灰色の獅子【完結】 続編連載中   作:えのき

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幸福と恐怖①

 

 

 

ウィルは今日も食事を皿に盛るとスネイプの研究室へ向かった。軽くノックをする。

 

中から、入りたまえと冷たい声が聞こえる。扉を開けると数多くの珍しい標本や材料、機材が整理された部屋だ。

 

奥で横長いテーブルに座っているスネイプは1人分の紅茶を用意している。ウィルはそこに失礼しますと座り食事を始めると彼は今日のレッスンの内容の説明を始める。

 

毎回の夕食後ではこういうルーティンだ。限りなく時間を有効に使う為にとスネイプが提案した。ウィルが食事をしている間に説明とやり方を伝授する。そしてスネイプは日程によってはレッスンの前か後に食事を摂る。

 

 

 

「今日から“守護霊の呪文”を覚えさせる」

 

ウィルは課題を聞くと少し顔を歪めた。彼はここで食事中の返事はしてはならない決まりになっている。そして沈黙はYESとなる、つまり彼に拒否権はない。

 

「さよう、お前の弱点を克服する必要がある。もし習得できなければ我輩はお前を吸魂鬼の群れの中に放りこむ事も辞さない。」

 

スネイプは何一つ表情を変えずに淡々と言い放つ。まるで沼から沸々と言葉が湧き出るようだ。

 

「我輩の崇高な教えをもっても習得できぬノロマに相応しい最期となる。」

 

それからスネイプは淡々と守護霊についての説明や歴史、スペルや杖の振り方など何一つ欠かすことなく伝授した。

 

そして食事を終えるとすぐに彼は杖を抜けと命じる。ウィルは自分の幸福について考えた。ひとまずマルフォイ家の安寧を思い浮かべ、呪文を唱える。

 

 

「“エクスペクト・パトローナム(守護霊、来たれ)”。」

 

しかし杖先からは何もでない。スネイプはそれをジッと見て彼にアドバイスを送った。

 

 

 

 

***

 

 

 

数時間後

 

 

 

 

 

ウィルはスネイプのレッスンを終えてまっすぐ寮へ戻っていた。彼の部屋から消灯時間に間に合うように計算して終わったのだ。

 

色々と自分が幸せだと思う状況を思い描くも根本的に何かが違うのだ。

 

自分の野望や周りの人々全てを叶え護った世界を思い描いても少し銀色の光が見える程度にしか出現しなかった。

 

相変わらず自分の幸せがなんなのか分からず、それに悩みながら進む。そしてグリフィンドール寮の入り口付近にまで到着した。

 

 

「はぁーい、ウィル。」

 

階段を一段一段登り続けていると突然声をかけられる。

 

「あぁルーナ。どうした?」

 

ウィルはそう言うと足を思い切り止めて、勢いよく振り返る。するとそこにいたのは少し前に汽車で出会ったルーナだ。彼女は階段の手すりに腰掛けて逆さまにしたクィブラーを持って足をぶらぶらさせている。

 

ウィルは返事をした事に対して激しい後悔の念を感じた。できる限り人とは関わらないと決めたはずなのに、つい考え事をしていたので自然と返事をしてしまった。

 

 

 

「今年から占い学なんだよね?ウィルは取るの?」

 

ルーナは相変わらず何も読めない表情だ。

 

「占い学はとってない。」

 

ウィルは今更だとは思いつつも冷たく答えて去ろうとする。

 

するとルーナは杖を取り出してそれをクルクルと回すと突然ウィルの顔に向ける。

 

「“アグアメンティ(水よ)”。」

 

彼女の杖先からは水が放出される。ウィルはクィディッチで鍛えられた反射神経で身体をよじらせて回避する。

 

「おい!なにをするんだ!?」

 

そのまま水は壁の絵画にかかった。正確には絵ではなく、絵の中が濡れたようだ。テーブルを囲んでポーカーをしていたらしく、トランプがビシャビシャになった。中の1人が賭けを台無しにされたと激怒している。どうやら彼は勝てる手札だったらしく、ルーナに文句を言っている。周りの紳士は止めに入るがお前達は手札がブタだったんだ!と飛びかかって絵の中で喧嘩が始まった。

 

 

ウィルはその様子を見て少し困惑しつつ、彼はルーナの様子を見る。

 

「占いだよ。」

 

悪気は全くないらしい。そして彼女はそのまま続ける。

 

「結果はね、ウィルは反射神経がある人ってのがわかった。」

 

