灰色の獅子【完結】 続編連載中   作:えのき

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自分の価値

 

 

 

 

ウィルが激怒している理由は想像つく。彼は犯罪者としてイギリスの闇祓いに追われている。それなのに彼はやってきた。ハーマイオニーが助けを求めても現れなかったのにだ。つまり彼を呼び出したのはダンブルドアなのだと理解した。

 

2人の黒い魔法使いの圧力に流石のダンブルドアも気圧されているように見えた。先ほどの頼もしさとは打って変わり、ハリーはダンブルドアの加勢をしなければならないと思った。

 

「まぁいい。勝手に殺しあえ。」

 

ウィルはそういうと2人に背を向けて歩き始めた。ダンブルドアを恐れたわけではない、単純に他にすべき事があった。

 

ヴォルデモートはにやりと残忍に笑い、背中を向けたウィルに呪いを放った。それをウィルは振り返る事なく背中に盾の呪文を張ってバリアする。

 

「久しぶりの再会だ。少しは遊んでいけ。」

 

ヴォルデモートは恐ろしくも笑顔だ。自分が認めた小さな才能が数年の時を経てどれだけ成長したのか興味があった。

 

 

そう言う(・・・・)と思ったよ、だがトム。僕も気になってた。君とどれだけ差を縮められたのか。」

 

ウィルはそういうとゆっくり振り返って杖をダンブルドアとヴォルデモートの中間に向ける。どちらの攻撃にも対応できるようにだ。

 

3人はほぼ同時に魔法を放った。ほんの小手調べだったのだろう。三方向から放たれた閃光は一つにぶつかると激しく輝き、そして稲妻が目の前に落ちたかのような音と衝撃を放つ。地面は大きくえぐられたように削れ、レンガが周囲に弾け飛んだ。彼らの足元をゆうに超えてレンガは無くなった。

 

あまりの破壊力に土煙は激しく舞いあがる。3人の中心を覆い尽くすように灰色のカーテンが広がっていくようだ。そしてそれが晴れないうちにウィルは口を開く

 

 

「ダンブルドア、貴方に聞きたい。この世は多様性、マグルを認めよというのなら“闇の帝王の存在”も認めるべきだ。そしてマグルの方も我らを尊重するのがフェア(・・・)です。」

 

彼は対等を重んじる性格だから不当な差別や不公平を毛嫌いしている。だがかなり極端のようにも感じる。

 

「“穢れた血”からの尊重など不要だ。」

 

ヴォルデモートは言い捨てた。

 

「悲しきかな、我ら3人は思想は相容れぬようじゃ。」

 

ダンブルドアは真剣な表情で答えた。まるで悲しんでいるようではなく、ただ言葉にしただけのように思われる。

 

すると測り終えたように煙が晴れて互いの姿を確認できるようになる。

 

先手を打ったのはウィルだった、他の2人に比べて自分が劣っていると認識してるからこその先制だ。より強力な魔法を放つ為の布石として最も素早く2人へ攻撃する必要がある。

 

「“オパグノ(襲え)”!」

 

彼は地面に散らばった無数のレンガとその欠片へ魔法をかけた。そして2人へと襲いかかる。だが彼らはひるむ事なく防いだ。

 

2人のやり方は対照的だった。トムは迫り来るレンガの全てを撃ち落とし、ダンブルドアは盾の呪文で防ぎきる。

 

「“フィエンド・ファイア(悪霊の炎)”。」

 

ウィルの杖先から炎が溢れ出る。彼の最も強力な武器の1つだ。大きな腹を持つ巨大な二足歩行の象が吠えた。咆哮の衝撃は強く、離れていたハリーは後ずさりをしてしまう。かつて見た彼のそれより巨大になっている。

 

ヴォルデモートは小さく笑うとウィルと同じ炎を呼び出した。黒い炎の中からスルリと現れ、上からウィルのヘビーモスを見下ろす。ハリーは見た事がある、秘密の部屋で戦ったバジリスクだ。だが本物よりも荒々しく恐ろしいように思われる。

 

2つの怪物は主人の命令で距離を詰めて戦い始める。互いの急所を狙い絡み合う。バジリスクはヘビーモスの身体を締め付け、喉元へと噛み付こうとする。だが巨大な拳で殴られひるむ。すぐに立ち直ると腕へスルリと巻きついて締めあげた。

 

 

