灰色の獅子【完結】 続編連載中 作:えのき
ウィルはハーマイオニーがロンに悪口を言われ、走り出したのを見て追いかける。だが人混みにまみれて彼女を見失ってしまった。
彼女とルームメイトの女子生徒に部屋にいないかと尋ねても、知らないと言う。思い当たる限りの場所を探し回るがどこにもいない。
ウィルは諦めて図書館にこもる。だがいつものようにページが進まない。彼が寮へと戻ると先程聞いた女の子に彼女がトイレで泣いており一人にしてくれと言っているらしい。
女子トイレに突撃するほどウィルは愚かではないので、素直に授業に臨んだ。
その日は偶然にもハロウィンであり、その日の夕食は金色の皿にのったハロウィン料理が並んでいた。多くの生徒達が夢中でそれを食べ進める中、ハーマイオニーはいなかった。
そして突然、扉が開く音が大広間に響いた。生徒達の注目を浴びたのはクィレルである。彼はとても青ざめた表情で顔が引きつっている。
「トロールが、地下室に…。お知らせしなくてはと思って。」
クィレルはそのまま気を失い地面へ倒れてしまった。
***
女子トイレ
ウィルはハーマイオニーがいると聞いていた女子トイレの前にいた。周りを見て人の気配がしないのを確認すると中へ入る。
そして扉が閉まっているのが一室だけだと知ると軽く溜息をして口を開いた。
「ハーマイオニー・グレンジャー…。」
すると扉の奥からビクッとしたような物音が響く。
「ねぇ、ここは女子トイレよ!早く出て行って!」
ハーマイオニーは男子の声が聞こえたので、怒ったように命令する。その男の子は軽く謝罪をして、自分がウィルだと言った。彼女はそうだとしても早く出ていけと続けるがウィルは聞き入れなかった。
「あんな奴の事は気にするな。」
ウィルは喚く彼女を無視して口を開いた。だがそれは逆効果だった。
「貴方だってそう思ってるんでしょう?友達がいない奴だって!」
ウィルは少し悲しそうな顔をして彼女の言葉を待つ。
「人気者になった貴方に私の気持ちなんてわからないわ!1人にしてちょうだい!」
ウィルはその言葉を聞くと心を痛めた。最近は取り囲まれてばかりで直感では不快だと思いつつもその空気が嫌いではなかった。そしていつも一緒にいた彼女を放置してばかりだった。
「わかるよ、でも僕自身も戸惑ってる。」
ウィルは突然の環境の変化でそれに対応する事に精一杯だった。今でも慣れていない。
ハーマイオニーはウィルを自分達のグループに引き込もうとしているのだと伝えた。
マグルでの生活で群れたがる人間は優れた人気者を自分のグループに入れようと躍起になることを彼女は知っていた。だがウィルは名家生まれで人間関係など初心者である。
その話を聞いたウィルは自分がどこかに行ってしまって、彼女が一人ぼっちになるかもしれないと悩んでいたと初めて気がついた。
彼は自分の失態を痛感した上で素直な気持ちを伝える。
「君は優秀だ。決して才能でなく君は努力で手に入れた力…、だからこそ周りが怠惰に見える。」
「…。」
間違いないだろう?僕だってそうさ。ウィルはそう続けた。
「ただ君は人に干渉し過ぎている。」
「それが悪いこと?私は正しい事を教えてあげてるのに、」
「君の考え方は傲慢だ、でも
その言葉にハーマイオニーは少しだけウィルの言った意味がわかった気がした。
「まぁ少し考えてみるといい、周りがどうのこうの、でなく君自身の答えを見つけるんだ。」
ウィルがそう言い終わると酷い匂いが鼻の奥にツンと通り抜けた。彼はトイレの出口を見た。そこには4メートルほどの大きさの緑色の巨人のような怪物がいる。巨大な棍棒を持っている。
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トロールはウィルの方へゆっくりと歩いてくる。彼はすばやく杖を抜き臨戦体制をとる。
「ハーマイオニー、目をつぶって耳を塞いでてくれ。」
