灰色の獅子【完結】 続編連載中   作:えのき

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長らくお待たせしました
必ず完結させるという僕の宣言を
僕は忘れていなかったようです


最終章【天秤の行方part2】
予言と開戦


 

 

 

〜およそ80年前〜

 

 

 

 

あるイギリスの小さな村にひっそりと建てられた煉瓦造りの屋敷、黒色で統一された外装は上品で気品を感じる。

 

その村とは場違いな家の前にある魔女が現れる。青いローブを身につけた小綺麗な若い女性だ。利き手でない左手には大きめの葡萄酒の酒瓶を携えている。長い赤毛はポニーテールで整えられ細い背中からなびく。鋭い瞳は気の強さを感じさせ、たとえどれほど無鉄砲な男だろうと蛇に睨まれた蛙のようにすくむだろう。

 

 

彼女は大きな扉に立ちふさがるとひとりでに鈍い金属音を奏でて開く。まるで家が勝手に入ってこいと彼女にそう言ったかのようだ

 

 

 

太い廊下を突き進むと狭い部屋に辿り着いた。端っこは蝋燭がズラリと並べられて、その間にたてに細長い机が見える。

 

「やっと来たのかい。来るのは見えてたのさ。」

 

その机の奥にニタニタと笑う老婆の姿がある。胡散臭い装飾品を身につけており占い師や予言者の格好をしたペテン師のようだ。しかし彼女はホンモノである。

 

「いくら名高い予言者とはいえ、正確な日付まで見抜けないようだな。」

 

「そうでなきゃ予言じゃなくて、予定になっちまうだろう?」

 

老婆は年の功か、若い魔女の挑発を軽くいなしてみせる。

 

カッサンドラ・トレローニ

偉大なる予言者だ。

 

およそ60年後にその子孫にあたるシビル・トレローニはホグワーツで占い学の教鞭を取ることとなる。

 

 

「御託はいい。早く占ってくれ。」

 

つまらなそうな表情を浮かべて傲慢にズカリと座った。

 

「アンタの占いは既に済ませてある。心して聞きな。」

 

スゥと感情や邪念の一切を断ち切るとまるで複数の声が絡み合い、うねるように周囲へ響かせる。それはただの老婆の声色ではなく地獄からの死者がこちらに語りかけてくるような感じに似ている。

 

 

『呪われた家の忌子(・・)はより強力な怪物を産み出すであろう。進む道、そして選択の果てにこの世に破滅か安寧を与える。』

 

そう言い終えると彼女は元の老婆に戻った。荒れた息を整えるとにやりと笑う。

 

「ジェニス・マクミラン。アンタはその結末を目の当たりにするのさ。」

 

「そーかい。」

 

若い女、ジェニスはまるで興味なさそうに聞き流した。

 

「気をつけるんだよ、お前の選択で功か罪は決まるのだよ。」

 

占い師の忠告を聞くとジェニスは鼻で笑ってみせる。そして身を取り出して言い放つ。

 

「私は変わらないさ。変わるのは周りの勝手。運命なんて存在しない。」

 

彼女の気迫から魔力が吹き出てくる。まるでめらめらと燃え盛る巨大な焚き火のような勢いのある魔力だ。

 

「傲慢だねぇ、しかし本物の怪物だよ。」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜ホグワーツ〜

 

 

 

 

 

 

 

世界一の学校だと卒業生が口々に評価する学校がある。そこでは自然に囲まれ、魔法で守られ、知恵を授かるような学校だ。澄んだ空にどこまでも続く美しい海に幻想的でありながらも危険な森、どの学校よりも集められた書物は不足する分野などないだろう。数名の数世代でもずば抜けた才能と実力を持つ選ばれた賢者達が教鞭をとる。

 

 

しかしホグワーツはたった1人の邪悪すぎる魔法使いによって変えられた。“闇の帝王”ヴォルデモートはかつて恐れていたダンブルドア無き学び舎を支配しようと動き出した。彼に屈辱を与えた唯一の青年を捉えるためにだ。

 

 

 

 

 

 

 

「“例のあの人”をいつまでも止めることはできませんぞ。」

 

