灰色の獅子【完結】 続編連載中 作:えのき
数ヶ月後
ウィルはルーナを見つけても声をかけないが、ルーナはウィルを見つけた上で気が向いた時に声をかけるという奇妙な関係は続いていた。
相変わらず彼女の言う生物は知らないままで図書館でも成果はあげられない。だから諦めてルーナから教わることにした。しかし彼女は常にふわふわとしており会話はなかなか成立しなかった。
それを見かけた時、不満を抱いたのは2人だった。弟のドラコとかつての友人のハーマイオニーだ。
ドラコは単純に構って欲しいだけなのに対して、ハーマイオニーはルーナに小さな嫉妬とウィルへは意地をもってこちらからは歩み寄らないつもりだった。
彼女は目を背けようとしても目に入ってしまう。ウィルは容姿と雰囲気で目立ち、ルーナは奇行で目立つ。つまりそこにいれば自然と発見してしまう。
そしてそのイライラを処理するのはハリーとロンだった。ハリーは相変わらずどうしていいのか分からず、ロンは去年の出来事で少しは見直したつもりだったのにマルフォイ家として遂に本性を現したのだと思った。
正直言って
くれぐれも内密にという理由で去年の終わりからウィルが急激に変化して今に至ると話した。彼がハーマイオニーへの侮辱を聞いた時は大層驚いた。それでもウィルの行動の意味は分からなかった。
しかしルーナがウィルになぜ構うのか、それはなんとなくわかっていた。実はジニーとルーナは友達だからだ。
たしかにルーナは変わっており会話は通じない。意味のわからない言動もする。でも彼女はとても優しく、そして観察眼がずば抜けて優れているのを知っている。誰からも理解されず孤独だった自分と今のウィルを重ねているのではないかと考えていた。もちろんそれが正しいかはわからない、それがルーナという不思議な女の子だ。
ジニーはそれを包み隠さずハーマイオニーに伝えた。
***
だがそれ以降、しばらくは特になにも起きなかった。そして今日で今学期も終わりを告げようとした頃、とんでもないニュースが迷い込んできた。“シリウス・ブラック”が捕まったようだ。どうやら城のどこかに監禁されているらしい。ようやくホグワーツに安寧がもたらされ生徒たちの表情は明るい。
だが校庭を一人でゆっくり歩いているウィルの表情はとても重い。未だに彼は守護霊の習得に至らなかった。それを後回しにしてスネイプの元で次々と新たな魔法を得たが、守護霊においてはとにかく迷走していた。
そしてある日を境にだんだんとスネイプは苛立ちを隠せないようになった。彼はおそらく自分の不甲斐なさが原因だと考えたが他にあるらしい。
「形はできてる。あとはお前の問題だ。我輩はお前のカウンセラーではない。自分でなんとかしたまえ。」
今日は先生が忙しいのか、ただ一言で終わりを告げられる。ウィルは教えを乞う身なので特に不満もなく、ただ何も考えず散歩をする事にした。最終日くらい何も縛られずに過ごしてみたかったのだ。
彼が湖のほとりに着いた時、見慣れた顔が見えた。ルーナだ。途中から彼女を拒もうと何度も試したが、のらりくらりと躱された。彼女を思い通りに動かすのは無理だと判断して追い払うのを諦めた。
彼女はぼーっと水平線を眺めている。ウィルは珍しく自分から声をかけてみた。
「やぁルーナ。」
「はぁーい。」
ルーナは水平線から目を離す事なくウィルに返事を返す。ウィルは彼女に習ってただ無言で水平線を眺めることにした。
しばらくの沈黙の後に彼は他愛のない質問をしてみる。
「なぁルーナ、君にとって幸せってなんだと思う?」
ふと彼女に聞いてみたくなった。守護霊を出すためのヒントを得る為だ。
「ん、水平線から“ブリバリング・ハムディンガー”が来るのを待ってるの。 」
「今、やりたい事か。君は自由だな。」
ウィルは笑ってみせた。ここには2人しかいないということ、そしていつからか彼女とのお喋りが学校で唯一の安らぎのように感じていた。この一年間で友と言えるような関係を築いたのは彼女だけだ。あとはずっと魔法の事しか考えてない。
ウィルは近くの岩に腰をかけて大きく深呼吸をする。
「ルーナ、俺は幸福な感情がなにも浮かばないんだ。もう何が何だか、あまりにも護りたいものが多過ぎてね。」
ルーナは聞いているか、聞いてないのかわからない表情で水平線を眺めている。ウィルはどちらでもいいので彼女に自分の感情をただぶつけたくなった。
「たとえ全てを守ったとしても俺自身が満たされる保証はない。その上で自分のやりたい事もわからない。」
「やりたいことって?」
どうやら話は聞いてくれていたみたいだ。彼はすぐに答える。幸せについて考える過程で気持ちを整理する時間はあった。
「まぁ色々あるが、一番は魔法界を
建前としてこう言ったが、ウィルの秘められた野望にも通じる最大の原動力だ。それを成すには力がいる、誰よりも強い力だ。
「ウィルって窮屈だね。」
「君が自由過ぎるんだよ。」
やはりいつものように煙に巻かれたようだけだった。少し前までは振り回されるのに苛立ちや不満を抱いていたが、今ではそれが彼女の魅力なのだと思うようになった。
「
