灰色の獅子【完結】 続編連載中   作:えのき

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クィディッチ

 

 

 

 

 

 

 

〜“魔法史”教室〜

 

 

 

 

魔法界での歴史を伝える授業だ。教師はカスパート・ビンズ、ゴーストである。ある日死んだ彼は自分が死んだ事に気がつかず、幽霊となって教壇に立って授業をしたという逸話がある。

 

新入生たちにとっては彼による初めての魔法史の授業を受けていた。1人の生徒がピンズの質問をする。“最強の魔法使い”は誰か?

 

ジェニスは眉をピクリと反応させる。ちらりと横を見るとルドルフもほんの僅かだが目をギラギラさせている。2人は血の気が多いらしい。

 

 

「最強の魔法使い、そうですね・・・」

 

その教室にいた新入生達は先生の言葉に注目をする。彼らが思う最強を各自、思い浮かべているからだ。

 

「ホグワーツ四強、無敵と謳われたアンドロス、ダンブルドア校長、いやホグワーツの前代校長。それにジェニス・マクミラン、シルヴィアの師弟も捨てがたい。」

 

次々と最強と名高い有名な魔法使いの名前をピンズは挙げていく。その中に自分の父親の師匠であり、名前を貰った魔女の名前も出た。しかし彼女の考える最強の名前は出てこない。

 

「しかし間違いなく今、生存している魔法使いでと言うのであればウィリアム・マルフォイ。彼の一強です。これは間違いない。数ある伝説も当然だと頷ける。」

 

その言葉に生徒達はざわざわと騒がしくなる。それらに気にすることなくピンズは下をうつむいた。言おうか言うまいか悩んでいる様子だった。

 

「しかし見て見ぬ振りはできまい。少なくとも半世紀前にも怪物がいた。」

 

彼らは闇の時代を知る世代ではない。しかし確実に後世に伝えなければならない黒い歴史である。彼らには刺激が強いかもしれない。

 

彼の言葉にジェニスはにやりと笑った。そうだ、最強は彼しかいない。圧倒的な個の強さ、その時代を知る人達から聞いた。思想と行動は悪の化身そのものだが、当時の魔法使い達が束になっても敵わなかった。父のウィリアムですら周りの助けがなければ死んでいただろう。

 

「言うべきではないが、魔法史は書物の繋ぎ合わせ。当然中には誇張や創作も混じる。過去の全ての出来事が正しいとは限らない。」

 

彼は淡々と言い放つ。

 

「少なくとも私が生き証人として知る最強はいる。今のウィリアム先生とぶつかればわからないが最強は“例のあの人”。」

 

その通称、彼の名前を呼ぶ事ですら恐ろしいという理由でそう呼ばれた。それほどまでに強力な存在だったのである。

 

「ほんの数年前だ。ウィリアム先生は今、一対一で戦っても勝てないだろうと言っていた。これは過大ではない。」

 

ウィルは未だにヴォルデモートを越える事ができないと考えている。現実主義として有名な彼がそう言うのであれば間違いない。

 

「“闇の帝王”こそが最強だ。」

 

ピンズの言葉にジェニスはさも当然であるという反応をする。そうだ、自分はその祖父ですら超えてやる。後世に誰が最強の魔法使いかと聞かれた時、他の候補など挙げさせない。即座にジェニス・マルフォイの名を轟かせてやる。他の追随を許さぬ存在に自分がなるのだと決意をしている。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

〜クィディッチ場〜

 

 

 

 

 

 

 

魔法界での最も人気のあるスポーツ、それらクィディッチである。ルールはもはや説明するまでもない。

 

このホグワーツでも四つの寮での対抗試合が行われており、試合中はお祭り騒ぎになるほどだ。マグゴナガルが新しく校長に就任してから飛行訓練の授業に各寮より代表に選ばれたチームのキャプテンは各学年の飛行訓練を見学してもよいというルールができた。もちろんその時間帯に授業がなければの話である。

 

「やぁジェニス、君には期待しているよ。」

 

歯をセミラック加工したのか真っ白な歯を見せつけるようにキラリと笑う。スリザリンのクィディッチチームのキャプテンである。

 

「貴方は知ってる。」

 

ジェニスの瞳には微かに炎が灯っていた。

 

「ねぇ誰?この人。」

 

彼が只者ではない気がした。ローブごしでも分かる鍛え上げられた肉体、鷹のような鋭い瞳、そして爽やかな青年。彼は近くにいた新入生に話を聞く。

 

「知らないのかよ!ミヒャエル・フリント。ホグワーツ史上最強のシーカー、そして既に卒業したらプロ入り確定してる。」

 

一年生でチェイサーとして代表選手に選ばれて、後に彼が3年生の時からシーカーとして出場した試合は未だに無敗の男。ホグワーツで“皇帝”と呼ばれ、現役世代では一番有名な学生だ。

 

「貴方は昔からシーカーだったの?」

 

ジェニスはそうミヒャエルに尋ねる。

 

「あぁ、その当時は僕より優れた先輩がいたからね。彼が卒業してからは僕がシーカーになったよ。」

 