「は?なんで?…なんか臭う。」
扉の向こうから返事をあとに、彼女はなにかを察したような声を出す。
「あっ、私はなにも嗅いでない…。」
「ん、おい待て!違うからな!漏らしてなんかないからな!」
「いいのよ、ウィル。恥ずかしい事じゃないわ。誰にでもミスはあるわ。」
「待てハーマイオニー!誤解だ!」
「…………。」
ハーマイオニーはとうとうなにも言わなくなった。ウィルの指示通りに目を閉じて耳を塞ぐ、そして鼻も忘れずに。
「…………はぁ。」
ウィルは大きな溜息をつく。そしてこめかみに筋を入れる。
「なんかこう、凄く八つ当たりしたい気分だよ。」
彼がそう言い放った瞬間に杖を振るう。
「
ウィルの呪文が棍棒を粉々に破壊する。トロールは自分の武器がなくなった事が理解できず、足元や周囲をキョロキョロ見回す。
(トロールは怪力で傷を与えても修復する、それに厄介なのは知能が低過ぎるが故に行動が読めない。)
ウィルはトロールを攻略する為の知識を脳の引き出しから取り出す。そして脳内で最小限の被害で済ませる策を練る。
すると外から誰かが走ってきているような物音がする。それはハリーとロンだった。
「トロールだ!!!」
ロンが叫ぶとハリーはすぐに杖を抜く。それに少し遅れてロンも取り出した。それから2人はトロールより奥にウィルがいる事に気がついた。
「ハリー、ウィーズリー、お前らは先生を呼んでこい!」
ウィルは2人が戦力に加わるより、先生達を呼んできてもらう方がありがたかった。だがハリーはおいていけないと反発して動く気配がなかった。
すると突然、トロールは棍棒がトイレの中にあると考えたのか仕切りの壁を腕をふるって剥がすように壊した。
木の破片が飛んできた事でハーマイオニーは目を開いた。すると目の前に醜い怪物がいたのである。彼女は思い切り悲鳴をあげ、助けてと叫んだ。
トロールはハーマイオニーを捕まえようと手を伸ばした。彼女は腰がひけて動けない様子だった。
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ウィルはハーマイオニーの前に盾の呪文を使い、トロールの太い手のひらを弾いた。
その反動でトロールはしりもちをつく。その反動でハリーとロンは転び、ウィルはバランスを崩して手をついた。
トロールはハーマイオニーより近くにいたウィルへ視線をやる。どうやらトロールにとっては蝶を捕まえるような感覚らしい。ただ目の前にいた、それだけの理由である。
トロールはさっきの青い盾が出てくるより早く捕まえなければと思ったのか、すばやく手を伸ばしてウィルを捕まえた。
トロールも潰さぬようにと加減はしているようだが、それでも全身の骨がミシミシと鳴るまで圧迫された。
ハリーとロンはトロールの頭上へめがけて片っ端から呪文を飛ばした。ダメージ、というよりは眩しかったのかウィルを手から離して自分の目を両手で覆う。
「クソが…。」
ウィルは脇腹を抑えながら悪態をついた。
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呪文が命中すると、トロールの巨体がリス程度にまで小さくなった。
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ウィルは続けて小さくなったトロールを縄で縛りつけた。拘束されたトロールはもがき醜い声をあげる。ハリーとロン、そしてハーマイオニーはホッとした様子だ。
ウィルは蔑んだ目でトロールを見下しながら近づく。縄を引きちぎろうとするトロールを思い切り踏みつけた。彼が足をどかすと弱々しく鳴いた。
3人はウィルの突然の行動に絶句してピクリとも動かない。
それからウィルは無言でトロールをまた思い切り踏みつける。2発目で失神する。
