灰色の獅子【完結】 続編連載中   作:えのき

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野望

「僕を止められますか?先生。」

 

ウィルはスネイプに言った。油断や傲慢ではなく自分の実力の方が上だと理解しているからだ。つまりこれは余裕だ。

 

「・・・止める(・・・)だけか?お前を封じる方法は。」

 

「殺す、閉じ込める、魔力や人格または意志を奪う。そして説得。」

 

ウィルはさらさらとそう述べる。彼の意見に同意したらしい。

 

「こんなものですか。」

 

「それを探るのがこの部屋というわけか。」

 

スネイプは燃え盛る実験場の僅かな痕跡を見逃さず、ウィルが何を求めていたのかを見抜いてみせた。

 

「えぇ、習得しました。あとは不老不死。しかしそれだけは兆しすら・・・」

 

ウィルは“禁じられた森”でユニコーンを攫って実験を行なっていた。その血は死にかけた存在であっても蘇ることができる。しかし“生きながらの死”という呪いにかかってしまう。だから彼は血液から呪いを取り除けばいいという発想をもって“不老不死”の可能性を探るつもりだった。

 

また彼は遠くからこちらに無数の足音が響いているのに気がついた。するとスネイプはにやりと笑う。

 

「おっと、それが狙いでしたか。」

 

スネイプの目的は時間稼ぎだった。彼は師である自分の言葉を無視してまで、この場を素早く切り抜けようとは思わないと考えた。

 

やがて広場に次々と教師陣がやってくる。ダンブルドア、マクゴナガル、フリットウィックなどだ。他にも闇祓いや魔法省の役人などもいる。彼らはウィルの背後で燃え盛るなにかに呆気にとられる。

 

「“フィニート(止まれ)”!」

 

闇祓いの一人がそう唱えたが炎は勢いを増すばかりだ。ダンブルドアはそれをジッと睨みつけ口を開く。

 

「ただの炎ではない、“闇の魔法”じゃ。」

 

マクゴナガルは一歩ウィルの前に踏み出す。手に杖を持つことはなく、普段通りの凛とした立ち振る舞いだ。

 

「ウィル、質問に答えなさい。これは貴方の仕業ですか?」

 

闇の魔術は必ず痕跡を残す。彼女は専門家ではないとはいえ、これらがなんなのかおおよそ理解できた。

 

「えぇもちろん。」

 

ウィルがそれを認めると呪文学のフリットウィックはキーキーと叫ぶように口を開く

 

「不可能だ、いつ君にそんな時間があった!?」

 

彼の言葉に笑みを浮かべると彼はポケットから金の装飾のされた小物を取り出して、見せつける。

 

それには金色の金具が繋げられネックレスのようで、中心には砂時計のようなデザインがされている。

 

これは“逆転時計(タイムターナー)”、時間を巻き戻す事ができるマジックアイテムだ。これはマクゴナガルが魔法省に数多くの書類を提出して、ようやく貸し出された危険な道具だ

 

「もうこれは必要ない。」

 

ウィルはそういうと背後の燃え盛る実験の成果と同様に燃やした。もはや彼は杖すら振るうことしなかった。

 

「人目につかない夜中に逆転時計を使用して“秘密の部屋”で実験を進めていたのかね?」

 

ダンブルドアは謎をすぐに解明した。逆転時計はあくまでも“時を戻す”だけ、過去の自分も存在している。だからそれを誰かに見られてたり、過去の人々と関わると未来が大きく変化してしまう可能性があった。

 

「えぇ、しかしもう充分だ。」

 

彼は素直に認める。

 

「もうホグワーツで学ぶ事はなに1つない。校長先生、貴方の教えくらいです。」

 

ウィルはこの2年間においてはスネイプの個人授業だけでなく、マクゴナガルやフリットウィック、スプラウトなどホグワーツで教鞭をとる程の賢者達の教えを受けていた。それも全て彼の重荷を少しでも軽くする為の手助けだった。

 

しかしこの若き天才は利用したのだ。長年の創意工夫と試行錯誤の手間を省き、最大限の成果だけを盗みとった。実に効率的だ。

 

 

「君はこれらを完成させてどうするつもりだった?」

 

ダンブルドアは冷静に彼の真意を探る

 

「使うべき時が来たら、ですね。ただ少なくとも今、その時ではありません。」

 

彼は言葉を濁す

 

「その時とはヴォルデモートが復活した時に備える為かね?」

 

ウィルはその言葉を耳にすると目を見開いた。そして少しの沈黙の後に己の真意を語り始める。長年隠し続けてきた目的だ。

 

「これは僕の野望のためです。」

 

「君の望みとは?」

 

「先生、大義ですよ。」

 

その言葉にウィルは再びニヤリと魅力的に笑う。心の底からそれが本当に正しい事だと信じてやまないという表情だ。

 

ただでさえ魅力的な彼が意気揚々としている様は見ていてなぜか心地よかった。だがそれが平穏なものではないと誰もが思い直す

 

 

「支配とは愚かなものじゃ。」

 

「僕は支配する気はありません、ただこの世は整える必要がある。」

 

【この世を整える】、それが彼の1番の野望だ。幼き頃からずっと抱き続けた大きな目標である。孤児という弱者で産まれ、貴族という強者で育った彼にしか見出せないだろう

 

「なぜそう思う?」

 

「貧困、不公平、制度など。整えるべき存在は幾つかありますが・・・」

 

ウィルはまるで演説のように語り始める。彼は自分の思う野望が正しいと信じてやまない、だから理解されない人々に語る事でわかりあえるだろうと考えた。

 

「一番必要なのは価値観です。例えば、魔法界が純血主義と共存主義で分断されていることです。」

 

