灰色の獅子【完結】 続編連載中   作:えのき

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エピローグ

トムを倒してからウィルとハリーはダンブルドアの寄越した不死鳥のフォークスに乗って“秘密の部屋”から脱出した。ロンを含めた3人は事件を解決に導いたとして【ホグワーツ特別功労賞】が授与された。そのままお祝いが行われる事となったが、ウィルはすぐさま医務室に運ばれた。マダムから抜け出したことをこっぴどく叱られ、私に罰則の権利があったら厳しいのを課すと言われた。優等生ゆえに罰則を受けたことがないウィルは少し残念に思った。

 

薬を貰いベッドに入るものの目が覚めて中々眠りにつけない。それもそうだ。先ほどまで人生で最も歓喜した瞬間であり、心の底から友になりたいと願ったトムを自らの手で殺したのだ。彼は複雑な気持ちだった。

 

 

すると医務室のドアが開き、中からダンブルドアが現れた。そして彼はウィルをジッと見つめ微笑む。

 

「やぁウィル、少しいいかの?」

「えぇもちろん。」

 

その言葉を聞いたダンブルドアはウィルの側に来ると椅子に腰かけた。そして杖を円を描くようにゆっくり振るう。すると透明なドームのような壁ができる、どうやら音を遮断する魔法のようだ。

 

「早速、本題に入ろう。互いに腹の探り合いは抜きじゃ。本心で語り合おうぞ。」

 

「・・・。」

 

今までウィルはダンブルドアに対して少しの不信感を抱いていた。元々彼は自分が疑われていると気付いている。そして今回に限ってそれが確信に変わった。

 

最初にトム・リドルと戦ったのは自分だ。当時の自分に決定打はなく、彼を拘束又は魔力切れするまで追い込むしかなかった。あの剣を初めから持っていれば苦労は少なかったはず、しかしダンブルドアは自分ではなくハリーに助けを与えた。この差はなんなのかと少し気に障った。

 

「いつからトム・リドルの日記に闇の魔法がかけてあると気がついた?」

 

ウィルはその言葉に目を細めた。ルシウスがジニーに押しつけようとしたのを見抜き、ウィルはそれを取り返した。それをダンブルドアは全てを見抜いていたのだと気がついた。

 

「想定という段階ならば最初からです。」

 

ウィルは立場上、この日記を持ち帰れず、そして捨てる事もできない。前者はルシウスに対して当てつけのようになるから、そして後者は彼がもし適当な場所にこの本を捨てれば、闇祓いに拾われて家宅捜索をされる可能性があった。

 

「それは闇を取り除いてから処分する筈だったが、その過程で有用性に気がついた。」

「えぇ。」

 

日記にインクで書けば返事がされるという事を発見し、知識や発想を多く得た。これはかなり使えると思った。だがすぐに異変が起きた。

 

「それから自らの意思なく行動している事があった。」

 

彼は覚えがないはずなのに服に赤いペンキや鶏の羽毛が付着している時があった。そこで彼は一計を案じた。

 

「えぇ、だから父上に【憂の篩】を用意してもらいました。」

 

“憂の篩”、それは銀色の液体の入った石でできた水盤のような魔法アイテムだ。これに頭から取り出した記憶を入れて覗くと再び再現される。操られていたとしても動いていたのは自分だ、つまり意思はなくとも身体は覚えている。

 

「そのおかげで秘密の部屋の場所と暗号を突き止めることに成功しました。」

 

だからこそウィルはハリー達に事前に調べてあると言ったのである。そして秘密の部屋に伝承通りに怪物がいることも知った。だがその姿がなんなのかはわからずただの巨大な蛇という認識だった。

 

「惹かれたのかね?トムに。」

「えぇ、互いに。少なくとも僕はそう思ってます。」

 

小さく息を吸って前に乗り出したダンブルドアは表情を強張らせて質問を続ける。

 

「君は鍛錬の成果をぶつける場が欲しいのかね?」

「えぇまぁ、成長の度合いを正確に知る必要があります。」

 

突然、ダンブルドアはトムから話をそらす。

 

「それはグレンジャー嬢ではよくないのかね?」

「彼女とは知識の面で共有していますが、マグル出身という生まれのせいで経験が浅い。」

 

ダンブルドアは沈黙を保つ。彼の真意を確かめる必要があると判断したからだ。

 

「もちろん素晴らしい才能です。いつか僕も知識においては負ける。少なくとも僕の方が産まれ育った環境に恵まれていた(・・・・・・)だけ。」

 

