IS・Gear   作:ソルの養子

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遅れたと筆者は謝罪しております。


第2話 動き出す歯車

入学式から数日が経過したIS学園、一年一組の内情はお世辞にも良いとは言えなかった。

まず第一に織斑一夏とイギリス代表候補生、セシリア・オルコットとの間に生まれた摩擦による雰囲気の悪さ。

そして、それに付随するように生まれたセシリア、及び一部生徒のソルに対する態度の悪さである。

何故ソルに対する態度が悪いか。

それは、少し時間を遡る。

 

第2話

動き出す歯車

 

その日はクラス代表を決める話し合いをしていた。

不幸にもと言うべきか当然と言うべきか一夏はクラス代表へと推薦されてしまう。

しかしその選出について反対意見を挙げた生徒がいた。

それこそがセシリア・オルコット、イギリス代表候補生である。

 

「このような選出、納得がいきませんわ!」

 

そしてそこからは今までに溜まったのであろうストレスを全て吐き出すかの如く愚痴を言い始める。

しまいには日本そのものを馬鹿にしだしたセシリアに一夏も黙ってはいれなくなったのか

 

「イギリスだってたいしたお国自慢無いだろ。何年不味いメシグランプリ優勝だよ…」

とボヤいてしまう。

 

それを聞き逃すセシリアでは無く、二人の間には一触即発の雰囲気が漂い始める。

 

その様子を見ていた真耶は慌て始めるも、その横で見ている千冬は悪い笑みを浮かべている。

その理由というのは簡単だ。

千冬の横にいる男、ソルの纏う雰囲気がどんどんと悪い方向へと進んでいるからである。

 

そぅら火山の噴火まであと数秒だ。

 

そう察知した千冬は真耶の肩を叩き、ソルの方を指さし耳を塞ぐジェスチャーをした。

それを見た真耶はハッとした顔になり、顔を青くしながらも大人しく耳を塞ぐ。

火山の噴火は教師二人が耳を塞ぎきった瞬間だった。

 

「いい加減にしやがれ!!!痴話喧嘩がしてぇなら休み時間にしやがれこのボケが!!」

 

ソルの怒号に生徒達は完全に静まり返るが、それも一瞬

セシリアは一夏の方を指差し

「しかしこの男は私の祖国を!」

「んなっ!お前だって!」

「俺の言葉の意味が理解出来てねぇみたいだな…」

一歩、また一歩とセシリアと一夏の方へとゆっくり歩み寄っていくソル

流石にこれはまずいと思ったのか二人とも口を噤み、ソルの方へとゆっくり向き直る。

「なんだよ、やれば出来るじゃあねぇか。」

そんな様子を見て満足したのかソルは教壇の方へと戻っていく。

「よくわからんがテメェらの言いたい事はまあわかった。決闘がしてぇってんなら舞台の用意くらいはしてやる、そこでケリをつけるんだな。」

ソルは目で千冬に可能かどうか訊ねる。

千冬は頷きながら口を開く。

「そういう訳だ、オルコット、織斑の両名による決闘でクラス代表を決定させてもらう。異論は無いな?」

「ありませんわ!」

「ああいいぜ上等だ!ハンデはどのくらい付ける?」

「まぁ!あれだけ威勢のいい事を言っておいてもうハンデを要求するんですの?」

「いや、俺がどのくらいつければいいのかなって…」

一夏のその発言がクラスのほぼ全員に笑いを誘う。

勿論、教師の千冬、真耶、そしてソルは笑ってはいなかったが。

いや、正確にはソルも千冬も笑ってはいた。

ただし、生徒達とは違う意味の笑みを口元に浮かべていただけなのだが。

 

