その指揮官は深すぎる信頼関係を築けていた事に気付けてなかった   作:東吾

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M590の話です。


違うんだ

 リハビリも次の段階に入り、面会謝絶も段階的にだが解かれる事になった。

 というのも、次から行われるリハビリには補助要員が必須であり、本来ならば病院側の人間がそれを担当するのだが、防犯上の理由というイマイチ納得のいかない理由により、グリフィンから派遣される戦術人形がそれを担当する事になったのだ。

 

 まあ理由は何にせよ、個人的にはリハビリと休息のローテーションの毎日に変化が訪れるというのだから、文句を言う筋合いは無い。

 何より、自分が留守中の間の基地の様子を聞けるというのは大きい。

 カリーナのような後方幕僚達や、HK416のような内務能力の高い人形たちも居るから心配無用というのは分かっているが、それでも気になるものは気になってしまうのだ。

 

 そんな訳で、果たして誰が補助要員として来てくれるか、結構楽しみだったりする。

 

 本当ならばこちらが指名するのが一番良いのだろうが、しばらく基地を離れている為に、いつ誰の予定が空いているのかまるで分からない為、人選は向こうに丸投げする事になった。

 だが、向こうも趣旨を理解している筈なので、下手な人選はするまい。

 

 できれば建設的な話ができる相手が来てくれる嬉しいが、それができなかったとしても、今まで積み重ねて来たコミュニケーションは無駄ではなかったと分かった為、例え建設的な話ができない相手だったとしてもそれはそれで別の意味で嬉しい。

 

 ……後者に当て嵌まる相手の筆頭に、SOPが浮かんでしまったのは俺だけの責任ではないと思う。

 

 それはともあれ。

 そろそろ、補助要員に任命された人形が到着する頃の筈だが……。

 

「お待たせしました。こんにちは、指揮官。モスバーグ590式、本日の補助要員としてただいま到着しました」

 

 噂をすれば何とやら。ノックの後に褐色肌が特徴的なM590が入室し、教本のお手本にできそうな見事な敬礼と共に挨拶する。

 

「ふふっ。どうされました、指揮官? 私が来たのは意外でしたか?」

 

 敬礼を解き、微笑みと共にそう言われて、顔に出てしまっていたかと少し焦る。

 

「ええ。指揮官は結構分かりやすいので」

 

 分かりやすいと言われたのは初めてだ。

 分かり難いとまではいかないにしても、曲がりなりにもお偉いさんと会う事もある立場であるが故に、それなりに内心を隠す術には自信があったのだが。

 

「ご安心ください。あまり交流の無い方が相手であれば、問題なく隠せると思います。()()()()()()()()()()()()()分かるだけですので」

 

 なら安心か。

 でもなんで今、付き合いの長い云々のところを強調したの?

 

「私が来た理由は、そう複雑なものではありません。指揮官の事ですから、留守中の様子を詳しく聞きたいだろうと思いまして、初日は内務に詳しい者が行こうという話になったんです」

 

 なるほど。確かにちょうどそう思っていた事だし、その気遣いは非常にありがたい。

 

「ですが、あくまで指揮官の最優先事項は療養ですので、あまりお仕事の事ばかりをお話しするのもいけませんから。その辺りの匙加減もできる方が望ましいと、カリーナさんもおっしゃっいまして」

 

 カリン、君はお金に関する事以外の気遣いもできたのか。感激だ。

 

「他にも立候補した方は居ましたが、最終的に私が来る事となりました」

 

 立候補制だったのか。そしておそらく、条件に合わない人形をカリーナあたりが弾いたと。

 ……他に誰が立候補したのか、少し気になる。

 

「そうですね……M4さんやAR15さんは、とても強敵でした」

 

 あっ、M4やコルトも立候補してたのか。確かに先日の様子を考えてみると納得……って、戦ったの!?

 ちょっと、どうやって担当者を決めたの? まさか本当に戦った訳じゃないよね?

