その指揮官は深すぎる信頼関係を築けていた事に気付けてなかった   作:東吾

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どうやら自分が思っていた以上に彼女たちとの間に信頼関係を築けていたらしい

 G&K設立以降からの未曾有の危機とまで言われた、鉄血勢力による超大規模攻勢が起きたのは三ヶ月前の事。後に【驟雨(しゅうう)事件】と呼ばれるようになったその事件によって、グリフィンは危うく壊滅する寸前まで追い詰められた。

 

 圧倒的物量と高度な戦術を伴って突如として出現し、奇襲して来た鉄血兵の軍勢の光景。それは、突然の事態に迎撃態勢も整っていない状態にある本部が襲撃されれば、グリフィンが壊滅するのは免れないであろう事を予感させるのに十分だった。

 

 それを辛くも食い止めたのが、進軍途中にあった前哨基地に配属されていた指揮官、即ち俺であり、それを成し遂げた事で内外を問わず英雄扱いをされている……という事になっているらしい。

 

 まるで他人事のようだって? 仕方ないだろう。だってまるで実感が沸いてないのだから。

 

 あの時はここを抜けられたら本部が危ないなんて考える余裕は微塵も無く、状況の報告と応援の要請をした後はとにかく無我夢中で、指揮を取り続けた。

 二日二晩、昼も夜も間断なく襲い掛かって来る鉄血兵を相手に、絶え間なく作戦を立てては人形たちに指示を出し、自分もまた武器を手にして不眠不休で戦い続け、三日目に突入しようかという時に本部から応援の部隊が到着したのを見届けて意識を失った。

 そして目を覚ましてみれば、実に三ヶ月もの間、昏睡状態にあったという事を告げられたのだ。実感が沸く筈もない。

 

 たまたま俺が目を覚ましたタイミングに見舞いに来ていたクルーガーさんによれば、駆けつけたグリフィンと正規軍の混成部隊により、鉄血兵は無事退けられたらしい。しかも素晴らしい事に、基地の人員には負傷者こそ出たが死者はおらず、クルーガーさんからは身を削ってまで時間を稼いだ俺のお陰だとまで言われた。

 

 その言葉に、考えるよりも口を衝いて出て来たのは、それは違いますと言葉だった。

 全ては自分ではなく、部下である戦術人形たちの――彼女たちのお陰であると。

 

 あの時自分は、逃げようと思えば逃げる事ができた。むしろ当初は、それを第一に考えていた。

 

 戦力差はどう甘めに見積もっても圧倒的で、半日持たせる事すら絶望的だった。

 それならば、バックアップの存在する人形たちを殿にし、指揮官である自分を含む人間たちと、バックアップの利かないAR小隊が撤退する時間を稼がせるのが、最も合理的な戦術であるのは考えるまでもなかった。

 

 だがそれを決断するよりも先に、「ここは我々が時間を稼ぐので、指揮官は退避を」と言われた事で、考えが変わった。

 その言葉は、特定の誰かが言った訳ではない。言葉こそ違えど、基地に所属していた人形の全員が口を揃えて同じような事を進言して来たのだ。

 

 それまでの自分と彼女たちの関係は、あくまで上司と部下、あるいは人と人形以上でも、以下でもないと思っていた。

 業務的な場面以外でも、なるべく積極的に彼女たちとコミュニケーションを取ろうと努力をしてはいたものの、ある程度までの関係までは踏み込めても、そこからは壁を作られているように感じ、それ以上踏み込む事ができなかったのだ。

 どれだけ綺麗事を並べても、自分は人であり、彼女たちは人形であるという事実を、あるいは隔壁を埋める事はできないのだと、諦念交じりの想いを抱いたりもしていた。

 

 だがその自分を慮った言葉を、副官に指名していた者からならばまだしも、基地に所属していた人形たち全員から言われたのだ。

 

 自分なんて所詮、ただ指揮官適性がたまたま高かっただけで、兵士としての経験も能力もない、ただの若造でしかなかったのだ。それは他でもない、俺自身がよく理解していた。

 そんな自分に対して、躊躇する素振りも見せずに言ってくれた彼女たちに対して。

 その程度には築けていた信頼に対して、応えない訳にはいかなかったのだ。

 