ウィルはそう述べた。しかし価値観の侵害は彼にとって悪しき行動のはずだろう。

 

 

「それは傲慢じゃ。君の言葉を借りるなら」

 

「えぇ僕もそう思います。しかし誰かがやらなければ溝は深まるばかり、親が子へ、子が子へとどんどん根は深くなる。」

 

ウィルは自分の行動が己の嫌悪するものだとしても、それが正しい為になされるのならばやむを得ないと考えている。

 

もちろん自分だけは特別というわけではなく、自分は傲慢な性格だと思っている。だがそれを世のために正すべきではないという矛盾した思想を持つ。

 

「しかし僕にはどちらの思想がより正しいかまだ判断できない。」

 

ウィルはまだ魔法界の全てを知らない。より良い選択を選ぶ為ならば、世界を知る努力は惜しまないつもりだ。

 

「僕は過激な“純血主義”は悪しき思想だと思う。しかしそれは段階があり、僕を含めマグルを排他的にすべきとは思わない層もいるのです。」

 

己が純血主義であることをほのめかす。

 

「貴方に問いたい。なぜ我々はマグルとの共存を選びながら、マグルに我々との共存を選ばせようとしない?」

 

ウィルはそれが不公平だと指摘する。魔法界は干渉しないというルールで自分達を縛り、マグル達はそもそも共存するかしないかを選択する自由がない。

 

「このままでは魔法族は不公平に隠れたままだ。だがいつか“死喰い人”や不満を持つ誰かがマグルに正体を見せて暴れれば、そして戦争となるでしょう。」

 

自分が不満に思っているからこその発想だ。いつ“死喰い人”のように過激な組織が構築されるかはわからない。だから危険なのだと主張する。

 

「我々は負けます。それを避けるためには強いリーダーがいる。」

 

「それがヴォルデモートだと!?」

 

「えぇ。」

 

ウィルはそう答えた。その言葉に教師達だけでなく闇祓いや役人達は激しく反発する

 

「正気か!?奴の時代を知らないわけではあるまい!」

 

「悪しき道だが魔法族(我々)は生き残る。」

 

それが彼が必要と主張する“価値観の統一”の最大の理由である。ようは戦争の最中に身内で争う事だけは避けたいのだ。

 

純血主義にはヴォルデモートという指導者がいる。だから魔法界を純血主義に統一させるために数多くの魔法族の血が流れるとしても、彼は魔法族の存続する方に価値があると考える

 

 

「もちろん共存の道を見つけられたのなら互いにメリットを供給できる。マグルの手に余る環境問題を解決でき、我らは文明を享受できる。」

 

それが一番平和で望ましい道だと思う。しかしこれが難しい。魔法界の価値観が統一されていないからだ。どちらかと言えば勢力の多い共存主義は純血主義を毛嫌いしておきながらも、彼らを排斥しようとしない。それは大きな問題であり、戦争の火種となり得る。

 

「つまり何を優先するかであり、僕は常に最悪を想定してる。この世がこれからどう動くかそれはわからない。」

 

ウィルはダンブルドアのように全てを見通す眼はない。ハーマイオニーのように簡単により正しい答えを見つけるほど聡明ではない。自分にあるのは己が得た稀有な経験からくる可能性に対して貪欲に正しい選択肢に悩み続ける事だ。

 

「少なくとも力がなくては何もできない。」

 

「少なくともお主の行為は罪に問われる。」

 

ダンブルドアは杖を抜いてウィルに向ける。すると彼は愉快そうに笑った。

 

「縛れますか?この僕を。一度試してみたかった。僕の器が貴方を超えたのかどうかを」

 

ウィルはそう言うと全身から爆発的に吹き溢れるような魔力を解き放つ。思わず身構えて後ずさりしてしまうほどの圧力があった。比べるまでもなく彼が2年前に見せた本気の魔力より強力になっている。

 

ウィルの荒々しい魔力とは比べてダンブルドアはとても穏やかな魔力だ。思わず暖かくなるような優しい太陽のようである。

 

2人は自分の得意とする魔法を選ぶ。互いに自分の膨大な魔力の一部を凝縮し、杖を媒介させ、呪文にのせて放つ。

 

互いの威力はほぼ互角のようだ。相手を討ち取ろうとする閃光は互いを牽制しながらぶつかる。通常の魔法使いの決闘はバチバチと火花が飛び散る程度だが2人の攻防はまるで小さな雷鳴が無数に轟いているようだ。

 

そして閃光は互いを打ち消しあうと宙へ消えた。するとウィルは意外そうな顔をする。

 

「加減しているのですか?その甘さが命取りとなりますよ。」

 

彼は興が冷めたと言わんばかりの表情だ。せっかく偉大なる魔法使いと戦う機会なのに加減をされたのでは無意味だ。

 

その隙を見逃さず闇祓いの1人がウィルに対して“拘束呪文”を命中させる。全身にきつくロープが巻きつき動けなくなる。そして彼は不意をつかれたのか杖を落としてしまう。それを役人が“引き寄せ呪文”で杖を掴んだ。

 

「これは想定外かね?」

 

魔法省の職員で一番立場が上だと思われる男はそう言った。しかしウィルは余裕そうだ。

 

「やがて貴方達がそう思う時が来ますよ。」

 

ウィルは不敵な笑みを浮かべる。するとダンブルドアはウィルの眼を見て真剣な表情で口を開いた。

 

「ウィリアム・マルフォイ、お主を退学処分とする。そして魔法省へと引き渡す。」

 

マクゴナガルはただ下を俯いて頭を左右に振るしかなかった。

 

 

 





わかりにくいので、この章が終わり次第解説を投稿します。次でエピローグです
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