自分とは一番かけ離れた言葉だ。その言葉はウィルの頭の中で一筋の光となった。それに照らされた複雑な道が一本に通じるのを彼は感じた。
ボガートの恐怖の対象が弱い自分だったということ、そして自分が本当に幸せだと思う事を理解したのだ。
「わかるわけがない、こんなの
ウィルはそういうと一目散に走りだした。彼の目的地はスネイプの部屋ではなくルーピンの部屋だった。
彼が到着して部屋を覗き込むと荷造りの最中のようだった。棚から机まで空っぽになっている。
「おっとウィルか。察したかも知れないが私は辞めるんだ。」
ウィルはその言葉に驚きを隠せない様子だった。そしてなぜか悔しそうな顔をする。理由を見抜いていたからだ。
「まぁ悪い事には慣れてる。」
「私は
ウィルのその言葉にルーピンは驚いた様子だった。
「おっと君も気づいていたのかい?ところで何の用かな?」
自分の他にルーピンの正体を見抜いた人がいたのも気になりつつ、彼は早く正体を確かめたかった。
「“ボガート”に会わせてくれませんか?」
「悪いね、僕はもう先生じゃないから」
ルーピンはそう言って断るもニヤリと笑みを浮かべる。まるで子供のようだ。
「でもたまたま鍵が開いていて、中からボガートが出てくることもあるだろう。」
ルーピンは杖を振るって鍵を開けると、中から黒い杖の折れたボロボロの自分自身が現れる。ウィルはそれを見て急に笑い出した。ルーピンは彼が気でも狂ったのかと心配する。
その様子にボガートは激しく動揺し始めた。恐怖の対象となる存在に化けたのに目の前の若き魔法使いは笑いだしたのだ。まるでそれが幸福であるかのように。
「“エクスペクト・パトローナム”」
ウィルは杖を取り出してそう呟いた。すると杖の先に神秘的な銀色の光が灯り、そしてその光は実に美しい巨大な狼の姿となる。
さらさらとした立派な毛並みをもち、凛として堂々とした立ち振舞いからは王者の風格を思わせる。そしてその狼はウィルの指示に従ってボガートへ駆ける。恐怖を糧とするボガートは幸福のエネルギーに耐えることができず、タンスの中へ逃げ込んだ。
「驚いたよ。ずっと君の恐怖について気になってた。言いたくないのなら大丈夫だが、理由を教えてくれないか?」
ウィルはとても幸福な気持ちだった。人生において今まで越えることのできなかって壁を飛び越えた気分だ。頭の中からアドレナリンが大量に放出されているのがわかるくらい気持ちが高ぶっている。
「あの姿は過去の
「ほう、つまり?」
ルーピンは興味津々とした様子でウィルの解説を聞き始める。
「あ〜、僕は
ウィルとドラコは双子のように思われているが、実は違う。今まで互いの事を兄、弟と言っていたが、双子とは言ってない。だからルシウスの妻であるナルシッサはウィルより実の息子のドラコを可愛がっている。
そしてボガートの持つ折れていた黒い杖はナルシッサのものではなく本当の母親のものだ。実際ウィルの杖は茶色のアカシアの木の素材でできてる。
「つまりマルフォイ氏と出会わなかった世界の君というわけだね?」
「えぇ僕は恵まれてた。彼は教育の機会を与えてくれたんです。だから今の僕がある。」
彼は次期当主として迎え入れてくれたルシウスに多大なる恩を感じている。教育という点に関して彼は実の息子のドラコと差別はしなかった。あくまでも自分は
「さっき君は矛盾だと言ったね?もしかして守護霊を呼び出すための幸福は・・・。」
ルーピンは再び疑問をぶつける。
「えぇ、なにも持たない孤児院の僕。つまり自由、幸福の答えは
折れた杖は魔法が使えないという事を暗示しており、つまりルシウスに拾われず教育を受けないという事と思われる。
「それが幸せです。」
ルーピンは少し迷ったような表情を浮かべつつも口を開く。
「君は数多くの重荷を背負うとマクゴガナル先生から伺ったが、その事かな?」
「えぇ、全てを放棄してしまえば楽にはなります。でも正解を知りながらそれを正さないのは
彼がそういうとルーピンは満足したのか荷物をまとめ始めるとお別れの言葉を述べて出て行った。そしてウィルは小さく深呼吸すると部屋を後にする。
誰もいないその部屋で再びタンスがゆっくりと音を立てながら開く。中から出てきたのは小太りの
孵化と羽化の“孵化編”は終了です(原作はアズカバン)。“羽化編”(ゴブレット)が終わり次第解説を投稿しますので暫しお待ちを。
ちなみに一章から出てますが、傲慢と矛盾。これは大事なことです
まだ不明点は多いですが、次の章で・・・
ウィルの幸せと恐怖、養子だったことについて
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予想内だった
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予想外だった
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ちまちませずに早く続き教えろ
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解説よこせ