サマポケ短編小説集   作:トミー@サマポケ

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久島鴎誕生日SS

 

 

 

 

 

 

「ふう、今日も疲れたな……」

 

 飲食店でのバイトを終えて、帰宅する。

 

 だいぶウェイターも板についてきたけど、やっぱり立ち仕事は腰に来る。

 

 ……軽くシャワーでも浴びようかと思っていると、電話が鳴った。

 

『あ、もしもし、羽依里?』

 

『鴎か。どうした?』

 

 こんな時間に誰だろうと思って電話に出ると、相手は鴎だった。

 

『明日なんだけど、約束通り鳥白島に来てよね!?』

 

『ああ、わかってるよ。しっかりと準備はしてるからさ』

 

『ホント!? えへへー……楽しみにしてるからねー』

 

 ちょうど春休みの真っ最中ということもあり、明日と明後日は俺もバイトを休んで、恋人の鴎と鳥白島で過ごす約束をしていた。

 

『それじゃ、明日の15時に島の港で待ってるから! 羽依里、大好きだよー』

 

 最後に恥ずかしそうに一言付け加えて、電話はかちゃんと切れてしまった。

 

 それにしても……鴎とはほぼ毎日連絡を取り合ってるけど、ここ数日はやけに弾んだ声で電話がかかってくる気がする。

 

「俺も会えるのは嬉しいけど、あの喜びようは、少し違うような……?」

 

 受話器を置いて、不思議に思いながら自室に戻ると……壁のカレンダーが目についた。3月のままになっている。

 

「あ、カレンダーめくり忘れてた」

 

 ここしばらくバイトに明け暮れていたせいか、めくり忘れていた。春休みは宿題もないし、どうもだらけてしまっていけない。

 

「……あれ?」

 

 手早くカレンダーをめくると、4/4……明日の日付に赤丸がついている。だいぶ前に書いたみたいだけど、なんだっけ。

 

「……ああああああ!?」

 

 一呼吸おいて、思い出した。4/4。鴎の誕生日だった。

 

 しまった。どうしよう。すっかり忘れていた。大切な彼女の誕生日なのに!

 

 

 ―――ああ、わかってるよ。しっかりと準備はしてるからさ。

 

 ―――ホント!? えへへー……楽しみにしてるからねー。

 

 直後、先程の鴎との会話が思い出される。

 

 鴎の不自然なほどの喜びようは、そういう理由だったのか。

 

「ど、どどどどうしよう」

 

 俺は頭を抱えながら、部屋の中を右往左往する。

 

「プレゼントは当然として、後はケーキだよな……!」

 

 幸いにも、近くのアクセサリーショップもケーキ屋もまだ開いてるはずだし……と思案を巡らせていると、あることに気づいた。

 

 ……バースデーケーキって、今から注文して作ってもらえるものだろうか。

 

 もし、明日の朝一で受け取ることができたとしても、それを持って島まで行けるかな。

 

 電車や船を使うわけだし、気温だって……まだ春先とは言え、ちょっと厳しいかもしれない。

 

 ……かと言って、島にはケーキを売っているようなお店なんてないし。

 

「こうなったら、この手しかない!」

 

 俺は机の引き出しから一枚のメモを引っ張り出し、そこに書かれていた番号に電話をかける。

 

 以前何かの時に教えてもらった、しろはの家の電話番号だ。

 

 ……数回の呼び出し音の後、電話が繋がった。

 

『……もしもし、しろは?』

 

『……なんだ。小僧か』

 

『ひっ!?』

 

 すっかり油断していたら、じーさんが出た。

 

『や、夜分遅くに失礼します。えっと、しろはさんはいらっしゃいまするか?』

 

 緊張して、妙な敬語になった。

 

『……待っていろ』

 

 ごとん、と受話器が置かれる音がして、じーさんがしろはを呼ぶ声が聞こえた。

 

『……なに? こんな時間に』

 

 しばらくして、警戒心バリバリのしろはが電話口に出た。

 

