灰色の獅子【完結】 続編連載中   作:えのき

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本当は前話で少し引っ張ろうと思ったけど、自分がされるとムカつくから投稿します、


天才と天才②

 

 

 

 

 

 

 

一撃一撃が途轍もなく重く、そして限りなく鋭い。それらは込められた魔力の多さと操作、更に術の練度により立てる領域だ。

 

呪文の衝突により風圧が生じる。全身に振動が伝わり、鼓膜が叩きつけられるように激しい痛みを感じる。

 

それをものともせずに2人の魔法使いは更なる魔法を放つ。

 

決闘に長けた魔法使い同士の決闘(それ)ですら子供のごっこ遊びに感じるほどの激しく、そして高度な魔法の応酬だ。2人は己のあらゆる魔法や呪いを行使し、それに対抗できる異なる魔法やそれを撃ち落とす反対呪文を使用する。

 

トムは歪めた笑顔を崩さずにいる。自分が全力を尽くしてもなお壊れない敵、ようやく現れたのだ。心の奥底で50年間待っていたであろう対等な存在に・・・

 

それに対してウィルは感情を失ったかのような冷たく、瞳には光を宿してない。それほどに今のトムに対して全てを注いでいる。しかし少しずつ、それも崩れて行った。彼の頬も緩んでいく。

 

 

 

ウィルは学び続け、そして鍛錬を重ねている。だが彼には明確な到達地点がなかった。

 

それはマルフォイ家を守る為、そして彼の夢や野望を叶えるためである。

 

それらはあくまでも未来の話、それに対する下積みを今行っているに過ぎない。

 

平凡な人物なら自身の成長を実感できるだろう。しかし彼は天才、初めから同世代どころか上の世代ですら誰一人として彼を超える存在はない。故に学び扱えようとも実力をぶつける相手がいない。

 

だが今、ここにいる。上級生とはいえ自分と同じ世代(ホグワーツの生徒)として張り合えている。自然と心から熱い感情が溢れ出す。

 

 

 

応酬のさなか、トムは目の前の年下の少年にこの上ないほどの称賛を送った。この自分を追い詰めるほどの強さを、自分より学ぶ機会と時間も少なくして自分と同じ土俵に立つ。

 

それに対してウィルもまた同じ気持ちだった。リドルという名は魔法家の一族の名前ではない。マグル出身の生徒だ。自分は入学前からマルフォイ家の当主として教育と鍛錬に耐えてきた。だから他の学生と比べればスタートが違う。つまりトムリドルは学生であるうちに己の実力をここまで伸ばしたのだ

 

 

 

 

 

2人の心には惜しみない賛美、そして尊敬の念がある。だが互いの心を最も埋め尽くしたのは対抗心である。

 

対抗心、相手に勝ちたいというより自尊心に近い。自分が最強で最も優れた天才であるという誇り、同世代の誰かに敗北するなどプライドが許すはずもない。

 

 

 

 

遂に決闘が始まってから5分がたった。圧されていたのはトム・リドルだった。

 

 

理由は明白、本気を出したとはいえ自分の持つ最強の呪文を使うのを控えていたからだ。

 

しかし彼は真剣になればなるほど、己を律する鎖が緩んでいった。自分の敗北が濃厚であると勘付いた時、彼はつい癖でその呪文を唱えてしまった。

 

 

 

 

 

 

【アバダ・ケタブラ】

 

 

 

杖から緑色の閃光が瞬いたその瞬間に彼は激しい後悔に苛まれる。この若き才能の芽を絶やさなければまだ遊べただろう。

 

“死の呪文”は防ぐ術のない呪文だ。“盾の魔法”であっても防ぐ事ができない防御不可避の一撃必殺である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その閃光を前に彼は小さく杖を振るった。まるでただゴミを払うかのようにその呪文の軌道を捻じ曲げて天へ飛ばした。

 

 

そしてウィルは追撃の魔法を放ち、トムの心臓を狙うも“盾の魔法”で弾かれる。

 

 

「いい、凄くいいぞ。」

 

