灰色の獅子【完結】 続編連載中 作:えのき
理論ではなく感情を選択する
自分でもこの選択は読めなかった
これまでの価値観からは出てこない感情だ
でも迷いはない
頭が冴えたわけでも
モヤが消えたわけでもない
でもなぜか確信している
この選択が正しいのだと思った
「あぁそうか・・・。」
ウィルはつぶやいた。また一つ彼の中で正しいであろう答えに辿り着いたのだ。
「俺はより世界を正すためにって考えてた。でもその世界に笑ってる俺はいない。」
まるで自分に言い聞かせるように言った。ヴォルデモートは眉をひそめて不愉快そうな顔をしている。ウィルがなにを言っているのか理解できないからだろう。
(僕は君と笑っていられる世界を作りたくなった。)
自分の心の中には常にルーナがいるのだと気がついた。何度も何度も選択は揺らいだ。二転三転する自分に嫌気がさすことはない。
「愚かな、
呆れているのか、悲しんでいるのか、喜んでいるのかはわからなかった。目の前の闇の帝王は複雑そうな顔をしていた。
***
「あの子が勝てるわけがない!」
スラグホーンはそう叫んだ。ヴォルデモートとウィルから離れるマクゴナガルの様子を見て行くべきか行くべきでないか決めかねている様子だ。それに対してキングズリーは2人の様子を冷静に伺っている。
3人ががりで仕留める兆しすらなかった闇の帝王を自分らより遥かに経験の浅い魔法使い1人で置き去りにするのはあまりにも酷だ
だがマクゴナガルは確信している。彼なら安心して任せられると・・・
「ウィルは大丈夫です。かつてダンブルドアは言いました。自分の受け持った2人の
その2人が誰を指すのか、スラグホーンとキングズリーはすぐにわかった。
「一人は深く闇を支配し、そしてもう一人は闇を受け入れた。」
2人はマクゴナガルの凛とした様子に圧倒され、彼女に従うようにその場から離れた。マクゴナガルの信頼する彼を信じる事にしたのだろう、彼らは教師として大人として生徒を守るべく行動を変えた。
トムはウィルの一皮向けた様子を見て口を開いて尋ねる。
「なぜ貴様
彼は心からそう思った。理解ができないのである。
「確かに、愚かな選択だろう。
ウィルは彼の言っている事が正論だと理解した上でこの選択を取った。
「ではなぜだ?」
「この学校が壊れゆく姿を見たくない、ただそう思った。ここは僕と皆の繋がりなんだ。そして
ウィルは自分が孤独だと感じていた。親を知らず孤児院で生まれ、マルフォイ家で幼少期を育った。彼もホグワーツで自分の野望の為に常に精進を重ねたわけではない。同世代で等しく学び、食べ、同じ屋根の下で眠った。
そのありきたりな共同生活に彼はなんとも思わなかったわけではない。
「つまりトム、君にはもう何1つとして壊させやしないってことだよ。」
ウィルの恐れや嘘のない言葉にヴォルデモートは少し怯む。
「・・・なにが言いたい?」
彼の中に迷いが生まれたらしい。ヴォルデモートはウィルを高く評価している。まだ若く成長期にある彼を認めていた。だから彼はウィルの言葉を受け止める事を許したのだ。
「ウィルーーーッッッ!!!!」
聞き覚えのある声が2人だけの空間を遮る。その声に彼らは激しく動揺した。死んだはずの友、そして敵の声だ。
彼らは同時にある若者を自然に捉えた。ボサボサの黒髪に黒い眼鏡、そして綺麗な青色の瞳の男だ。
「ハリー・・・。」
「ハリー・ポッターッッッ!!!!」
驚きつつもウィルは微かに笑みを浮かべているのに対してヴォルデモートは感情に身を任せて叫んだ。既に彼の目にはウィルを映しておらず、ハリーへむけて杖を向け、再び死の呪文を放った。
だが緑色の閃光を視界の端で捉え、ウィルは易々と相殺してみせる。
「ハリーーーッッ!!!」
ウィルは力の限り叫んだ。
「分霊箱はお前に任せる!!!だからトムは俺に任せろ!!!」
ウィルの声にハリーは返事をすることなく2人から走って離れていった。ウィルに対する信頼と自分が彼の足を引っ張ってしまうと理解した為の行動である。そしてハリーはウィルが微かに自分を対等な存在たと認めてくれたのだと嬉しくなった。
「なぜ生きている?ポッター。」
ヴォルデモートは更に動揺したらしい。彼と禁じられた森で対面した時、たしかに死の呪文を命中させた。更に配下のルシウスの妻であるナルシッサに死んでいるか確認までさせた。その上でハリー・ポッターは生きている。何もかもが自分の思い通りにならない。怒りを通り越して疑問を抱いたらしい。
「トム、どこを見てる?」
ウィルのその一言でヴォルデモートは現実に引き戻される。そして彼の鋭い瞳に目を奪われた。
***
〜校長室〜
戦争の騒がしさは校内にまで響いていた。絵画の中の住人は慌てふためき逃げ出そうとするが額縁の外へは出られない。