『ああ、夜遅くにごめん。寝てた?』

 

『まだ起きてたけど……どうしたの?』

 

『えっと、実はさ……』

 

 俺は事の顛末を詳しくしろはに話し、協力を願い出る。

 

『……え、誕生日ケーキ? 鴎の?』

 

『そう。しろは、作れないかなって思って』

 

『できないことはないと思うけど……』

 

『できたら、鴎のスーツケースくらいの大きさのケーキにしてほしいんだけど』

 

『……おつかれさまでし』

 

『わー! 待って待って! 切らないで! そこまで大きくなくていいから!』

 

 俺は慌てて訂正する。鴎本人は喜びそうだけど、さすがに大きすぎた。

 

『……頼むよ。こんなこと頼めるの、しろはしかいなくてさ』

 

『えぇー……』

 

 明らかに嫌そうな声が返ってくる。

 

『島で鴎の誕生日をお祝いしてあげたいんだ。頼む。手伝ってくれ』

 

『……わかった。私も鴎には恩があるし、今回は特別だよ』

 

 しろははため息交じりでも、了承してくれた。俺はお礼を言って、明日のスケジュールを伝える。

 

『鴎とは15時に島の港で落ち合うことになってるんだ。俺は出来るだけ早い船で島に行って、ケーキ作りを手伝うからさ』

 

『当然だよ。それじゃ、私も明日になったら、のみきや蒼にも相談してみるね。色々材料が必要だし』

 

『必要経費は俺が持つよ。しろは、よろしくな』

 

『か、勘違いしないで。あなたのためじゃなくて、鴎のためだから』

 

『わかってるよ。それでも、ありがとう』

 

『うん。それじゃ』

 

 ……やがて電話が切れた。ふう。これでケーキの件は何とかなりそうだ。

 

「よし、次はプレゼントだ!」

 

 俺はさっき脱いだばかりの春物コートをもう一度着こみ、財布をポケットに突っ込んで、部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 ……翌日。俺はまだ日も昇らないうちから、始発の電車に飛び乗る。

 

 電車を乗り継いで宇都港に到着すると、今度は朝日を浴びながら船に乗り、海を渡る。

 

 乗り継ぎが上手くいったおかげで、8時前には加藤家に辿り着くことができた。

 

「おはようございます!」

 

「え、鷹原さん!?」

 

 加藤家の玄関を勢い良く開けると、ちょうど目の前にホウキを持ったうみちゃんがいた。

 

「ああ、うみちゃんも来てたんだ。おはよう」

 

 一瞬驚いたけど、よく考えれば春休みだし、この子が島に来てても不思議はない気がする。

 

「おはようございます。でも、こんな朝早くから島にやってくるなんて、どうしたんですか?」

 

「え? いやその、春風が俺を呼んでいてさ……」

 

「……」

 

 遠くを見ながらそんなことを言ったら、ジト目で睨まれた。

 

「えっと、実は……」

 

 そんなうみちゃんの視線に耐えきれず、朝早くから島にやってきた理由を話す。

 

「……はぁ、つまり、恋人さんの誕生日を忘れていたと」

 

「うん」

 

「ケーベツします」

 

 ……うみちゃん、紬みたいなこと言わないで。

 

「こんな人の恋人になんてなりたくないです」

 

「そ、そこまで言わなくても……」

 

「それで、お誕生日祝いのチャーハンでも作りに来たんですか?」

 

「いや、作らないよ……」

 

 うみちゃんは相変わらずのチャーハン脳だった。

 

「せめて、バースデーケーキだけでも用意してあげようと思ってさ……しろはが作ってくれるらしいから、手伝いに来たんだよ」

 

「ああ、だからしろはさん、朝早くに来てたんですね」

 

「え、来てたの?」

 

「はい。『さかきばらさん、来てる?』と聞かれたので、来ていませんと答えたんですが」

 

「そ、そう……」

 

 相変わらずだけど、覚えられてなかった。

 