ダンブルドアは杖先に強力な魔力を込めて振るう。すると巨大な水が現れて2匹の怪物を覆い尽くす。そして消火されるようにサッと消えた。

 

 

2匹の怪物が去ると同時に地面が赤く輝いた。いつの間に床に空いた大きな穴が綺麗に治っているではないか。

 

ダンブルドアとヴォルデモートの足元の地面にのみ複数の魔法陣が並んでいる。ウィルはにやりと笑う。

 

 

彼はここにダンブルドアがやってきて戦闘になるだろうと想定していた。だから彼は事前に(・・・)あちこちに魔法陣を編んでいたのである。

 

ウィルは悪霊の炎を発動させ操っていた時、空いた手で地面に“レパロ(・・・)”の呪文を使った。人の視線が怪物の取っ組み合いに注がれるのを利用したのだ。

 

()ぜな。」

 

ウィルは指をパチンと鳴らすと地面から燃え盛るように激しく爆発する。再びレンガが勢いよく吹き飛ぶ。巨大な粉塵が広がり、3人の姿を隠す。

 

 

ハリーはようやくウィルの戦闘スタイルを理解した。これは時間稼ぎだ。

 

策という策を練り、そして入念な準備を得て戦闘に繋げる。より効果的に戦闘を進めるには自分の土俵に引き込む事が重要だ。

 

ただし必要なのは時間(・・)である。効率的な技を見つける時間、習得する時間、そしてそれを戦闘中に仕込む時間である。

 

だからこそ彼は策を生むための策がいる。先手を取って不意打ち、そして策に策を重ねて自分の得意な戦法に持ち込む。

 

 

 

 

 

2人の対応はやはり違う。ダンブルドアは発動する瞬間に杖を振るってみせた。これが呪文ではないからこそ“フィニート(終了呪文)”は効かない。だから魔法陣そのものを改造してみせた。不発するようにだ。

 

それもそうだ。ウィルの得た知識の多くはホグワーツで得た。そして図書館の蔵書を彼が見ていない保証などない。

 

 

しかしヴォルデモートは爆発に巻き込まれてしまう。その土煙はゆっくりとダンブルドア、そしてウィルも包み込む。

 

「流石じゃの。君の練られた無数の策は儂らの経験と並ぶ域に到達しておる。」

 

ダンブルドアは無傷で煙の向こうでウィルに語りかける。

 

「小賢しいだけよ。」

 

ヴォルデモートの声も響く。彼は自分の周りの魔力を暴発させて全てを弾き飛ばしたのである。2人へ一切のダメージはない。

 

「全ては陽動(・・)、これを仕込む為の布石(・・)。」

 

しばらくして煙が晴れるとハリーは目を疑った。地面に足をつけ立ち上がっているのはウィルだけだったのである。まるでダンブルドアとヴォルデモートがウィルにひざまずいているようだった。

 

「ありえない・・・。」

 

ハリーは唖然とした。ほんの自分と同じ年齢の魔法使いが、この世のありとあらゆる魔法使い、魔女達の頂点に立つであろう2人を制圧している。

 

そして2人は赤褐色の蔓のような植物に絡みつかれて身動きが取れないようだ。茎に長い棘が生えている。

 

 

「あれは“毒触手蔓”。」

 

ハリーはその植物を知っていた。ホグワーツでの植物学で習った。魔法植物で通りかかった者は背後から掴まれる事もある。

 

2人は棘から注入された毒で身体がビリビリと痺れでいくのを理解した。

 

「本来ならば、さほど強くない毒だ。だが少々品種改良して(いじくって)ある。」

 

ウィルは3、4年生の時にホグワーツの教師陣から手ほどきを受けていた。もちろん植物学のスプラウト、そして魔法薬学のスネイプからも知恵を授かっている。植物の品種改良など容易い。

 

効果的なのは魔法植物を戦闘の道具として使用する点だ。そもそも想定外であるということ、そして植物そのものに魔力が含まれていないために探知が難しい。

 

そしてローブの中から懐中時計をチラリと見て確認をする。ウィルは杖を振るって植物を灰のように燃やした。

 

「貴方方ではこの程度ではすぐに抜け出せるでしょう。」

 

2人はウィルの実力を過小評価していたのだと思わざるを得なかった。彼の牙は確実に自分に届きうると理解した。

 

「お遊びは終わりだ。」

 

ウィルはそういうとハリーの方を一瞥する。そして少し離れた場所に立つかつての自分がいた学舎で成長した生徒たちを見る。彼らは1人を除いて驚きを隠せないようだ。

 