ウィルにとって知識とは必要だから身につけるもの、ただしハーマイオニーは知識とは知りたいから身につけるもの、そこに2人の間に決定的な差がある。

 

「それはいい。一番は実力です。少なくとも僕の実力は学生の領域は超えてます。」

 

「傲慢、又は自信か、ワシとて君と相対せば簡単にはいくまい。」

 

突然、ダンブルドアは笑みをこぼして口を挟む。

 

「ご謙遜を、ですが退屈はさせません。」

 

ウィルも取り繕った笑顔を浮かべる。するとすぐにダンブルドアは真剣な表情になる。

 

「だからトム・リドルを友として受け入れようとしたのかね?たとえ彼が悪しき思想を持ったとしても」

 

ダンブルドアの言葉にウィルは少し引っ掛かりを覚えた。根本的に彼と自分は考えが違うらしい。

 

「価値観とは植えつけられるもの、誰かの価値観の譲り受けです。だから悪人などいない。」

 

ウィルはさも当たり前のように言った。彼は心からそう思っていた。貴族の子とスラムの子は価値観や倫理観がまるで違うと知っているからだ。

 

「危険じゃが本来は模範的とも言える。それはヴォルデモートであったとしてもそうなのかね?」

 

ウィルは突然ヴォルデモートが出てきたことに疑問を覚える。

 

「なぜ闇の帝王を?」

「トム・リドルはヴォルデモート、奴の学生時代の姿じゃ。」

 

ダンブルドアは間髪入れずに続ける。

 

「だが奴は誰にも植えつけられておらぬ。自らの意思で闇に堕ちた。」

 

人より価値観の定まった彼であってもヴォルデモートの例は一概には当てはめる事が出来ずにいた。少しの沈黙とともにウィルは答えを導き出した。

 

「それが彼にとっての心の拠り所となったのならばやむを得ないかと。むろん彼の行動については非難されるべきという前提ですが。」

 

その言葉に少し苛立ちを覚えたのかダンブルドアはムッとしている。

 

「では、なぜ君はトムを倒した?」

 

「僕の大事な人に危害を加えたからです。彼を生かして倒す手段を僕が持っていれば、滅ぼす気はなかった。」

 

「つまりは優先度ということかの?トムよりハリー達を守った理由は?」

 

再びウィルは彼の言葉に引っかかる、聞くまでもない。

 

「なにが悪いんですか?愛とは差別(・・)でしょう。」

 

その言葉にダンブルドアは表情を強張らせて微かに目を見開いた。そして互いに察した。自分と目の前の相手は絶望的に価値観が合わないということに。

 

「愛さない存在より愛する存在を優先する。理想やモラルではなく、論理ではなく感情で優劣をつける。道徳的には違うはず。むろんそれは理想です。」

 

例えば一般的に恋人とは愛と愛が交わる時に成立する。だがそうなれない場合もある。他方の一方的な愛では成就しないだろう。それは受け取る側が愛を返さないからだ。つまりは愛とは無条件に与えるものではないという事だ。これを差別と言わずしてなんという?

 

だからウィルは愛の見返りを求めないように心がけている。彼からすれば無条件に求めるのは傲慢なのだという。

 

「しかし今回は差別を選ばざるを得なかった、ただそれだけです。」

「・・・。」

 

そういうとダンブルドアは少し間を開ける。どうこの若き生徒を導くべきか考える必要があると判断した。

 

「貴方の意見はいかがです?」

「・・・、少なくとも儂の価値観とは異なる、とだけは言っておこう。」

「えぇ、だからこそ社会が成り立つ。ただし我々の相性は最悪のようだ。」

 

ウィルはそれからダンブルドアの価値観を尊重すると共に尊敬もしていると伝えた。それは本心だった。

 

 

 

ダンブルドアは2人を覆う防音壁を取り払うと見舞いの言葉を述べて立ち去った。そしてまもなくして勢いよく扉が開いた。すると少しやつれた様子のルシウス・マルフォイだ。よそ行きの服を身につけている事から、外出中に知らせを聞いて飛んできたのだろう。

 

 

彼は息をゼエゼエ言わせながらすぐにウィルのベッドまでやってきた。そして安堵したように彼を抱きしめて無事を喜んだ。

 

しかしウィルの表情は暗かった。

 

「申し訳ありません。父上の顔に、マルフォイ家に泥を塗りました。」

 

その言葉を聞いたルシウスは一瞬で身体を強張らせる。そして抱きしめた腕を放してウィルの表情を見つめた。

 

「お前は、本気でそう思っているのか?」

 

ウィルはルシウスから叱られるのだと思った。だが父親の表情は怒りではなく悲しみだった。今まで見たことのない顔だ。ウィルは戸惑いを覚える。

 

 

「もういい、お前は十分にやってくれている。今まで常に期待以上だった。」

 

ルシウスも自分の感情に整理がつかないようだ。とても弱々しい声だ。

 

「家や家族の事はもういい。お前のだ。お前の1番守りたいものはなんだ?」

 

 

(僕の1番、護りたいもの?)

