灰色の獅子【完結】 続編連載中 作:えのき
単身で乗り込んだウィルは困惑していた。
最悪の場合ここで詰む可能性があると判断したからだ。
彼にはゆらゆらとした太く巨大なツルが巻きついて離さない。いつ絞め殺されるかわからないような状況である。
これは“悪魔の罠”、暗闇と湿気を好む植物である。生き物を絞め殺す性質があり、魔法使いが餌食になることも少なくない。弱点は光と炎である。
ウィルはそれを知っていながらも即座に行動に移せなかった。それはあくまでもこの植物が罠ではなく、囮ではないかという事が考えられたからである。
光を探知すれば発動する罠や火によって爆発する薬物をツルに塗られている危険があると判断した。少なくともウィルならそうする。
とはいえこの植物の性質を知らなければこのまま絞め殺されるか拘束される。
まさしく“悪魔”
だが天性のセンスを持つウィルは罠を回避しつつ逃れられると確信していた。
「“
巨大なツルは眩いほどの光を嫌いすぐさまウィルを解き放った。瞬間的に体制を整え重力に逆らわず落ちる彼はすぐさま自らをまるで球体のように360°覆う盾魔法を発動する。
だが青白い光の盾が攻撃を受けとめることはなく、スタンと地面に足がついた。
ただの深読みだったらしい。
ウィルは光探知によって的を絞らせない為に巨大な光を放ち、なおかつ攻撃を防げる盾魔法を使ったのである。
杞憂に終わったが彼は深く反省した。地面に降り立った瞬間に発動する罠や毒だまりなどを設置されていたら自分は詰んでいた。
「まだまだだ。」
そうつぶやくと彼は次の罠へと向かった。すると一本の箒と鍵のついた扉のある部屋だ。
空を見上げれば羽のついた鍵が無数に空を飛んでおり、目がチカチカする。一見全ての鍵は同じように見えるが鍵の形は様々である。
全ての鍵を捕らえて試すのは効率が悪いと判断して彼は鍵穴を覗いた。暗くてよく見えなかったのでよくわからない。
彼は鍵穴に入る程度の水を丁寧に放ち一気に凍らせた。試しに捻るも鍵は開かない。
「“
ウィルはドアノブへ向けて放つと破片は周囲へ飛び散った。そして床に落ちている氷を手にとると鍵の型を見る。
「“
そしてドアノブを治してしまった。すぐさま箒にまたがり、無数の金属の中からそれを見つけるとすぐさま掴んだ。
クィデッチで鍛えられた動体視力がこんなに早く役に立つとは彼は思わなかった。心の中でマクゴガナルに感謝すると鍵を開けて次の部屋へと向かった。
次の部屋は多種多様な石像が並んでいる。剣を持つ人の像、馬の形や塔のようなものまである。床を見れば均等に並ぶ升目だ。
「チェスねぇ。さっきから随分と簡単な試練だと思うのは気のせいかな?」
ウィルはそうつぶやくとゲームを開始した。
***
1時間後
あれからウィルはチェスを容易くクリアした。そして次の試練である巨大なトロールを軽く気絶させ、論理クイズを突破した。
最後の部屋と思われるところにつくとそこには巨大な鏡が佇んでいた。何の変哲も無い部屋だ。罠だろうと思いつつもウィルはその鏡に映る自分自身の姿を見た。
ウィルは思考力が完全に停止した。それだけの威力があったのだ。それは誰にも話した事がない自分自身の望みだった。
「なぜだ、貴方は
ウィルは素早く背後を振り向いて杖を向ける。だがそこには誰もいなかった。
【みぞの鏡】
鏡にそう書いてある。つまりは“のぞみの鏡”、鏡を見たものは自分自身の望んだ姿を映すというわけだろう。
そこにウィリアムが望んだ何かが映っていた。それは彼を激しく動揺させる。
「まだ僕はひきずっているのか。」
ウィルは寂しそうに声を殺して囁いた。
その姿は小さな子供のようだった。
***
2時間後
ウィルは相変わらず鏡の前で自分の姿を眺めていた。だが魅せられたわけではない。今日中まではこの部屋で待機するつもりだった
もちろんその時間を無駄にはしない。この殺意のない罠の理由を突き止めた。
この罠の目的はおそらく“侵入した者を閉じ込めること”である。
控えめな難易度は手軽に侵入できるようにする為だろう。攻略が難しければ下準備なくして突破は不可避、つまり敵を校内に野放しにするという事だ。
だからこそ侵入者に探し物はここだと知らせる為に都市伝説のように“禁じられた廊下”として規則に加えたのだろう。
