灰色の獅子【完結】 続編連載中   作:えのき

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エピローグ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは?」

 

 

とても青白い世界だ。ふわふわとした空間のように感じた。不思議と居心地は悪くないようだった。身体は軽く、そしてこの世の世界ではないのだと理解した。

 

「やはり俺は死んだんだな。」

 

走馬灯のように思い出が駆け回った。しかしそれは意味がないことだと思った。そして彼は歩き始めた。ここにいる意味を探るためである。この音のみが響く世界を彼は進む。

 

すると目の前に西洋風の建造物らしき物が見えた。それが遠いのか近いのかそれはわからない。近づくにつれて彼にその建物は教会のようだと理解した。

 

 

大きな扉の前にやってくると、それはゆっくりと開いた。彼自身が扉に触れたわけではない。それは彼が開けたいと思ったからだ。

 

 

 

「よぉ小僧。」

 

小太りの老婆だ。彼女は葡萄酒の瓶を片手に教壇で胡座をかいている。彼の知る人物の姿がそこにあった。

 

「・・・お久しぶりです、ジェニスさん。」

 

偉大なる魔女、ジェニス・マクミラン。彼女は既に死んだはずである。

 

「ウィル・・・、でかくなったねぇ。」

 

ジェニスはかつての弟子のウィルの姿を見た。懐かしむように彼女はそう呟いた。ずっと見守ってくれていたのだと彼は考えた。

 

「ここはどこですか?」

 

ここがあの世、つまり地獄であると考えた。

 

「どこだっていい。ここはリンボ(・・・)と呼ぶのが近いだろうねぇ。つまり現実世界と死後の世界の中間だ。」

 

その言葉にウィルは納得した。彼女も自分も死んでいる。しかし疑問は彼女だけここにいることでだった。

 

「そうですか、あとなぜここに?」

 

「悪いが時間がない、よく聞くんだ。」

 

彼女はそう遮るように口を挟んだ。

 

「罪を償う為さ。どうやったかというと、私は死ぬ前にお前の魂へ私自身を刻んだのさ。」

 

彼女は寿命が尽きる前にウィルに魂を注ぎ込んだ。そして彼の寿命を迎えるまでリンボで待ち続けることにした。自分の育てた弟子がどう育ったかずっとここで見守っていたのである。

 

「私はお前に道を示した。つまり人の道を踏み外さぬように洗脳したんだ。お前という個を殺すように仕向けた。」

 

自分を虐めた連中へ復讐をする練習として野うさぎを岩で殺そうとしていたあの少年、ウィリアムの自我を奪って普通の人間にする為に強制したのである。

 

そのせいでウィルに彼自身にとって不利益な結果をもたらしてしまったと続ける。

 

「お前は自分の命を軽視(・・)している。」

 

その言葉にウィルは表情を曇らせる。そして彼は反論する。

 

「そんな事はありません。僕は自分の為に大切な人達の為に生きたいと思ってる。」

 

「では、なぜ分霊箱を作らなかった?死ぬべき存在だと思ってたからだ。ヴォルデモートと戦うのであればそれは必須、お前もわかっていたはずだ。」

 

図星であった。彼もわかっている。事実、彼が分霊箱を作成してヴォルデモートのように隠していれば彼が死ぬ事はなかった。それはルーナやハリー、ハーマイオニー達のように大切な人々を守るという意思がなかった。実際に彼はヴォルデモートと共に死ぬことを選んだのである。

 

「かつて僕は賢者の石を得ようとした。永遠の命を求めた。」

 

ウィルは彼女の突きつけた現実を受け入れたくはなかった。正論であるからだ。人の土俵に立たない強敵に対して、それも格上の相手に対して、限りなく負けない方法を知っていながらも行わなかった。

 

「違うよ。あれはお前自身の為じゃない。お前は私を生き返らせようとしたのさ。」

 

「・・・。」

 