「日本の…殿方は…ジョークセンスだけは…一流ですのね…」

笑いすぎで途切れ途切れになりながら一夏を褒めるセシリア

無論、そのように褒められても欠片も嬉しくない一夏

周りの生徒達は一夏に今からでも遅くないから、とセシリアにハンデを貰う事を提案するも

「いらない、対等な条件で俺はセシリアを叩き潰す!」

「織斑君、流石にそれは厳しいってば〜」

「ククッ…クッ…クハハハハハ!!」

何が面白いのか遂にソルまでもが笑い声をあげ始める

「ほら、ソル先生だって笑ってるじゃん!ハンデを貰いなって!」

「何勘違いしてんだ?」

女子生徒の発言に対してソルは訂正を入れる。

「俺が笑ってんのはな、対等な力を手にした男の前でそんな事言えるテメェ等が滑稽だから笑ってんだ。」

教室が静まり返る

「確かにISは強力だ、強力過ぎてISが使えねぇ俺じゃあ簡単に勝つとはいかねぇだろうよ。けどな、それはあくまで俺とISを比べた場合の話だ。女は男より強いだ?寝言は寝て言え、強い奴が強い。ただそれだけの話だろうがよ。違うか?」

ソルは一夏を親指で指差しながら続ける。

「コイツはテメェ等にしか使えねぇISが使えるからここに居る。それはテメェ等と同じ土俵に立って、対等に殴り合えるって事じゃあねぇのか?それこそコイツが学園最強、なんなら世界最強になるかもしれねぇんだ。それが理解出来ない程の頭じゃあねぇと思うがな?」

それだけ言うとソルは腕を組み教室の壁にもたれかかる。

静まり返った教室に、千冬の声が響く。

「決闘は来週のこの時間を使って行う。以上だ。質問は?」

「織斑先生、一つだけよろしいですか?」

そう言って挙手をしたのはセシリアだった。

「何故このような殿方がこの学園の教師をしていらっしゃるのですか?特別頭が良くてもISについての理解が無ければ教師として成り立たないと思いますわ。」

セシリアのその発言に「確かに。」と頷く生徒達

しかし千冬はキッパリと言い放った。

「貴様らに口で言っても理解出来んだろうが一つだけ言っておく事がある。バッドガイ先生がISの操縦が出来てしまったら私なんて目じゃないほどの人間だ。それこそ、ブリュンヒルデの座なんて簡単に獲る程にな。」

勿論適切云々の問題で操作性が悪かったら怪しいかもしれんがな。と話を締める千冬。

その発言を聞いた生徒達には動揺が走っていた。

あのブリュンヒルデが認める程の存在がソル=バッドガイなのか。

そして同時にもう一つ、生徒達は大きな勘違いをしていた。

人間では、ソルでは、決してISに勝てないのだと。

生徒達のソルを見る目が変わったのはその日からだった。

 

にも関わらずその次の日からソルの請け負う授業での一部生徒の態度は中々に酷かった。

何故か。

理由は簡単だ

昨日の話の中で、ソル自身がISを使えないという事が発覚したからである。

この話を聞いた一部生徒達は「ISを操る事すら出来ない人間の座学など聞くだけ無駄である」と判断したのか思い思いの行動を取るようになったのだ。

ただし、ソルに怒られるのは怖いので本人にはバレないようこっそりと、だが。

 

ソル自体はそれに気付いていたが何も言わなかった。

言うだけ他の生徒の時間が削れるのだ、まともに授業を受けないで成績が悪くなるのは自己責任。そういうスタイルを取るのがソル流の授業だった。

勿論、質問を受けつけない訳では無い。聞かれた事にはキチンと答え、悩みがなくなるまで導くのでソルの授業自体はやる気があればかなり良いものなのだ。

本人はとても面倒そうにしているが。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

勤務時間が終わり、自室でお気に入りのレコードをかけるのが生き甲斐と言っても過言ではない生活をしているソル

そんな彼が今日だけは自室でレコードをかけていなかった。

それは何故か。

レコードが1枚無い事に気付いたからである。

舌打ちをし、ソルは部屋の壁に立てかけてある巨大なジッポライターのような剣を左手で持ち、突然部屋の天井へと振り上げた。

 

「ちょっと先生!いくらなんでも危なすぎません?」

「何モンだテメェ」

「酷い!」

 

振り上げた剣は天井を貫き人を部屋へと落とした。

落としたといっても落ちてきた本人は猫のように慌てず騒がず着地しているのだが。

 

