灰色の獅子【完結】 続編連載中   作:えのき

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答えと再開

 

 

 

〜禁じられた森〜

 

 

 

 

 

 

 

「ハァーイ、ウィル。」

 

「やぁルーナ。」

 

目の前に金髪の、目の焦点の合わない美少女がそこにいた。

 

2人はまるで毎日会っているみたいに平凡でありきたりな挨拶をする。そしてウィルは相変わらず不思議そうな表情を浮かべて口を開く。

 

「なぜここにいるんだい?そして君だけはなぜ無傷なんだ?」

 

ここは非常に危険な森だ。ホグワーツの校則で禁止されているほどであり、ケンタウロスや吸血鬼、狼人間まで生息しているらしい。

 

だからおかしい。すぐ側で戦争があっていたのに無傷で、そしてそもそもなぜこの森にいるのかすらわからない。

 

 

 

ウィルの質問をまるで聞こえてないかのようにルーナは突然、ウィルの頭をヨシヨシと撫でる。もちろん身長差があるので彼女は思い切り背伸びをしている。限りなくつま先を立てているので体制がおぼつかず、プルプルしている。

 

「なぁ・・・なにをしてる?」

 

ウィルは戸惑い、彼女に対して抱いていた疑問など何処かへ吹き飛んだ。そしてただルーナにされるがままに大人しく頭を撫でられる。まるで3.4才の少女がサモエドのような大型犬を撫でるかのようだ。

 

ほんの30秒ほどそのままでいるとルーナはなんの脈絡もなく口を開く。

 

「・・・よく頑張ったね。」

 

ウィルは彼女の言葉に大きな戸惑いを覚えた。自分の空っぽの心に何か暖かい液体が注がれるかのようだ。じんわりと心臓から全身へと、血液が全身の血管を通るように暖かい感情が巡っていく。

 

誰かが言っていた。もし誰かの深い傷を知った時は『辛かったね、酷いね』ではなく、“よく頑張ったね”と今のその人を肯定する事が大切なのだと。

 

 

「迷ってるんだよね。」

 

「・・・。」

 

やはり彼女には敵わない。もう今となっては勝てるとはほんの僅かでさえも感じないが、再認識させられる。ウィルにとって彼女は唯一、自分の思う通りに動かない存在だった。どんなに彼が先を読もうと、誘導しようとも彼女はウィルの想定の範囲外へ行く。

 

だからこそ彼女は自分の知らない発想や答えを持つのだとウィルは考えている。そして今回も自分の思いもよらぬ答えを教えてくれるのだろうと心の奥で微かに期待する。

 

「違うよ。ウィルは決められないんじゃなくて選べない(・・・・)んだよ。」

 

今まで誰からもかけられた事のない言葉にウィルは少し戸惑いを覚える。しかし彼はすぐに真剣な表情を浮かべて彼女の答えに耳を傾ける。

 

答え(・・)なんてないんだよ。大切なんでしょ?“例のあの人”も。」

 

 

ウィルはルーナの言葉が自分の中で最も腑に落ちたような気がした。ダンブルドアやトムとの対話を経ても自分の中の答えだと感心する事はなかった。しかし彼女のほんの2、3言で彼の心に芯が入ったように感じる。

 

 

(あぁ、君はどれほど僕を理解してくれているのかな?)

 

 

「すごいなぁ、、、君は。」

 

 

ウィルはそうつぶやくように言った。彼はそこである事に気がついた。

 

今まで自分の人生で自分に好意を向けてくれる人達はウィルの純潔一族の名家の嫡男、そして財力。または彼自身の整った容姿に品行方正で優しい性格、神童と称えられる程の才能のいずれかに惹かれているに過ぎないのだと。

 

そしてただのウィルとして自分自身を見てくれている人が限りなく少ないのだと思った。彼と彼のしがらみを同一としててはなく、ただ一人の人間として向き合ってくれる人だ。まさしくルーナは自分の魅力のみに目を奪われているのではなく、今のウィルを見てくれている。

 

「理性だけじゃ窮屈、だから心に従えばいいんだよ。どうせ間違うならその方が後悔しないと思うよ。」

 

ウィルは彼女の言葉が心に馴染むようだった。迷う必要などなかった。ただ、最初にルーナと話すだけでよかった。

 

 

 

“正解を追い続ける必要なんてない”

 

自分はずっと誰かにそう言って欲しかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・いや(・・)

 

 

ウィルは心の中の声がそのまま出てくる。そして彼はまるで愛おしい存在を優しく見るように儚く笑う。

 

 

(俺はただ()にそう言われたかったんだろうな。)

 

 

 

「ルーナ・・・。俺は永遠に生きるか、それとも今日死ぬかもわからない身だ。でも俺は今の心に従いたい。」

 