彼は再び始まった魔法の応酬に身を投じる。そしてまもなく均衡が破れる時が来る。

 

 

 

 

もし魔力総数は互角、練度及び術ですら互角

ならば勝敗を分かつのはただ一つ

戦いにより真剣に挑んだ方が勝つ

 

 

トムは魔法の威力に押されて後ろにバランスを崩した。あとは杖を奪うだけ、無敵の防御を持ったとしても最強じゃない。

 

 

トムの猛攻の全てをさばき、そして彼に更なる猛攻を仕掛けたウィルの勝利は目前だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウィル!!!!」

 

 

土まみれのハリーとロンが走ってこっちに向かっている。杖をトムに向けている。

 

これはまがうことのなき悪手だった。

半端な実力の持ち主の加勢は足を引っ張る事になる。トムの視線は2人に向き、ハリーの方へ向けて“死の呪文”を放った。

 

ウィルは強靭な動体視力で軌道を変化させハリーの命を守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間に彼は腹部に激しい熱を感じた。一気に力が抜けて彼は地面に倒れ、そのまま起き上がれなくなった。

 

 

それからすぐに喉に鉄の味が広がると口から激しく吐血した。やがて地面に血の水溜りができ、ようやく自分の傷の程度を把握した。

 

かろうじて両方の手のひらに力を込めて四つん這いになる。だがそれ以上は身体を立てる事ができなかった。

 

 

 

 

同じ実力の者が決闘をした時に勝利する方はより真剣(・・)に臨んだ方、だがイレギュラー(非常事態)において迅速に対応できるのはより余裕(・・)を持った方である。

 

 

彼が武装解除の呪文を放つ寸前に勝利を失った。あと5秒もあればトムの杖を彼は勝ち取っただろう。

 

だがこの勝負において勝利を勝ち取ったのはトムリドルであった。

 

「愚かだ、君も気づいてるはず。君の魔力が減った事で僕が君に注ぎ込んだ魔力の割合(・・・・・)が増えていることに。」

 

ウィルが日記に書き込むたびにトムは彼に魔力を注ぎ込んでいた。そしてやがては隙を見て自身の身体として支配するつもりだった。事実、彼の身体は自分の知らない所で操られていたのである。

 

それに勘付いたウィルは自分の意思がほとんどなくなる事がないよう眠る時間を最小限にすることにしたのである。

 

自分と魔力と強い意志によってトムの支配に抵抗していた。だがこの決闘の中で自分の魔力のほとんどを使い果たした。そのためトムが注ぎ込んだ魔力が身体に反映されるようになる。つまり全身をめぐる魔力がトムの魔力の影響を強く受けるようになったのだ。

 

「君ならそうすると思った、君の敗因は甘さ(・・)、ただそれだけだ。」

 

 

 

トムのその言葉にウィルは激しく動揺した。自分が命を削ってでも護ろうとした存在の為に戦い、そして命を守った事で自分は地面に沈んでいる。まるで自分自身が戦う矜持のせいで敗れた。

 

 

ハリーとロンが何かを叫んでいるようだが、彼は聞く耳を持たなかった。そんな余裕すらない。

 

 

だが彼には迷いはなかった。自分の取るべき選択はただ一つ。

 

 

 

 

 

彼は最後の力を振り絞り、自身の右の手のひらに全ての魔力を注ぎ込んだ。そして地面に微かに浸る血の混じった水に魔力を纏わせるように広げた。やがてそれは広がりを見せ、そして水場へと到達する。

 

 

その瞬間に彼はその場にいた誰もが呆気にとられるほどの雄叫びをあげる。普段の彼から想像などつくはずもない、まるで死にかけの獣の闘争本能ようだった。

 

すると水場にあった全ての水がまるで生きているかのように持ち上がる。天井が濡れるほどに大きな津波になった。

 

そしてそれをトムへ向けて放った。

 

 

 

「こんなの足止めにしかならないぞッ!!!」

 