ルーナはさぞ当たり前のように当たり前の事を言った。するとウィルは顔を引きつらせながら口を開く。

 

「お前、それは誰から教わった?」

 

「同じ寮の子、私は反射神経ないみたい。」

 

ルーナは少ししょんぼりした表情だ。本当にそれが占いだと思っているらしい。ウィルは彼女を騙した生徒に苛つきを覚える。

 

「いや、それからかわれてるだけだろ。ってそれより・・・」

 

消灯時間を前にここで何をしているのかと彼女に尋ねる。

 

「ねぇ妖精とダンスパーティをする事になったらどう思う?」

 

「・・・は?」

 

どうやらウィルの言葉は耳を通って耳から出たようだ。

 

「とてもかけがえのない事だけど私、誰かと踊るダンス好きじゃないもン。」

 

そう言うと彼女はリズムを刻むように階段を降りていく。ウィルはただその背中を見送るしかなかった。

 

 

「何か伝えたいのか?また俺の気づかない何かに。」

 

ウィルは彼女は只者ではないと確信した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

次の朝

 

 

 

 

 

ウィル達を含むグリフィンドール生とスリザリン生は合同授業により、外へ出ていた。魔法生物飼育学の授業を受けるためだ。

 

ハグリッドが指定した教科書は生徒達に不評だった。まるで生き物のように暴れる本でページを開こうとすると噛みつくからだ。

 

ウィルは一度噛み付かれてからは“インカーセラス”を唱えて縛りあげた。そしてハグリッドは大半の生徒達がベルトやロープで縛ってあるのを見てがっかりしているようだ。

 

彼曰く背表紙を撫でれば大人しくなるらしい。それを聞いてもなお生徒達はベルトやロープを解く気にはならなかった。

 

 

 

そしてハグリッドは目的地に到着すると彼はニッカリ笑い、手を大きく広げる

 

「ジャッジャジャーン!!!」

 

大声をあげると、突然空から生き物が降りてくる。それは地面に着地すると小さく吠えた

 

「こいつの名前はバックビーク。ヒッポグリフだ。」

 

ヒッポグリフは馬の身体に羽根が生えたような姿だ、嘴は鷲のようで鋭い。

 

「すぐ怒るから侮辱すんじゃねぇ。」

 

ハグリッドは生徒達をジッと見つめ忠告した。プライドが高く人の言葉を理解できるらしい。そして彼は後ろを向いてバックビークを撫でる。

 

ハグリッドの『じゃ誰からやるか?』との言葉に一斉に生徒達は一歩だけ後ろに下がった。ヒッポグリフは獰猛であると思ったからだ。

 

「あ?」

 

先頭に立っていたウィル以外の他の生徒達が後ろに下がっている。まるで自分が前へ進んだようだ。すると少し離れてハリーも自分と同じ状況らしく戸惑っているらしい。

 

「では僕からお願いします。」

 

ハグリッドはウィルを歓迎するように向かい入れた。自分の授業に興味を持ってくれて素直に嬉しいらしい。

 

「先にお辞儀をしろ、それが礼儀ってもんだ。」

 

ハグリッドはウィルにそう言う。彼は堂々とバックビークへ進む。

 

「いい顔だ、傲慢で自分に誇りを持ってる。」

 

ウィルは無遠慮に近づくとバックビークはなにかを感じたのか威嚇するように吼えた。ハグリッドは下がれと指示をする。

 

だが彼は無視して進む。そして丁度いい距離を保つとバックビークの眼をジッと見た。まるで互いの腹の中を探るように見つめ合う時間ができた。

 

 

 

まもなくしてバックビークがゆっくりと頭を下げた。それを見たウィルは笑顔を浮かべ頭を下げ返す。そして彼の近くへ歩くと首元から頭へと優しく撫でる。それにバックビークは嬉しそうに小さく鳴いた。

 

元々動物好きの彼はとても満足した表情を浮かべている。生徒達には背中を向けていたので悟られはしなかったが、ハグリッドは満足そうにうなずいた。

 

 

するとバックビークは自分に乗れと言うように腰を下げた。ウィルはすぐに彼の意思を理解してハグリッドの方を向く。彼はにこやかに乗っていいぞと言った。

 

 

ウィルはバックビークの背中に乗ると一気に飛び立った。

 

森の上空からはあらゆる魔法生物が見え、それを超えると湖の上を滑るように飛ぶ。ウィルは勢いよく風を切る。箒とは違う臨場感を覚えた、彼は大声で叫び楽しむ。

 