少し嬉しそうな表情を浮かべていた。彼がホグワーツで入学したばかり、1年生の時にハリー達から永遠の命を得るという“賢者の石”がホグワーツに隠されていると知った。そしてそれをヴォルデモートが手に入れて復活しようとしていると聞いた。

 

当時の彼はそれを横取りする事を目論み、そしてハリー達を残して自分一人で隠し場所へ向かった。それは自分を真っ当な人間にしてくれたジェニスを蘇らせる事ができるかもしれないと思ったからだ。

 

「お前は命をナメてんだ。」

 

ジェニスは冷たく言い放った。現実から目を背けるなという意図を含めた言い方であった。その一言でウィルは黙るしかなかった。

 

彼の幼年期、スラムの孤児院で育った。親、故郷、家柄全て知らない。知っているのは自分のウィリアムという名前。誰が何のために自分を産んだのか、自身の存在の意味を知らなかった。穢れた血と蔑まれ、常に死と隣り合わせの生活だった。数少ない食事は自分に届く事はなく、スラムの街で調達した。生きる術を復讐の為に見出して育った。最も軽んじられるのは弱い命だ。それを知っていた。

 

「僕の選択は正しかったのでしょうか?」

 

彼は世界についての選択を迫られていた。ジェニスの与えられていた預言、偉大なるカッサンドーラ・トレローニの彼の選択次第で世界は“破滅”か“安寧”をもたらす事になる。

 

だからジェニスはその選択を遅らせるように育てた。より正しい結果を導く為である。周りの意見を聞き入れる。一方的な意見は傲慢だと躾けた。そして良からぬ他者から影響されないように自分自身を保つ事ができるようにした。

 

「言うまでもないよ。正しい選択かは誰にだってわかりゃしねぇよ。未来を見届けるんだ。お前自身の目で、それが大事だ。」

 

「僕は戻れるのですか?」

 

ウィルは彼女の言葉を聞いた上でそう尋ねる。自分は死んだのだ。その言葉に意味のない事だと言いたかった。

 

「お前がそう望むのならね。だが半端な気持ちで行くんじゃないよ。」

 

「・・・。」

 

ジェニスの言葉の意味がわからなかった。戻れるならばなぜ彼女は戻ってこなかったのだろうか。だが彼女は嘘をつかない。信じてすがるほかに彼に選択肢はなかった。

 

「僕は貴方が偉大な魔女だと世界に知らしめる為に、世界を正しく導こうとした。」

 

彼の最初の生きる意味はそれだった。やがてマルフォイ家、そしてルーナやホグワーツを守るため彼は行動した。

 

「そうだ。だがお前は死んだ。だから次は私の為なんかじゃない。お前の為に生きるんだ。」

 

ジェニスは初めから彼の気持ちは分かっていた。彼自身の背中を押すために欲しい言葉を的確に与えた。

 

「さぁ行きな。」

 

彼女はあっさりとそう言った。

 

「ありがとうございました。僕は貴方のお陰で大切な人達に会えた。感謝以外の気持ちは何一つとしてありません。」

 

ウィルはジェニスへの気持ちを伝えた。彼女がいなければ野垂れ死んでいたと知っているのだ。

 

そう言い終えるとウィルの姿は少しずつ消えかかっているように見えた。リンボの世界から抜けようとしているのだろう。

 

「ウィル、私はお前を誇りに思う。」

 

彼女の言葉をウィルは聞終えるとスッとその場から消えた。この世界に取り残されたのはジェニスだけとなった。

 

「こんなに早く来やがって、まだ酒が残ってるじゃないか。不出来な弟子だよ。」

 

嬉しそうに悪態をつき、残っている酒瓶を回して中身を揺らしてみせる。そしてそれを一気にあおった。それを無理に飲み干して見せると天を仰ぎ息を吐いた。

 

「幸せになんな・・・。」

 