呪文学のフリットウィックは扉の前でそう忠告した。これから彼ら、教師たちと不死鳥の騎士団の残党はハリー・ポッターの微かな希望を頼りにヴォルデモートと戦わなければならないのだ。

 

「ですが時間を稼ぐことはできます。それと彼の名前はヴォルデモート。貴方もそうお呼びなさい。」

 

マクゴナガルは普段通り冷静に物事を見極めてフリットウィックをたしなめる。その風格はまさしくダンブルドアから受け継いだものだ。彼亡き今、この城を守るのは自分の使命だと確信しているからだ。

 

「どう呼ぼうと殺しにくるのですから。」

 

彼女は冷酷な現実を突きつける

 

 

 

 

そしてスラグホーンは密かに貴重な液体の入った小瓶を手にかけて、素早く飲み干すと階段を降りて城の外へと向かう。

 

 

 

 

「“全ての石よ、動け(ピエルトータム・ロコモーター)”」

 

マクゴナガルは扉を背に室内へ向けて声を響かせるように呪文を唱えた。

 

すると城の中が小さく鈍くゆっくりと触れ始める。そして何かが隊列を為して同じ歩幅と音を響かせてこちらへ向かって来る。

 

石像だ。ホグワーツに存在するありとあらゆる石像は各々の武器を持ち精密な軍隊のように行進をしているようだ。

 

「ホグワーツは脅かされています、盾となり護りなさい。学校への務めを果たすのです」

 

マクゴナガルは石像たちに鼓舞をして戦場の最前列へと固めて待機させる。

 

 

「この呪文、一度使ってみたかったんですよ。」

 

マクゴナガルは はにかんで隣にいた魔女、モリー・ウィーズリーに声をかけた。周りの緊張をやわらげるつもりだったのだろうが、彼女はギョッとした視線を返すだけだった。

 

 

そして数名の選ばれた魔法使い達は校庭へ出て天へと杖を向ける。そして次々と呪文を唱えて光を放つとそれらはじわじわと広がり固まり始める。

 

盾よ、守れ(プロテゴ・マキシマ)

敵よ、避けよ(レベロ・イミニカム)

フィアント・デューイ(強固なれ)

 

僅か数人の魔法使いが考えうる最も強い防御呪文を施す。打ち合わせなどする必要もない。それぞれがこの3つの呪文が最強だと知っているからだ。そして青白く輝くドーム状の防御壁が出来上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禁じられた森にてヴォルデモート率いる“死喰い人”陣営は待機していた。そこからでも見えるほどの青い防御壁を見て彼はせせら笑うように呟いた。

 

「懲りない奴らだ、哀れな。」

 

心からの本心だ。生まれながらのエゴイスト、それが彼の強さである。自分のなすべきことが絶対的に正しいと思い、他者の反発の全てを愚かで哀れだと吐き捨てる。

 

「かかれ。」

 

彼は背後に立つ数百名の部下達にそう支持する。彼らは一斉に防御壁へ向けて、まるで流星のように呪文が放った。

 

それらが放物線を描いて防御壁へぶつかる。まるで花火のようにバチバチと破裂し続けると、破壊には至らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから少し離れた湖に小さなボートが一隻だけ浮いていた。

 

水面には大小さまざまな塔が並び、窓は青白く美しい光が鏡のように反射している。

 

7年前、彼がまだ幼い新入生の頃にホグワーツで学べるという希望を抱いてやってきたようにウィリアム・マルフォイは心に微かな希望を抱いている。迷い続けた選択の答えを見つけることができるのだろうと思っているからだ。

 

「遅かったか。」

 

3年ぶりにホグワーツを見たウィリアム・マルフォイはそう呟いた。彼はかつて退学となった時とは大きく様変わりしている事に驚いた。まさかこんなにタイミングをはかったように戦いの中に戻るとは思わなかったのだ。

 

自分の想定より早く選択を迫られているのだと理解した。

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

〜必要の部屋〜

 

 

 

 

 

“あったりなかったり部屋”、そう呼ばれている。訪れる者の目的が変わるごとに内装や中身が変わる不思議な部屋だ。

 

今、その部屋の中身は《ものを隠す部屋》

 

今までこの部屋を突き止めた生徒達や教師によって、隠された品が数多く眠っている。呪いの品や酒瓶、部屋には仕舞えない大きな道具など部屋一面に重なるように散らばっている。