悪ふざけで入った生徒を追い払う為に鎖に繋がれたケルベロスを設置したのだ。
またわざわざ見張りをつけず、校長は敢えて皆へここへは近寄るなと言ったのである。
全てはヴォルデモートの僕を奥へ奥へと誘導して閉じ込める為に・・・
「人の事は言えないが、迂闊とは思わなかったのか?」
限りなく気配を消した侵入者に対してウィルは静かに話しかけた。彼はゆっくりと振り向くとその人を目に捉えた。
一目で頭に巻かれたターバンが目に入る。
【闇の魔術に対する防衛術】のクィレルだ
「マ、マ、マルフォイ君?なぜここに。」
吃音症のようにクィレルは言葉をつっかえて話しかけた。ウィルは罠に侵入した自分を連れ戻しに来たのだと思った。
だがそれが違うという事を彼はすぐに思い知らされることとなる。
『マルフォイだと?』
まるで全身の毛が逆立つかのような錯覚を覚えるほどの恐ろしい声だった。反射的に身構え杖を強く握りしめる。
「えぇ我が君、ルシウスの息子です。」
クィレルは自分の方を向いていながらも目が合わない。誰に話しかけているのだろう。
「誰だ?どこに隠れている?」
『クィレル、俺様直々に話をさせろ。』
クィレルは無言で自分のターバンを緩めて解き始めた。やがて全ての布が床へ落ちる。そしてゆっくりと背後を向くと後頭部に恐ろしい顔をした男の顔だった。
肌は青白く、鼻には切れ込みがあり赤く蛇のような鋭い瞳だ。
さすがのウィルも狼狽える。想定していたとはいえ、思っていたよりも遥かに恐ろしい姿だった。
「闇の帝王、なのですか?」
「醜い姿だろう。」
その言葉にウィルは何も返せない。肯定も否定もすることができなかった。
「・・・証明することは?」
「必要か?俺様のしもべの小倅ごときに?」
言葉の1つ1つがウィルの身体へ重くそして深くのしかかる。これが史上最も強力な闇の魔法使いの威圧感・・・
(老いて、衰弱しきってこの魔力。)
己が才に恵まれた存在だからこそわかる
その領域に辿り着くまでの才能と時間そして労力を・・・
ウィルは今まで浴びてきた殺意が他愛のないものであると知り、そして初めて本物の殺意を感じた。
だが当人はそれを自分に向けてすらいない感覚だろう。身体に染み付いて離れないほどの殺気だ。備わっているのだ。ただ存在するだけでそう感じ取れるほどのオーラ。
(本物の怪物だ、勝てるわけがない)
ウィルは素直に杖を地面に置いた。そして両手をあげて可能な限り後ろへ下がった。
「降参です。」
(今は無理だ、クィレルが油断している時なら倒せる。)
ウィルは心の中でそう言った。
「ほぅ、まだ勝機があるようだ。クィレル、杖を奪え。」
ウィルは目を大きく見開いた。瞬時に自分の心が読まれた。“開心術”だ。
“開心術”、それは相手の心をこじ開けて思考や感情、そして過去までも見透かす事ができる魔法だ。
それに気づいたウィルは素早く心を読まれまいと強い意思を持つ。“閉心術”である。
ヴォルデモートはとても不気味ながらも愉快そうに笑った。
「生意気なガキめ。俺様の開心術に抗いおったわ。」
ヴォルデモートの魔法を拒みながらもウィルは絶望していた。
彼の衰えた魔力、更に杖を持たず、それどころか無言呪文でこの領域にあるということ
全盛期であればどれほどの力を有していたのであろうか・・・
「だが見えたぞ、ウィリアム・マルフォイ。お前は愛に飢えている。」
ウィルは自分の名前と心の奥底に秘めた感情を見抜かれていた。
「それを知識を喰らう事で紛らわしておる。空気をいくら吸おうとも腹は満たされない。哀れな男だ。」
完全に図星だった。家族でさえ見抜けなかったそれをこの男は一瞬で言い当てた。
「愛など存在しない、それは幻想だ。力とは満たすのではない、解き放つのものなのだ。俺様がお前に意味と居場所を与えてやる。」
底知れないほどのカリスマ性、彼にとって自分など捨て駒の1つに過ぎないのだろう。だが不思議と心が軽くなったような感覚を覚える。
「我がしもべとなれウィリアム・マルフォイ。」
彼は無言で左腕の裾をまくるとヴォルデモートに差し出す。
ヴォルデモートは愉快そうにニヤリと笑みを浮かべた。
「俺様の復活の暁にはお前に紋章を授けてやろう。」
ウィルはヴォルデモートの魔力と囁きに心を折られかけていた。だが突然膝が崩れそして地面に倒れてしまった。どうやら身体が無意識にウィルの意識を切断したらしい。