灰色の獅子【完結】 続編連載中   作:えのき

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パートナー

 

 

 

 

 

 

ウィルはスネイプの部屋を後にしてからフラフラと歩く。なぜか今は凄く見られている気がしてならない。いつもなら目を背けられ道を開けられるはずなのに。

 

 

彼は自分の部屋に戻る途中で後ろからリズムに乗った足音が聞こえてくる。ルーナだ。

 

「はぁーい、ウィル。誘わないの?」

 

「やぁルーナ。ダンスパーティーの事だな?俺はいい。」

 

ウィルは興味なさそうに返事をするがルーナはスキップをやめて静止する。そして少しの沈黙と共に口を開く。

 

「骨は拾ってあげるね。」

 

「ん、なぜ断られる前提なんだ?」

 

ルーナの言葉にウィルは首をかしげる。そしてすぐに自分の行動にも疑問を抱く。参加しないつもりだったのに、自分が断られる理由の方が気になった。

 

「だって彼女から見たウィルの良い部分って顔だけだから。」

 

ウィルはその言葉を聞いてようやく理解する。やはりこの子には素晴らしい才能があると思った。この1年、彼女の性格だけでなく能力にも助けられてきた。だがそろそろ自分一人で立つ時だろう。

 

「そうか、一つでもあるのならまだマシだな。」

 

いつもありがとう、彼はそういうとその場から立ち去った。行くべき場所はただ一つ。

 

 

ずっと避けていた場所であり、学内で最も過ごしたところだ。もう本に用はないと自分に言い聞かせていたが本当は違う。

 

彼女がいるからだ。

 

 

思い出の場所に彼女が目の前にいたら自分はすぐに声をかけてしまうだろう。だからそれだけはできなかった。

 

信頼してくれていた彼女を冷たく突き放した自分を彼女はどう思っているのだろう。いつしか気まずい友人から他人になった関係でもウィルは決して彼女の事を忘れなかった。だが向こうがそうとは限らない。

 

不安と興奮を胸に抱いて彼は進む、この自分の決断が自然とできたということはそういうことだろう。

 

 

 

 

もう今の自分はどんな障害からも彼女を護れる力を手に入れたということだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は図書館の入り口に入った。そして軽く全体を見回すように視線をやる。するとすぐに彼女を見つけ、わずかに心踊る。積み上げられた本に囲まれている。見覚えのある表紙を持っており、それが呪文集であると理解する

 

自然と足が彼女に向いてゆっくりと歩いていく。しかし近づけば近づくほど足に重りが課せられたように錯覚する。今日は疲れているから出直そうとも思った、でもこのままではダメだ。1日でも早く謝りたかった、そして昔のように知識を語り合いたい。その意思を強く持ち彼はようやく机を挟み、目の前につく

 

 

ハーマイオニー・グレンジャーに声をかけようとした時、彼は声が出てこない。喉の調子がおかしいのではない、どう話しかけたらいいのかがわからなかった。謝罪から入るべきか、世間話がいいのか、それとも何事もなかったように?

 

 

彼が呆然と立ち尽くしていると目の前の生徒は迷惑そうに溜息をついて口を開く。

 

 

マルフォイ(・・・・・)が私に何の用?」

 

まるで勉強の邪魔をしに来た他人を追い払うような口調だ。

 

「あ〜、その・・・」

 

想定した範囲内の反応だ。しかし傷ついていい立場にないのは重々承知しつつも思いのほか強い衝撃に彼はあたふたする。

 

彼は軽いパニックになった。頭の中に浮かんだプランが全て崩れていった。ウィルの揺れ動く視線が本を捉える。

 

「な、なに読んでるんだ?」

 

「本よ。」

 

「うん、間違いない。」

 

ウィルの新たなプランは失敗に終わった

 

「目障りよ。」

 

「そうだな。」

 

ハーマイオニーの言葉にウィルは肯定しかできなかった。しかし立ち尽くす彼に苛立ちを覚えたのか、彼女は本に杖を振るう。すると魔法で元々あった所へ本たちが浮いて戻っていく。

 

ハーマイオニーは自分の椅子をさっと引いてそのまま早歩きで立ち去る。あまりに素早く冷徹な様子に彼は何もできない。

 

そして彼女が扉から出ていった時にウィルは冷静になる。こんな無様な姿を晒すつもりはなかった。

 

彼は初めて図書館の中で走った。司書のマダム・ピンズの怒鳴り声が部屋中に響くも、彼の耳には響かない。

 

外へ出て止まり彼女の姿は見渡すも、姿はない。彼は寮の道とは反対に走り出す。彼女の考える事を可能な限り読んだからだ。聡明な彼女なら追いかけられるかもしれない寮へ逃げ帰る事より何処かに隠れて熱りが冷めるのを待って戻る事を選ぶと思った。