 もし本当に戦ったんだとしたら、SOPならまだしも、相性最悪もいいところだろう。

 

「では指揮官、行きましょうか」

 

 そうだね、行こうか。

 ところでまだ質問の答え聞いてないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官、お疲れ様です」

 

 一通りのトレーニングが終わり、医師から一端休憩を取るように言われてベンチに腰掛けると、すかさず側に控えていたM590が清潔なタオルと液体の入ったコップを差し出してくる。

 礼を言ってそれらを受け取り、汗を拭き取ってコップに入ったものを口に含む。ほんのりと甘みを感じる、適温の経口補水液だった。

 

「メニュー等は事前に伺っていましたが、やはりまだまだ激しい運動はできないのですね」

 

 まあ、単純に筋肉が衰えていたというのもあるが、それ以上に三ヶ月やそこらで完治するほどの怪我でもなかったからな。

 それはきちんと俺自身も理解しているから、焦りは今のところは無い。

 

「それは何よりです。焦っても碌な事はありませんから」

 

 それは良く分かってる。さすがに先日のあれで学習しないほど、マヌケではない。

 

 それにしても、補助要員が必要とされたが、今のところその出番はそう多くは無い。

 

 電気治療を行ってから補助器具を用いない歩行練習の後にトレーニングを行い、医師による身体機能評価が行われ、修正されたメニューを積む。基本的にはこの繰り返しだ。

 その間に万が一の事態に備えて俺を監視しながら待機し、場合によっては簡単な補助を行う程度。当人である俺はともかく、M590にとってはかなり退屈なのではないだろうか。

 

「そんな事はありませんよ」

 

 そんな心配は無用だったようで、使い終わったタオルを受け取りながら、笑って否定される。

 

「こうして指揮官の様子を見られるだけで、退屈等というものからは程遠いです」

 

「もう二度と、あなたが動く事はないのではないか。そんな不安に駆られていた日々とは打って変わって、あなたがこれだけ動けるようになるまで回復したのだと、実感できるんですから」

 

 確かに、全身包帯塗れだった、自分の事ながらかなり痛々しい当時の写真(何で撮ってあるのか甚だ疑問だった)の姿と比べれば、今の状態は劇的な変わりようではある。相変わらず実感は沸かないが。

 

 俺だって、もし彼女達があんな姿になってしまったら、きっと昼も夜も眠れず心配で堪らないだろう。例え人形であると分かっていたとしても。

 ましてやそれが生身の人間であったとしたら、その時抱くであろう不安は、推察するに余りある。

 

 ならば、きっと彼女達も似たような思いを抱いたのではないか。そう自惚れてみても、良いのだろうか。

 

「きっと私以外の者も、同じ思いを抱くと思いますよ」

 

「ですから、戻って来てくれてありがとう、指揮官。ずっと待ってました、この時が来るのを……」

 

 普段から微笑を絶やさない彼女が見せる、弱々しい表情。直後にそれを塗り替える笑顔に、思わず見惚れてしまう。

 

「それに、私の本格的な出番はこの後ですから」

 

 ああ、そう言えばメニュー自体は事前に聞いているんだっけ?

 こっちは詳しくは聞いてないから知らないけど、その口振りだと補助要員が必須なメニューがこの後に控えてるって事かな。

 

「それは後のお楽しみですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あだだだだだだだだだだだッ!!

 

「指揮官、ゆっくり息を吐いて力を抜いてください。抵抗すれば余計に痛いだけですよ」

 

 どんなシチュエーションであったとしても、聞きたくない台詞だね、それは。

 

「ほら指揮官、もっと足を広げてください」

 

 いや、これが限界だって。三ヶ月も寝たきりだったから、股関節が凝り固まってるんだ。

 

「三ヶ月寝たきりだった事を考慮しても、驚くほど体が硬いですね。普段は書類仕事とトレーニングにばかりかまけて、柔軟運動を蔑ろにしてませんか?」

 

 全く持って仰るとおり。指揮に雑務にと追われてるのもあって、運動も数日おきに最低限の量しかこなせなくてね。

 

 まあ、あんな事件があったのだから、今後は無理にでも時間を捻出しておくべきなのかもしれないが。

 

「指揮官、失礼します」

 

 M590が圧し掛かるように、背中に体を密着させて体重を掛けてくる。

 まあ、その、なんだろう。とても背中に柔らかい物が……。

 

「指揮官、どうなさいましたか?」

 

 いや、なんでもない。違うんだ本当に。

 

 だがお陰ですんなり、とはお世辞にも言えないが、床にべたりと張り付くまで体を曲げる事ができた。

 いや、背中の負荷が消えたら即離れるだろうけどね。うん、だからこれは仕方ない……じゃなくて。

 

 これは本当にまずい。色々と。

 やっぱり我儘を言ってでも、専門の人にお願いするべきだったか。

 

「本当は専門の方に補助してもらうのが一番なのでしょうけど、安全面を考慮しますとあまり推奨されませんので、僭越ながら私が務めさせていただきます」

 

 そう言って説明するM590の話によれば、もし補助要員に害意があれば、今この瞬間にナイフを突き立てられる。抵抗する暇も護衛の人形が介入する隙もなく、いとも容易く殺されてしまう危険があるとか。

 

 故に補助要員は人形が務めるようになったらしいが、その時は漠然としか理解できなかった危険性とやらが、今は充分以上に理解できている。

 そりゃ古来からハニートラップが使われる訳だよ。殆どの男に対してこの上なく有効だもん。

 

「では指揮官、次のメニューに行きましょう」

 

 そう言って背中からM590が離れる。かと思ったら、正面に回り込んで来てって、ちょっとタンマ! 今は色々とまずいんだって。

 

「どうかしました?」

 

 どうかしたのかって、ええ……? もしかして無自覚なのか?

