その指揮官は深すぎる信頼関係を築けていた事に気付けてなかった 作:東吾
コルトAR-15、バルソク、SOPMODⅡ、M4A1の話になります。
初日にM590が補助要員として来たのを皮切りに、翌日から色んな人形達が見舞い兼補助要員として病室に訪れて来た。
次の日に来たのはコルトAR-15だった。
「指揮官、本日は私が補助要員を務めさせて頂きます。よろしくお願いします」
先日のM590に負けず劣らずビシッとした敬礼と共に入室して来た彼女は、挨拶を終えると何か言いたそうに、ジッとこちらを見て来る。
しかしどうかしたのかと問いかけると、静かに首を振る。
「いえ、何でもありません。指揮官こそ準備は良いですか? 私はいつでも行けますよ」
コルトの言葉に、さっさと準備を終えて移動を始める。
リハビリが次の段階に移行してから、移動にエレベーターだけでなく、階段を利用する許可も医師から下りたため、今日から階段を使ってみたが、道中もコルトが支えてくれたお陰で特に危ない場面もなく、リハビリ棟に到着する事ができた。
逆を言えば、まだ補助無しで移動する事はできず、補助要員の仕事を一つ増やしてしまう事になるが、ここはまだ彼女達に甘えておく場面だろう。
しかし、リハビリ中もコルトはどこか心ここにあらずといった様子で、ボーっとする場面が多かった。
とは言っても、役目に支障が出ている訳ではない。医師の指示の元リハビリを行っている俺の補助要員として側に立ち、要所ではしっかりと役割を果たしていた。
どこか様子がおかしいのは明らかだ。しかしあからさまにミスをするようならばともかく、仕事はきっちりとこなしている。
加えて先程聞いた時には何ともないと答えられている為、イマイチ切り出し辛かった。
そんなコルトにどうしたものかと、休憩時間に入って頭を悩ませていると、以外にも彼女の方から話題を切り出してきた。
「指揮官、一つ伺ってもいいですか?」
彼女が聞きたい事、おそらくはそれこそが、今の彼女の奇妙な様子に関係しているのだろうと考え、居住まいを正す。
「指揮官は、胸の豊かな女性が好みなのですか?」
ゴフッと口に含んでいた経口補水液を吐き出した俺は悪くないだろう。
いきなり何を言うかと思えば、どうしてそんな答え辛い事を言うのかなぁ!?
「……私たち戦術人形は、最初からそうであるように体を造られています」
「
「勿論、私達の役割は戦う事です。それを果たすのに体型は不要というのは分かってます。ですが……」
そこでそこから先は言いたくなさそうに……というよりは、言えないかのように、言葉を区切る。
「その……私のモデルは、貧そ……いえ、起伏に乏し……いえ、あまり男性受けし辛い、ような……」
うん、二度も言い直す必要はないよ。何を言いたかったたのかは、大体分かったから。
……この様子だともしかして、誰かにからかわれたか?
「誤解しないで欲しいのですが、別に気にしてるとかそういう訳ではなく、それが原因で私の活躍を正当に評価されない事が無いとは言い切れませんし……」
心なしか頬を紅潮させて、早口で捲し立てて来る。
「いえ、決して指揮官がそういう人であるとは思ってはいませんが、上の方々には男性が多いですし……」
「やはり同様の戦果を挙げた場合に、私よりも男性受けするモデルの人形の方が、評価が高くなる事も考えられなくはないかと……」
あれか? 言外にクルーガーさんはそういう人だと?
……あの人が女性の趣味について語るところが想像できないな。
まあ、俺の個人的趣向はさて置いて、確かに一般的にはそういう男の方が多いのではないだろうか?
