灰色の獅子【完結】 続編連載中 作:えのき
プロローグ
ウィルとドラコの長期休みも終わりが近づいている。2人は新学期に必要な教材と道具を買いにダイアゴン横丁へやってきた。
学年が変わると教科書も変わる。そのために本屋へと向かった。ルシウスは用事があるらしく先に向かっておくよう言われた。
通りを進んでいるとなにやら黄色い声援が聞こえてくる。よく見たら目的地である本屋だった。
「騒がしいな。」
ドラコがつぶやいた。
「イベントでもしてるのか?」
そんな事をいいながら中を覗くとブロンドの髪に青い瞳の男性だ。本棚に視線をやる。そこの売り場に置かれている本たちは彼の動く写真が表紙になっている。
ギルデロイ・ロックハート、小説家だ。
「なぁアイツは新しい防衛術の教科書を書いたやつじゃないか?」
2年生に必要な教科書としてロックハートが作者の本がリストアップされていた。
「あぁそうらしい、だが今は面倒だな。」
人ゴミを眺めてそう言った。
「僕は奥で気になる本を探しとく。ドラコはどうする?」
本屋の二階には誰もおらず、そこならルシウスの到着を待てると考えた。
「適当に暇をつぶすよ、君の邪魔したくはない。」
ありがとう、そうつぶやくと彼は自分の望む本を探しに行った。
やがて一冊の本に惹かれた。ホグワーツではお目にかかれないであろうそれに没頭するように夢中に読みふけった。
***
数分後
まもなくルシウス・マルフォイが本屋へと到着した。すると息子のドラコ、そして兄弟と思われる子供達が目に入る。全員が赤毛でお下がりと思われるボロボロのローブ、近くを見渡すとやはりそうだ。
「アーサー・ウィーズリー。」
赤毛で青い目の中年男性は聞き覚えのある声の持ち主を見る。すると蔑んだような顔をする。どうやら犬猿の仲のらしい。
「ルシウス。」
ルシウスとアーサーは同じ純血の一族の当主である。
2人の距離を引き離したのは思想、ただそれだけで決定的な決別となった。マルフォイ家はマグルを魔法使いの血が流れていないとして【穢れた血】と蔑んだ。また魔法族がマグルに見つからないようにと隠れて生きているという事にも不満を覚えている者もいる。
これを【純血思想】と呼ぶ。
それに対してウィーズリー家はマグルとの平和の共存を強く望んでいた。特にアーサーはマグルの文化や品に関心を持っている。
時代の流れとしては純血思想は衰退しつつあり、アーサーに共感する者が増えている。
それらの背景があり、2人は顔を合わせるたびに嫌味や悪態をつきあう仲である。今日もまたいつも通りの流れとなる。
どちらかが先に粗をつつくとそれに応じてやり返す。2人は周囲の人達の目を気にすることもなく口論を始める。
「魔法使いの面汚しと言われてはねぇ。」
言葉の流れででルシウスはそう言い放つ。嫌味ったらしく蔑んだ顔である。
「どちらが面汚しとは意見が違うようだ。」
アーサーは強い表情で言い返す。ルシウスは少しイラつき、彼の末の娘の持つ鍋に入っているボロボロの教科書に視線をやる。それをサッと掴むとそれをじっくりと品定めするように見た。
「残業代は出ているのかい?どうやら出てないらしい。」
そして本を鍋の中へ滑り込ませた。
その頃、ウィルは相変わらず本に没頭していた。だが何かが本棚に強くぶつかる音を耳にして集中力が途絶えた。
本のページを抑えたまま彼は階段の下に目をやる。すると父親が誰かと取っ組み合いをしているではないか。後ろにはロンやその兄弟にハリーとハーマイオニーもいる。
ウィルは軽く溜息をつき本を閉じると、近くで二人の騒ぎをハラハラしながら見ている店員にこれを包むよう伝えた。そういうと彼は杖を取り出して階段の上から呪文を放つ。
ちょうど2人の間に透明な空気のクッションのような何かが現れた。取っ組み合いどころではなく彼らは衝撃でバランスを崩して後ろへのけぞる。
本屋にいる多くの人達は2人の喧嘩を眺めていたので店内は静寂に包まれる。そしてカツカツと階段を降りる音のみが響く。
「・・・、父上なにをなさっているのですか?」
階段の途中からウィリアムは父親を蔑むように見下している。なぜならルシウスが自分に叩き込んだ貴族らしい振る舞いを彼自ら汚しているからである。
周囲の人々は一斉に彼に目を奪われていた、整った美しい外見から鋭い言葉が飛び出したからである。そしてその矛先が自分でないということに安堵してしまうほどだった。
「ドラコ、お前もなぜ止めない?」
ウィリアムは対象を父親の側にいた弟へと切り替えた。去年の学校での振る舞いから彼もまた火種となったのだろうと考えたからだ。ドラコが下を向いている事から正しいようだ。
「世間の前で恥ずべき行為だ。」
彼はさっさと斬り捨てるとアーサーの方を向いた。アーサーは驚きを隠せない様子だ。年端もいかない子供があのルシウス・マルフォイを簡単に止めてしまったからである。
「理由は存じませんが、」
そしてその少年は杖をアーサーに向ける。ところどころ切り傷がついていた。少し身構えるが避けるにはあまりにも反応が遅すぎる。
「少し失礼、“エピスキー”癒えよ。」
そう唱えると杖の先に小さな輝きを纏わせた。痛みが生じないようにゆっくりと傷を修復させる。
「悪かった、私としたことが取り乱した。」
冷静になった事で周囲の視線に気づいたのか彼は店をサッサと出て行った。するとドラコも父親の背中についていく。
その様子を見てウィルは小さく溜息をついた、アーサーの傷が癒えると杖をおろしてローブにしまう。
謝罪と立ち去ることを伝えようと家族を一瞥すると末の女の子がおどおどしているように見えた。
すると彼は父親と同じように彼女の鍋に入っていた教科書に手を伸ばす。そしてパラパラとそれらをめくると教科書の所々に有益なメモや落書きやジョークなどが書かれている。
彼は彼女を見るとにっこり笑った。
「お兄さん達のメモが残っている。いい教科書だ。むしろ僕が欲しいくらいだよ。」
安心させるような優しい声でそういうと彼女に教科書を優しく手渡しで返した。
学業は道具なんかじゃない、ウィルはそういうとアーサーに軽く会釈をする。
「レディ、学校で会えるのを楽しみにしているよ。ロン、ハリーにハーマイオニー、君たちもまた汽車で会えるだろう。」
ウィルは笑顔を浮かべながら手を軽くあげて、そのまま出口へと向かった。
そして包装を終えた店員が待機しており、彼は商品を受け取るとガリオン金貨数枚を渡した。お代が多過ぎると返そうとするが迷惑料ですと言って受け取らなかった。
彼の背中をただジッとアーサーは見ていた。そして驚いたような表情を隠せないままそっと呟いた。
「ロン、今のがウィリアム・マルフォイか?」
純血思想の色濃い一族の次期当主にして歴代でも稀有な才能を持つと言う者も少なくない。ただし性格は温厚で礼儀正しいとも聞く。社交場では常に注目を浴びており、自分の娘を嫁がせようとする貴族も少なくないとか
「そうだよ。悪いやつじゃないけど、いけ好かない。」
ロンは吐き捨てるように答える
「そうか。」
そうつぶやくと店を出るぞと呟いた。