灰色の獅子【完結】 続編連載中 作:えのき
お待ちいただいていた方々、遅くなり申し訳ありません。
ようやく就活を終えたので戻って参りました。
思っていたより非常に充実して楽しい時間だったと感じました。
ホグワーツ
小さな小粒の雪がパラパラと落ちている。地面は一面銀色の世界でそれを踏み荒すように無数の靴跡が刻まれている。
その日の朝から生徒達は授業ではなく、列車の中に乗り込む。
クリスマスの時期になると生徒のほとんどは帰路につきひと回り成長した姿を保護者に見せる。ポケットやバッグに多くの土産を詰め込み、各々の家のクリスマスのご馳走やプレゼントや思い出について語り合う。
このコンパートメントでも会話が産まれている。1人の女の子と2人の男の子だ。
「久しぶりの我が家ね、少し変な気持ちだわ。」
ハーマイオニーは初めての里帰りといった気分らしい、だが声色が少しそわそわしている事からクリスマスを楽しみにしているようだ。
「わかるよ、でも僕は少し
「なぜかしら?」
ウィルはその様子に勘づいて少し笑みを浮かべながら答える。
「僕もだよ、ばあちゃんに小言を言われるって思うと怖くてしょうがない。」
ネビルはかなり冷や汗をかいており、厳しい祖母に恐れを抱いているようだ。
ハーマイオニーは軽く相槌を打ちつつ、ウィルの憂鬱という真意が気になった。
***
数時間後
〜マルフォイ家屋敷〜
マルフォイ家のクリスマスは毎年家族のみで行われる。日々の業務や名家同士の社交場の出席に追われるルシウスだが、この祝日ばかりは家族を最優先する。
暖炉からばちばちと火花が散っている。そんな暖かい部屋の前で“屋敷しもべ妖精”が用意した豪勢な料理に舌鼓をうつ。家族4人は音を立てず静かに上品に口へ運び続ける。
その静寂を破ったのはルシウスだった。
「色々と聞いているぞ、ウィリアム。」
ウィルは動きを止め、ルシウスの顔を見る
「優秀だと、お前をそう言う声ばかりだ。」
「ありがたい限りです、父上。」
少し安堵した様子でニコリと笑う。
「だがそれ以上に
彼はそのまま矢継ぎ早に続ける
「“穢れた血”と交友関係にあると?」
無表情なルシウスとは打って変わり、妻であるナルシッサはヒステリックな表情を浮かべウィルを睨みつけた。マルフォイ家を含む純血主義思想を持つ者からすればマグルやその出身の魔法使いと親交を持つ事は禁忌に等しい行為である。
彼は彼女の表情を自分自身の反面教師とする事にした、自分自身も感情的になればこのような表情を浮かべるのだろう。
「・・・。」
ルシウスは手のひらをナルシッサに向けて、なにも言うなという示唆する。
「ウィリアム、お前は賢い子だ。わかっているな?これ以上は言わんぞ。」
「えぇご意見は真摯に受け止めましょう。」
ウィルがそう答えると重たい空気は終わりを迎えた。
「ドラコ、お前はどうだ?」
「聞いてよ、父上!ポッターが寮の代表選手に選ばれたんだ!」
先ほどの雰囲気を脱するためにドラコはあえて大げさに言った。ウィルは心の中で感謝する。
「それも聞いている、マクゴナガルが規則を曲げさせたようだ。」
「あいつは有名だからって皆が贔屓してるんだ!」
ウィルは少し気まずいような表情を浮かべドラコに視線を送る。自分から選手に選ばれたと報告するのは少し恥ずかしいからである。もしドラコが自分と同じ立場だったら意気揚々と両親に言うだろう。この時ばかりはウィルは素直なドラコの性格を羨ましく思う。
「あ、ウィルもチェイサーに選ばれた。」
ウィルの視線に気づいたドラコは空気を読む
「そうか、それは良い事だ。お前はもう少し息抜きを覚えた方がいい。だが・・・。」
ルシウスが一瞬だけ不快感を持った表情を浮かべている事をウィルは見逃さなかった。
「
先ほどまでとはいかないが再び重い空気が漂う。ウィルは脳内で最適解を探る。先ほどの会話から自分がクィディッチの代表に入った事は知らなかったらしい。だが規則を曲げた事を聞いていた事から、ハリーが代表に選ばれた事は把握していると推察される。
「実力不足ですね、私が
「そうか、これまで以上に励め。」
ルシウスはピシャリと言い放つ、どうやら答えはあっていたらしい。
「ルシウス!貴方はドラコがかわいそうじゃないの?」
ナルシッサは金切り声でルシウスに身を乗り出して抗議をする。
「仮にもドラコはウィリアムと同じコートでクィディッチをしてるのよ?それなのにこの子が選ばれないなんて!」
ナルシッサはドラコを溺愛している。それはあからさまで多少の親交がある者は皆が知っている。比較的近しい存在の大人達は彼女は自身に似ているウィルより自分の愛する夫のルシウスに似ているドラコの方に愛情がわくのだろうと思っている。
「ではどうしろというのだ?」
ルシウスは少し困ったようにナルシッサを見る。すると名案だと言わんばかりに満足気な表情を浮かべて口を開いた。
「セブルスに手紙を書けば済むでしょう?」
ルシウスは少し考えるような仕草をする。
「ふむ、だがセブルスはマクゴナガル以上に規則を尊ぶ、奴は当てつけに一年生は試合に出させないだろう。」
その言葉に不満そうな顔をしながらも渋々納得したように静かになった。
食事を終え自分の部屋に戻るとウィルはベットに寝っ転がる。見慣れた天井のシミを眺めながら彼は寂しそうな表情を浮かべる。
ウィルはずっと昔からナルシッサが愛しているのはルシウスとドラコだけであるということに気づいている。理由は多くある。今までに至る全ての経緯を踏まえ彼はあまり彼女の事が好きではない。だが少なくとも一般的な息子よりは尊敬と配慮はしているつもりだ。
ルシウスは基本的にウィルの行動や価値観を尊重してくれている。なぜなら彼は教育だけでなく全てにおいて完璧な環境を提供し、ウィルはそれに最大限に応え続けているからだ。
結果、責任ゆえの自由である。つまりそれは愛ではない。名家の次期当主として完璧な結果を残しているからだ。つまり裏を返せば完璧でない自分に価値はないという事だ。
ウィルはマルフォイ家に対して心苦しさを感じていた。環境に対して感謝もしている。だがなにかが足りないのだ。
少年は誰にも気づかれないまま心臓のあたりを手で優しくおさえた。