それでもなおウィルは何度も何度もトロールを踏みつける。骨の砕ける音とピシャッと血が周囲に飛び散る。
「ウィル!もうやめて!」
ようやくハーマイオニーがウィルを止めようと声をあげる。だがまだ腰がひけて動けない。
ウィルは全く耳に入ってないのか、彼は何度も何度もトロールだった何かを踏み潰した。
「何事です!!!」
マクゴナガルら教師陣が騒ぎを聞きつけてトイレの様子を見て叫んだ。そして中へ入ってもなお状況を飲み込めない。
もはや顔の原型を留めておらず赤い血のみがトイレの床へ飛び散っていた。ウィルの靴は真っ赤に染まっている。
「ウィル!もう、おやめなさい!!!」
マクゴナガルが赤い何かがトロールだと気づき、止めに入ろうとする。だがそれに横入りするようにヌッとスネイプがウィルの上着を掴んで引き離した。
「マルフォイ、来るのだ。」
スネイプはなぜか足を引きずりながら、ウィルを強引にどこかへ連れていこうとする。
「セブルス、ウィルをどこへ連れて行くのですか?」
マクゴナガルがそれは自分の役目だと言わんばかりの表情をしている。
「吾輩の部屋です、なにか問題でも?」
「ウィルは私の生徒です。私が世話をします。」
スネイプは少し不快そうな顔をすると、抑揚のない声で言った。
「マルフォイと一番付き合いの長い教師は吾輩だ。奴の扱い方は心得ている。」
「ウィルは私の寮の生徒です。」
2人の間にバチバチと火花が散る。ウィルは2人の争いに興味がなさそうで、視線を斜め下へおろしている。
すると取り囲んでいた教師達が突然、左右に別れて道を開ける。すると奥からダンブルドアがやってきた。
「ミネルバ、ここはスネイプ先生に任せるがよい。」
「ですが、ダンブルドア先生!」
「スネイプがウィリアムを、マクゴナガル先生が3人から事情を聞くのじゃ。」
マクゴナガルはダンブルドアの言う事ならばと身を引いた。スネイプはウィルを掴んだまま引きずるように連れて行った。
「愚か者め。」
スネイプの個室に着いてドアを閉めると同時に言われる。
「なにがあったかは聞かん。ただ熱りが冷めるまでは大人しくしておけ。」
スネイプは軽く溜息をついた。ウィルの父親であるルシウスは彼の先輩に当たる人物だ。そして学生時代から浮いていた自分を唯一評価してくれていた。
少し落ち着いたのか、ウィルは口を開く。
「先生、今の僕の中で一番高いレベルにあるのは
「そして、その反対は
「えぇ…。」
ウィルは自分の行動が闇祓いに目をつけられぬように手を抜いていた。特に闇の魔術に対して最も距離をとり、更に最低限の攻撃魔法として失神呪文しか習得していない。
「今まではそれで良かった。ですが今回の件で悟りました。」
ウィルは少しの沈黙を保った。
「身を守る術だけでは耐えることはできても相手を倒すことができない。」
彼の防衛術はホグワーツの生徒の中でも飛び抜けている。彼はありとあらゆる難易度を問わず、本や文献を読みふけった。そしてそれに関する知識や技術は“闇の魔術に対する防衛術”の専門家ですら舌を巻く領域に達している。
だが裏を返せば、闇の魔術を一切知らぬという事だ。そして攻撃魔法は1つだけ、余りにも知識の偏りが大きい。
ウィルがトロールを踏みつけたのは皮膚の厚さから失神呪文が通じないと判断したためだ。そして自分の身に初めて訪れた殺し合いの場において自分の甘さを痛感した故の行動であり、万が一に備えてトロールを無力化させる為だった。
「信用できるのは貴方だけだ、僕に戦いの術を、闇の魔術を教えてください。」
脳裏にマクゴガナルの言葉がよぎった。ウィルはそれを押し込め、そしてスネイプに深々と頭をさげた。
スネイプは表情を何一つ変えない。
「ウィリアム、これから休日の夕食後、吾輩の部屋へ来い。お前の望む全てを授けてやろう。」
ほんの少しでさえ手を抜いていると判断できれば、即座にやめると宣言されるとウィルは部屋から出て行くよう言われた。