彼は白い歯を輝かせて笑いながら言った。しかしそれをジェニスは冷めた目で見ている。

 

「良かったわね、私がいるからホグワーツでシーカーとして負けることはないわ。」

 

彼女はそう彼へ淡々と言い放つ。その言葉の真意を確かめる為に彼は口を開く。

 

「なに?」

 

「私が同じ寮にいたことを感謝することね。貴方はチェイサーとか似合ってると思うわ。」

 

その言葉はあまりにも思いがけない言葉で周りの新入生達は冷や汗をかく。ジェニスはプロ入りするホグワーツ最強のシーカーより自分の方が上だと言い放った。まだ飛行訓練の授業すら始まっていないのに。

 

彼は一瞬引きつった笑顔を浮かべるが、すぐに苦笑いをしてみせる。

 

「昼休みに身の程を教えてあげるよ。誰が一番のシーカーなのか教えてやる。」

 

彼はそういうとローブをひるがえしてその場から去ろうとする。

 

「同じ言葉を返すわ。でも少し違う。」

 

背中越しに聞いていたミヒャエルはこめかみに激しく筋を入れて激昂している。それを彼女は理解した上で逆撫でする。

 

「私が最強って教えてあげる。」

 

彼はガチガチと白い歯を歯軋りさせて早歩きでその場から立ち去った。

 

 

 

***

 

 

 

〜昼休み〜

 

 

 

 

 

ミヒャエルとジェニスがシーカーをかけて模擬試合をするという噂が学校中で広まっていた為か大勢の生徒達がクィディッチ場へ集う。当然、ミヒャエルのホームである。ジェニスには罵声はないにせよ、冷ややかな視線が向けられている。

 

しかし彼女は意に返さない。有象無象の反応などどうでもいい。自分に被害さえなければそれでいいのだ。

 

クィディッチ場へジェニスが到着するとユニフォームに着替えたスリザリン生とレイブンクロー生が整列している。それに対して彼女はローブ、着替えてすらいない。

 

 

「今日はレイブンクローのチームとの合同練習だったんだ。だからハンデを渡す。」

 

彼はジェニスにそう語りかける。

 

「僕がレイブンクローのシーカーをする。君はスリザリンのチームのシーカーでいい。」

 

彼女は同意の旨を伝える。

 

「いいか?君達も手抜きはするな。僕を対戦相手と思ってプレーしろ。」

 

ミヒャエルは自身のチームへそう指示を出すと、すぐに試合開始のホイッスルが鳴り響き模擬試合が開始される。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おたくの娘さんは派手にやってるね。誰に似たんだろうね。」

 

ホグワーツのある一室でクィディッチ場の様子を水晶に投影して教師の2人は彼らを監視していた。中年の方の教師、ホグワーツの薬草学の教諭、ネビル・ロングボトム。

 

ウィルの同期、同僚でホグワーツの戦いで戦果を挙げた男。

 

闇祓い局長のハリーポッターや現魔法大臣であるハーマイオニー・グレンジャー。そして世界最強の魔法使いのウィリアム・マルフォイが属する【伝説の獅子世代】の一人だ。

 

彼ら4人が同じ年にグリフィンドールへ選ばれ、同じ寮で眠り、同じ授業を受けた。後にその7年間は伝説の獅子の世代と謳われた。

 

「そう言うなネビル。僕とルーナの悪い所が似てしまった。」

 

同じくウィルも嘆くようにつぶやいた。

 

「確かに、結果のみを求める君と自由主義なルーナ。僕は見てて面白いけどこれは流石にマズくない?止めにいこうよ」

 

ウィルの周囲を意に返さず成果を求める点と、同じく周囲を意に返さず己のやりたい事をやる点を色濃くジェニスは受け継いだ。まだ彼女が入学してから一週間も経っていない。それなのに既に全生徒の注目の的だ。

 

傲慢な態度だが授業を受ける必要がないほどの知識と実力を彼女は備えていた。幼少期からウィルの書斎で本を読み、自衛の為に叔父のドラコから魔法の手ほどきを受けている。

 

ホグワーツのカリキュラムを受ける意味はない。だが彼女は教師陣の知恵と書物の為だけにホグワーツへ入学した。あくまでも学校は最強になる為の道具にしか思っていない。

 

 

 

ネビルはジェニスが敗北して今後の彼女の学校生活が荒れたものになると考えた。

 

「なにもしなくていい。それが一番上手く。一度鼻を折らないと。将来のためだ。」

 

 

 

 

 

 

 

30分後

 

 

 

 

 

 

(・・・ありえねぇだろッッッ!!!)