 

 

ウィルは走って角を曲がると遠くに見えるのは彼女の背中だ。

 

「待ってくれ!」

 

彼の声にハーマイオニーは無視して進む

 

「お願いだ!俺をどうか許してほしい!」

 

ウィルは走りながらそう叫んだ。それでもなお彼女は止まらない。もう彼に計画はなかった。どうしたら許してもらえるのかではなく、もっと早く何よりも最初に言うべき言葉だった

 

「ハーマイオニー!本当に申し訳なかった!」

 

 

ウィルのその言葉にハーマイオニーは遂に足を止めた。そして彼女は勢いよく振り返ると、これまで彼が見たことがないほど瞳に怒りを映している。そして走ってこちらに向かってくる。

 

ウィルは殴られるのだと思って身構え目を瞑る。しかしそれは殴られる以上の衝撃を全身に感じた。そしてすぐに自分の腰が両手でギュッと締めつけられる。

 

「ウィル、貴方は大馬鹿ものよ!なんでまた1人で背負おうとするのよ!」

 

ウィルを力強く抱きしめた彼女はまるで子供のようにわんわんと泣いた。

 

 

彼女は初めからウィルの事を許していた。彼の家の事情を察してそれが自分を守る為の行動であると気がついていた。

 

彼女は痛くなんかなかった、本当に辛いのはウィルの方だと知っていたからだ。だから許せなかった、勝手に背負って勝手に孤独になった彼を。ほんの少しでも自分に背負わせてくれれば彼と友達でい続けられただろう

 

ハーマイオニーが唯一欲しかったのはウィルの自分の行動が間違っていたという反省、ただそれだけだった。

 

 

 

彼はハーマイオニーの様子を前に段々と彼女との思い出が湧きあがる。そして顔を思い切り歪めた。そして彼の両方の瞳から大粒の涙が垂れて地面に落ちる。

 

2人は今までの辛さを吐き出すように泣き続けた。時間のことなんか気にかける余裕などない、ただ気がすむまで泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人は泣きやんで鼻をすする音だけが廊下に響いていた時、ウィルは口を開いた。

 

「なぁハーマイオニー、僕とダンスパーティーに行ってくれないか?」

 

彼女は真っ赤に腫れた目を見開いて驚いている。そしてすぐに申し訳なさそうな顔をした

 

「あの・・・本当にごめんなさい。実はもう他の人に誘われて、イエスと返事をしてしまったの。」

 

ウィルはその言葉につい笑みがこぼれた、やっぱりルーナの言う通りになった。あの子には敵わないと思ったのだ。

 

 

しばらくしてハーマイオニーとウィルは一緒にグリフィンドールの寮へ戻った。今までずっと話したかった知識を語り合い、互いの見解を述べて議論を交わした。一年間も溜まっている、だが時間はまだ沢山あるから大丈夫だろう。

 

2人がグリフィンドール寮の入り口に近づくとルーナが階段の手すりに腰をかけて、いつものようにクィブラーを逆さまにして読んでいる。

 

「良かったね、2人は仲良しの方がいいモン」

 

表情一つ変えずルーナはそう言った。もはや預言者のようだとウィルは思った。しかし、どこまで見抜いているのか怖くもなる。

 

先に帰っててくれと、ウィルがハーマイオニーに頼んだ。

 

「そう、じゃまたね。」

 

その言葉にウィルは心がじんわりと温まるように感じた。彼女の背中を見送ると彼はルーナにお礼を言った。

 

 

「んんっ!」

 

「ん?」

 

ルーナは突然、かしこまったように咳払いをする。ルーナはまるでウィルをエスコートするというようにダンスのポーズをとる。手を伸ばしてもう一つの手を腰に回しているようなジェスチャーだ。

 

「ウィリアム・マルフォイ、私とダンスパーティーに・・・」

 

「ちょっと待ってくれ。それは違う。」

 

しかしウィルは口を挟む。彼女のいう骨は拾うという意味をようやく理解したからだ。

 

そして彼は無邪気に笑うとルーナの空気の腰に回した手を優しく掴み、ウィルは腰を下ろしてひざまづく。

 

「ルーナ・ラブグッド、僕と共にダンスパーティーへ行きませんか?」

 

「うん、いいよ。」

 

ルーナはスッと返事をする。あまりにも呆気なくウィルのパートナーが決まった。彼女はナーグル避けの衣装にしなきゃと言うとスキップでその場を去る。

 

 

ルーナの後ろを見ていたウィルは彼女のスキップがぎこちない事に触れないでおいた。なぜかそれがとても可愛らしく見えた。

 


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