灰色の獅子【完結】 続編連載中 作:えのき
〜医務室〜
ウィルが目を覚ますと全身が気だるく、少し後頭部が痛む。どうやら完全に寝過ごしてしまったらしい。揺れ動く意識を保つために起きあがらず、ジッと待っている。すると周囲に沢山のお菓子や食べ物、手紙や本などが置いてある。
「は…なんで?」
マルフォイ家からの差し入れかと思ったがあまりにも多過ぎる。それに見たことのないものばかりだ。その中でウィルの好物である蜂蜜味のフィナンシェがあった。自然と右手で取ろうとするが、いつもより重く感じるものの障害なく取ることができた。
まぁいいか。と袋を開ける。ウィルは笑顔でフィナンシェを食べていると、昨日の事を思い出した。突然耳の奥が真っ赤になり、マクゴナガルとどんな顔をして会えばいいのかわからなかった。
頭の中で自分の振る舞い方を考えた、やはり授業の態度は今までと同じようにするつもりだった。自分の見栄よりもマルフォイ家の方が大切であるからだ。
でもせめて、クィディッチだけは本気でプレーしようと決意した。
***
〜大広間〜
午前の授業が終わる鐘の音と同時にウィルは退院した。そして食事の為に大広間へ向かう。マクゴガナルに昨日の非礼を詫びようと席に座らず、前に座る教師陣の方へと進んでいくと突然沢山の生徒達に取り囲まれる。
ウィルは瞬時に身構えて杖を取りだす寸前の状態を取るが、その生徒達が一斉に拍手をした。すると取り囲んでいなかったグリフィンドールの生徒達はウィルの存在に気がつくと立ち上がって手を叩き始める。ウィルが困惑して周囲を見回すとハッフルパフやレイブンクローの生徒達も加わっている。
戸惑うウィルは皆が自分に対して賞賛の言葉をかけてくる事で初めて気がついた。自分の行動が認められたのだと。
決して褒められるために動いたのではない、ただネビルを助けたかっただけだ。彼は背中がむずむずするような感覚を覚える。
やがてネビルがこちらにやってきて握手と感謝の言葉をウィルへ述べると皆は解散して食事の時間を待った。そしてマクゴガナルの方をチラリと見ると彼女はにこりと笑った。
そしてすぐに食事の時間となったため、ウィルはマクゴガナルの元へ行くのを諦め食事を取ることにした。ハーマイオニーの隣に座り本についてのお礼と感想を伝えようとするが、今まで一度も会話してないはずの子達から飛行訓練での話やクィディッチの代表選手になるのかなどと聞かれる。
ウィルは少し不快に思ったが、そこまで悪い気はしなかった。その対応をしたためハーマイオニーは無言で食事を続ける。そしてすぐに終わらせて出て行った。ウィルはその事に気づいていたものの、周囲の人に捕まり追いかけることができなかった。
マクゴナガルはウィルが周りの生徒と打ち解けているのを見て微笑ましく思うと、そのまま立ちあがり、大広間から出ていく。
彼女の背中を見つけたウィルは自分を取り囲む人達から逃げるようにその場から離れる。そして扉を出た。
「マクゴナガル先生!」
ウィルはマクゴナガルを呼び止め、走って目の前までいく。
「どうしましたウィル?」
「えっと、その先日は失礼しました。」
ウィルはお辞儀をして謝罪をする。
「なんのことでしょう?あぁ昼休みの時間にクィディッチ場へ、詳しくはMr.ポッターに聞くといいでしょう。」
ウィルは感謝しますと伝え、お辞儀をすると自分の部屋へと戻った。そしてハリーの帰ってくるのを待ち、彼に尋ねる。すると昼休みの時間にグリフィンドールのクィディッチチームのキャプテンであるウッドにレクチャーをしてもらうとのこと。
話はマクゴナガルからハリーに伝えてあったらしく、2人で演習場へ向かった。
ウッドから軽くクィディッチによるレクチャーののち、ウィルはクアッフルをゴールに投げてみろと指示した。彼のポジションはキーパーであり、自分からゴールを奪ってみせろと言った。
***
〜数時間後〜
マクゴナガルが自室で雑誌を読んでいると激しくノックがされる。彼女は少し驚きはするものの、雑誌を机の引き出しにしまう。そしてどうぞと言うと、汗だらけのウッドだった。彼はとても興奮しており鼻息が凄く荒かった。
「いったい、どうしたのですか?」