彼女はそう言うと身体に異変が起きた。いきなり頬から灰のようなものが待っている。まるでジェニスは呪いを受けたかのように身体が錆びていく。それはゆっくりと全身にひろがっていった。

 

「あいつの子供の顔見たかったねぇ。」

 

静かにそう呟いた。彼女はその場から跡形もなく消えた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと目を開いた。まだ彼の意識は薄っすらとしている。知っている天井だ。懐かしくて心が温まっていくようだった。心臓の鼓動と前進の血の流れを感じ、自分が生きているのだと認識した。

 

師匠の言った通りだった。自分は生き返っているようだ。あるはずの身体の感覚に違和感を感じた。彼は自分の左腕を斬り落としたことを思い出した。そして自分のベッドの周りに何人かの人の気配を感じた。誰もが無言で葬式のような空気が漂っている。

 

 

彼はゆっくりと身体を起こした。すると隣に見えたのはブロンドの髪の少女だ。大きな2つの瞳はウィルを見ており、大粒の涙をボロボロと零した。

 

異変に気付いた人達は一斉にウィルの方向を見た。彼らは目を見開いていく。ルーナ、ハーマイオニー、ハリー、ネビル、そして椅子に座って居眠りをしているドラコだった。

 

「あ〜・・・ただいま。」

 

ウィルがそう言うと友人達が一斉に声をあげて抱き締めようと飛び込んだ。彼は締め付けられ苦しかったが、その痛みですら愛おしく感じた。一気に騒がしくなりドラコがびくっと反応して起きあがった。そして自分がウィルを抱きしめるのに出遅れたのだと理解する。ドラコは自分も加わりたいがハリー達と気まずいのか挙動が不審だった。

 

「ドラコ、お前も来いよ。」

 

ウィルは笑いながらそう言った。するとドラコは恐る恐るウィルを抱きしめた。ハーマイオニーやルーナの顔が自分に近づき、彼はそわそわしている。

 

「およしなさい。ウィルを殺す気ですか?」

 

聞き慣れた声で彼らは大人しくなった。ゆっくりとみんなはウィルから離れていく。

 

「先生、お待たせしました。」

 

そこにはウィルの恩師、マグゴナガルがうっすらと瞳に涙を浮かべて笑っていた。

 

「ウィル、私も信じていましたよ。」

 

 

 

***

 

 

 

 

2日後

 

 

 

 

あれから時間が経った。遠い昔のようにも感じた。それもそうだ。破壊された学び舎はホグワーツを愛した卒業生や生徒達がレパロを使って全て修復した。味方であろうと死喰い人であろうと一人ずつ死者に尊厳をもって埋葬した。少しずつではあるが皆が負った傷は治っていくのだろう。

 

 

ウィルはマグゴナガルから誘われて校長室でお茶を飲んでいた。ここでの話が終われば彼は学校を出るつもりであった。

 

茶菓子はフィナンシェをマグゴナガルに頼んで取り寄せてもらった。やはり彼はこれが一番の好物だった。

 

 

「我々一同、貴方がなぜ生き返ったのか?それが疑問でした。」

 

マグゴナガルはウィルへそう切り出した。

 

「私の目にも貴方の体に剣が貫かれ、出血をしたのを見ました。しかしポンフリーは貴方からは傷跡も、血を失った形跡がないと言っていました。」

 

不可解な出来事が起きていた。ウィルが蘇生したのもおかしいが、傷や痕跡が残っていないのはありえない。

 

「おそらく、分霊箱(・・・)。そうですね?」

 

ウィルはそう言った。ヴォルデモートが行なった不死になる為の闇の魔術。

 

「えぇ、その通りです。」

 

「分霊箱の発動条件は“殺人”、そして自分の魂を納める“器”。」

 

もちろんウィルは分霊箱の発動方法を知っている。マグゴナガルもまた同様である。

 

「殺人はヴォルデモートで満たした。ですが問題は器です。魂を仕舞う為に複雑な手順があるはずです。」

 