「しろはさんの家の方に行ってみたらどうですか?」

 

「うん。そうしようかな……」

 

 俺は大きく息を吐いて、持ってきた荷物を玄関先に置く。

 

「ところで、その誕生日パーティーはどこでやるんですか?」

 

「ここの予定だよ。昨日のうちに、鏡子さんから許可はもらってるから」

 

「そうなんですね。じゃあ、気合いを入れて掃除しておきますね」

 

 うみちゃんはそう言いながらホウキを構え直していた。なんとも頼もしかった。

 

「ありがとう。じゃあ、しろはの家に行ってみるよ」

 

 うみちゃんにそう告げて、俺は加藤家を後にした。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 しろはの家に向かおうと住宅地を歩いていると、ちょうど開いたばかりの駄菓子屋の前に、蒼としろはの姿を見つけた。

 

「よう、二人とも」

 

「あ、おはよー」

 

「おお、しろははさっそくケーキの材料を買いに来てくれたのか?」

 

 俺はしろはが持っていた大きな袋に気づき、そう声をかける。

 

「うん。でも、これしか売ってなかったの」

 

 そう言って、袋の中身を見せてくれる。中には、大量のホットケーキミックスが入っていた。

 

「え、薄力粉が売ってなかったのか?」

 

「そうなのよねー。昨日、ほとんど出ちゃって。明日には入ってくると思うだけど」

 

 蒼が申し訳なさそうに言う。残念だけど、明日だと間に合わない。

 

「仕方ないか……でも、ホットケーキミックスでスポンジケーキって作れるのか?」

 

「出来なくはないと思うけど……他にも色々と足りないものがあるの」

 

「他にも?」

 

「まず、作ったタネを流し込んで焼く型が必要。その、スーツケースの形にしたいんだよね?」

 

 言われてみればそうだった。仮にホットケーキミックスで作るなら、同じ大きさのホットケーキを何枚も作って、重ねてからデコレーションすれば型はいらないかもだけど、俺が作りたいのはスーツケース型だった。

 

「ああ、鴎と言えばスーツケースだからさ。できるだけ、その形にしてやりたい」

 

「じゃあ、何か型を用意してもらわないと」

 

「型か……うーん……」

 

 急にそう言われても、ぱっと用意できるものなんだろうか。オーブンに入れるんだし、それなりの耐熱性を持たさないと駄目だろうし。

 

「そういうのなら、天善に頼んでみたら? あいつ、そーいうの得意って言ってたし」

 

 俺が悩んでいると、蒼がそう提案してくれた。確かに天善の家は修理屋をやっているし、そういうのも作れるかもしれない。

 

「わかった。ケーキの型は俺が天善の所に頼みに行ってくるよ。型が用意できたら、しろはの家に持って行けばいいのか?」

 

「私の家にはオーブンがないし、焼くのは蒼の家。そっちにお願い」

 

「ということは、蒼も手伝ってくれるのか?」

 

「まぁ、乗り掛かった舟だしねー」

 

 蒼は笑顔でひらひらと手を振ってくれる。バイト中じゃないんだろうかと一瞬不安になったけど、レジの横にはイナリが鎮座していた。そういうことか。店番は任せたぜ。兄弟。

 

「ケーキが焼けたら、加藤さんの家に持って行けばいいんだよね?」

 

「ああ、それでお願いするよ。それじゃ、行ってくる」

 

 俺は少しの時間も惜しくて、そのまま天善の家に向けて走り出す。

 

「待って、さかきばらさん」

 

 その直後、しろはに呼び止められた。だから、俺は鷹原です。

 

「必要なのは型だけじゃないよ。誕生日ケーキだったら、デコレーション用のイチゴや、生クリームも必要」

 

「わかった。そっちも俺が何とかする!」

 

 俺はしろはにそう告げて、再び走り出した。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「……ケーキ用の型を作って欲しい?」

 

「ああ、頼めないか?」

 

 俺は天善の家に着くと、開口一番に用件を伝えた。

 