「ウィル、君と儂は相容れぬ。」
校長室の絵画の一つに先代校長のアルバス・ダンブルドアはそうつぶやいた。彼は最も未来を予測できる洞察力を持った魔法使いだった。偉大なる魔法使いであっても絵の中ではなにもできない。今はただ言葉を口から垂れ流すだけだ。
「なぜなら儂がトムを見捨てたからだ。」
ウィルは自分が幸運だと確信している。なぜなら道を外して苦悩した時、常に誰かが自分に救いの手を差し伸べてくれた。数えきれないほどの恩人達がいる。だからこそウィルは今の自分があると言える。
その背景があるからこそ彼は道を外したトムを愚かだと言い放ち、見捨てたダンブルドアに対して不快感を覚えた。
「その通りじゃ。だから儂を嫌悪しておる。だが君は儂と同じ点がある。君は友を見捨てることができない。」
ダンブルドアは続ける。
「君はヴォルデモートを、トム・リドルを友として受け入れる。ここまでは見えておった。」
これがダンブルドアの最も危惧した結末である。しかし彼の懸念は現実に変わった。
「だがこれより先は見えぬ。選択の果てに、君は何を見る?」
***
「トム、どこを見てる?」
ウィルのその鋭い瞳に映しているのは目の前のただ一人のみだった
「俺は
彼がそう言い終えると同時に彼の背後から次々と50前後の灰色の煙の筋が空から降ってくる。それらは地面へ着地すると散るように分散すると中から魔法使い達が姿を現わす。
男女、年齢問わない魔法使い達は彼の信仰者及び同士である。彼らはウィルがダームストラングで集まった集団だ。理由はただ一つ、ウィリアム・マルフォイに魅了された。
神に選ばれた才能を持ちながら、狂信的な野望を秘めながらも支配や束縛を嫌い、誰一人として強制させることはない。彼の高貴な振る舞いに惹かれ、そして彼の大きな背中に着いてきた者達だ。
「実に愚かだ。お前の行動は魔法界の損失となるだろう。そしてお前は俺様に勝てぬ。」
ヴォルデモートは冷酷に言い放った。彼らを完全に敵として認識したらしい。
「だろうな、俺は君に勝てない。だが少し考えてた。強さは何かと思考を巡らせた。」
ウィルは杖を握る指に力を込める。そしてそれを身体の前に持ち上げるとジッと感慨深そうに見つめた。意味深な若者の言葉に彼は興味を抱く。
ウィルはゆっくりとヴォルデモートへ歩いていく。
「トム、君は鍛錬の果てに夜が明けたことは?」
「・・・は?」
ヴォルデモートは予想外の言葉に戸惑いを覚えた。それと同様にウィルの言葉に共感することができなかったのだ。
「己を強くしてくれた者に感謝の意を示したことは?」
「自分以外の誰かへ敬意を表したことは?」
ウィルは矢継ぎ早に淡々と質問する。しかしトムはなにも答えない。ウィルの進んできた道は決して一人では来れなかった。そうだ。自分の為に長年磨き続けていた叡智を見返りを求めることなく差し出してくれた。
「ないよなぁ?」
ウィルの視線は鋭くヴォルデモートを貫く。それが自分と彼の違いだとわかっていた。
「だからよ、俺は・・・
誰の想いも背負っちゃいねぇお前に
負けるわけにゃぁいかねぇんだよ。」
なぜ自分にそうしてくれたか。全ては想いだ。誰にでも与えるわけではない。自分に期待して信じてくれたからだ。だからこそとてもかけがえのない事なのだと心に刻まなくてはならない。
そして自分が折れる事は彼らへの冒涜だ。ウィルは心の底からそう思っている。
「だとしてもだ、お前は万全か?愚かにも思いつきの行動で。」
ウィルの感情的な姿に少し驚きつつも、冷静に彼を問い詰める。
「・・・それが1番の問題だ。たしかに準備不足だな。でもまぁやるしか・・・。」
「ねぇかッッッ!!!」
ウィルはローブから左手で素早く取り出して、なにか小さな緑色の何かを投げた。ヴォルデモートはごく僅かに怯んだ。杖ばかり警戒しており、まさか先手が投擲とは思わなかった。
「“
投げられた何かはバケツほどの大きさに戻ってヴォルデモートへ迫る。それはサボテンのような灰色の植物のように思える。針の代わりにおできのようなものが無数に存在する。
醜い植物にヴォルデモートは反射的に“粉々魔法”を使用して破壊する。しかしその植物はまるで爆発するように暗緑色の液体を四方八方へ噴出した。
その汚い液体はヴォルデモートに覆いかぶさるようにまとわりついた。
「クッサっっっッッッ!!!」
ヴォルデモートは鼻をすぼめながら叫んだ。腐った堆肥のような匂いが彼を包み込んだからである。
“ミンビュラス・ミンブルトニア”
ウィルがホグワーツ時代に同じ部屋にいたネビル・ロングボトムが育てていた魔法植物である。その種をウィルは譲り受けていた。
ウィリアム・マルフォイ
この世で最も魔法に愛された天才の1人
そして戦いの手段を選ばぬ者
そして誰よりもよりよき