 戦っていた時もそうだった。

 戦術人形は、指揮官が居てこそ真価を発揮する。16LAB製のM4A1とRO635でも指揮こそできるものの、自分が指揮を取った時と比べれば発揮できる能力は劣ってしまう。それが分かっていたからこそ、逃げ出す事は許されなかった。

 例え頭が割れて、手足が折れて、銃弾で体中に穴を開けられて、どてっぱらに金属片が刺さって、背中に火傷を負って、内臓が傷ついて、片目が潰れて、全身に持て余すところなく傷を負っても、弱音を吐く事も逃げる事も許されなかった。できなかった。

 

 自分だけならば、あるいは部下たちが人形ではなく、人だけの部下であったならば、とっくに意思が揺らいで逃げ出していた。

 自分の進退が、身近な彼女たちに直接的に影響を与えると分かっていたからこそ、歯を食い縛って戦い続ける事ができたのだ。

 

 だが結果こそ良かったものの、あの時俺が下した判断は、指揮官という肩書きを持った者としては下策もいいところだった。

 だからこそ、自分の行いを誇れはしない。全て彼女たちのお陰であると、考えるまでもなく言い切れる。

 

 そういう嘘偽りの無い想いを込めた言葉を聞いたクルーガーさんは破顔し、そんな俺だからこそ、彼女たちも最後まで着いて行ったのだろうと述べた。

 そして、しばらくは休職扱いとなっているのでゆっくり休むようにと言い残し、退室する。

 その後姿を見送り、直前の言葉の意味を考えようとした直後に、病室のドアが壊れんばかりに開かれる。

 

「指揮官、目を覚ましたのですね!」

 

 真っ先に入って来たのはM4A1。

 余程急いで来たのか、額に長い髪を汗で貼り付けたまま、泣き出しそうな表情を浮かべてこちらに駆け寄ってくると、ベッドの上で起こしていた上体を力強く抱き締めて来る。

 

 M4と言えば生真面目であると同時におしとやかなイメージが強く、とてもこんな感情に身を任せた行為をするようには思えず、目を白黒させるも、すぐにM4の肩が震えているのに気付く。

 

「何度も、何度も夢を見ました……指揮官が二度と目を覚まさなくなってしまうような、悪い夢を……目を覚ます度に夢だったと安堵して、すぐに正夢になってしまったらどうしようと、私、私……!」

 

 戦術人形の中で唯一夢を見るM4だからこそ感じたであろう恐怖。それが震えの正体だと分かり、肩にそっと手をやる。自分はその夢と違い、ちゃんと無事に帰って来たと。そういう思いを込めて。

 それが果たして通じたのかは分からないが、M4の震えが止まる。

 

「正夢にならなくて、本当に、本当に良かったです……」

 

 ギュッと、こちらを抱きしめていたM4の両腕に更なる力が込められる。

 

「もう二度と離しません。これからはあなたのために戦いますから、ずっとお側に置いてくださいね」

 

 誤解を招きかねない発言。気持ちは嬉しいが、これからもいつものように、俺のためではなく仲間のために戦って欲しい。

 

 あと、そんなに強く抱きつかれると色々と柔らかくて非常に困る。ついでに病み上がりの体が、徐々に強まっていく力によって軋みを上げる。

 

 混乱しているようにも見えるM4に、その事を伝えるべきか、それとも好きにさせておくべきか迷っていると、病室に続々と来客が入って来る。

 

「おいおいM4、指揮官はまだ傷が治り切ってないんだ。程ほどにしとけ」

 

 そう言ってM4をやんわりと引き離したのは、AR小隊の長女的存在であるM16A1。お陰でM4から解放されて、嬉しいような残念なような……。

 

 それにしても、ある程度の信頼関係は築けていたとあの時の戦いで判明はしていたが、まさかM4がここまで取り乱す程に自分を信頼してくれていたとは。

 指揮官としては嬉しい限りだが、どことなく気恥ずかしさを感じる。

 