トムは大声でその行動が最後の悪あがきだと言い放った。魔法ですらない津波は杖を前に突き出して彼は2つに叩き割ると、それはまるでトムを避けるように通り過ぎていった。

 

 

 

 

そして行き場をなくした津波はそのまま壁へぶつかり、地面に大きく広がるとぽかりと穴が空いた水場へじゃばじゃばと入っていく。天井からは小雨のようにポツポツと落ちているが、気にすることはなかった。

 

トムはただ、最後の足掻きの意味を理解したのだ。

 

「ウィル、君に甘いと言ったね。前言撤回するよ。」

 

トムは静かに瀕死のウィルを見た。片手で押さえた程度では腹からの出血は止められることなく、そして口元からはよだれのように血が滴っている。

 

「君は甘過ぎる(・・・・)。」

 

その言葉を聞き遂げるとそのままウィルは力尽きて地面に倒れた。まるで操り人形の糸が切れたかのように、なんの抵抗もなかった。

 

 

そして秘密の部屋の広場に残っていたのはトム、そして倒れた若き魔法使いだった。ハリーやロン、ハーマイオニーは姿を消していた。どうやら逃す時間を稼ぐためだった。

 

 

 

トムはゆっくりと倒れているウィルへ歩いていく。彼との戦いの中で何かが芽生えた。

 

そしてトムはウィルの前でしゃがみこんだ、その瞬間に地面が突然白く輝いた。丸い球体の縁に書かれた古代文字、そしてその中に描かれたのは六芒星だ。強い魔力を感じる。

 

 

これは魔法陣(・・・)である。

 

 

「ははは・・・トム。」

 

ウィルは顔をあげる事すらままならないものの囁くように言った。

 

 

トムの足元を覆う程度の大きさであり、発動条件が満たされた事で出現したようだ。

 

トムは急いでその呪文を消そうと思いつく限り除去魔法を片っ端から放つ。だがそれは無意味な結果に終わる。

 

 

 

「君の敗因は効率主義(・・・・)だ。」

 

 

魔法陣は杖のない古代の時代に存在した魔法だ。当時の魔法使いに杖という媒体を持っておらず、魔力を込めた指で描き描いた文字によって発動させていた。

 

月日が経ち、魔法使いが杖を有してからは発動に手間がかかるとして衰退したのだ。現代においては魔法陣を描く時間はどう考えても非効率とされる。

 

だがウィルはこの魔法陣を罠としてなら使えると判断して、習得した。

 

ウィルはトムと日記の中で語り合った中で彼の弱点を知った。同じ学び舎で成長したからこそ図書館にある攻撃魔法の多くを彼は手に入れている。だから有効ではない。

 

有効であるとすれば彼が見向きもしない分野、トムは在学中という短い期間であるからこそ厳選しなければならない。

 

それに対してウィルは長い年月をかけて成長できるからこそ一見後回しにすべき事ですら手中に収められる。

 

 

 

 

 

そして魔法陣はついに発動した。白く鋭い光が瞬いた。これは凡ゆる魔法を取りはらう。かつては除霊として浸透していたが、魔法や呪いにも有効であるとウィルは発見した。

 

 

光が消え、発動を終えたのを見届けるとウィルは最後の力を振り絞って杖をトムへ向け、そして彼を視認することなく呪文を唱える。

 

「“レダクト(粉々)”」

 

使い切った魔力の残り香を使い人一人(ひと ひとり)を仕留め得る呪文の中で最も消費魔力の少ない魔法を選択した。

 

 

爆音と共にトムは激しく吹き飛んだ。ウィルは何かが地面に叩きつけられた音を耳にすると静かに目を閉じ、完全に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決めたよ、君の身体は奪わない。」

 

そういうとトムはウィルの腹部を魔法で癒し、そして左手を優しく掴むと杖を突き立て“ある紋章(・・・・)”を彼に刻んだ。

 

 

 

 

 

 




2章でこのレベルなら最終章はもっとヤバいという現実に震える作者
あとテスト前にて暫し失踪します

初の戦闘シーンの結末について

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  • ちと無理がある

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