そしてバックビークを褒め称えた。すると嬉しそうに大きく吠えて更にスピードをあげてみせる。

 

 

 

学校の敷地を軽く一周するとバックビークはハグリッド達の元へゆっくりと戻っていく。ウィルは頭を撫でながらふとある事を思いついた。だがバックビークには自分の生活があるのだと思って、それを心のうちに閉まった

 

 

 

彼が戻ると大きな歓声で迎え入れられる。最近の彼ではあり得ない状況だろう。少なくとも今の彼には人を拒絶する壁を忘れていたからだ。素直に楽しみ、短いひと時の中で己の重圧から逃れられたのだ。

 

 

ウィルはバックビークから降りてお礼を言って次の人に順番を譲った。

 

スリザリン生の中心でドラコはかなり不機嫌そうな顔を浮かべている。それは嫉妬だった。最近は弟の自分でさえもウィルは関わろうとさせないことに不満を抱いていた。

 

自分には久しく見せていないその笑顔をたかだか獣に向けているのが癇に障ったのだ。彼は自然とバックビークの前へ飛び出して侮辱の言葉をぶつけていた。

 

それに激昂したバックビークはドラコを蹴り飛ばした事で授業は中断され、そのまま終わった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数日後

 

 

 

 

 

 

あれからバックビークは息子に怪我をさせた事で激怒したルシウスによって裁判が行われる事となった。ウィルがそれを知った時にはすでに遅くどうすることもできない。それをやめるように手紙は送ったが怒りは収まらないらしい。

 

そしてホグワーツの付近でブラックが目撃されたとの一報が入った。だがウィルには関係のない事だ。仮に襲われたとしても返り討ちすればいいと思っていた。

 

 

今日はルーピンの“闇の魔術に対する魔法術”の授業である。

 

彼は全員を机ではなくその場に立たせる。そして皆の前にタンスがポツンとあった。だがそれは中で何かが暴れているように揺れていた。

 

するとルーピンは中にいるのがボガート(真似妖怪)であると皆に説明する。そして形態模写妖怪で相手の最も怖がる存在になる性質を持ち、呪文は“リディクラス(馬鹿馬鹿しい)”。ボガートを追い払うのに必要なのは笑いで、自分の怖い存在を滑稽な姿にする事がポイントだと言った。

 

 

ルーピンは生徒を一列に並ばせると先頭にいたネビルからやらせることにする。彼はタンスの鍵をあけると、ジャズ音楽をかけて皆を陽気な気分にさせる。

 

扉がゆっくり開くと中からスネイプが現れた。どう見ても本物にしか見えない彼に生徒達は驚き、息を飲んだ。

 

「“リディクラス(馬鹿馬鹿しい)”ッ!」

 

するとスネイプが彼のお婆さんのと思われるカーキのドレスを身につけていた。頭にのった禿鷹の剥製に生徒達は大爆笑だった。

 

 

それから次々と生徒に順番が回っていく。蜘蛛やコブラなどの姿に変える。全員がそれらを滑稽な姿に見事に変えていく。

 

 

そしてウィルの順番となった。ゆらゆらと揺れているピエロはすぐにぐるぐると渦巻くようにウィルの恐怖となり得る存在へと変身していく。

 

ボロボロなツギハギだらけの黄ばんだ麻の服を着ている人間だ。生気のない両方の眼はウィルをジッと捉える。彼は折れた黒い杖を持ちただ立っていた。

 

 

それが誰なのかはすぐにわかった。

ウィル(・・・)だ。彼の恐怖は実に意外だった

正確には杖の折れたボロボロの自分

 

 

 

「“リディクラス(馬鹿馬鹿しい)”。」

 

するとボロボロのウィルはレオタードを身につけた姿に変わり、地面から生えた鉄の棒を使ってポールダンスをしている。とても生き生きとしたキメ顔でキレキレのダンスをしている。股間はもっこりとしており生徒達は爆笑の渦に包まれた。中には腹を抱えて笑う人もいる。

 

そしてウィルはその場を離れるとハリーの順番となった。すると突然ルーピンは顔色を変えて割り込む。

 

するとそれは吸魂鬼の姿に変わる。だがルーピンが間に入った事でそれは満月のような姿に変わる。

 

彼はそれに呪文を唱えるとボガートは風船が破裂したかのように音を立てながら飛び交う。そしてそのままタンスに入ると彼は鍵を閉めて授業の終わりを告げた。

 

 

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