ウィルはその正解に辿り着いていた。その答えを彼は語った。

 

「器はグリフィンドールの剣。手順は踏まなくてもいいでしょう。」

 

ウィルとヴォルデモートの死因となった剣である。その剣が分霊箱になったのだろうと彼は結論付けた。

 

「グリフィンドールの剣は斬った存在の力を吸収する。」

 

グリフィンドールの剣は自分自身を強化する存在を切った場合はその性質を持つ。もし分霊箱を剣が斬っていれば、剣は分霊箱となるのだ。

 

実際はおそらく分霊箱としてではなく、それにかけられていた保護魔法を吸い取ろうとした。その際に分霊箱の性質を一緒に吸収してしまった。あとは魂さえ注ぎ込めば分霊箱が完成する。

 

問題は剣が分霊箱を斬ったがどうかであるが答えは出ている。

 

「貴方やポッター達は分霊箱を剣で破壊しました。この時に分霊箱の性質を吸収した。あとは発動条件の殺人を待つ状態となった」

 

殺人という行為に及べば魂は斬り裂かれる。そしてウィルは死ぬ間際に生きたいと願った。彼自身の魂の一部が分霊箱の器となり得る剣へ入り込んだのである。

 

2人の間に長い沈黙が訪れる。彼自身の意図せぬところで彼は不死の呪いを受けた。しかし彼からは闇の呪いの匂いを感じなかった。

 

それはジェニスのおかげなのだろうとウィルは思った。なぜなら彼は突然フィナンシェが恋しくなったからだ。

 

 

 

 

 

 

「・・・トムは人として死ぬことができたんですね。」

 

少しの間ののちにウィルは呟いた。

 

「将来の進路はどうするつもりですか?」

 

いきなり就職活動前の学生のような話題となった。ウィルは拍子抜けをしてしまう。自分は働かなければならないと思った。戦争の前にルーナと婚約をした。だからお金を稼ぐ必要がある。

 

「どうするかはこれから決めます。あの少しダンブルドア校長先生とお話ししててもいいですか?」

 

「えぇもちろん。」

 

ウィルはそう聞くと立ちあがった。そして彼は歴代の校長の肖像画が並んでいる部屋へ移動する。ダンブルドアの次の校長はスネイプだったが、彼の絵はない。

 

ウィルが目覚めた後、スネイプが実は味方でスパイをしていたのだと聞いた。そしてヴォルデモートに殺されたとも、彼は勇敢な魔法使いだった。

 

その事実を聞いた時は激しく胸を痛めた。だが結果は覆せない。彼はないはずの自分の左腕撫でた。スネイプから教わった呪文で斬り落とした。断面に触れるだけで不思議と思い出が蘇るようだった。

 

 

 

 

 

 

「先生。」

 

青い瞳、長い白い髭を蓄えた人物。前校長のアルバス・ダンブルドアである。死ぬ前とわからない姿で肖像画となって生きている。

 

「儂の記憶では君が儂を先生と呼んだのは初めてじゃろう。」

 

ダンブルドアは笑みを浮かべてそう言った。

 

「人が悪い。それより先生はここまで見えていたのですか?」

 

彼は自分より遥かに賢人である。だから全てダンブルドアの手のひらだったのではないかと思い質問した。

 

「いいや、全くじゃ。」

 

ウィルにはその答えが嘘か本当かわからなかった。

 

「まさか君がトムを友として、そして心中するとは恐れ入った。見事な男じゃ。」

 

ダンブルドアはそう言った。彼がトム・リドルに教える事ができなかった愛を、ウィルが自分の命をかけて与えたのだ。

 

「史上最悪の闇の魔法使いですら見捨てず手を差し伸べた。君は誰よりも優しい男だ。」

 

少しの間を置いてダンブルドアは含みのある言い方をする。

 

「向いておるじゃろうな。」

 

「なににですか?」

 