自分の知る限り最も強力な魔法使い、そして最も恐ろしい魔法使いと渡り合える程の実力があるとは思わなかった。自分達が束になっても敵わない才能を持っていたのは知っている。この一年で彼との決定的な差を少しはマシにできたと思ってた。だが所詮は学生の集まり、ただの勉強会に過ぎない。彼がいる場所は溢れでる才能と血の滲む努力が合わさることで初めて立つことができる領域なのだと思わざるを得なかった。

 

ウィルは彼らに語り始める。

 

「戸惑っているのだろう。俺が変わったと・・・。だが違う。」

 

問題なのは目の前の彼が味方か敵なのかわからないという点だ。呆然として立っていることしかできなかった。

 

ウィルは彼らに近寄り視線を寄越す。そしてぼーっとした表情のルーナの頭をポンポンと優しく叩く。

 

「昔から何も変わってない、今の俺はホグワーツの時と何も変わらない。」

 

彼はそういうと姿現しでその場から消え去った。すると計算したかのように側の暖炉達が緑色に燃え盛り次々と闇祓いや魔法省の役人達が現れる。

 

そして魔法省の大臣であるファッジはヴォルデモートの姿を一眼見る。するとヴォルデモートは黒い煙となってその場から消える

 

「・・・復活か?」

 

ファッジはそう慄きながらつぶやいた

 

 

 

***

 

 

 

 

〜魔法省、神秘部〜

 

 

 

 

 

ウィルは“姿現し”で神秘部へ移動した。そこはハリー達と死喰い人の戦いの中で荒れ果てボロボロとなった預言と倒された棚だ。

 

 

「よぉ、価値は示せたか?」

 

暗い部屋でよく見えないが声と発言で自分の同志だと理解した。

 

「あぁ想像以上の収穫だ。」

 

彼がこの場に訪れる前はダンブルドアとだけ交戦するつもりだった。しかしやってきた瞬間に複数の魔法使いが交戦していると推察できた。つまり自分が加担する可能性のある組織、“騎士団”と“死喰い人”が戦っているのだろうと考えた。ならばリーダーである2人がいるのが自然である。

 

彼は自分の強さがまだ2人に届かないのを承知していた。だから向こうからすれば、自分達といつ敵対しても構わないと思われているだろう。その為に価値を示すのだ。

 

つまり彼の目的は“自分達を敵にまわせば厄介”だと知らしめることだ。

 

(どちらとも敵対せず、組織を生かしておく理由を作れた。)

 

 

2人は預言のある棚を進んでいく。そしてある預言の下に書かれた姓を見つけ、立ち止まる。

 

 

 

 

【****・マルフォイ】

 

 

 

ウィルは口を開く。少し懐かしんでいるようだった。すると再び歩き始める。

 

「ここには前に(・・)来た事がある。ここに俺の預言はなかった。」

 

当然といえば当然である。かつてルシウス・マルフォイに連れられてここに来た時、自分の書かれた預言を手にする事ができなかった。そして彼は今日、自分の本当の姓を知ったのである。

 

 

 

 

【ウィリアム・レストレンジ】

 

 

 

 

 

彼は自分の本当の名前が書かれた予言を見つけ、少しの間観察する。彼が青色の預言をゆっくりと優しく掴み、近くに寄せた。するとそれは霧の向こうからこちらに届くような声でウィリアム・レストレンジの預言をする

 

 

 

***

 

 

 

獅子と蛇で揺れる男

強欲の全ては満たされぬ

野望の1つが叶う時

正義の刃が心臓を貫くであろう

 

 

 

***

 

 

 

 

預言を聞き終えるとウィルはそれを地面に落として粉々にしてしまう。これで自分の預言を知る者がこの世で自分と隣の男だけとなった

 

 

「・・・君は死ぬのか。」

 

隣の男はそう言う。

 

「死を克服する必要があるな。」

 

「・・・。」

 

ウィルは無言で男の肩に手をのせるとその場から一瞬で消えた。

 

 






毒触手蔓は実際に原作ででてきます。ただし読み方はわかりません。前々から思ってたけど、ハリーの預言ってレパロで治らないんですかね?


ぶっちゃけ最終回は投稿する前から決めてて、変える気はないです。でもどれくらい予想できてる人がいるのでしょうね

最終回の予想

  • できてる
  • さっぱり

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