「一般的には……」
俺の回答を口の中で転がし、目線を自分の胸元に落とす。
その視線が憂いを帯びているように見えて、すかさず気にする事はないと続ける。
一般的にはそうかもしれないが、少なくとも俺は、外見で人や人形を差別するつもりは毛頭ない。
そんな事をするのは、指揮官として以前に、人として最低な事だ。君が言ったとおり、俺はそんな最低な奴になるつもりはない。
だから、彼女の抱いている心配はただの杞憂だ。
そういう意図を込めて伝えると、一瞬ハッとしたように顔を上げ、すぐに満足そうに微笑む。
その後に彼女からその件に関して特に言及はなかったが、休憩が終わりリハビリが再開しても、それまでのような心ここにあらずといった風の様子は消え失せ、普段どおりの態度で補助要員を務めてくれた。
その様子に、何とか納得して貰えたのかと安堵の息を吐く。
実のところコルトに対する回答は、当初の彼女の質問から論点がズレている。
彼女がそれに気付いたかどうかは分からないが、どちらにせよ、それ以上の追求がないならそれに越した事はない。
不誠実だって? 勘弁してくれ、だってどう答えても詰むだろ。胸の大小に関する俺の嗜好の話なんて。
変に濁したところで誤魔化せないのは目に見えているし、かと言ってどんな回答をしたところで、変態の汚名を受ける事は免れないだろう。
だからもし後でそのことに気付いたとしても、どうか許してくれ、コルトAR-15よ。それにどうか誤解しないで欲しいが、君に言った事は嘘じゃない。
胸の大きさに貴賎はないと思ってるし、故に差別する事はない。本当だ。だけどそれを明言するのは勘弁して欲しい。俺にも恥というものはあるのだ。
いやまあ、気付かないでいてくれるのが一番なんだけどね。
その次に来たのはAEK-999、通称バルソクだった。
「指揮官、人の趣味にとやかく言うのは野暮だって分かってるけど、それでもあの本はロックじゃないぜぇ」
入室して来て早々、挨拶もそこそこに言って来たのは、そんな言葉。
……あの本?
「ベッドの下の木箱の――」
ちょっ、何でバルソクがそれを知ってるの!?
「M590が見つけた時に、他の奴等も居合わせていて、そこから他の人形達にも広まってたぞ」
基地全体の人形達に!? ワタシもそれで知ったって、いいよそんな報告はしなくても!
「他人の趣味にとやかく言うのはナンセンスだってのは分かってるけどさぁ、方向性の違いはバンドでも気をつけなきゃいけない一番の事項だぜ?」
「ただでさえうちの基地は大所帯なんだし、中にはそういう事を気にする人形だって居るんだ。実際、ショックを受けてた奴も何人か居たし」
ショックを受けたって、彼女達が? 何故に?
もしかしてあれだろうか。別にそう見られたい訳じゃないけど、それでもそれはそれでムカつくみたいな感じだろうか?
あれ、もしかして昨日のコルトの不調の原因ってそれなの!? だとしたら俺、随分と的外れなアドバイスしてた気がする!
「確かに勝手に見たのはこっちだけどさ、それでももっと気をつけてくれよ。そんな理由で瓦解とかなったら、割と笑えないぞ」
それは確かに面目ない。人形といえども、見た目通りその中身は年頃の少女のメンタルを有している娘が多い。
そんな彼女達にとって、俺が所持していたアレはかなりデリケートな代物だっただろう。
だが誤解しないでくれ。確かにジャンルは褒められたものじゃなかったかもしれないが、あれイコール俺の性癖ではないのだ。
その辺りの認識だけはきちんと解いておかなければなるまい。
ちゃんと隠していたし、見られたら不味いという自覚ぐらいはあったのだ。
「自分のジャンルじゃないのにも関わらず持っていた……って事は、別の隠し場所もある?」
……ソンナコトナイヨ?
「鼓動と声紋が乱れたって事は、図星か……」
君そんな事できたの? 割と長い付き合いだったけど初めて知ったよ。あとそんな目で見ないで。
普段から手厳しい娘からならばともかく、友人のような距離感で付き合っている君にそんな目で見られるのは、さすがに堪えるものがある。
結局その後、リハビリの時間が来るまで、延々と根掘り葉掘り詰問された。
ちょくちょく何とか誤魔化そうとしたのだが、即座に見抜き、正解を当ててみせるリアル嘘発見器と化したバルソクに勝てる筈も無く、隠し場所も隠してるブツの内容も、全て把握された。
唯一の救いは、入手経路と事情も把握され、且つそれが嘘でないと理解してくれた事か。お陰で変態の汚名を被る事だけは免れた。
既に大分手遅れな気もするけども。
「やっほー指揮官。少しは元気になった?」
次にそんな掛け声と一緒に来たのはSOPMODだった。
業務的なやり取りは殆ど無いが、それでも初日にM590から渡された資料を元にしたやり取りが少しばかりあるため、まだしばらくはそういった話ができる人形が来るとばかり思っていた為、彼女が来たのは意外ではあった。
とはいえ、決して彼女が来た事自体に不満は無い。むしろ心なしかいつも以上に上機嫌そうな様子を見ていると、こちらの気分も向上してくる。
聞きたかった事は後日でも構わないだろうと、来訪を歓迎する。
「ごめんね指揮官。お土産に指揮官を苦しめた奴らの
そうか。ナイスだコルト。正直気持ちは嬉しくても貰っても困るのが本音だからね。
「でもでも、今日に備えて鉄血の奴ら沢山バラバラにしたから、その分指揮官の役に立てるよ! 期待してて!」
んー、鉄血兵の解体は特に俺のリハビリに結びつかないと思うんだよなぁ。だからそんな褒めてと言わんばかりの目で見られても困る。
まあ一応、俺の為を思ってやってくれたのは確かなんだから、頭は撫でておくけども。
「いひひぃ、指揮官が撫でてくれたぁ……」
ニマニマと……いや、これはニヤニヤだなもはや。ちょっとこの笑顔は気持ち悪いというか、怖い。
まあ、喜んでくれてるなら何よりだ。SOPMODも相変わらずのようで安心した。彼女が補助要員を務めてくれるというのならば、今日のリハビリも楽しいものになりそうだ。
そう思っていた事がありました。
「指揮官、もっと力を抜いてってば!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!