言葉の真意を読めず、ウィルはそう聞く。

 

「なに年寄りは遠回りな事を好むだけじゃ。」

 

しかしダンブルドアは秘密主義である。やはり答えは教えてくれない。ウィルはそう察してロープから杖を取り出した。

 

「これを・・・、ハリーと話して先生の意見を聞くべきだと。」

 

ヴォルデモートとの決着の末に得た世界最強の“ニワトコの杖”、この杖はウィルが所有していたヴォルデモートから勝ち取った代物である。だが元を正せばダンブルドアの物だ。

 

「儂にはもうそれに触れる事すらできぬ。君が持ってくれるとありがたいの。君に勝る警備はないじゃろう。」

 

「しかし・・・。」

 

ウィルへダンブルドアはそう言った。彼もまたかつてグリンデルバルドとの決闘の末に勝ち取ったのだ。だから持っていたとはいえ永遠に自分の物ではないのだと言いたいのだろう。

 

「ならば悪用されぬよう君が守ってくれ。」

 

「わかりました、では失礼します。」

 

ウィルはそう言うと彼はその場から立ち去ろうとする。扉から出ようとした時だったり

 

「ウィル、礼を言う。君のおかげで世界は救われた。」

 

その言葉を聞いてウィルは振り返る。彼の表情からそれは心からの言葉なのだと容易に読み取れた。彼は会釈をしてその場から離れた。

 

 

 

 

そしてマグゴナガルの元へ戻ると、ウィルはお別れの言葉を伝えて校長室から立ち去ろうとした。

 

「ウィル、お待ちなさい。貴方にまだ罰則を与えてません。」

 

彼女は意地が悪そうにそう言った。笑みを浮かべながらお茶目に言った。

 

「お忘れでなかったのですね。」

 

ウィルも笑みを浮かべてそう言った。すると彼女は普段通りの真剣な表情に変わる。

 

「貴方を・・・。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

その後、ウィルはホグワーツの高台に登り時計台の上へやってきた。ここからの景色を眺めたくなったのである。

 

かつてこの場所で一人で勉強していた。他の生徒達に邪魔をされるのを嫌ったからである。だが今は一人じゃない。

 

 

 

「ハーイ、ここにいたの?ウィル。」

 

ウィルの背後からそう聞こえた。まもなく妻となる女性に対して彼は優しそうな笑みを浮かべていた。今日、ウィルは退院してホグワーツを出る予定だった。迎えとして彼らがやってきたのである。

 

婚約者のルーナ、義理の弟のドラコ、友人であるハーマイオニー、ハリー、ロン、ネビルがそこにはいた。

 

「寂しくなったわね。」

 

ハーマイオニーはそう言った。校舎は元どおりになったのはいえ、死人までは帰ってこない。その言葉にハリーが口を開いた。

 

「あぁ、でも僕達は一人じゃない。」

 

 

 

不思議と静かだった。ウィル達はぼんやりと空を見る。戦争によって日常を失った学び舎とは正反対の何一つ変わらぬ空だ。

 

世界から見ればちっぽけな損失で、人類から見ればちっぽけな命で、歴史から見ればちっぽけな変化なのだろう。

 

失ったといえばごく僅かなのかもしれない。そうだとしても、いやそうなのだろう。今日も何も変わらぬ空を見ている人達はいる。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

〜19年後〜

 

 

 

 

【ホグワーツ魔法魔術学校】

 

 

 

 

 

今年もまた新学期が始まる事となった。新入生の組分けの儀式を終えて最初の大広間での食事となった。初々しい新入生達を歓迎するように各寮の先輩達が自己紹介やホグワーツの説明をしていく。

 

有名なハリー・ポッターの息子であるアルバス・ポッターもまたその輪の中にいた。スリザリンに選ばれた彼は複雑な気持ちでその席に座っていた。偶然にも汽車の中でできたスコーピウスという友人が同じ寮だったので少し安堵もしていた。

