灰色の獅子【完結】 続編連載中 作:えのき
〜ダームストラング魔法魔術学校〜
この2年間、校舎のある一室では毎日のように実戦訓練が行われている。これはリーダー格とされる生徒の働きかけにより開催された。悪名あるダームストラングの危険な生徒達をものの数ヶ月で制圧し、自分の支配下に置くほどの実力を持つ。そして恐怖による支配ではなく崇拝に近いほどの信頼により彼は頭目の座についた。
彼の訓練は知識や備えの為でなく、実戦を想定したものである。
家柄、性別、年齢、才能、人柄は問わず
参加資格はただ一つ
彼の思想に共感する者
生徒達は突如現れたカリスマ的な青年に激しく心酔したのだ。彼を知らぬ者はグリンデルバルドの再来だと主張する。だが闇の魔法使いとは違う。その気になれば絶対的な君主にもなれた。だが彼はそれを嫌う。
なぜなら彼の望みは別にあるからである。【この世を整える】、ただそれだけだ。
この世のありとあらゆる不公平や不条理を可能な限り整えるという思想、つまり限りなく実力主義の世界にすること。
もちろんそれはどこまで整えるのか、誰が判断するのかという問題点はある。彼はそれを自分が担うつもりだ。もちろんそれは己の傲慢だという自覚はあり、実力主義においてこの競争で敗れた者が貧しくなるという懸念もある。つまり弱者の救済を優先するのではなく、実力があるのに立場などにより正しく評価されないのが良くないと考えている。
彼の理想のもとには日に日に信仰者が集うようになる。学生だけでなく普通の魔法使い、犯罪者、魔法生物に至るまで彼に魅了される。いつか来るであろう戦争に備えてるのだ
その組織の名は“
リーダーや構成員、召使いに至るまで全ての者は限りなく地平線のように
その青年の名はウィリアム・マルフォイ
類まれな才能を持ち、驕ることなく己の意思を貫く者。彼の進む道が覇道となり信仰者が後に続く
そしてその彼は今、4人の魔法使いに取り囲まれ一斉に魔法を放たれる。模擬練習や演舞ではない、いつもの事だ。
現状、この国に彼に匹敵する者は誰もいないのではないかと囁かれている。よって彼に並ぶ才能がないのであれば非凡な才が束となるしかないのである。
彼の信仰者達は本気でウィリアムを倒すつもりで呪文を放つ。しかし誰も彼が敗れるとは思わない。
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様々な種類の閃光が四方からウィリアムに迫り来る。しかし彼は軽く杖を振ってとても滑らかな軌道を描く。
「“
眩くも優しい銀色の光がまるで煙のようにウィルを覆い尽くす。その閃光を容易く受け止める。ほんの一つでさえ彼の肉体へ迫る事はない。
ウィルを覆う銀色の煙は纏まりをみせ、一つの巨大な守護霊となる。誇り高き狼だ。背丈は主人より大きく、全長も5mはあるだろう。
その狼は主人を守るように側に立ち、大きく吠えてみせる。彼はその実体化した守護霊を残したまま杖を振るう。
「“
まるで剣で円を描くように振るうと取り囲んだ4人は一斉に遠くへ吹き飛ばされる。彼らは強く背中を打ち、痛みに悶える。
「次・・・。」
ウィルは周りで順番を待つ者達にそうつぶやいた。
その演習から完全に離れた場所で男女が壁にもたれかかりウィルを眺めていた。
「荒れてる。」
茶色のショートヘアに鋭い瞳をした女子生徒はそうつぶやいた。周りからはエディと呼ばれウィルの側近として認識されている。
「荒れてるな。」
そして同じく側近であり、彼女の隣に立つ男は同意する。
「まぁ無理もない。」
「どうすべきだ?私にはわからん。」
男は少しだけ考え、そして答えを出す。
「おそらく、自分探しの旅をする。そしてウィルのとるべき選択は
「は?面接?」
エディは言ってる意味がわからないというような表情を浮かべている。
「答えは必ずしも与えるべきじゃない。間違いがあるからこそ多くの選択肢を見つけ、葛藤するから成長できる。」
「・・・まぁその通りだろうな。」
エディは彼の言っている意味が腑に落ちなかったが、めんどくさかったので考えることをやめて同意しておいた。
彼女は左手にイギリスで発行されている日刊預言者新聞を持っている。かなり前に発行されたものだが、家に無理を言って入手した。
***
11月14日
ベラトリックス・レストレンジ、闇の帝王の失脚後に主人の居場所を探すために夫と弟、そしてバーテミウス・クラウチ・ジュニアと共にロングボトム夫妻に“磔の呪文”を用いて拷問し、廃人にした。やがてアズカバンに収容されたが脱獄に成功。恐らく従兄弟のシリウス・ブラックの手引きによるものと思われる。
***
ウィルは相変わらず前に立つ生徒達を次から次へと仕留めていく中、考え事をしていた。
(どう探るべきか・・・。)
再び一斉に放たれた呪文を易々といなして杖を振るう。
「“ウィンガーディアム・レビオーサ”」
4人の杖を宙へ浮かせ、そして衝撃波を放って吹き飛ばす。
ウィルは次の相手を見つけるのではなく、その場から移動を始める。そして訓練を眺めていた2人の元へやってきた。
彼はエディの前で立ち止まると手のひらを差し出す。
「エディ、髪を一本くれ。」
「む?なぜだ。」
彼女は困惑した様子だ。それを見たとなりの男が口を挟む。
「ポリジュース薬だよ。」
「・・・?」
彼女は答えを出してもらってもなお意味がわからないらしい。男はすばやくエディの髪を抜きウィルに手渡した。
***
〜夜の闇横丁〜
ノクターン横丁、それはダイアゴン横丁の隣にある危険な商業地域だ。危険な人物や危険な商品が売られており、治安が悪さでも有名である。
そんな危険区域を若い魔女が一人で歩いていた。高価そうな黒い貴族服に身を包み、なんの迷いもなく進んでいる。
その彼女を見てノクターン横丁の住人は物珍しさにジロジロを視線をやり、ひそひそと話す。一部の住人は彼女が何者なのか知っているからだ。
すると二人組の男が彼女を見てせせら笑っていた。
「おい、見ろよ。あの家だ、あの
エディは一瞬にこめかみに筋を入れ、鷹のように鋭い目で貫く。そして獲物を狩るように目にも留まらぬ速さで杖を抜いて攻撃した。
一人を即座に倒すと、もう一人の男に詰め寄り喉元に杖を突きつける。
「おいおい待てよ・・・、悪かったって」
彼は慌てながら両手をあげる。その様子を見て彼女はニヤリと笑う。
「話が早くて助かるよ、だがその侮辱は聞き流せん。」
静かに怒りを秘めた表情を浮かべ口を開く
「1つ聞かせろ。14年前にはあったレストレンジ家の場所を知りたい。」
「知らねぇ、本当だ。」
「では知っている者は?」
男は覚えがあるようでうなずく。そして彼は自分が案内すると言った。
***
数分後
男の案内に着いて行くとボロボロの酒屋にたどり着いた。中に入ると数人の客しかいない
男は店のカウンターで酒を嗜んでいる男の背中を指差した。店の客を見比べると綺麗な服を身に纏っているように見える。
「あの方なら確実に知ってる。」
「誰だ?」
彼女の言葉に彼は口を開く。
「ロドルファス・レストレンジ、あの女の旦那だ。」