灰色の獅子【完結】 続編連載中   作:えのき

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ベンKさん、沢山の誤字脱字修正に感謝します。


分岐の日

 

 

目を覚ました時、そこは暗闇だった。

 

 

身体の感覚を辿れば闇の帝王と会ってから数時間しか経っていないようだ。まだ身体の疲労はしっかり残っている。

 

意味もなくぼんやりしていると段々と視界がクリアになる。

 

知っている天井だった。飛行訓練の後にここに来たことがある。白く塗装されながらも所々シミやヒビが入っている。医務室だ。

 

特有の薬の香りが鼻をくすぐるが、すぐに慣れた。

 

やがて彼はゆっくりと身体を起こす。そして記憶を辿っていく。それから恐る恐る左手の裾をめくる。布団の中にもぞもぞと手を突っ込み杖を取り出した。

 

軽く深呼吸をして気持ちを整えると呪文を唱えた。すると杖の先に小さな光を灯し、彼の腕を照らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには傷ひとつない綺麗な腕(・・・・・・・・・・)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがあのまま何も起きなかったはずはない

 

「どうなった?」

 

彼は居ても立っても居られず立ち上がるとそのまま扉へと向かった。確実に規則違反であるはずなのに彼はその発想すらなかった。

 

すると突然勝手に扉が開いた。中から現れたのは白くて長い髭をたくわえ、半月型の眼鏡をかけた高齢の魔法使いだ。

 

 

アルバス・ダンブルドア。この世で最も偉大とされる魔法使いだ。

 

かつてヴォルデモートが唯一恐れるほどの実力を持つ。

 

 

 

「ウィルよ、すっかり良くなったようでなによりじゃ。」

 

ダンブルドアはまるでウィルの行動を予測したかのように現れた。

 

「お腹も空いたろう、儂の部屋に来るといい。」

 

ダンブルドアは好々爺のように笑顔を浮かべ背を向けて歩き始める。ウィルは彼に素直に従って行く。

 

 

とある廊下のオブジェの前に来ると彼は校長室の合言葉を自然に唱えた。彼は儂の目を盗んで忍びこむでないぞと冗談を言う。

 

ウィルを中へ招き入れると暖かい紅茶と茶菓子を振る舞った。そしてダンブルドアは一休みすると本題に入る。

 

彼が気を失った後の話だ。一向に帰ってこないウィルを心配した3人組が“禁じられた廊下”の部屋へ侵入し、罠を突破したらしい。

 

そしてハリーが一人でヴォルデモートとクィレルに立ち向かい打ち破ったそうだ。

 

「そう・・・ですか。」

 

ウィルは心の奥深くからどす黒い感情が溢れて渦巻いていく。だが悪意ではないようだ。

 

彼が抱いたのは底知れないほどの自分への怒り(・・・・・・)だった。

 

物心ついた頃から自分は全てを尽くして努力してきた。敵から全てを守る力を持ち合わせている自信はあった。それなのにヴォルデモートと相対した瞬間に自分は立ち向かう気力すら残っていなかった。

 

それに対して自分より遥かに劣るはずのハリーポッターには立ち向かう勇気があった。それどころか彼らを退けてみせた。

 

自分はなんという無様な結果を晒してしまったのだろう。

 

もしかしたら彼は幸運だったのかもしれない。だが結果は結果だ。客観的に見れば、しくじった自分と偉業を成し遂げたハリー。

 

己の歯がギシギシ音がするほど食いしばり、身体中の血が沸騰するかのような感覚を覚えた。それ程にまで自分の行動に対して怒りを、底知れないほどの怒りを抱いていた。

 

ウィルは隠す気などさらさらなかった。正確に言えば隠すという事ですら忘れてしまう程の怒りを自分にぶつけていた。

 

ダンブルドアは真剣な眼差しでただ見つめ続ける。

 

長い間、沈黙が訪れる。5分なのか10分なのかわからない。

 

 

 

 

 

 

「なぜ君は賢者の石を求めたのかね?」

 

沈黙を破りダンブルドアはそうウィルに問いかけた。表情は固く返答次第ではどんな対応を取られるかはわからない。

 

 

「・・・、あの鏡の仕掛けですか?」

 

 

ウィルはダンブルドアの瞳をジッと見て口を開く。

 

あの【みぞの鏡】の仕掛けについてだ。おそらく“賢者の石”を望まない者にしか手に入れることができないように細工したのだろうと考えていた。

 

つまり自分は“賢者の石”を求めたという事だ

理由はわかる。

 

「明言はしたくないですね。 」

 

彼は少し冷めた表情で答えた。

 

「ならばヒントをくれんかね?今のわしの中でクイズがブームでのう。」

 

ダンブルドアは少し笑顔を浮かべて追及する。彼の“開心術”ではウィルの頭の中を見透かす事ができないからだ。

 

ウィルは少しだけ時間をとる。そしてすぐにヒントを伝えた。

 