 そんな事を考えていると、M16がこちらに対して、勢いよく頭を下げて来る。

 

「指揮官すまない。この私が側についていながら、貴方をこんな目に遭わせてしまった」

 

 片方だけ残っている目を申し訳なさそうに伏せ、苦しそうに言葉を搾り出す。

 

「私がもっとしっかりしていれば、指揮官をこんな危険な目に遭わせる事はなかった。どれだけ謝っても足りない」

 

 あの戦いでの終盤、俺の側に立って護衛をしてくれていたのはM16だった。

 AR小隊の中でも、最も耐久性に秀でた性能を持った彼女が、いざという時に俺の盾になるのに最適であるという判断からの配置だったが、その役割を十全に果たせたかと言えば、俺の現状が答えだろう。

 

 とは言え、それは決してM16の所為ではない。それだけはハッキリとさせておく。

 

「馬鹿を言うな指揮官。私はあの時の指揮官の護衛だったんだ。どう言い訳をしようと、それを全うできなかったのは――」

 

 いいや、M16は間違いなく最善を尽くしていた。それは傍らで見ていた俺が断言できる。

 問題があったとすればむしろ、俺の方だろう。

 

 指揮官である俺があの時に判断を違えてしまったからこそ、最終的にこうなってしまった。

 むしろそこからあそこまで立て直したM16は、称賛されてしかるべきだ。

 

「だが……」

 

 それでも気になると言うのであれば、あの時に俺に非があったのも事実。それとM16が感じている非とで、手打ちだろう。

 

「指揮官……」

 

 再びM16が俯く。その表情から推測するに、あまり納得はいってなさそうだったが、それ以上何かを言う事も無かった。

 正直に言って、俺はあの時の行動をM16から咎められるとばかり思っていたので、むしろこの彼女の反応は意外極まりない。とはいえ、受け止め方は当人の問題であり、俺も掛けるべき言葉は全て掛けただろうし、時間を掛けて彼女の中で消化して貰うしかない。

 

 考えようによっては、こんなに非を感じているのは信頼関係があった事の証左であるとも言える。そう考えると、やはりこそばゆい。

 

「もー、M16は気に病み過ぎだって。指揮官もこう言ってるんだし、それでいいじゃん。やっと指揮官が目を覚ましたんだし、もっと明るく行こうよ」

 

 SOPMODⅡが、M16の暗い空気を吹き飛ばさんばかりに溌剌とした声を上げる。その明るさを感じさせる声に、自然と笑みが毀れる。

 あの戦いの中でも、この明るさには幾度と無く元気付けられたものだった。

 

 そんな彼女とは、他の人形たちと比較しても距離が近い関係を築けていたと思う。帰投する度に鉄血兵の生体部品を持って来るので、ちょくちょく犬猫感覚で撫でたりと、スキンシップも多かった。

 勿論、壁をどこかに感じていたが、それも他と比べてそこまで強固でないように思える。

 

 ……どことなくペットのような感覚を、俺が彼女に対して抱いていたからだろうか?

 

「そんな事より、指揮官~。わたし目を覚ますのをずっと待ってたんだよ。はいこれ、お土産〜」

 

 傍のテーブルの上に、持参していた箱が置かれる。中を覗き込んでみると、血や肉片が付着している爪やら配線やら指なら目玉やら、その他様々な生体部品がギッシリと詰まっていた。

 

 お土産って、一体何だったっけ?

 

「早く元気になって、遊ぼうよ指揮官~! 元気になったら、指揮官が受けた傷、奴らに百倍にして返してやるからね!」

 

 SOPよ、君の中では戦闘は俺と一緒にする遊びなのか?