 それだけ悩ましい体を持っていて?

 

 ……いや、少なくともそういう体型である事に、彼女は直接的に関係はしていないか。

 製作者があらかじめそうであれと作ったからこその体であり、それ故に彼女はその辺りについての自覚が薄いとか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色んな意味で過酷だったリハビリを終えて病室に戻る頃には、既に満身創痍だった。精神的な面でも。

 

 だが肉体的疲労はないという訳でもなく、非常に情けない話だが、精神的疲労を抜きにしても疲れは相当なもので、松葉杖だけでなくM590に肩を貸して貰わなければ歩くのも一苦労な有様だった。

 

「指揮官、大分お疲れのようですね。部屋に戻る前に、少々お休みしましょうか」

 

 M590から見てもその有様は酷かったようで、彼女からそう提案され、廊下の椅子へ誘導されて一緒に腰掛ける。

 かと思ったら、抵抗する間もなく、だがこの上なく丁重に体を倒され、膝枕をされる。

 

 頬に当たる太ももの感触が非常に悩ましい、じゃなくて、別に変に遠慮したりするつもりもないから、せめて一言事前に言って欲しくはあったかな。

 

「今日は本当にお疲れ様でした」

 

 

 膝の上に乗せた頭を静かに撫でられる。その感触が心地良く、目を閉じてしまう。

 

 もし自分に母親が居たのなら、こんな感じだったのだろうか?

 そう、失礼な事を考えてしまう。

 

「私は本日限りになりますが、明日もまた別の人形が来ますので、その子とも仲良くお願いしますね」

 

 それは言われるまでもない。彼女達から進んで補助要員を務めてくれるというのに、邪険に扱う訳がない。

 

「ふふっ、そうでしたね。あなたに対しては、無用な心配でした」

 

 そこまで言われるほどの事ではないとは思うが。

 

 俺は別に聖人君子ではない。人間である以上、相手に対する好き嫌いは抱く。嫌いな相手に表面上は取り繕っても、進んで仲良くしようなどとは思わない。

 たまたま人形達の中に、苦手と思う相手は居ても、嫌いと思うような相手が居ないだけの話だ。

 

「知っています。だからこそ、です……」

 

 そこでそれまで一定のペースで動いていた手が止まる。同時に微かに空気が変化するのが伝わり、閉じていた目を開いて、M590へと視線を向けてみる。

 

「正直に言うと、本当は本日あなたに会うのが、怖くもありました」

 

 意を決したような表情で、彼女が口を開き紡いだのは、搾り出すかのような告白。乗せられていた手から震えが伝わってくる。

 

「本来ならばM16さんよりも、私の方が適任であったのにも関わらず、あの時の私は指揮官の側に居る事ができませんでした」

 

 それは仕方がないだろう。あの時M590には、正面から敵を引き付け足止めするという役目があった。

 決して前線で戦う訳ではない俺の護衛と、どちらが優先度が高いかは言うまでもない。

 

「ええ、それは分かっています。それが最善であると、私もその案を支持しましたから」

 

「ですが、だからこそ考えずにはいられなかったのです。指揮官が危機に陥った時に側に居たのが私であれば、きちんとあなたを守れたのではないかと」

 

「そしてあなたに責められてしまうのではないかと」

 

「こんな事を考えてしまっている時点で、指揮官の事を疑ってしまっているも同然ですね。申し訳ありません」

 

 そんな事はない。そう思ってしまうのは、人だろうが人形だろうが関係なく当然の事だ。

 

 それにそれを言うなら、俺だって少しは怖かったのだ。

 彼女達が俺のところに来て、叱責されるのではないかと。

 

 俺の下した判断で彼女達を危険に晒した事を責め立てられ、更には見損なわれるのではないのかと。

 あの極限状態では、それが最善であると考えられるのならば、安全性は二の次の指示をいくつも出した。

 

