その指揮官は深すぎる信頼関係を築けていた事に気付けてなかった 作:東吾
リクエストしてくださりありがとうございました。
愛が深い描写が全然足りないです。力量が足りずに本当に申し訳ありません。
消灯時間がとうに過ぎた真夜中に、ふと目が覚める。
別段、尿意を催してしまった訳でもなければ、日中寝すぎて目が冴えてしまった訳でもない。かと言って、胸騒ぎがするという訳でもない。
本当に偶然にも目が覚めて、そして何となくそのまま再び眠りに入る気分にもならなかった。そんな気紛れに身を任せて、上着を羽織って病室から出る。
消灯時間を過ぎた夜の病棟には当然明かりも殆どなく、周囲の静けさと相まって、不気味な雰囲気に満たされている。
そんな不気味な空間を見ていると、夜風に当たりたいと思い、階段を使って屋上へと向かう。
一般的な病院ならば施錠され立ち入りができないのだろうが、ここの病院はそれなりの立場のある者達が利用する為か、深夜でも解放されている。
扉を開けると、まだまだ冷たさを残す風が体を撫でる。上着を羽織って来たのは正解だったなと一人笑う。
「指揮官、そこで何をしているんだ?」
欄干に手を乗せて星空を眺めようと頭上を見上げると、背後から聞き覚えのある声が届く。
振り向くと、出入り口の上にNTW-20、通称ダネルが腹這いになってライフルを構えていた。
特に隠すような事でも無かったので、正直に気晴らしに夜風に当たりに来たと伝えると、何故か眉を顰められる。
「護衛も付けずにか? 少しばかり不用心過ぎるぞ指揮官」
ごめん、と素直に謝ると溜め息をついて、耳のインカムに手を当てて「少し場を離れる」とどこかに通達する。
「行くぞ指揮官。護衛は私が務めよう。気晴らしをしたいなら、いい場所を知っている」
そう言って降りたダネルの後に、特に拒否する理由もないのでついて行く。
少なくとも、病棟とリハビリ棟を行き来するだけの俺よりは、周辺に詳しいだろうという期待もあった。
そして結果から言えば、その期待は正しかった。
「ここだ」
ダネルに連れられて来たのは、病院の敷地のやや外れにある、それなりに大きな建物。
病院の敷地内に建てられているためか、白く殺風景に塗られた壁には『ドールズカフェ』と書かれている。
「いらっしゃいませー」
ベルを奏でながらドアを開けると、聞き覚えのある、気だるそうな声が出迎える。
「んあー、指揮官、来たの?」
癖のある灰色の髪を縛り、見覚えのある給仕服に身を包んで立っていたのは、自分の部下の一体であるゲパードM1だった。
「それにダネルも。今日は第一病棟の屋上担当じゃなかったっけ?」
「その通りだが、指揮官が護衛もつけずに屋上まで来たからな。私が護衛を務めて、気晴らしに付き合おうと思ってな」
「……ふーん、そう」
やる気のない言動に惑わされがちだが、引き受けた仕事はしっかりとこなす、我慢強い一面があるのがゲパードだ。
そんな彼女からすれば、俺の勝手な都合で本来の仕事をそっちのけでダネルを連れ回している事に、思うところがあるのかもしれない。
そう思うと途端に申し訳なくなり、二人に頭を下げる。
「……別に謝られる事でもないってば。それじゃあこちらへどうぞ」
何やら探るような目でダネルを見た後、やはり気だるそうな態度のまま、中央のテーブルへと案内される。
「それなりの立場の人が入院する病院だから、こういった施設もそれなりに充実しているんだ。人形たちが二十四時間態勢で、いつ来てもいいように交代でシフトに入っている」
俺が椅子に座るのをさり気なく補助しながら、ダネルが説明してくれる。
「勿論、食材も良い物を仕入れている。きっと指揮官も満足できると思う」
なるほど、大物が入院している時に、可能な限り不便な思いをしないように、採算を度外視して設置してあるのか。
言われてみれば確かに、周囲を見てもホールに居るのは人形達ばかりだ。
それにそういった立場の者は、得てして舌が肥えているものだ。そんな舌を満足させる為には、それなりの品質のものが仕入れられていて然るべきだろう。
ちょうど病院食も味気ないと思っていたところだし、いい場所を教えて貰った。
しかし、何故ゲパードがここに?