ウィルはなぜか身体が自然とある決意が固まった。全く考えてすらいなかった事だ。あまりにも自然に、ただそうしたいと心の奥底から思っただけだ。

 

彼は赤面するどころか緊張すらしなかった。迷う事なくルーナの前でひざまづき、そして口をゆっくりと開いた。

 

「マルフォイでも、レストレンジでもなく、僕の・・・

 

ウィルは本題の前置きを述べた後、突然口をつぐんだ。急に焦りを覚えたのか、それとも躊躇してしまったのかはわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、なんか違う(・・)な。」

 

しかし彼の口から出てきたのは拍子抜けする一言だった。

 

 

そうだ。ウィルは自分の言葉のニュアンスが違うと思ったのだ。“僕の”、これが違う。ルーナ・ラブグッドは僕の所有物にはならない(・・・・)。常に自由で、思考回路や行動原理すら不明だ。そんな彼女をウィルは制御なんてできるはずもない。なんなら制御できないから彼女は魅力的なのだ。

 

ウィルは立ち上がるとルーナの目をジッと見つめて口をあける。

 

「僕と共に歩む妻になって欲しい。」

 

「うん、いいよ。」

 

ルーナ・ラブグッドはウィルの求婚のように躊躇いや迷いもなく、彼の申し出を受け入れたのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜ホグワーツ〜

 

 

 

 

 

 

ちょうどその頃、休戦中のホグワーツでは一人の若者が瓦礫の中から焼き焦げた黒い何かを掴んだ。組分け帽子である。

 

ネビルの脳裏には自分の組分けの時を思い出した。ホグワーツからの入学書が自分に届いても、未だにひよっ子魔法使いか、スクイブの2択で揺れていた。厳しい祖母からはロングボトムの名を汚さぬよう、誇り高き両親に恥じぬようにと徹底した教育が施された。しかし彼には才能も自信もなかった。

 

 

 

当時、彼がキングクロス駅から汽車に乗った時は友達と呼べる存在は誰一人としておらず、劣等感からか孤独だった。しかしグレンジャーというマグル産まれの女の子だけは自分を助けてくれた。しかしペットのトレバーを探すのを手伝ってくれたのは友情ではなく、ただのお情けだと思った。彼女はただ困っている劣等生を助けただけだ。そして彼女の口からある新入生の話を聞いた。自分とは正反対の秀才だ。教科書の全てを暗記しているだけではなく、容姿が整っており、会話には知性が溢れているのだと言っていた。

 

自分とは正反対ではないか。多分自分はその人からはゴミのように扱われるだろう。そしていずれ目の前のグレンジャーは自分を見捨てて彼の所に行くのだと、ネビルは自分を卑下した。

 

そして組分けが始まった頃、ネビルは恐怖を覚えていた。自分が行きたいのはグリフィンドールだ。しかしハッフルパフに選ばれさえすればマシだと思っていた。組分け帽子が才能がないから『スクイブを連れてきたのはどいつだ!?追い返せッ!!!』と叫ぶのではないか不安だった。

 

マグル産まれのグレンジャーはグリフィンドールに選ばれて何人か進むと、自分の番が来た。全生徒の視線が自分へと向く中でネビルは震えあがった。彼がグリフィンドールへ行きたいと念じ続けていると、組分け帽子は“グリフィンドール”と叫んでくれた。つい彼は安堵から帽子を被ったまま走り出した。

 

安心してグリフィンドールの席へ着くと彼らは自分を歓迎してくれた。そして次に名前を呼ばれたのは“マルフォイ”、純血主義の闇の魔法使いの家柄だ。顔を見てみると青白く、意地の悪そうな顔をしている。彼がスリザリンと叫ばれると少し安心した。しかし次に呼ばれたのも“マルフォイ”だった。

 

とっくにグレンジャーの言っていた生徒など忘れていた。しかし彼が壇上へあがり振り向いた瞬間に、頭の中で完全に一致した。見ただけでわかる。彼があの生徒だと。

 

 

 

整った容姿から多くの生徒たちは“マルフォイ”に注目する。彼の目には教師陣ですら彼の組分けの結果を心待ちにしているように見えた。そして組分けの葛藤の後に彼もグリフィンドールに選ばれた。自分の時とは比べものにならない程の歓声が先輩達からあがった。そしてグレンジャーも無表情ながらも少し嬉しそうに感じた。

 

まもなくしてハリー・ポッターもグリフィンドールに選ばれた。自分の世代で1番2番で目立っていた2人が自分と同じ寮になった。とても誇らしく思うと同時に彼は焦った。自分は彼らを前に埋もれてしまったからだ。

 

