灰色の獅子【完結】 続編連載中   作:えのき

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30分ほど前に投稿したのですが、ミスに気づいたので削除しました。
後半を追加しただけの再投稿です。すみません。

最近忙しくてモチベーションが落ちてました。同じくすみません。


母親と息子①

 

とても暗い何処かに2人は姿をあらわす。物音1つしない。ウィルにはここがどこか見当もつかなかった。

 

ベラトリックスは杖先に光を灯すと天井に飛ばす。すると電球のようにそれは周囲を照らした。

 

洞窟のように思えた。2人の立つ地面を取り囲むように暗い湖がある。まるで孤島だ。

 

 

「ここはどこだ?」

 

ウィルはそう尋ねる

 

「どこでもいいだろうよッ」

 

ベラトリックスはウィルに呪いを放った。だがウィルはそれをなんの戸惑いも、躊躇もなく防ぐと魔法を放ちベラトリックスを吹き飛ばした。

 

彼女は驚きながらもすぐに立ち上がるとより強力な呪いを使う。しかしそれをウィルはそれを軽々と捻り潰すと、再び彼女を吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

彼女は悟った。自分ではこの若者に勝てない。格が違うのだ。

 

トンビが鷹を産んだのではない

鷹が怪物(・・)を産んだのだ

 

 

 

それもそうだろう。去年、魔法部の神秘部にて戦った時はウィルは無数にある仕留め方の中で最も魔力の消費の少ない方法を選んだだけだ。なぜならダンブルドア、そしてヴォルデモートと戦う可能性があった為である。

 

彼女はヴォルデモートの興味が自分よりウィルに多く向いているのが気に入らないようだった。解決方法は1つ、この若者より自分の方が強いということを証明すればいい。

 

だがこの結末だ。こればかりは彼女の想定の範囲外だった。

 

だがそれは自然なことだ。ヴォルデモートは己の傲慢さゆえに嘘をつかない、最強の魔法使いである為に実力や才能を正確に見抜ける

 

つまりヴォルデモートは2人が戦えば、この結末を迎えると確信していた。

 

 

 

 

 

地面に倒れていたベラトリックスはふと周りの湖が揺れたような気がした。魚でもいたのだろうか、しかしそれはすぐに誤りだと気がついた。彼女は素早く立ち上がる。

 

 

どうやら水中の中で無数にゆらゆらと動くなにかがこちらに向かっている。

 

亡者(・・)か、なぜここに。」

 

そしてそれらは地上に姿をあらわす。まるで地面を這うようにこちらに向かってくる。小さく痩せ細った醜い怪物たちだ。

 

20、30、それ以上いるかもしれない。まるで虫がわくようにぞろぞろと現れる。自分達の立つ場所を取り囲んでいく。

 

 

「・・・。」

 

ベラトリックスはその数に圧倒されている。続々と水面から姿を見せる事から、数を数えることすらできない。

 

「なぁマダム、休戦しないか?」

 

ウィルはベラトリックスにそう提案する。2人にとって亡者の群れなど簡単に追い払えるだろう。しかし今は戦闘中だ。隙を見せる大きな呪文を使えば背中から“死の呪い”を撃たれる。

 

 

ウィルの申出を聞いたベラトリックスは彼に杖を向け呪文を放つ。

 

しかし呪文はウィルではなく、彼の目の前にいた亡者を切り裂いた。ウィルはにやりと笑うと視線をベラトリックスから目の前の亡者に向ける。

 

肝心なのは魔力をどれだけ消費せずに亡者をさばき、そして相手の警戒を怠らないかだ。

 

 

2人は次から次へとくる亡者を簡単に発動できる呪文を使って退ける。

 

何度も何度もそれを繰り返していくと突然、ウィルの首筋に水滴が垂れた。一瞬だけ気が緩むと、突然視界が激しく揺れる。

 

そして地面に思い切り叩きつけられた。背中に重く鈍い痛みを感じる。亡者が彼の背中にしがみついているではないか。どうやら天井から地上のウィルに向けて飛び降りたようだ

 

 

(壁を伝ったのか、迂闊だった。)

 

ウィルは亡者を振りほどいて立ち上がろうとするが、まるで稲妻のように鋭い痛みが全身にほとばしる。

 

どうやら身体のあちこちの骨が折れているらしい

 

頬に砂利が付着した彼は視線を前にやると絶好の機会とばかりに亡者達は一斉に自分に飛びかかろうとしている。

 

 

すると突然、目の前が激しく爆発した。ウィルは反射的に眼を瞑ってしまう。砂と風が前方から飛んでくるのを感じた。

 

そしてウィルが眼を開くと目の前は真っ黒に焼き焦げた亡者達の姿だ。大半は動かず水中に浮かんでおり、辛うじて生き残った個体は火傷を負い苦しんでいる。

 

「・・・ッッ!?」

 

彼が驚いていると背中に乗っていた亡者の悲鳴が聞こえると、同時に背中が軽くなる。

 

ウィルが素早く視線を後ろにやるとベラトリックスがすぐ後ろにいた。

 

彼は自分を信じられなかった。爆発呪文もウィルの背中に張り付いた亡者も蹴り飛ばしたのも彼女なのだ。

 

あの残忍なベラトリックス・レストレンジがまるで自分を庇うように動いた。彼女の表情を見ると戸惑っているようだ。

 

「・・・なぜ?」

 

ウィルはそうつぶやくと彼女は突然、悲鳴をあげて崩れ落ちた。彼女の脚に亡者が力の限り噛み付いていたのだ。

 

「“リクタスサンプラ(笑い続けよ)”」

 