「僕には生きる事において目的があります。それを前提としてのヒントです。」

 

「1つ目は本からの解放(・・・・・・)、そして2つ目は自分を知ること(・・・・・・・)。」

 

ウィルは正直に答えた。その賢者の石さえ手に入れて永遠の命を得ればそれらの解決は時間の問題となる。

 

するとダンブルドアは2度小さく頷き、そして真剣な表情で口を開く。

 

「ではわしが君に対して懸念であると、同時に安堵しているものはなんだと思う?」

 

「・・・。」

 

ウィルは少し困ったような表情を浮かべる、それにダンブルドアは言葉を濁し過ぎたと思ったらしい。

 

「わかりやすく言えば、望むと同時に望まないことは何かということじゃ。」

 

「どういうことですか?矛盾してる。」

 

 

ウィルは全くもって答えがわからなかった。

 

 

「そうじゃ、ではわしも2つだけヒントを・・・。」

 

ダンブルドアはピクリとも表情を崩さない

 

「1つ目は君が全ての人々を友として(・・・・)受け入れるかどうか。」

 

(それがどうして懸念になる?)

 

謎が更に深まった。

 

 

「2つ目は自分の力の全てを解き放つ(・・・・)かどうかじゃ。」

 

これには心当たりがあった。そして1つ目と2つ目が結びつくとすれば答えは1つしかない。

 

「わかるじゃろう?君はまだ揺れている。矛盾(・・)、それこそが君じゃ。」

 

ダンブルドアの瞳には確実に自分を見極めようとしているのだとウィルは気づく。そしてこの問いかけに対して偽る事は悪手だと考え嘘偽りなく答えると決めた。ダンブルドアもまた心の内を隠さず自分と向き合っているのだと感じた。

 

 

「僕が“闇の帝王”の部下になると?」

 

「そうじゃ、だが部下で済めば(・・・)まだよい。」

 

その言葉にウィルは戸惑いを覚えた。自分の想定を超えてきたからだ。あの時ヴォルデモートは自分を部下にしようとした、それよりも危険な場合があるのか。少なくとも自分には見えていない可能性をダンブルドアは見据えている。

 

「僕が彼の何になると?」

 

「最悪の場合、奴の隣に立つ(・・・・)可能性があると儂はみておる。」

 

ウィルは目を見開いた。今まで彼に警戒されていたのだと察した。つまりそれは疑うという事だ。教育者として最も破ってはいけない規律の1つに数えられるだろう。だからこそダンブルドアは自分に対して心の内を伝えたのだと思われた。

 

「だが君はヴォルデモートには(・・)ならぬ。君は愛を知っておる。誰かの為に生きる事ができる。」

 

「ならば懸念はないのでは?」

 

少し拍子抜けしたように言った。

 

「かつて奴と同じくらい危険な魔法使いがいたのじゃ。」

 

彼の瞳の奥には僅かに悲しみが帯びている。話すことに対して少し抵抗があるらしい。

 

「ヴォルデモートは恐怖で死喰い人(デスイーター)を従えた。だがその男は自らに従いたいと思わせる。」

 

「・・・グリンデルバルド(・・・・・・・・)?」

 

ウィルの答えにダンブルドアは間髪いれず言葉を入れる。

 

「さよう。儂は君に()を重ねてしまう。」

 

グリンデルバルド、ヴォルデモートより前の時代で最も凶悪とされた闇の魔法使いの名前である。ダンブルドアが決闘で彼を討ち破るまで各国で彼の信仰者が暴れていた。

 

 

「普段の君は機械に感情を吹き込んだような男だ。仕込まれた術を全て受け入れ吸収する、だがふとした瞬間に壊れてしまう。」

 

ウィルは心当たりがあった。怒りなどによって感情が湧き上がった際にそれを心の内に仕舞う事ができなくなる。

 

 

「君にその気がなくともヴォルデモートは君を欲しがる。初めて自分と同じ仲間(素質)に出会ったのだから。」

 

 

 

 

 

 

ウィルにとってこの日は、この世で最も強力な2人の魔法使いと初めて言葉を交した記念すべき日となる。

 

そしてこれが彼の運命を分岐する最初の出来事である。

 

 

やがてこの幼き少年もこの2人に匹敵する実力(・・・・・・)を自らの素質と血の滲むような努力でその領域に至るまで昇華させる。

 

だが今ではほんの小さな子供に過ぎない。

 

そして遠くない未来にこの3人は各々の勢力の首領として闘いの中に身を宿すこととなる

 

 

 

 

だがそれもまだ先の話だ。

今はまだ教え子と生徒の関係だった。

ダンブルドアのこの決断が彼をどう変えたのかは誰もしらない

 

 

 

 

 

 

 





他の文が雑で申し訳ないです。
後日、体内に修正しておきます。
なんか消してしまったのと比べて違和感がある、、、

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