「可能だな。アルミの廃材を利用して作ってみよう」

 

「スーツケースの形は覚えてるよな?」

 

「もちろんだ。あのスーツケースは特徴的だからな」

 

「昼までにお願いしたいんだけど、このサイズで間に合うか?」

 

「ああ、問題ない」

 

 俺は適当なメモ用紙に寸法を書いて、天善に手渡す。できたら実寸大のスーツケースケーキを作りたかったけど、よく考えたらオーブンに入らなかったら焼けないし。

 

「完成したら、蒼の所に持って行けばいいんだな」

 

「よろしく頼むよ。このお礼は必ずするから」

 

「期待しておこう」

 

 さっそく工具を持ち出した天善に別れを告げて、俺は次の作業に取り掛かった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 その後、俺はイチゴと生クリームを探して島中をさまよっていた。

 

「どうしよう。どこにもない……」

 

 どちらも島に似つかわしくないとは思っていたけど、島中のお店を見てみても、ものの見事に売ってなかった。

 

 腕時計を見てみると、11時。いくらなんでも今から本土で買ってくるわけにもいかないし。

 

 でも、俺が用意すると啖呵を切った手前、手ぶらで戻るわけにもなぁ……。

 

 悶々とそんなことを考えながら歩いていると、灯台に辿り着いていた。

 

「むぎゅ? タカハラさんです!」

 

 聴き慣れた声がしたと思って見上げると、灯台の上に紬が立っていた。

 

「うおっと、危ない」

 

 その拍子に、春風で紬のスカートが舞った。まったく、いたずら風め。

 

「むぎゅ? どうして顔を逸らすですかー?」

 

「な、何でもないよ。それより紬、ここの浜辺にイチゴや生クリームが流れ着いていたりしない?」

 

 我ながら意味不明なことを言ってると思ったけど、藁にも縋るような思いだった。

 

「生クリームはありませんが、イチゴならありますよー」

 

「え、あるの!?」

 

 すると、予想外の返事が返ってきた。まさか、イチゴが流れ着いてるのかな。

 

「今からそっちに行くので、ちょっと待っていてくださーい」

 

 そう言った数十秒後、灯台の扉を開けて紬が目の前にやってきた。

 

「それではご案内します。こちらにどうぞー」

 

 笑顔で案内してくれる紬についていくと、どんどん浜辺から離れていく。あれ? あっちじゃないんだ。

 

「到着です!」

 

 やがて辿り着いたのは、灯台から少し離れた山の際。見渡す限り、背の低い植物が生い茂っていた。

 

「え、ここ?」

 

「はい! 野イチゴ畑です!」

 

 言われてみると、あちこちに赤い粒が見える。そうか。イチゴはイチゴでも、野イチゴか。

 

「すごいね。こんな場所があったんだ」

 

「最近、シズクと見つけました! 時々、つまみ食いしちゃってます!」

 

 近づいてみると、真っ赤に熟れていて美味しそうだ。確かに、この時期になると島ではたくさんの野イチゴがなっていた気がする。

 

「一つ食べてみていい?」

 

「はい! どうぞ!」

 

 近くにあった果実を摘み取って二つに割った後、口に運んでみる。

 

「……うん。美味しい。これなら大丈夫そうだ」

 

「むぎゅ? 何が大丈夫なんですか?」

 

「このイチゴ、鴎の誕生日ケーキに使いたいんだけど、少し貰っていいかな?」

 

「おおー、それでしたら、お好きなだけどうぞ!」

 

 紬は快諾してくれ、どこに持っていたのか、ザルを手渡してくれた。

 

「ありがとう。それじゃ収穫させてもらうよ」

 

「そです。わたしも手伝っていいですか?」

 

「え、手伝ってくれるの?」

 

「はい! その代わり、わたしとシズクもカモメさんのお誕生会に呼んで欲しいです!」

 

「ああ、そういうこと。もちろんいいよ。鴎もお祝いしてくれる人は多い方が喜ぶだろうしさ」

 