 彼女達の誰もが、それに文句の一つも言わずに従ってくれた。

そしてそれは、彼女達も納得した上での事だったと、416も保証してくれたからこそM590と会う時には払拭できていたが、それでもそんな恐怖を感じていたのは事実だ。

 

 それこそが、彼女達に対する侮辱であるという事にすら気付けずに。

 

 だからM590が気に病む必要など、どこにもないのだ。

 当たり前の思いを抱いた事を責め立てる道理などなく、なんら恥に思う必要はない。

 

「やはり指揮官は指揮官ですね」

 

 俺の言葉を聞いて、その余韻を噛み締めるかのように微笑む。

 まるで俺の三人称に三人称とか役職以外の意味があるかのような言い方だなぁ。

 

「気にしないでください。あなたは今のままで良いんです」

 

「だからこそ私達は今までも指揮官に付いて行き、そしてこれからも付き従おうと決めたのですから」

 

 静かな決意が込められた言葉。それを直接伝えられて嬉しくもあるが、結構気恥ずかしい。

 

 気を紛らわせるように、基地の様子はどうかと、ちょうど良いタイミングなので聞いてみる。

 

「概ね平常通りに運用されています。指揮官の不在を機に、いくつか業務の効率化を図りました」

 

「またカリーナさんが本部に申請した予算の増額の許可が下りて、各種設備を強化する事で不在の穴を補填しています」

 

「変更された内容に関しては、私の方で書類に纏めて持って来ましたので、病室に戻りましたら目を通してください」

 

 それはありがたい。口頭で伝えられるよりも形で残してくれれば覚えやすいし、何より入院中の暇潰しにもなる。

 ……カリーナの予算増額の辺りが少し気にはなるが。

 

 それで、皆の様子はどうだろう?

 

「みんな、指揮官の事を心配しています。そして早く会いたがっています」

 

「例えどんな状態に陥ってしまおうとも、指揮官が指揮官である限り、全員が付いて行く事を決めています」

 

 どんな状態に陥ってしまおうとも、か。今の俺の状態を見て、尚もそう言ってくれるのか。

 

 リハビリは順調だ。順調に進んでいるからこそ分かる。もう俺の体は完全には元には戻らないと。

 

 失った片目が良い例だ。あくまで今行っているリハビリも、失った体の機能をある程度まで取り戻し、後遺症を少しでも軽くすると共に、多くの機能を失った体に少しでも慣れるためだけのものだけに過ぎない。

 一度失われたものが戻って来る訳ではないのだ。

 

 この先、どれだけ取り戻せるかは分からないが、健常者と比べれば足手纏いになる事は確実だった。そんな自分に、今後も皆が果たしてついて来てくれるのか、不安だった。

 だが少なくとも、その俺を見ているM590は見捨てずにいると、そして他の人形達もそのつもりだと言ってくれた。

 それだけで、大分救われる。

 

 これからも迷惑を掛けるとは思うが、よろしく頼む。不安を払拭するように、そう頼み込む。

 

 彼女達が今後も俺に付いて来てくれると決めてくれた――その事自体はとても嬉しい。

 だが今の俺はこんな体だ。きっと今まで以上に迷惑を掛けてしまうだろう。

 

 だからせめて、言葉だけでも彼女達を労ってやりたかった。

 

「勿論です。それと指揮官。先程は今のままで良いと言いましたが、ご自分が言ったとおり、できればもっと私達を頼ってください」

 

「あの事件の前から思っていましたが、少しばかり指揮官は自分で何でもやりがちです。ですが、もっとわたし達を頼ってくれれば、却ってスムーズに物事が進む事だって多々ありました」

 

 撫でる手を止めずに、苦言を呈して来る。その内容もこちらを慮ってこその事。

 それが余計に母親の説教のように思えて苦笑してしまう。

 

「本当に反省していますか?」

 

 だが、その反応がよろしくなかったのか。咎められる。

 

「今後おそらく、指揮官にはより多くの物事が舞い込んで来るかと」

 

「加えて、体も万全ではないのですから、今まで通り何でもかんでも自分でやろうとしては、倒れてしまいます」

 

「それを避ける為にも、もっと私達を頼ってください。私達は戦う以外にも、様々な分野で活躍できる技術を併せ持ってますから」

 

 それは良く理解している。秘書に任命した人形次第だと、時たま差し入れとかも入れてくれるし、様々な業務を手伝ってくれる。416とか、その最たる例だろうし。

 

「ですので指揮官、戦闘以外の事でも任せてください」

 

「例えば私でしたら書類仕事に対話の仲介や補佐、業務以外でも炊事、洗濯、掃除といった家事まで幅広く対応できます」

 

「もし他の子が何かを言って来ても、指揮官に迷惑を掛けないよう話し合って解決するので、その辺りも心配要りません」

 

 その辺りって、どの辺り?