 

そしてそう望んだのはハリー・ポッターとロン、ハーマイオニーだ。彼らはヴォルデモートを倒す鍵となる“分霊箱”の1つがここに隠されていると知り、やってきていた。

 

 

ハリーは目を閉じて集中する。彼は魔力を感じて居場所を探っているのだ。一般的に闇の魔法は痕跡を残す。

 

分霊箱も強力な闇の魔法であり、痕跡を残すのだが、なぜかハリーはヴォルデモートの分霊箱のみ強く感じる。

 

そしてハリーは隠された多くの荷物から古い箱を手に取った。それを開くと黄金のティアラが現れる。なんの変哲のない装飾がなされているが、ただ一つ特徴的な鷲の紋章が刻まらている。

 

鷲の紋章、それはレイブンクローを示すものであり、由緒正しい貴重な品という証拠にもなる。

 

ハリーはそれをまじまじと眺めていると突然人の気配を感じた。

 

「なにしにきたポッター?」

 

その声の持ち主は青白く顎の鋭い青年だ。初めて顔と合わせた時から自分とはうまくやれないと確信していた。

 

「君の方こそ。」

 

「僕の杖を持ってるな?返してもらおう。」

 

ドラコはハリーに杖を盗まれていたのだ。少し前に彼らがマルフォイ家の屋敷に捕まっていた時にウィルとドビーの手により解放された時、どさくさに紛れて杖を奪ったのだ。

 

「今のじゃ不満か?」

 

ハリーは冷たく皮肉をぶつける。

 

「これは母上のだ。力はあるが違う。僕の事を理解していない。」

 

ドラコは憎しみのこもった瞳でそう言い返す

 

「やっちまえドラコ。グズグズするな。」

 

かつて腰巾着だったはずのゴイルはまるでドラコに命令するかのように言った。しかし彼はなにも言い返せない。

 

「“エクスペリアームズ”っ!」

 

その隙を逃さずハーマイオニーはドラコ達に向けて武装解除の呪文を放った。すると呪文の応酬が始まった。

 

「“アバダ・ケダブラ”!」

 

「“ステューピファイ”!」

 

呪文がドラコは自分の顔をかすめると情けない声をあげて走って逃げ出した。戦力が1人減った事で不利だと感じてゴイル達は引き返す

 

ロンは勇ましく彼らの後を追う。しかしすぐに情けない声をあげて戻ってくる。

 

 

「逃げろ!ゴイルのやつが火をつけた!」

 

その場の空気の中を熱を伝っていくように感じ、彼の言う事が嘘じゃないと理解する。彼らの目には怪物達が荒れ狂う黒い豪炎が迫り来るのが映る

 

ハリー達はそれを見て一目散に逃げ出した。ときおり炎に襲われながらも防ぎながら炎の手から逃れようと走る。

 

 

 

 

 

すると彼らの前方に一つの人影が目に入る。黒いローブを身にまとった男性のように見えた。

 

「おい!危ないぞ!早く逃げるんだ!」

 

ロンは声を荒げてそう忠告する。だがその男は足取りを止める事なく進み続けた。

 

「お前、焼け死にたいのか!」

 

更なる忠告にすら彼は聞こうとしない。

 

「む?焼ける?・・・。“悪霊の炎”だな」

 

その男は合点がいったというような表情を浮かべる。そして彼は囁くように呪文を唱えた

 

 

 

フィニート(終われ)

 

その一言でその男から魔力による小さな風圧がかかる。まるで草原の丘の上へ流れる風のようだった。

 

それは炎に触れた瞬間にまるでろうそくの火を吹き消すようにゆっくりと鎮火していく。その黒い豪炎の手をなんなく食い止めてそのまま完全に消化してしまった。

 

「やぁ会いたかった。友よ。」

 

 

その時、彼らは確信した。

天才だったウィルは怪物になったのだと

 

 

 

 

 




最近、昔消したと思っていた構想案が出てきました
いくつか書くべきだった描写や伏線が抜けていて絶望しました
完結したら付け加えようかと思います


ちなみにこの予言が“賢者の石編”の分岐の意味です。
破滅か安寧か
厨二病にはたまらんですな(主に僕)

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