しかし、ようやく原作に入ったというのに一巻の内容にまったく触れてません。
時間軸的にはイッセーがフリードに教われた日です。
ではどうぞ。
EpisodeⅨ 始動《はじまり》
『命を奪っても何も感じず、利益だけを求めて行動する。
……その中に、心というものは何もなかったのではないか?』
「……ここであってるのか?」
「うん、間違いないよ」
俺と黒歌は今、とある廃墟に来ている。
無論、人々が寝静まる深夜にだ。
「それにしても、多恵ばあさんっていったい何者なんだろうな」
「……さぁ。私には何とも」
俺の問いに苦笑いで返す黒歌。
そう、俺たちが今ここにいる理由はたった一つ。
多恵ばあさんのお使いだ。
神社での一件以来、俺は多恵ばあさんからいろいろなお使いを受けるようになった。
買い物や人探しはもちろん、
「この仕事、今回で三回目か」
「はぐれ悪魔の掃除とか……とても多恵さんが一般人とは思えないにゃ」
全くもってその通りだ。
まぁ、別に『あそこにはぐれ悪魔がいるから狩ってきてね』と言われたわけではない。
そうなら俺たちは確信をもって言える。
あの人は人外だと。
確信がないからこそ困っている。
「とりあえず、行くか」
「そうだね」
余談ではあるが、今回俺たちは多恵ばあさんにこう言われてきた。
『あ、そうそう。あの山の奥にある廃墟が散らかってるらしいから後で片付けに行ってくれないかしら?ほら、ボランティアだと思って。黒歌ちゃんと一緒にね。それと、狂暴な生き物とかいるから気を付けてね?』
本当になんというか。
まぁ、余談はこのくらいにして先に進むとしよう。
掃除をしに、ね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……誰?」
俺たちが廃墟に入ると、中には小学生くらいの少女がいた。
ボロボロのローブを纏い、艶のある黒髪と暗闇の中でもわかるくらい白い肌をした、人形のような少女だ。
「仁、この娘が……」
「あぁ、間違いなく今回のターゲットだな」
「っ!?ター……ゲット?じゃあ、あなた達も……私を殺しにきたの?」
直後、少女の纏っていた空気が刺々しいものへと変わる。
そして、俺たちが身構えたと同時に……
「っ!?仁!!」
空から氷の槍が降ってきた。
しかも一本や二本ではなく、少なくとも二十はある。
「ちっ!黒歌!」
俺は氷の槍を掻い潜り、黒歌へと手を伸ばした。
まるで、彼女を求めるように……強く強く手を伸ばした。
刹那、無情にも氷の槍は二人へと降り注ぐ。
「なんで……なんで皆私をいじめるの?……嫌だ。嫌だよ!もう一人は……嫌だ」
少女は自分を抱き締めるように手を回し、ポロポロと涙を溢す。
だが、油断するには少し早すぎる。
「……なるほど、どうやら今回は
「っ!?」
少女が驚く。
まぁ、無理もないだろうが。
殺したと思った相手が、いきなり目の前に現れたら誰だって驚くさ。
「なんで……生きて……」
どうやって氷の槍から逃げ切ったのか。
答えは至極単純、俺はあの僅かな時間で黒歌のヴォイドを抜き、空間をズラしたのだ。
そう、黒歌の《刀》のヴォイドは斬ったものをズラす力がある。
派手なものではないが、その分応用の幅が広いため多用させてもらっている。
……まぁ、それ以外に使えるヴォイドが無いというのもあるが。
「何はともあれ……チェックメイトだ、お嬢さん」
「っ!嫌だ、私はまだ……」
少女を完全に無力化したのを確認し、俺たちは改めて周りを見回す。
「ねぇ仁。ここって……」
「あぁ、はぐれ悪魔の拠点にしては血の臭いが無さすぎるな」
はぐれ悪魔というのは、契約の有無関係なしに人間を襲う極めて危険な存在の事をいう。
つまり、はぐれ悪魔の拠点には必ずといっていいほど血の臭いがするものなのだ。
だが、ここはそれが極めて少ない。
「おい、お前」
「ひぃ!?」
「………黒歌」
「……ドンマイ、仁」
……俺ってそんなに怖いのだろうか。
まぁ、仕方ないとは自分でもわかっているのだが。
「ねぇ、君。一つ聞かせてほしいんだけど、いいかな?」
「はっ、はい」
……なんだこの差は。
まぁ、別にどうでもいいんだが。
「この娘のことは任せた。俺は少し風に当たってくる」
「え?ちょっと仁!?……はぁ、全く。なるべく早く戻ってきてねっ!!」
黒歌の声に、俺は軽く手を降る。
人付き合いは苦手なんだ、仕方ない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