「ありがとうございます!」

 

 俺の返事を聞いて、紬はスキップしながら草むらへと分け入っていった。鴎の誕生日をお祝いしてくれるんだし、むしろお礼を言うのはこっちの方なんだけど。

 

 

 

 

 ……その後、野イチゴを摘みながら紬と話をする。

 

「……そうなんだ。静久はお昼の船で来るんだね」

 

「そですね。今日はお昼まで用事があるそうです」

 

「鴎の誕生会は15時半からの予定だから、間に合いそうだね。二人には、少し早めに加藤家に来てほしいんだけど」

 

「カトーさんの家ですね。わかりました!」

 

「よろしくお願いするよ……あいててて」

 

 会話に夢中になっていると、何度も野イチゴの棘が指に刺さる。

 

「美味しいイチゴにはトゲがあるのです。むぎぎぎぎ」

 

 どうやら、紬も同じ状況らしい。そこまで鋭くはないんだけど、やっぱり痛いし、気が抜けない。

 

 

 

 

 ……小一時間ほど作業を続け、ザルは野イチゴでいっぱいになった。

 

「ありがとう。紬のおかげでたくさん集まったよ」

 

「いえいえ。中に虫さんとかいることがあるので、料理に使う前にしっかりと洗ってください!」

 

「わかったよ。ありがとう」

 

『えー……鷹原羽依里君』

 

「……あれ?」

 

『……恋人の誕生日を祝うために島に来ている鷹原羽依里君。生クリームはこちらで用意した。イチゴを手に入れたら、大至急加藤家へ戻ってくるように』

 

 ……達成感に浸りながら紬にお礼を言っていると、のみきの島内放送が流れた。

 

「むぎゅ? タカハラさん。呼び出されてますよ?」

 

「本当だね……でも、これは恥ずかしいね」

 

「よくあることです。たまに、アオさんとかも呼び出されてます」

 

「そうなんだ……それじゃ、俺は行くよ。紬、また後でね」

 

「はい! 後でお邪魔します!」

 

 笑顔で手を振ってくれる紬と別れて、俺は灯台を後にした。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

『恋人の誕生日を祝うために島に来ている鷹原羽依里君。生クリームはこちらで用意した。イチゴを手に入れたら、大至急加藤の家に戻ってくるように』

 

 ……加藤家の玄関を開けたと同時に、四度目の放送が流れた。いくらなんでも頻繁に放送し過ぎだと思う。もう勘弁してほしい。

 

「おお、戻ってきたか」

 

 そのまま居間へ足を運ぶと、そこには良一と天善がいて、うみちゃんに指示されながら部屋の飾りつけをしてくれていた。

 

「あれ? 良一たちも手伝ってくれてるのか?」

 

「ああ、鴎ちゃんの誕生会って聞いたからな。きちんと飾りつけした方がいいだろ?」

 

「鷹原の混合ダブルスの連携強化ため、できるだけサポートさせてもらうとしよう」

 

「……三谷さん! その輪飾り、ちょっと曲がってますよ! それに、もう少し上です!」

 

「おう、悪い悪い」

 

 二人はうみちゃんに指示されながら、カラフルな輪飾りを壁に取り付けていた。あの高さだと、うみちゃんだと届かないだろうし、二人が手伝ってくれて本当に助かる。

 

「そういや、ケーキだけじゃ寂しいだろうってことで、しろはが料理も作ってるぜ」

 

「え。そうなのか」

 

 言われてみれば、台所の方からいい匂いがしていた。俺は野イチゴの入ったザルを手に、台所の方へ行ってみる。

 

「しろは、お待たせ。野イチゴだけど、イチゴを用意してきたよ」

 

「ありがとう。これなら水洗いしたら、すぐに使えると思う」

 

 どうやら揚げ物をしているみたいで、しろはは手元から目を離さずに、俺からザルを受け取る。

 

「料理まで作ってくれて、こっちこそありがとうな」

 

「別にいいよ。ケーキが焼けないと、やることもないし」

 