「警備の一環で一時的に働かせて貰っているんだよ。一応、ここが占拠される可能性もあり得ない訳じゃないし」
「以前給仕を務めた事があるって事で、ワタシが抜擢された」
「私も巡回が入っていない時は、ここで働いているんだ」
だからダネルもここの事情にも詳しいのか。納得した。
「こちらがメニューになります」
メニューを渡されて、見てみる。
「どれも美味しいが、私は特にデザート系がオススメだ」
砂糖が希少品となった現在では、そもそも取り扱っている店も限られている中で、驚くほどの充実ぶりだった。
こうも多いと、あれもこれもと目移りしてしまう。
迷った末に、オーソドックスなパフェを頼む。
「はーい。ただいまお持ちしますので、少々お待ちくださいませー」
程なくして、注文した品が運ばれてくる。
想像していたものよりも一回り大きな容器に、出し惜しみはしないと言わんばかりに様々な種類のフルーツと生クリームが盛り付けられ、その上からさらにチョコソースが掛けられている。
一方、ダネルの注文したパンケーキはふんわりとしたスフレケーキで、メープルシロップと傍らにバニラアイスが添えられているシンプルなもの。
食べ切れなかったら彼女に分けてあげようと決めて、まずは一口食べてみるが、想像以上のクオリティに思わず美味いと声が零れる。
「そうだろう。材料もそうだが、調理する人形も専用にモジュールが組まれているらしい」
ダネルの説明に得心する。
クリームのしつこさを感じさせず、どのフルーツとも調和した上品な甘さに加えて、そのフルーツ自体もクリームの量と比較して適切な大きさにカッティングされている。
パフェ自体の温度も適温で、素材の味を殺さず、そして空調の聞いた室内温度にも見事にマッチしている。
然程料理に詳しくない俺でも、素材が良いだけでは説明のつかない出来栄えだという事は分かる。
値段はそれこそ目玉が飛び出る程のものだったが、それだけの価値はあると断言できる。
「随分と気に入ってくれたみだいだな。紹介した甲斐があった」
気がつけば食べるのに夢中になっており、ダネルの声でようやく我に返る。
見れば彼女はこちらを微笑ましそうに見ていて、逆にこちらが恥ずかしくなって来る。
「しかし、そんなに美味しいなら、私もそちらを頼めば良かったか」
少し残念そうに言う。もしかして、まだこれは食べた事が無かったのだろうか?
「それはそうだ。何せここは病院関係者専用店だからな。私たちも、オフの時に訪れる事はできない。精々が警備担当の休憩時間に訪れるぐらいだ」
言われてみればその通りか。相応の立場を持った者専用の病院の敷地内に、早々部外者を受け入れる訳にもいくまい。
ならばと、まだ半分は残っているパフェを一掬いしてダネルへと差し出す。
「し、指揮官、何を……!?」
何をって、折角だから食べてみないかと思って。
「い、いやでも、これはいわゆる、か、かん……」
俺の顔と差し出したスプーンを交互に見ながら、急にわたわたと慌てだす。
もしや、イチゴは嫌いだったのだろうか?
だとすれば、余計な気を回してしまったか。すまなかった。
「いや、そんな事はない! 頂こう!」
大声を上げて、パクリと一気に口の中に入れる。
そのまま少しの間口をもぐもぐと動かして咀嚼していたが、やがて普段のクールさをどこかに投げ飛ばして、顔を幸せそうな表情へと変える。
「う、美味いな……うん、本当に美味い」
それは良かった。
笑顔のダネルの顔を見て満足感を得ながら、パフェの残りを片付け始める。
「そっ、そうだ。折角だし私のも食べてみないか?」
そう言って、パンケーキを素早く切り分けてフォークに刺し、どこか緊張したような面持ちでこちらに向けてくる。
確かに彼女の食べているそれも気になっていたし、こちらに気を使ってくれた彼女の想いを無碍にするのも失礼に当たるだろう。
ここは彼女の好意に甘えよう。そう思って顔を近づけようとして止まる。
今気付いたけどこれ、凄く恥ずかしいな。
ダネルが慌ててたのも、もしかしなくてもこれが理由なのでは?
だとすれば、物凄く失礼な事をしてしまった気がする。
「……ど、どうしたんだ指揮官。もしかして、私の食べた物は嫌なのか?」
そう言って急に悲しそうに顔を伏せる。その反応に、今度はこっちが慌てて、そんな事はないぞと否定し、差し出されたパンケーキを食べる。
こちらも絶妙なふわふわの食感にパンケーキ自体のほのかな甘さと、メープルシロップの甘さが合わさり、素晴らしい絶品になっていた。
惜しむらくは、入院中しか味わえない事か。
最悪材料はポケットマネーで調達するにしても、調理できる腕を持つ者がいない。
いや、専用にモジュールを組んでいると言っていたか。どうにかそれを手に入れられれば、あるいは……。
そんな邪な思考が頭を掠めていると、ふと視線を感じる。
見ればダネルの背後で、ゲパードが何とも言えない表情で、こちらをジトリと睨んでいた。
……今更だけど、さっきのやり取り、部下に対するセクハラにならないよね?