 

 

「おい、蛇姫(へびひめ)!こっち来いよ。」

 

アルバスとスコーピウスの近くにいた高学年の上級生がそう言った。その監督生は女の人だった。長いブロンドの髪で茶色の瞳だ。とても綺麗な女子生徒でアルバスは彼女に見惚れてしまう。

 

「あ、新入生達。この馬鹿の話は聞かなくていいからね?私はジェニス、スリザリンの監督生よ。」

 

蛇姫と呼ばれた彼女のローブには監督生のバッチが輝いている。とても綺麗で優しい声をしていた。でも案外口が悪い。

 

「やぁジェニス。」

 

「久しぶりね、スコーピウス。」

 

2人は知り合いのようだ。話を聞いてみるとどうやら従兄弟の関係らしい。そしてスコーピウス、アルバス、そして隣にいた名前を知らない新入生にも握手を交わす。

 

アルバスは有名な父親の話をしない彼女に驚いた。どこへ行っても偉大なるハリー・ポッターの話ばかり聞かれてきた。正直ウンザリしていた。彼女は特別扱いせず自分をただのアルバスとして接してくれていると嬉しくなった。

 

 

 

アルバスはマグゴナガル校長の隣の席が空いている事に気がついた。教師陣は横並びで食事をとるはずだ。入学前からの知り合いである薬草学のネビル先生もそこにいる。

 

「あのあそこは?」

 

アルバスはジェニスにそう尋ねた。

 

「あ〜、いつも空席なのよ。まぁいずれわかる(・・・・・・・・)わ。」

 

彼女は気まづそうに言葉を濁すと、すぐに話をそらしてしまった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

同時刻

 

 

 

〜ある教室〜

 

 

 

 

 

ホグワーツにある広い教室で魔法使いがそこにいた。1人しかいないはずなのに誰かと会話しているようだった、

 

「いつまで続ける気だ?」

 

ねっとりとした声だ。神経質そうな声でそう言った。テーブルの上に写真立てが置かれており、そこに小さな肖像画が差し込まれている。その人物はまるで生きているようだった。

 

「先生、僕は今で満足してます。」

 

その魔法使いはそう言った。しかし肖像画の男は不服そうだった。

 

「あの小娘の支援ではなく、お前が魔法大臣になるべきではないか?」

 

その言葉に魔法使いは笑った。

 

「先生、もう小娘じゃないです。娘が今年入学しましたよ。それにハリーの子も。」

 

彼がそう言うと男は複雑そうな顔をして口を紡いだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

次の日の朝

 

 

 

 

アルバス達はグリフィンドールとの合同授業である教室に来ていた。初めての授業で彼らはそわそわしているとハンサムな若い男の人が教室に入ってきた。

 

年齢的に見ると最上級生のように見えた。助手なのではないかと近くの生徒が言っている。なぜか寮を示すローブを身につけていない。動き易そうなシャツを身にまとっていた。

 

入るや否や杖をくるくると振るって窓のカーテンを閉めたり、照明を調整したりする。また床に落ちていたゴミが塵となって消えたり、出しっ放しになっている貸出用の教科書がスッと本来の場所へ戻っていく。

 

新入生は素早い呪文捌きに目を奪われて歓声をあげる。彼はそれを意に返さずに教卓の前に着いた。

 

「あの!ウィリアム先生はいらっしゃらないのですか?」

 

いきなり手を挙げて立ち上がって1人の女の子がそう声をあげた。グリフィンドールに組分けされたアルバスの知っている子だ。

 

ローズ・グレンジャー、アルバスの父親の親友の娘である。

 

「ん?あぁそうか。とりあえず座りなさいミス・グレンジャー。」

 

その彼は彼女の名前を知っていた。知り合いなのかと思ったが、ローズはなぜ自分の名前を知っているのだろうという顔をしていた。

 