噛み付いた亡者は突然笑い出し、ベラトリックスの脚から外れた。そしてウィルは彼女の背後で群れている亡者達へ杖を向ける

 

「“グライシアス(氷河よ)”」

 

一斉に亡者達は氷のように固まり動かなくなる。そしてその亡者達の脚を伝って地面も凍り始める。そしてそれが伝うように広がっていくと次々に生き残った亡者を氷結させる。

 

そしてそれは湖一面を凍らせてしまった。しかし水中までは浸透せず、中に潜んでいた亡者達は氷を砕こうとあちこちで殴り始める。氷が薄いためにすぐにひび割れ亡者達は再び這い出る。

 

ウィルはかろうじて立ち上がるとベラトリックスの表情を窺う。あの行動の真意を問いたかった。

 

しかし彼女は冷たく無表情でウィルの肩に優しく手を置いた。すると2人はその場から一瞬で消え去る。

 

 

 

 

 

 

そして2人はとても暗い墓地に姿を現した。丘の上で、薄暗く数多くの墓石が並んでいる。

 

ベラトリックスは素早く自分の杖先をウィルの首筋に突き立てた。

休戦は終わったのだ。亡者の手から逃れるための約束であり、連中が居なくなれば戦闘は再開される。

 

その瞬間、彼は自分の死を悟ると同時に目にも留まらぬ速さで自分の取るべき最適解の行動を導き、そして実行した。

 

自分の杖をベラトリックスの腹へ思い切り突き立てた。そしてウィルはそれをゆっくりと引き抜く。彼女はウィルの肩に血を吐くと、まるで力が抜けたかのように杖を下ろした。

 

そして彼女はゆっくりと倒れた。まるで墓石を背もたれにするかのようにベラトリックスは座った。

 

そして少しの沈黙と共にウィルは口を開く

 

「なぜだ・・・、なぜ敗北を選んだ?」

 

 

とうに痛みなど感じていなかった。彼女はウィルの首筋に杖を突き立てた時、勝負は決まっていた。彼が反撃をする間などなかったはずだ

 

彼女は呪文を撃つ気などなかった

ウィルが彼女の真意を問いかけてもなお、ベラトリックスは俯き、そして口から血を流すだけだった。

 

 

ウィルはふと彼女が背もたれにしている墓石に刻まれた名前が目にはいる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ウィリアム 〜ここに眠る〜】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィルはベラトリックス越しに自分の名前が墓石に刻まれているのを理解した。そして重い口を開いた。

 

「・・・あんた、覚えてるんだろ。」

 

ウィルはこの戦闘中、ずっと引っかかっていた。そしてこの墓を見てそれが確信に変わったのだ。

 

ベラトリックスと最初に神秘部で出会った時、“死の呪い”を連発したのだ。

 

だが彼女と洞窟で再戦した時、一度たりともそれを使わなかった。

 

そして一番不自然なのは自分が襲われた時、いち早く庇うように動いたことだ。

 

 

 

まるで母親(・・)のようだった。

 

 

 

「なんのことだい?」

 

しかしベラトリックスはその質問には答えないというような様子だ。

 

「・・・強力な魔法使いは“忘却術”を無効化することができる。」

 

ウィルはそうつぶやいた。ベラトリックスはヴォルデモートの腹心として数多くの手ほどきを受けている。間違いなく その強力な魔法使いの一人に数えられるだろう。

 

 

「さあね、これから話すのはただのひとり言さ。」

 

ベラトリックスはウィルの顔ではなく薄暗い空に視線を向け口を開く。

 

 

「昔、腹の中に子供がいてね。だが当時の私はあのお方の為に満足に働けず、いつも苛立っていた。」

 

ウィルは黙って彼女の言うことに耳を傾けた。どう考えても彼女が自分を息子だと認めているようにしか聞こえなかった。

 

「でもいつからか、気持ちがおかしくなっていった。こう・・・、研ぎ澄ました牙が丸くなるような感覚さ。」

 

ウィルは静かにつぶやいた。その答えを彼は知っている。

 

「・・・愛だ。」

 

 

ベラトリックスは軽くそれを鼻で笑った。しかし表情から見るに気持ちは複雑らしい。

 

そしてベラトリックスとウィルは長い沈黙が訪れる。彼女は出血を抑える様子もない。その場はただ冷たい風だけが漂っているだけだ

 

 

「一つだけ頼みがある、近くで顔を見せてくれないか?」

 

彼は小さく頷くとゆっくりと跪いた。するとベラトリックスは手のひらを前に伸ばす。だがウィルの頬には届かない。

 

彼は少し戸惑う。今まで優しく頬を触られた事がないからだった。

 

ウィルはゆっくりと顔を近づけると彼女の手に頬を置いた。彼女は力なく触れると、とても優しく微笑んだ。

 

「ウィリアム、良い名前だ。」

 

ベラトリックスはそう言うと腕の力は抜け、地面へ落ちた。

 

彼はしばらく彼女の生気のない顔を眺める。するとウィルの頬から銀色の雫がゆっくりと垂れる。

 

 

 

彼は何が何だかわからなかった

 

あの悪名高いベラトリックスが自分の母親で、自分には必要ないからと忘却術で切り捨てた。でも実はそれが効いておらず、彼女は自ら死を選んだのだ。

 

はっきり言って訳がわからない。短い期間で激しく状況が変わり過ぎたのだ。自分の今の感情に整理がつかない。なぜ自分が泣いているのか、なぜ彼女が死を受け入れたのか。その意味をまだ彼は理解できなかった。

 

でも、少なくとも1つだけわかった事がある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女が最後に見せた笑顔はとても美しかった

 




最終章の2部が終わり次第、解説を投稿します

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