「先生!あの2人は天才だよ!ハリーは生まれながらのセンス、それに磨けばもっと光るだろう!」
ウッドはまくしたてるようにマクゴガナルへ語り始める。彼女は満足そうにそうでしょうと言った。
「それよりも即戦力なのはウィリアムだ!」
チェイサーは3人いてキーパーは1人だ、どうみても自分の方が有利。全てセーブしてキャプテンとしての尊厳を得ようとした。
だがウィルは自分が思っている以上にチェイサーとしての力量があった。左右に揺さぶったり、回転をかけて変化を加えたりするのは序の口。
それから右利きなのに突然左手で投げたり、視線やフォームを変えてフェイントを織り交ぜて次々とゴールを決めた。
更には箒から跳躍してゴールを狙ったりさえもした。
誰からも指導されず、プロの試合も見ない彼は自分のやりたいようなプレーしかしない。つまり我流で癖が強いということだ。通常であれば非効率であるはずなのに、彼は効率的なフォームの誰よりもウッドからゴールを奪ってみせた。
ウィルの身体能力と運動神経の高さは飛び抜けている。だが致命的な弱点があるとウッドは語った。
彼には体力がなかった。
そしてウィルの練習メニューはランニングと腕立てが8割となった。
***
次の日
ウィルはウッドとの対戦後、すぐにクィディッチの代表メンバーに選ばれた。ハリーも同時にシーカーとしてスタメン入りしたが、常にウィルだけ取り囲まれていた。同級生はもちろん上級生も混じっていた。ウィルはいい加減うんざりしていたが、常に笑顔で対応をしていた。
そのせいかハーマイオニーと過ごす時間が減り、図書館で本を読む際もつきまとわれて迷惑していた。ウィルは一時的なもので、もうしばらくすれば落ち着くだろうと思っていた。
朝食の時間ですらウィルにばかり話しかけようとする生徒が後を絶たず、早めに待機してた子は自分の隣に座らせたがった。
「ウィルって彼女とかいたりするの?」
今日は年上の女子生徒に囲まれて質問攻めにあっていた。ウィルはホットケーキをナイフで上品に切りながら、どう答えるのが理想なんですかね?と笑顔で返事をする。
「いやいや、あのマルフォイ家よ?許嫁もいてもおかしくないわ。」
「婚約者なら募集中ですよ。僕は早く子供が欲しいんですよね。」
この言葉は嘘ではない。ウィルは意外と世話焼きな性格で、名門の家同士で行われるパーティで退屈そうな小さな子供の面倒を自ら進んでよく見る。そして無邪気な彼らで心の膿を流していた。
ウィルは朝食を終え上級生から解放されると、ハーマイオニーと合流する。なぜかいつもより少し不機嫌だった。そしてハリーとロンをジッと少しだけ睨んだ。
何かあったのかと尋ねても彼女は答えることがなかった。
ウィルは答えることを強要せず、フリットウィックの呪文学の授業に臨んだ。今回は浮遊呪文を学ぶらしい。先生が呪文とコツをレクチャーすると生徒一人一人に羽が与えられた
「“ウィンガーディアム・レヴィオーサ”」
ウィルは呪文を唱え、羽を宙へ浮かせる。フリットウィックはキーキーした声でウィルを褒め称えた。それから彼は教科書を退屈そうに読み進める。
「ん、んっ!“ウィンガーディアム・レヴィオサー”!」
ロンは威張ったように呪文を唱えるが、羽はピクリとも動かない。
「発音を間違えてるわ。いい…?『レヴィオーサ』よ。貴方のは『レヴィオサー』。」
「じゃあ君がやってみろよ。」
ハーマイオニーがロンの間違いを指摘すると彼は少し苛立ちを覚えて言い返す。
「“ウィンガーディアム・レヴィオーサ”」
すると羽はふわりと浮いた。フリットウイックは彼女も褒め讃える。するとロンは気に食わないという表情だった。
授業を終えて教室から出ていくとロンは大げさな仕草で真似る。
「いい?レヴィオーサ、貴方のはレヴィオーサーァ。だから友達がいないんだ。最近はウィリアムにも愛想つかされたみたいだし。」
するとロンの隣にいたハリーにぶつかって追い抜いていった。ハリーは本人に聞かれてしまったと焦った。ロンは少し気にした様子だったが、なんてことないと強がってみせる。
「おいウィーズリー。」
ロンは突然後ろから肩を掴まれる。その声の持ち主がウィルだと理解すると、少しバツが悪いような顔をする。
「恥を知れ。彼女に謝るまで許さねぇからな。」