黒歌と別れた俺は、廃墟の屋上に来ていた。
真夜中だからか、星々がやけに明るく感じるな。
「……俺、何やってるんだろうな」
思えばこの世界に来てもう数年は経つのだ。
あの後、姫島朱乃が家に押し掛けてきたり等のトラブルはあったが、それでもかなり平和に暮らせていた。
そう、前の世界の俺では考えられないくらい余裕のある生活。
金にも居場所にも全く困らない、平和そのもの。
「ははっ……なんだか懐かしいな。不良にかつあげされて、明日の飯に困っていたのがまるで夢か何かだったようだな」
俺は元々孤児院育ちだ。
産まれてすぐに親に捨てられ、それから高校に入るまでずっと世話になっていた。
……いつからだったか。
自分の家のはずなのに、少しも自分の居場所が無いことに気がついたのは。
とにかく、俺はその日を境に孤児院を出ることに決めたんだ。
道端で靴磨きなんかをして毎日毎日、少しずつ金をためた。
そして中学を卒業する頃にようやく十分な金が集まったんだ。
それからは本当に早かった。
孤児院を抜け出し、小さなおんぼろアパートの一室を借りて高校入学と同時にバイトに励んだ。
生きるためにな。
「まったく、今思うとメチャクチャヘビーな人生歩んでないか俺?」
まぁ、普通の人間が通るような道じゃないのは確かだ。
不幸体質というのも、案外的を射てるな。
「……さて、そろそろ戻らないと黒歌がうるさそうだな」
『やぁ、桜満仁君。なかなかに人生をエンジョイしてるじゃないか』
「っ!?」
俺が後ろに振り返ろうとしたとき、まさしくその背後からあの女の声が聞こえた。
そう、俺をこの世界に送り込んだ張本人。
『やぁ、君の女神のご登場だよ?』
「黙れ自称女神」
そう、あの金髪の美女だった。
『まったく君というやつは。まぁ、いいや。それで、この世界はどうだい?何か有意義なものでも手に入ったのかい?』
「有意義なものか。……どうだろうな」
実際、何かが手に入ったわけではない。
ただ、この世界に来て改めて感じたことがある。
そう、俺には何かが……いや、何もかもが欠けているんだ。
命を奪っても何も感じず、利益だけを求めて行動する。
その中に、心というものは何もなかったのではないか?
そう、きっと俺の心は"虚無"なんだ。
たまらなく実感したよ。
『……そうか。まぁ、せいぜい頑張りなよ?仮にも君は、世界をぶっ壊す王になると言ったんだからね』
「……あぁ、やってやるさ。俺は淘汰なんてされないからな」
『そっか、安心したよ。ついでに一つ助言をあげよう。"世界は既に動いている"、明日辺りには赤い龍が目覚めるかもよ?』
なんだと?
今なんて言ったんだ?
明日、赤い龍が目覚めるだと?
「おい!それって……」
『じゃあね、また会おう』
俺の言葉を最後まで聞かず、女神はその姿を消す。
まるで煙のようにふっと消えやがった。
しかし、あいつの言っていたことが本当だとすると……
「明日……か」
どうやら、これから忙しくなりそうだな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「遅い」
「……すみませんでした」
まぁ、そうなるよな。
土下座とまではいかないが、それなりに頭を下げている。
地味に少女の視線が痛いが、気にしないでおこう。
「はぁ、今回だけは許してあげる。……それでこの娘の事なんだけど、仁の言った通り当たりだったにゃん」
「そうか、なら明日多恵ばあさんのところに連れていこう。今日はもう疲れた」
つまるところ、俺たちの仕事は当たりと外れを見分けること。
いわゆる仕分けというやつだ。
俺たちははぐれを狩るとき、殺す前にあることを必ず聞くことにしている。
それは、主を裏切った理由だ。
黒歌のように何らかの理由があって裏切った場合もあるのではないかと考えたからだ。
といっても、今回が初めての当たりだったのだが。
「うん、私も疲れたにゃ。それじゃ、帰ろっか。私たちの家に」
そういって黒歌は少女の手を取り、歩き出した。
「……あぁ」
多恵ばあさんの事に自称女神の事。
気になることはたくさんあるが、今は置いておこう。
きっとどちらにも軽くあしらわれるだろうし。
「……さて、明日はどう出るべきか」
それよりも今は、こちらの方が先決だろう。
次回は教会に突入?
そしてなぜが悪魔に関わってるっぽい多恵ばあさん。
次回で少しは謎が解けるのでしょうか?
次回はいつ投稿できるのやら……