「何だ?最近の生徒会長サマはニンジャの真似事でもするようになったのか?更識楯無」

落ちてきた人物を睨みつけながら天井を貫いた剣を担ぐソル

「いやぁ、私もソル先生に興味が湧いてきたのでちょっと私生活の観察をしたいな〜って」

手に持った扇子で口元を隠しながら飄々とした様子でそう答える彼女はIS学園の生徒会長、更識楯無である。

扇子には「視察」と書かれていた。

「ケッ、どうせ嘘をつくならもう少しマトモな嘘をつきやがれ。ストーカー行為で訴えるぞ。」

「先生こそ、それ銃刀法違反もいい所じゃあ無いんですかぁ?」

「俺ァ良いんだよ、俺が許してる。」

「じゃあ私も良いですね、私が許してるので!」

「チッ…テメェとの会話ほど無意味な物はねぇ。失せろ」

ああ言えばこう言う、彼女はソルのあまり得意ではないタイプの人間なのだ。

「はぁ〜い、お邪魔しました〜!」

「チッ、ウザってぇ…」

部屋の扉が閉まるのを見届け、いい加減気分転換にレコードでもかけようとしてソルの手が止まる。

 

普段レコードを保管している所に扇子が一つ、挟まっていたのだ。

 

「…クソが。」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

翌日、生徒会室

「来てやったぞ、エセ忍者」

生徒会室の扉をバカデカい音を立てながら開けるソル

ちなみに今は授業終了後だが勤務時間中なので白衣姿だ。

これには理由があり、千冬から

 

「せめて勤務時間中だけでいいからもう少し教師らしい格好をしてくれ。」

と言われた為に仕方無く着ているものだ。

 

「は〜い、お待ちしてました〜!」

先日のエセ忍者、もとい生徒会長の楯無が奥の席から手招きをする。

「御託はいい、何の用だエセ忍者。大した理由じゃねぇなら帰るぞ。」

部屋に残された扇子を楯無へぶっきらぼうに投げつけながらドカッとソファに腰掛けるソル

「じゃあまずは「テメェが俺の事を監視してんのはもうわかってんだ、余計な事は言わないで本質だけを手早く話せ」はぁい...」

せっかく用意した「監視」の文字付きの扇子が使えなかったからだろうか、悲しげな顔で「無念」と書かれた扇子を広げる楯無。

テメェは一体何パターンの扇子を持ち歩いてんだ。と突っ込みたくなったが突っ込んでしまったら長引きそうな事を理解しているソルはグッとその言葉を飲み込んだ。

 

「単刀直入に言います。貴方、何者?」

 

真剣な顔付きになった楯無の口から紡がれたのはソルという存在についての質問だった。

「貴方についてここ数日調べさせてもらったわ。でもね、私の情報網をもってしても【ソル=バッドガイ】に関する情報はただ一つを除いて存在しなかった。これは異常な事よ。」

「あぁ?たかが学生が調べられる情報量なんてたかが─」

「私が対暗部用暗部の一族だとしてもそんな事が言える?」

「チッ、それで?何が言いてぇんだテメェは」

心底うんざりしたような顔をしたソルは悪態を吐きながらも会話を続ける。

「貴方のこれまでを話してくれるかしら?内容次第では私もこれ以上の接触は控えるわ」

「はいそうですかと素直に俺が答えない可能性を考えなかったのか?暗部サンよ」

「もしそう仰るのであれば実力行使も辞さないですけど?」

「ウザってぇ...いっぺんヤキ入れなきゃわかんねぇか?このクソガキ」

 

互いに臨戦態勢へと入っていく。

 

と、その瞬間にソルの白衣のポケットからへヴぃでロックな電話の呼び出し音が鳴る。

通話ボタンを押し、スピーカーモードにする。

「チッ、俺だ」

「俺だ。じゃない!貴様今どこにいる!とっくに約束の時間は過ぎているぞ!」

電話の相手は織斑千冬だった。

「そうか、じゃあ今から向かう。じゃあな」

それだけ言うと終話ボタンを押し携帯を仕舞う。

「...約束って?」

「あ?なんでテメェに話さなきゃなんねぇんだ。これ以上遅れるとうるせぇから俺はもう行くぞ」

そういうとソルは面倒そうにソファから立ち上がり生徒会室から出ていった。

 

「あっ」

突然の終わりに楯無は数秒放心していた。

 

 

 

 


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