 俺が人形に頼り過ぎると、情けないって苦言を呈する子も居るって事?

 

 それはむしろ、心配するべきじゃないかな。彼女達に見捨てられたら目も当てられないと思う。

 

「ですから存分に頼ってくれていいんですよ?」

 

 まあ、さすがに全面的に頼る訳にはいかないだろうが、M590の言っている事にも一理ある。

 これからはもう少し、彼女達に業務関連の事なら頼ってみるのも手だろう。

 

 と、そこで不意にM590の手が止まる。

 

「ところで指揮官。先日勝手ながら、あなたのお部屋を片づけさせて頂いたのですが……」

 

 ああ、そういえば何だかんだと結局三ヶ月以上放置しているから、埃とかも溜まるか。

 わざわざすまないな。

 

「いえ、それは良いのですが……」

 

 何かあったのか? まるでその歯の奥に物が挟まったかのような物言いは。

 ていうか、心なしか顔が赤くないか? 一体どうしたんだ?

 

 ……あれ、何だろう。何故か急に嫌な予感が。

 

「あなたの部屋のベッドの下の木箱の中身についてですが……」

 

 ワーワーワーッッ!!

 

 いや、違うんだM590。

 それは健全な男であれば、持っていても何も不自然じゃない、むしろ当然の物というか。

 

 仕方ないだろう、若いんだから。

 

「そんなに顔を隠してまで恥ずかしがるぐらいなら、今度はあんなもの先に隠しておきましょうね」

 

 いや隠してたでしょ。隠してたのをそっちが見つけたんでしょ。

 はい、すいません。次はもっと上手く隠します。

 

 でもそうか。見つかったのはベッドの下のブツだけか。ならまだセーフだな。不幸中の幸いってやつだ。

 引き出しの二重底の中身とか、ベッドの天板の裏とか、本棚の裏の隠し扉の向こう側とかはバレてないんだな。

 

 さすがにそれらの中のいくつかは、大分バレたらヤバイやつだって自覚ぐらいはある。

 いや、さすがにそういう性癖じゃなくて、単純に好奇心と巡り合わせが重なった結果で手に入れただけであって、その後捨てるのもできないから持ってるだけだけど。

 

「全く、ああいうご趣味があるのなら、もっと早く言ってくれても……」

 

 ん、何だって? よく聞こえなかったんだけど。

 

「何でもありません。それより、そろそろ戻りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、どうかなさいましたか? 何か問題でもありましたか?」

 

「ちゃんとルールは守ってみせましたが」

 

「ええ、指揮官の補助要員の役目が終了したら、指揮官を病室まで送り届けた後に速やかに戻る事」

 

「ですからこうして、戻ってるでしょう?」

 

「あれはあくまで、指揮官の体調を第一に考えた結果ですよ。大分お疲れでしたから。そのついででしかありません」

 

「何も問題はありませんよね?」

 

「これですか? ただのタオルですよ。こちらにあるかどうかは分からなかったので、念の為に持って来たんです」

 

「指揮官が汗を拭くのに使われたので、持ち帰って洗濯するのは当然の事ですよね?」

 

「……そうですか、それは良かった。それでは、失礼しますね」

 

「そう睨まないでください。あくまで最優先事項は、指揮官の事です」

 

「少なくとも今は、どんな形であっても指揮官には迷惑を掛けないように」

 

「ですから、みんな仲良くやりましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 




M590は初めてうちに来てくれたショットガンです。褐色肌に銀髪でしかも包容力抜群とか、どストライクでした。
果たしてあの世界で人形のデザインと性格がどのようにして決められているのかは不明ですが、M590の性格と外見を兼ね備えさせた人物には拍手喝采を送りたいです。
惜しむべきはストーリーでの登場がまだ無い事ですかね。お陰でまだまだキャラが掴み辛いのです。
最初は徹底的に甘やかされる話にしようとしてたんですが、考えてみると駄目になるような甘やかし方というよりは、存分に甘やかしつつも自立を促すようなキャラなんじゃないかと個人的には思って、途中で大幅に書き直しました。お陰で文量が今まで一番多くなりました。

書いてて思ったんですが、筆者の技量不足も相まって、病院が舞台だと意外とシチュエーションとか展開が限られるんですよね。もう少しの間病院生活の話を続けるつもりでしたが、縮めるべきか悩み中。

それと活動報告にリクを下さった方、ありがとうございます。できる限り消化できるように頑張ります。

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