜、迷える信徒たちが安心してイけるように日々導いているのです。
その教えを忠実に守っている私こそがシスターの鑑だと自負しています」
「ディナの教えでは、その愛は子孫を残すためのものなのだがな……!」
「いいえ、そのようなことは聖書に一行も書かれておりません。
愛、とは普遍的な概念。
つまりその概念とは愛らしい女性に宿るもの……
そう、人々が花を愛でるように、そこに愛を見出すのは自然なことです」
母性に満ちた包み込むような笑顔でシスターは諭すように言葉を紡ぐ。
単純にフローリア=リクセルは女の子が大好きなというだけである。
「エルム! 貴様の美しさの探求とは勃起して他人の私生活を盗み見をすることなのか!?
ところ構わず気持ち悪い悦に浸りきった表情で覗き見をする変質者がいると
毎日毎日毎日苦情が私にきていることを知らんとは言わせんぞ!」
エルムは何故か体をしならせてポーズを決める。
「それは心外と言わざる得ない。
オレは美しいモノがある場所にしか興味がない。
そしてそれは隠しきれない輝きを放つモノ……仰ぎ見るのは当然のことだろう」
「私もそれがトイレの中や他人の寝室でなければ少しくらいは理解もできたかもしれんな!」
「もよおす時の心安らぎほっとする表情、
俗世の悩みから解放されたあどけない寝顔……
そんな時にこそ人間の『本当の美』が顔をのぞかせるものと気づいた」
目を閉じ悟りきった表情で語る彼は、何を思い返しているのか何故か勃起していた。
ちなみにエルム=パルムの美の対象には性別は関係ない。
「学園長、しかし今更なのでは?
フローリアが女しか愛せないうえに性欲の塊であることも、
エルムが自分の美的感覚に忠実に従い覗きをしていることも。
確かに誤解を招くことはあるが、2人はそれ以上に結果を出して学園に貢献していたはず」
前髪で瞳を隠した少年が割って入る。
だが、その行動は学園長の神経を逆なでしただけだった。
「ほほう……カインよ。
貴様、まるで他人事のように語るのだな、あぁ?」
「学園長、伝統と格式を誇る王立クロリア学園の長であるあなたが
そのような悪人面をしていたは示しがつきません。
その子供を殺す殺人鬼のような表情は自重してください」
「私がこんな顔をしているのは、貴様のせいだからだろう!」
学園長は見ているものが心配になるほど、更に激しく鼻血を吹き出しながら叫んだ。
「カイン、この二人よりも貴様が一番性質が悪いだろうが!
貴様が全て糸を引いてることは既に周知の事実!
この2人に入れ知恵をしてお膳立てをしていることはわかってるのだぞ!」
学園における共通認識はカイン=アーライトがフローリアとエルムの飼い主。
屈折した願望を抱える2人の手綱をうまく握り、そして餌を与えることに余念がない。
彼の目的は「暇潰し」。
自分の退屈で代り映えのない日常を「壊す」ことで満足を得るという、
どうしようもないトラブルメーカーの元締めである。
「はあ……はあ……」
ひとしきり叫んだ学園長は椅子に深く座り直し、一言告げた。
「退学だ」
「「「え?」」」
三人の声がはもる。
「いくら成績が良くとも、もう付き合いきれん。
王室の正式に通達も届いた、三人とも退学にしろとな。
これは学園からの追放だけではないぞ。
王国自体からも出て行ってもらう。
貴様たちの行先は『セレストリア』だ」
カインが声あげる。
「学園長。それはいくらなんでも、急すぎる!」
「ああん? 既に6回にわたる厳重注意を棚に上げて、いきなりだと?」
完全に目が座っていた。もはや交渉する余地はないだろう。
王国から追放ということはつまりは「どこか見えないところで死んで来い」と言割れているに等しい。
扉が開き、重武装の騎士たちが彼れらを取り囲むようになだれこんできた。
どうやら追放というのは本気らしい。
三人は顔をあわして、頷く。
ぷしゅー……
軽く空気が抜けるような音が学園長室に響く。
何事かと部屋に入ってきた騎士たちが顔をしかめる。
「……」
音が聞こえてくる先はカイン。
正確にはその背中。
白い煙が凄い勢いでもくもくと噴き出してきていた。
「貴様!」
すぐに学園長は察した。
「クズどもが逃亡を企てているぞ! 絶対逃がすな!」
それは煙幕だった。
彼はどんな時も「不測の事態」に備えている。
文字通りけむに巻いて逃げるつもりなのだ。
学園長は声を張り上げて学園中に響き渡るように叫ぶ。
「いいか、学園の恥部を逃がすな!
別に手足がなくなっていてもかまわん、とらえろ!
これまでの恨みをはたすのは今しかないぞ!」
その怒りの声を背中に受けながら
一切の躊躇なく三人は部屋から飛び出していった。
なんとなくで脊髄反射で書きました。
更新は適当に気が向いた時に脊髄反射でします。