 

彼は少しずつ自尊心がごがりがりと削られていく感覚を覚えた。理由は簡単だ。目の前の新入生の少女に翻弄され続けているからである。しかし経験から冷静に分析する。

 

(飛行速度は俺の方が速い。だが全て後手に回ってる。反射神経と動体視力が比じゃない。)

 

ジェニスは自分より早くスニッチを捕捉し、そして一瞬で目標へ向けて飛行する。今回もミヒャエルより先にスニッチを見つけ、自分の一瞬の隙をついてスタートする。

 

少し遅れて彼もジェニスを追いかける。彼女の先には僅かに金色に光るスニッチを見つける。彼女との距離を少しずつ詰めていく。飛行速度は彼の方が上回る。しかし彼女には敵わない。理由は一つ。

 

(スニッチの居場所を自分の姿で隠して見失わせる。)

 

ジェニスがミヒャエルの視線を自分の背中で隠して見失わせる。更に追い越すことを完璧にブロックしてみせる。

 

 

結果としてミヒャエルはジェニスの背中を追い続けることしかできない。すると彼女は突然、降下して速度をあげる。

 

(スパートをかけた。なら僕の方が早い。)

 

彼の妨害を最優先にしていたジェニスがスニッチを掴む事に専念したのだ。これが自分の勝機だと彼は見抜いた。

 

彼女は地面にすれすれに近づくと、いきなり急上昇して地面に沿って進む。ブレーキはかけずに流れに任せてスピードを保ったまま彼女は前進する。

 

しかしミヒャエルは不意の出来事に動揺を隠せない。これは自我を持つ箒に対しても良くない事だった。

 

(しまった!!!ウロンスキー・フェイント)

 

スニッチを見つけたふりをして急降下する事で、敵のシーカーを自分に引きつける。そして地面へ急降下して相手を叩きつける技術である。

 

ミヒャエルは間一髪で地面に叩きつけられるのを回避するが、その間にジェニスは余裕を持ってスニッチを掴む。

 

「もう一戦します?先輩。」

 

これで4度目の敗北。“井の中の蛙大海を知らず”という言葉がある。まさしく自分のことなのだと彼は思い知らされた。格の違いを見せつけられているのにもかかわらず不思議と不快な感情はなかった。彼女と同じシーカーとして戦うことが楽しいと思えるのだ。

 

「もちろん、もう一戦だ!」

 

そのまま試合が再び行われる。しかし2人以外の他のチームメイトは疲労を感じさせない。なぜなら彼女が試合開始数分でスニッチを掴み、試合を終わらせてしまうからだ、

 

ジェニスは反射神経が異常に優れており、スニッチを素早く見つけてしまう。しかしブラッジャーを放ち、妨害を行うビーターが彼女を捉えるどころか足どめにすらならない。

 

だが今回の試合は5度目にして初めてミヒャエルはジェニスより早くスニッチを発見し、箒を加速させる。

 

(飛行速度は僕の方が早い。これはもらった。)

 

彼は勝利を確信しつつも油断せず、スニッチを捕まえようと飛ぶ。しかし彼は突然、稲妻のように早い気配を感じた。

 

ジェニスはミヒャエルからまるで よこどりをするように真横からスニッチを掴んでしまったのである。

 

「完敗だ、何一つ及ばない。」

 

彼は不思議と晴れやかな気持ちだった。そうつぶやくとゆっくりと着地して地面に足をつける。そして同じタイミングで箒から降りたジェニスの方へ歩く。

 

彼女の手に掴まれたスニッチを一瞥すると自然に笑みがこぼれた。

 

「敗北してほんの少しでさえ悔しいと思えなかった。むしろ君ともっとプレーをしたいと思ってしまったんだ。」

 

少しの間をおいて彼は口を開く。

 

「君にチームの全てを託す。僕と共に戦ってくれないか?」

 

その言葉はスリザリン、レイブンクローの選手を驚愕させる。しかしその彼と同じ気持ちであった。彼女はシーカーの天才だ。

 

「まずは私の非礼は詫びさせてください。貴方は素晴らしい。貴方のプレーと努力に敬意を払います。」

 

ジェニスは軽く頭を下げて自分の非を認める。敬意を払うべき相手である事には変わりがない。

 

「そして約束します。スリザリンは私がホグワーツにいる限り無敗よ。」

 

その言葉にスリザリンチームと周りにいた群衆の中にいたスリザリン生は大歓声をあげる。そしてそれ以外の寮生は絶望したような表情をするが、彼女のプレーと態度に応援を込めた拍手をした。

 

 

 

 

 

 

「これでミヒャエルはプロでも上手くやれるだろう。」

 

誰から見てミヒャエルには無敗という絶対的な自信がある。しかしプロの世界ではそうはいかない。挫折も味わう。その時に彼を支えるのが自信だけでは選手生命は長くはない。だから彼にオリジン、クィディッチを楽しむという初心を忘れて欲しくなかった。

 

「こうなるってわかってたのかい?」

 

ウィルの言葉を聞いてネビルは不思議そうに質問する。色々と疑問はある。この結末にはいくつかの条件がある。ジェニスの勝利、ミヒャエルの勧誘、そして周りの同意である。

 

「どうだろうね、少なくともウチの子は負けないよ。」

 

ウィルはイタズラっぽく笑みを浮かべる。その姿にかつての校長、ダンブルドアの面影を見た。問題に対して人の性格と行動を読み、結論を導かせ、更にヒントは与えず自分達に行動させる。

 

「それにジェニスはなぜか人に好かれるんだ。どんなことをしても最終的には丸くおさまるんだよ。」

 

そういう才能なんだろうね、ウィルは優しそうに水晶玉に映るジェニスを見て笑った。

 

 

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