「よく覚えておきなさい。闇の魔術にかけられた品は見た目だけでは判断できない。この僕が身をもって証明している。」

 

とても真剣な表情で彼はそう言った。今気がついたが彼には普通の人にはあるはずの左腕がなかった。そのせいで一気に教室が静まり返った。

 

まぁいずれわかる(・・・・・・・・)よ。」

 

重い空気を察知した彼は取り繕うようにそう言った。アルバスは同じ台詞を昨日聞いたばかりだ。ジェニスの言っていた意味がわかった気がした。今、気がついた彼女と同じ茶色の瞳をしている。

 

やがて彼は名簿にある名前を読みあげて点呼を始める。生徒達は先生の声に耳を傾けて自分の名前を呼ばれたら返事をする。やがてアルバス・ポッターの名を呼ばれ彼は返事をする。

 

ざわざわと騒がしくなるが彼は静かにと一度言うと、何1つ変わらず次の子の名前を呼んだ。彼はハリーポッターの息子ではなく、アルバス・ポッターとして接してくれるらしい。それが嬉しかった。

 

 

やがて全員の名前を呼び終えると彼は名簿を閉じて引き出しにしまった。

 

 

 

 

 

 

 

この世に悪人はいない

あるのは不公平だけ

僕は今もこう言うだろう

だから等しくすべきだと

それは今も変わらない

 

正しい選択を選ぶのは難しい

選択ってのはいつでも決められる

大いに道草を楽しむものだ

道を歩めばその道が

正しいか正しくないか

自然とわかる

間違えたら引き返せばいい

 

 

答えは今でもわからない

だけど1つだけ平等な世界を見つけたんだ

ずっと近くにあったのに気がつかなかった

機会も試練も同じように与えられる場所を

 

僕の求める世界はここなんだと思った

【魔法魔術学校ホグワーツ】

環境は違えど、学び舎では皆が同じ平等だ

だからそれを支えるのはやりがいがある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ自己紹介がまだだったね。」

 

隻腕の魔法使いは思い出したかのような表情を浮かべる。

 

「僕が【闇の魔術に対する防衛術】を担当するウィリアム・マルフォイだ。」

 

その言葉に生徒達はどよめいた。ホグワーツで最も有名な教師だ。その正体がとても若い魔法使いなのだと思ったからだ。

 

ホグワーツで副校長を務めている彼はかつて闇の魔法使いを倒した功績でマーリン勲章一等を授与されたのを皮切りに、ホグワーツに教師として就任。それから19年間教鞭をとり続け画期的な論文を多くの分野で発表して高い評価をうけていると有名だ。

 

またメディアでの露出を嫌っている。外出する際は顔を常に魔法で変装しており、例外として家族の前、またホグワーツでのみ素顔を見せているがその姿も変身なのではないかと噂されている。

 

だがアルバスには分かっていた。この先生の素顔は本物で、あの蛇姫と呼ばれた生徒が娘なのだと思った。昨日、彼女が家名名乗らなかったのはそう言うことだろう。そうであれば全ての辻褄があうのだ。

 

そうアルバスが一人で考察を終えて笑みを浮かべているとウィリアム先生と目があった気がした。とても優しい目をしている。

 

 

 

「それでは授業を始めようか。教科書は4ページだよ。」

 

ウィルは優しい顔で、くしゃりとした少年のような笑顔で笑った。

 

 








“灰色の獅子”完結しました。
ここまで読んでいただき
本当にありがとうございます。
心から感謝しています。

これが自分の描きたかった結末です。
3年前に投稿を始めてから
やっと完結させる事ができました。
今は達成感があると同時に
寂しい気待ちがあります笑



ぜひ感想や評価お願いします。

まだ書き残している部分があります。
最終章の解説を書いた後に
ダームストラング編、2部という名のスピンオフを
書けたらいいなと思っています。
書き切ると約束はできませんが
モチベーション次第で進めます。

最終章について

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  • 納得できない
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