それからは2人と友人になり、できないなりに努力をするも結果は芳しくない。しかし彼は2人と比べて遥かにゆっくりと地道に成長していった。

 

 

 

 

 

 

 

そして今では彼はホグワーツ側の戦力の1つに数えられる程になった。しかし“死喰い人”を前に命をとられないのが精一杯だった。守りたかった学校も生徒達も奪われていく。かれは自分の無力さを嘆いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてネビルは絶望感を突きつけられた。休戦中であるはずの“死喰い人”達が隊列をなしてこちらへやってきているからだ。先頭には恐ろしい病的に白い男が歩いている。“ヴォルデモート”だ。彼は震えあがった。

 

 

 

 

 

ヴォルデモートはにやにやと集まった生徒や騎士団を眺める。そして捕らえられたハグリッドに担がせている亡骸を皆へ見せつける

 

その亡骸が誰かを皆が理解するのを確認するとヴォルデモートは煽るように声をあげる

 

「ハリー・ポッターは死んだッ!!!!」

 

その無慈悲な一言で彼らは心を一瞬で折られた。皆の希望のハリーが死んだのだ。一気に沈み込み闘争心のカケラも残っていない。

 

「今日、この日よりおれ様に忠誠を捧げよ。今こそ我が元に下るがいい。」

 

ヴォルデモートは恐ろしい笑みを浮かべながら言った。

 

「さもなくば死ね。」

 

そして冷たく吐き捨てるように言った。しかし誰も前へ進みでない。ただ皆は下を俯いているだけだった。

 

 

 

 

 

「ドラコ、さぁ来い。」

 

死喰い人の陣営からルシウス・マルフォイが息子のドラコを呼んだ。そして彼は初めて前へ進みでる。

 

「よくやったドラコ。」

 

その様子をみたヴォルデモートは軽く笑みを浮かべる。宿敵のダンブルドアを生徒という立場を利用して追い詰めたのは彼の功績だとヴォルデモートは評価している。しかしそれが彼の忠誠心や実力を認めたわけではない。自分の言うことを聞く生徒であれば誰でも良かった。

 

 

そして彼は両親の側へ迎え入れられると、無事を保証された。

 

 

 

意外なことにドラコのあとに続いたのはネビルだった。ヴォルデモートはその様子を愉快そうにみて彼へ質問を与える。

 

「お前、名はなんだ?若者よ。」

 

ヴォルデモートは純血主義であり、地を尊ぶ。故に彼は姓を重視する。

 

「ネビル・ロングボトム」

 

“ロングボトム”の名前に死喰い人は一斉に笑い出した。その名前は知っている。強力な“闇祓いの夫婦”の名前だ。自分たちの仲間の手により廃人にされた。誇り高く秘密を守り死んだのに、当の息子は恐れで命乞いをしているからである。

 

「一言言いたい。」

 

しかし彼の表情に不思議と服従した様子はない。むしろ此方へ敵意を向けている。

 

「よかろう、聞かせてもらおうではないか。」

 

ヴォルデモートは愉快そうに笑う。彼の行動の真意を理解した上で興味を抱いたのだ。

 

「ハリーだけじゃない。毎日人が死んでる。」

 

ネビルはそう静かに言った。彼や目の前のヴォルデモートではなく、自分の背中にいる人達へ向けて語りかけているのだ。

 

 

「友達や家族が。今夜、僕たちはハリーを失った。でもずっとここにいる。みんなの死は無駄じゃない。だがお前の死は違うッ!!!」

 

ネビルはヴォルデモートへ向けて言い放った。そして背後の生徒や騎士団、教師達を鼓舞するように叫んだ。

 

「ハリーは僕らの為に戦ったッ!!!まだ戦いは終わってないッッッ!!!!!!」

 

ネビルは組分け帽子を手にとると、そこに手を突っ込んで何かを思い切り引き抜いた。

 

かつて彼らの寮の始祖、ゴドリック・グリフィンドールが使っていた伝説の剣だ。

 

銀色の剣がまばゆく輝き、ゴブリンの手によって鍛えられた為に腐敗や風化などの一切を受け付けず、剣にとって価値のある能力のみを吸収するという特徴があるとされる。

 

真のグリフィンドール生のみが組分け帽子から引き抜けるという伝説があり、それゆえにヴォルデモートはホグワーツの4人の始祖の中でこの宝だけは手にする事ができなかった

 

 

 

 

ネビルはグリフィンドールの剣を握りしめてヴォルデモートへ向かって走り出した。彼の勇気に応えるように背後の仲間達は雄叫びをあげて死喰い人へ攻撃を仕掛けた。再びホグワーツは戦場へと化した。

 

 

最後の結末の予想について

  • できている
  • できない
  • 今ですら想像の外
  • 何はともあれ婚約おめッ!!!

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