ちょっとタンマ! もっと加減してくれって! M590の比じゃないぞ!
「大丈夫、もっと関節って曲がるようにできてるから!」
いや無理だから! 俺の体はそんなに柔らかくないぃッ!!
「そんな事ないって。鉄血の人形を解体して調べたから間違いないよ!」
いやいやいや、確かに人形は人間を模してはいるけれども。しかしだからと言っても、人形のように人間が動くとは限らないのだ。
SOPMODよ、個体差って知ってるかい?
やけにやる気と自信満々だったが、まさか人形で練習したからとかいう、無免許医も真っ青な理屈が飛び出してくるとは思わなかった。
あまりの事態に、居合わせていた女性看護師さんが止める為に駆け寄って来ようとする程だった。
「近寄るなっ!!」
しかしその瞬間に、SOPMODが凄まじい形相で睨みつける。その声と視線たるや、駆け寄ろうとした看護師さんが足を止め、明確な怯えを表情に浮かべるほどだった。
それを見て、即座にSOPMODを注意する。
「だって……」
だってじゃありません。そりゃ任務があるのだから過敏になるのは分かるが、今のはこちらを心配しての行動だったのだ。そう目くじらを立てる程の事でもないだろう。
もっともSOPMODとて、任務があるからこその今の言動であって、決して悪気があっての事ではないのだろうから、軽い注意程度に留めておく。
それにしても看護師さんには申し訳ない。頭を下げて謝罪を口にするが、表情から察するにあまり結果は芳しくない。
SOPMODの剣幕が余程恐ろしかったと見え、目じりに涙が滲んでいる。
「うぅぅぅぅ……」
俺が頭を下げているのを見て、SOPMODが唸り声とも、呻き声ともつかない声を上げる。ただその表情には、確かな申し訳なさがあった。
それが分かった以上、俺からはもう何も言うべき事はない。
ひとまず看護師の女性には、後ほどもう一度、詫びの品を持って謝罪するべきだろうが。
「指揮官……本日はよろしく……お願いします」
翌日、儚げさを感じさせる挨拶と共にやって来たのは、AR小隊の隊長であるM4A1だった。
「申し訳ありません指揮官。昨日はSOPMODがご迷惑をお掛けしたようでして……」
目元を伏せて、頭を下げながら謝罪の言葉を口にする。
それに対して、気にしていないと手を振って答える。
実際こちらが直接的な被害を受けている訳でもなければ、既に済んだ事であり、またあくまで当事者はSOPMODなのだ。本人以外がその件で責を感じる必要はないのだから。
「お気遣い、ありがとうございます。指揮官」
昨日からずっと気掛かりだったのか、肩の荷が下りたかのように口元を綻ばせて笑顔を見せる。
その破壊力たるや凄まじく、その元から整っている顔の造詣とも相まって、不覚にも強い動悸を感じてしまう。
それを誤魔化すかのように、リハビリに向かう事を伝える。
「ええ、分かりました。では、行きましょう指揮官」
先導するM4A1の後を追う。
しかし答えておいて何なのだが、果たしてどれの事を指して言っているのだろうか。
そんな比較的どうでもいい事を考えながら、リハビリ棟に到着し、いつも通りのメニューをこなしていく。
驚くべき事に、先日の
主治医の先生からも調子が良い事を驚きと共に褒められ、次のメニューに移行できると太鼓判を貰った。
その準備の為に、先生が少し席を外している間は休憩となった。
「お疲れ様です、指揮官」
ありがとう、と礼を言い、M4から経口補水液とタオルを受け取り、水分補給をしながら汗を拭く。
「経過は順調だと伺ってはいましたが、やはり実際に見る事ができると、安心できます」
ほっとしたような安堵の表情で、微笑みながら言うM4に、手伝ってくれている君達のお陰だと伝える。
実際予定よりも早く次の段階に進めたのは、ほかでもない昨日のSOPMODのお陰だった。
だから決して世辞ではなかったのだが、だからこそ本心だと伝わってしまったのだろう。面と向かって言われたのが気恥ずかしかったのか、顔を赤くして俯かれてしまう。