 残念ながら、自分はそれに付き合うのは難しいそうだ。

 

「ひひひひぃ……ずっと待ってるからね、約束だよ~。破ったらやだよ指揮官」

 

 何かを呟きながら下がる。小声だったので聞き取れなかったが、見るからに上機嫌そうなので大丈夫だろう。

 それにしても、普段ならばここで撫でるか抱っこするかを要求してくるのだが、今回は無かった。

 

 こちらの事を慮っているからだろうか。相変わらずのように見えたが、SOPMODなりにこちらを心配してくれているのだろう。

 

「SOPMOD、あまり指揮官に迷惑を掛けないようにね」 

「分かってるよ~。まったくコルトったら、さっきまでずっと心配してたくせに、指揮官を見た途端にキリッとしちゃってさ」

 

 何やらSOPMODをやんわりと窘めていたAR-15が、そう言われて急に焦ったような表情を浮かべる。

 普段から俺に対しても厳格に接してくるので、その表情は非常に新鮮だった。

 

 そのままSOPMODと俺との間で視線を彷徨わせていたが、やがて視線を伏せ、小さな消えそうな声で言葉を搾り出す。

 

「当然、心配でしたよ。指揮官、私だって怖かったんですよ……」

 

「このまま貴方が死んでしまって、真っ暗な中に取り残されてしまったらどうしようと、ずっと、ずっと……。指揮官、これは夢ではないのですね?」

 

 上げられた顔に、どこか放心したような、だが喜色を浮かべて、AR-15が言う。人形は夢を見ないと言えるような空気ではなかった。

 

 代わりに、夢ではないと応える。その答えに満足したのか、AR-15が泣き笑いの表情を作る。

 

「指揮官。復帰なされたら、貴方のために戦う名誉を、私に頂けますでしょうか?」

 

 勿論、と答える。

 果たして俺のために戦う事が名誉になるかは分からないが、英雄扱いされているというのなら、それはコルトにとっては名誉な事なのだろう。

 

「ありがとうございます。私の活躍を、しっかり目に焼き付けてくださいね」

 

 正直、それだけの信頼を向けられるのは荷が重いと感じるが、彼女の期待を裏切らないよう俺が努力すれば良いだけの話だ。

 それで信頼に応えられるのであれば、全く苦ではない。

 

「皆さん、そろそろ時間です。M16も言っていた通り、指揮官はまだ治り切っていないのですから、あまり騒ぎ立てて負担を掛けてはいけませんよ」

 

 いつの間にか病室の出入り口に、RO635がどこか呆れたように立ち、溜息交じりにAR小隊の面々へと声を掛ける。

 その言葉にM4たちもハッとした表情を浮かべて退室をし始めるが、SOPMODが不満そうに口を尖らせる。

 

「なにさ、RO635は指揮官が目を覚まして嬉しくないの?」

「誤解しないでください。私だって嬉しく思っています。ですが、大袈裟に騒ぐ程の事でもありません。正しい行動を成された指揮官が、死んでしまう筈がないと私には分かっていましたから」

 

 澄ました顔で、そんな事を言い切る。これも信頼されていたが故の事だろうか。

 

「指揮官、無事に戻って来られるのをお待ちしております」

 

 俺に対して声を掛けながら全員が退室したのを確認してから、RO635が最後にそう締め括って扉を閉める。

 

 再び室内に一人となった病室で、ベッドに身を沈めながら先ほどの彼女たちとのやり取りを反芻する。

 

 少なくとも、あんなに心配をされるとは、あの戦いの前では考えられなかった事だ。

 どうやら俺は、自分が思っていた以上に彼女たちとの間に信頼関係を築けていたようだった。

 

 




実は人形たちの好感度はカンストしているけど、指揮官は人形同士の牽制があってそれに気付けずにいて、でも指揮官が死に掛けた事で牽制し合ってる場合じゃないっていう事になって積極的にアプローチしたりプチ修羅場ったり、そんな話が読みたかったけど無いからなかったから作った(実はあるけど探し方が下手な可能性あり)。

原作は全てやってる訳ではなく、Wiki片手に書いてます。二次創作を投稿するのは初めてなので、もし違和感を感じるところがあったり、他にもご意見があれば積極的に指摘して頂けるとありがたいです。

このキャラの話が読みたいという意見があったら、自分が持っているキャラなら出来る限り対応したいと思います。つまりはネタをください。のんびり更新していきたい。

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