「ダネルから報告。指揮官を予定通り『ドールズカフェ』に誘導完了だって」
「了解。あの店の壁は防音もしっかりしているし、万が一にも騒ぎは聞こえないだろうね」
「だからって、あまり時間がある訳じゃないわ。速やかに奴らを殲滅するわよ」
病院より一キロ以上離れた場所で、UMP9が耳のインカムから聞こえて来た報告を、その場に居たVectorとHK416に伝える。
その報告に、二人は共に物陰に身を隠しつつ応答する。その物陰に、あるいはその傍らの虚空を、断続的な銃声と共に銃弾が駆け抜ける。
「チッ……」
忌々しそうに舌打ちし、銃だけを物陰から出して発砲する。斜線上に居た、フルオートでアサルトライフルを撃っていた男が額に銃弾を喰らい、悲鳴を上げる暇も無く倒れる。
「考えなしに撃って、指揮官に聞こえたらどうするつもりよ」
そう吐き捨てるHK416の銃には、そしてVectorやUMP9の銃にも、サイレンサーが取り付けられていた。
「まっ、これだけ離れていれば夜中でも大丈夫でしょ。その為に迎撃地点をここにしたんだから」
「どの道、指揮官の居る病院の敷地には近付けさせない」
Vectorも9も、416に倣うように別の相手へと銃弾を浴びせる。
銃弾を受けた者たちは血肉を地面に撒き散らしながら倒れる。中には幸運にも即死を免れた者も居るが、即座に頭に銃弾を受けて、脳漿を血と共に撒き散らして息絶える。
「辞めてくれ、撃つな! 我々は君達の味方だ!」
「我らは君達人形を、あの悪魔から解放する為に来た!」
まだ銃弾を受けていない者達が、射線から身を隠しながら声を張り上げる。
「指揮官が、悪魔ですって……!?」
だが逆にその言葉は、彼女達の逆鱗に触れる結果に繋がった。
端正な顔立ちが憤怒で歪められ、凄まじい迫力を生み出す。それを目撃した男達が反射的に後ずさり、射線がぶれる。
その大きな隙を逃す筈もなく、手足を正確に撃ち抜く。その痛みに男は地面に倒れながら絶叫する。
「指揮官を殺そうとして、ただで済むと思わないで頂戴!」
彼らは人形ではなく、人間だった。
ロボット人権団体の中でも過激派で知られる彼らは、先日の驟雨事件で英雄として名を馳せた指揮官を、人形を酷使する敵として認定し、密かに入院場所を突き止めて殺害する計画を立てていた。
名声が引き寄せるものは、良いものばかりではない。時にはこうして、良からぬものまで引き寄せてしまう場合もある。いや、そういったケースの方が多いと言っても良いだろう。
「ああっ!?」
「急にどうしたのよ?」
戦闘中であるのにも関わらず、奇声を発した9に416が訝しげに視線をやる。
「こ、これ……」
そう言って9が見せたのは、通信用端末。その端末の画面には、彼女達の指揮官が恥ずかしそうに頬を染めながら、ダネルが差し出したパンケーキを頬張る姿が写っていた。
その指揮官の手元には食べかけのパフェがあり、ダネルが差し出しているフォークが彼の物ではないのは明らかで、つまりは必然的に既に彼女が使っていた物である事はすぐに分かった。
「はっ……?」
ちょうどリロードのために抜き取った空のマガジンが、416の手の中で不穏な音を立てる。
「私達がクズ共を掃除している間に、一体何をやってんのかしら……」
「ずるいよね! 協定無視して抜け駆けなんて!」
ドスの利いた声音で毒づく416に同調するように、9も頬を膨らませて不満を露にする。当然その間、二人は戦闘に参加していないため、Vectorが一人で応戦していた。
「さっさと片付けて戻るわよ」
「……もう一つの迎撃地点の応援は行かなくていいの?」
当初の計画ではいち早く片付いた方がもう片方の迎撃地点の応援に向かうという手筈になっていた為、Vectorが一応は声掛けする。
「あの寝ぼすけだって、やる時はやるから大丈夫よ。あいつも居る事だしね」
その問いに心から忌々しそうに答え、リロードを終えて戦線に戻り、先程とは比べ物にならないほど鬼気迫るオーラを纏い、引き金を引く。
結局その迎撃地点の敵が全員骸と化したのは、それから僅か五分後の事だった。
今後登場予定のUMP姉妹の為にも諦めるわけには行かず、深層映写何とかギリギリで駆け抜けました。ランキングは35万前後なので専用装備は無理そうですね。
UMP40の「鬼ごっこしよう」の台詞、ストーリークリア後だと凄く切ないです。
そしてついにバルソクのスキンが発売されましたね。ガチャではなく確定で売ってくれる運営さんは本当に有情ですはい。
次話は今回の後編になります。別人形視点に挑戦できたらしてみたいと思いますのでよろしくお願いします。