 そういえば、ボウルとかチョコレートソースとか用意されてるけど、肝心のスポンジケーキがなかった。まだ、蒼のところで焼いてるのかな。

 

「しろはー、お待たせー!」

 

 そんなことを考えていると、蒼が台所に駆け込んできた。大きな箱を持っているし、焼きあがったケーキを持ってきてくれたらしい。

 

「どうかしら?」

 

「……うん、いい感じ。持って来る間に粗熱も取れてるみたいだし」

 

 鍋の火を止めて、ばしゃばしゃと野イチゴを洗いながら、しろはがそう言う。

 

 ちらっと見えたけど、本当にスーツケースみたいな形のケーキだった。さすが天善、職人技だ。

 

「それで、しろは……何か俺が手伝えることはないか? 料理はできないけど、お皿を並べるとかさ」

 

 時計を見ても、鴎を迎えに行くにはまだ時間があるし。皆が協力してくれてるんだから、俺も何か手伝いたい。

 

「じゃあ、生クリームを泡立ててくれる? これなら、失敗しないから」

 

「わかった」

 

 役目を与えられて、俺は意気揚々と生クリームの入ったボウルを受け取る。

 

「あれっ、何これ?」

 

 予想していたのとだいぶ違う。小さなパックに入って店に売られているようなアレと違って、なんか浮いてる。

 

「島で乳牛を飼っている人がいるの。その人からもらったんだけど、分離したばっかりだから、たくさんホイップしないといけなくて」

 

「え」

 

「電動泡立て器があると楽なんだけど、この家にそんなものはないし。体力勝負になると……その、きついし」

 

「男の子だし、いけるわよねー?」

 

「お、おう。まかせてくれ……」

 

 あんまり自信はないけど、女の子二人から笑顔を向けられたら嫌と言えない。これも、鴎のためだ。

 

 ……とりあえず泡立て器を手にして、ボウルの中をかき混ぜる。全く固まる気配がない。

 

「……これ、本当に固まるんだよな?」

 

「固まるわよー。ほら、頑張りなさい! 鴎のためよ!」

 

「そ、そうだな。よし……鴎ぇぇぇぇ!」

 

「……うわ、声に出してるんですけど。気持ち悪」

 

 背後でうみちゃんの明らかに引いてるような声が聞こえたけど、気にしてる場合じゃない。

 

「うおおおおお!」

 

「しろは、首尾の方はどうだー……って、鷹原は一心不乱に何をやってるんだ?」

 

「生クリームを泡立ててもらってるの。なんか言ってるけど、気にしないで」

 

「確かにそうだが……大丈夫なのか? あれは」

 

「愛の力があれば大丈夫でしょー」

 

 背後でのみきとしろはたちのやり取りが聞こえる。放送を終えて、どうやらのみきも加藤家に来てくれたらしい。

 

 まぁ、俺は返事をする余裕なんてないけど。

 

 

 

 

「うおおおお! 鴎ぇぇぇ!」

 

「むぎゅ!? タカハラさんがバーサーカーと化しています!」

 

「まるで、恋の狂戦士ね……」

 

 一心不乱に生クリームをかき混ぜていると、今度は紬と静久の声がした。二人も来てくれたみたいだけど、俺は例によって反応を返す余裕はない。

 

 

 

 

「……うん。できた」

 

「おおー、かわいいです!」

 

 半狂乱になりながら生クリームと格闘していると、女の子たちの中心でしろはが何やら作業していた。

 

「クリームを塗り終わったら、最後にこれ乗せたらいいよ」

 

 ちらりと見えたそれは、白い板チョコにチョコレートソースで描かれた、ひげ猫のイラストだった。しろはって料理だけじゃなく、絵も得意なのか。

 

 

 

 

「……うん。もういいと思う」

 

「……ぜぇ、はぁ……やったぞ、鴎……」

 

 それからさらに数十分が経過して、ようやく生クリームを作り終わった。う、腕が痛い……。

 