 

 

ウィルは困惑した。考えた事がなかった。家より自分を優先した事がないからだ。

 

そして一つの結論が出た。ずっと昔からそうすべきだった。だがそれに目を背けていた。

 

「父上、ありがとうございます。僕はまた一つ壁を越えられるでしょう。」

 

 

彼はそういうとベッドから立ちあがり、そしてスリッパを履いてすたすたと移動を始めた

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜ホグワーツ大広間〜

 

 

 

 

 

最後のお祝いは盛大に行われていた。ホグワーツから災いが去り平穏がもたらされた。石にされた者達はマンドレイク薬により元に戻り、秘密の部屋を開けたとしてアズカバンに収容されていたハグリッドは釈放された。

 

大広間に姿を現したウィルを見た生徒達は立ちあがって盛大な拍手を送った。まるで目の前で太鼓が叩かれているような衝撃を感じる。ただし彼はとても暗い表情だ。

 

そのまま前へ前へと歩くウィルに対して生徒達は取り囲むように肩や背中を叩いて讃える

 

そして彼がぴたりと動きを止める。目の前には照れくさそうな表情を浮かべているハーマイオニー・グレンジャーである。

 

彼女は自分の本当の気持ちに気がついた。命を救われたのがきっかけではない。ずっとどこかでムズムズしていた。最初にコンパートメントで出会った時からかもしれない。いつも一緒で切磋琢磨して学び、語り合ってきた。彼の無実を証明するために校則を何十も破った。普段の自分ならありえない行動だ。

 

 

自分はこの男の子に恋をしている(・・・・・・)のだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その彼は無表情でこちらに歩いてくる。どうやら疲れてるのか、とてもやつれているように見えた。ハーマイオニーは思い切り彼を抱きしめた。心からの感謝の言葉を彼に伝える。

 

 

彼は何一つ表情を変えずに彼女の耳元で小さく囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕にもう関わるな、○○○○め。」

 

今ウィルは一体、何を言ったのだろう。彼女にはよくわからなかった。彼はそういうと自分の腰に回した手を離して後ろを向く。そして彼は自分とどんどん離れていく。

 

今ここで彼を呼び止めなければ一生戻ってこないような気がした。でも彼女はどうすることもできなかった。

 

彼の口から発せられたそれが現実であると知ってしまったからだ。大好きな彼の声で1番聞きたくない言葉だった。

 

ハーマイオニーはその言葉を聞いて膝から崩れ落ちた。そしてしばらく立ち上がる事ができなかった。

 

大声で彼の名前を呼んだ、でもそれは誰の耳にも届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何かを得るには何かを捨てなければならない、僕はそれを知っていたはず。)

 

左の腕に刻まれた髑髏と蛇の刻印の意味をウィルは知っている。痛みがないはずなのに違和感を感じる。その腕から全身にかけて彼はまた深く重圧がのしかかっているのに気がついた。今まで彼女が隣にいたからこそ耐えられたのだろう。これまでの疲労がどっと顔にでてくる。顔はやつれ、髪が乱れようとも彼は歩みを止めない。茶色の瞳は鋭く強い意志を秘めていた。

 

 

(僕は君を守りたい(・・・・)。)

 

 

ウィリアム・マルフォイ。純血一族で最も由緒あるマルフォイ家の嫡男にして純血の界隈で最も期待された次世代の申し子である。

 

父親は闇の帝王の最も強力な(しもべ)だった、今は魔法界で地位を確立している。

 

そんな自分を取り巻く環境にハーマイオニーを巻き込むわけにはいかなかった。今までが恵まれていたのだと思えば我慢もできる。あとはこの罪悪感を忘れてしまうだけ。簡単な事だ。

 

 

彼はそのまま進む。周囲の歓声が遠くに聞こえる。全てがすり抜けていくようだ。

 

無意識に彼は側にあったサンドイッチをさっと掴み、口に入れて咀嚼する。慣れ親しんだ感覚だ。だがいつもとは何かが違う。

 

彼は突然足を止める

 

「サンドイッチってこんなに味がしなかった(・・・・・・・)か?」

 

 

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