その反応を見ていると、こちらまで恥ずかしくなり、気を逸らすように明後日の方を見る。
そう言えばと思い立ち、周囲を見渡して昨日迷惑を掛けてしまった看護師の女性を探す。
しかし、いくら探しても姿が見えなかった。
ならばと、戻って来た主治医の先生に彼女の居場所を尋ねると、先生も不思議そうに今日は居ないと答える。
何でも、何の連絡もなく欠勤しているのだとか。
まだ入って一年経っていない新人だが、勤務態度は良好であり、無断欠勤するようなタイプには見えなかった為、同僚達も首を傾げているとの事。
それを聞きながら、昨日のSOPMODの事が余程怖かったのではと、冷や汗をかく。
「指揮官、どうかされましたか?」
俺の動きを不思議そうに見ていたM4の質問に、昨日の看護師の姿が見当たらない旨を、掻い摘んで説明する。
「そう、ですか……」
俯き、思考に没頭するM4に、心配しなくていいと伝える。
SOPMODの事を怒ったりはしない。結果的に不味い行動ではあったかもしれないが、それとて任務を忠実に果たそうとしたからこそであり、何ら問題はないのだ。
まあ後ほど昨日の看護師については、上層部の方にフォローをお願いしておくとしよう。ついでに、お詫びの品も想定していた物よりグレードを上げておくべきか。
「指揮官、ありがとうございます」
俺の言葉に安心できたのか、礼を言われる。
だが、この程度の事で礼を言われるほどでもない。指揮官として、そして彼女達の上司として、当然の事だからだ。
それ故に背中にむず痒さを覚えながら、リハビリに戻る。
ちなみに新たなメニューは、想像以上にきつかった。
「指揮官、大丈夫ですか……?」
疲労困憊となり、ろくに身動きが取れない状態となった為に、車椅子をM4に押してもらいながら病棟まで戻ることになった。
心配そうに声を掛けてくるM4に、問題ないと伝えるが、正直座っていても意識を保っているのが辛い。
その事に不甲斐なさを覚えていると、エレベーター前までに辿り着き、しばらくその場でエレベーターの到着を待つ。
「そう言えば指揮官……少しお聞きしたい事が……」
一端俺の横に立ったM4が、遠慮がちにそう言って来る。
勿論、質問に答えるぐらい何て事はない。こんな事をさせてしまい申し訳なく思っていたのもある。何でも聞いてくれて構わない。
そう言うと、背後で安心したように息を吐き、続けて考え込むように視線を伏せる。
それでも特に催促もせず、彼女の質問を待つ。すると少しして、やや言い辛そうに口をまごつかせる。
「その……指揮官の所持していた……ええと、何と言いますか……」
段々と嫌な予感がして来たが、まさか即座に前言を撤回する訳にもいかず、黙って続きを待つ。
M4は、光を柔らかく反射する艶のある黒髪を恥ずかがるように手で触れながら、視線を伏せたままおずおずと口を開く。
「指揮官は……黒髪の女性の方が好きなのですか?」
……誤解なんだ。
「お疲れ様です。これよりそちらに戻ります」
「はい、指揮官の容態は順調です」
「遠からず戻ってこれるかと」
「ところで一つ、聞きたい事があるのですが……」
「……なるほど、そういう事でしたか」
「では、後で戻ったら詳しく聞かせてください」
「ええ、大丈夫です。指揮官は特に気付いた様子はありませんでした」
「その後については、そちらにお任せします」
「それでは、後ほどに……」
AR小隊の中にバルソクが入っているのは完全に趣味です。
バルソクいいですよね。あの何とも言えない距離感が堪らないです。スキンが来るのを楽しみにしています。
病院内が舞台だと思っていた以上に話が膨らませられないと気付き、ダイジェスト風になりました。多分近いうちに、退院して舞台が移っていくと思います。
おそらく次はリクを頂いていたダネルの話になると思います。遅くなりましたが、リクエストを下さった方、本当にありがとうございます。残りも可能な限り徐々に消化していきたいと思いますので、よろしくお願いします。