「パイリ君、お疲れ様。達成感に浸っているところ悪いけど、そろそろその久島さんを迎えにいかないと」

 

「えっ?」

 

 静久にそう言われて、反射的に時計を見る。

 

 ……15時前。そろそろ船が着く時間だった。

 

「そ、それじゃ、俺は港に鴎を迎えに行ってくるから! 皆、ありがとう!」

 

「はいはい。頑張んなさいよー」

 

 俺は皆へのお礼を言うのもそこそこに、自分の荷物の中から鴎へのプレゼントを引っ張り出すと、そのまま港に向かって走り出した。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「あ、羽依里ー!」

 

「よ、よう。かもめぇ」

 

 港に駆けこむと、ちょうど鴎がタラップを下りてくるのが見えた。俺はできるだけ自然を装って手を振る。

 

「……あれ、なんか疲れてない?」

 

「ちょ、ちょっと走ってきてさ」

 

「え、走って?」

 

「あ、ああ。一秒でも早く、鴎に会いたくてさ」

 

「おおぅ……羽依里、不意打ちずるい……」

 

 鴎が何かに撃ち抜かれたような仕草をして、スーツケースによりかかる。

 

「そ、それでさ……さっそくだけど、鴎にプレゼントがあるんだ」

 

「え?」

 

 でも、そんな鴎は俺の言葉を聞いて、瞳をキラキラと輝かせながら顔を上げる。

 

「えっと、誕生日おめでとう」

 

 唐突に渡す形になってしまったけど、加藤家に到着してから皆の前で渡すのは恥ずかしいし。今ここで渡すことにした。

 

「おお……開けていい?」

 

「ど、どうぞ」

 

突然のプレゼントに驚いたのか、鴎は震える手で包装を解いて、箱を開ける。

 

「……あ、綺麗なペンダント」

 

「それ、カイヤナイトって言ってさ。4/4の誕生石なんだ」

 

 そこまで高い物じゃないんだけど、海のような深い青色の石で、太陽の光に透かすとキラキラと輝く石だ。

 

「えっと『未来を輝かせる』って意味の他に、持ち主の探求心を向上させる効果もあるらしいし……鴎らしいと思ったんだけど……」

 

「……羽依里、ありがとう!」

 

「うわっ!?」

 

 次の瞬間、鴎は人目もはばからず俺に抱きついてきた。

 

「ちょ、ちょっと鴎!? むごむご……!?」

 

 思い切り柔らかいものが当たってる。当たってる。

 

「……あれ? 羽依里、いちごみたいなにおいがするよ?」

 

「え?」

 

 鴎は俺に抱きついたまま、くんくんと匂いを嗅いでいる。

 

「あと、クリームみたいなにおいもする」

 

「き、気のせいだろ……ところで鴎、そろそろ離れてくれ。他に観光客もいるし、さすがに恥ずかしい」

 

「あ、ごめんごめん。嬉しくって、つい」

 

 さすがに周囲の視線が気になったのか、いそいそと俺から離れる。心なしか、その顔が赤い気がする。

 

「そ、それで……今からどこにいくの?」

 

 少し乱れてしまった髪を整えながら、鴎がばつが悪そうに言う。

 

「それなんだけど、実は加藤家で誕生日パーティーの用意をしてあるんだ」

 

「え、ホント!?」

 

「ああ。皆が手伝ってくれたんだぞ」

 

「じゃあ、加藤家に向けて出発だね!」

 

「だな。よし鴎、スーツケースに乗ってくれ。押すから」

 

「……ううん。今日はスーツケース押してもらうより、手を繋いでほしいな」

 

「お、おう……」

 

 ……さっきの不意打ちのお返しのつもりなんだろうか。上目遣いずるい。

 

 俺は恥ずかしさを抑えながら、鴎の手を取って、いつも以上にゆっくりと加藤家までの道を歩いた。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「「鴎、誕生日おめでと―――!!」」

 

 加藤家の居間に足を踏み入れた瞬間、無数のクラッカーが鳴り響いた。どうやら、皆でタイミングを図っていたらしい。

 

 そんな皆に促されるまま、俺と鴎は一番奥の席に腰を下ろす。すると、ハッピーバースデーの歌と共に、バースデーケーキが運ばれてきた。

 

「おお、すごい! スーツケース型のケーキだ! ひげ猫の絵まで描いてある!」

 

「ケーキや料理は全部、しろはが作ってくれたんだ」

 

「……私の誕生日の時、鴎はスイカバーケーキ作ってくれたから。今日は、そのお返し」

 

「しろしろ、ありがとう!」

 

「それに、ケーキのスポンジは蒼が、ケーキの型は天善がそれぞれ用意してくれたんだ。他の皆も、部屋の飾りつけを手伝ってくれたんだぞ」

 

「皆も、本当にありがとう!」

 

「今日の主役は鴎なんだから気にしないのー。ほら、ローソクに火をつけるわよー」

 

 ……やがて鴎がローソクの火を吹き消して、ケーキが取り分けられる。

 

 至る所に野イチゴがふんだんに使われていて、スポンジの間にも野イチゴのソースが挟まれているらしい。甘酸っぱくて美味しいケーキだった。

 

「カモメさん、これをどうぞ! バースデープレゼントです!」

 

 ケーキに続いて、料理を堪能していると、紬が鴎にカモメのぬいぐるみを渡していた。

 

「ありがとう、ツムツム! この子、名前あるの?」

 

「はい! カモメのジョナサンです!」

 

「おお、この子がかの有名なジョナサン!」

 

 名前を聞いた後、鴎はそのぬいぐるみと自分の目線を合わせて、まじまじと見ていた。

 

「あたしたちからもプレゼントがあるのよー」

 

 その流れを見て、他の皆も順番に鴎にプレゼントを渡していた。

 

 蒼は期間限定パリンキーの詰め合わせを渡していたけど、天善は『これで二人の絆を深めてくれ』と、ピンポン玉とラケットが入った卓球セットをプレゼントしていた。色々な意味でブレない。

 

「ほらほら、肝心の羽依里はプレゼントあげないのー?」

 

「え、俺はその」

 

 その時、唐突に話を振られた。

 

「ふへへー。えへへー」

 

 動揺する俺を他所に、鴎は顔を赤らめながらにやけている。その胸元には、青い石が光っていた。

 

 

 

 

 ……その後、皆がいろいろな出し物を披露してくれた。

 

 天善とのみきが見せてくれたラケットと水鉄砲を使ったピン球ジャグリングにもすごかったけど、しろはとうみちゃんの息の合ったれいだんバトルにも驚いた。

 

「……こんな楽しい誕生日は初めてかも。ありがとね、羽依里」

 

 皆の笑い声が聞こえる中、鴎は俺にしか聞こえないような声でそう言う。

 

「皆が協力してくれたおかげだよ。正直、俺だけじゃここまで出来なかったと思う」

 

 ケーキ作りをお願いしただけなのに、いつの間にかここまで盛大な誕生会にしてくれるなんて。本当に島の皆には感謝しかない。

 

 この楽しい時間がいつまでも続いてくれたらいいのに。俺はそんなことを考えながら、そっと鴎の手を握ったのだった。

 

 

 

 

久島鴎誕生日SS・完




おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。

今回は鴎の誕生日SSを書かせていただきました。島の皆が鴎のために協力していく流れにしたかったのですが、そのせいか
鴎の登場シーンが思いのほか少なくなってしまった感じはあります、沢山のキャラを出したいのが私の性ですかね。

さて、サマポケキャラの誕生日は公式ファンブック発売前後に明らかになったのですが(確か去年の4/29前後)、
発表時期の関係でメインヒロインの中では鴎だけが既に誕生日を過ぎていたんですよね……。
つまり、鴎推しの皆さんにとっては一年越しの誕生日だったわけですね。改めて鴎、誕生日おめでとう!
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