うみちゃんの誕生日SSになります。
サマポケクリア後のネタバレを含みますので、ご理解の上お読みください。
……13歳の誕生日。私はおとーさんと船に乗って、鳥白島に向かっていた。
「いやー、まさか今月から船の時間変わってるなんてな。羽未が教えてくれなかったら危なかった」
「だから、おとーさんもスマホ持とうよ。楽だよ?」
「おとーさんはガラケーで十分だよ。どうもこの手の機械は苦手でさ。電話だけ使えればいいし」
……もう。そう言って頑なに持とうとしないんだから。持ったら私が色々教えてあげるのに。
『……まもなく鳥白島。鳥白町漁港に到着いたします』
スマホのホーム画面を意味もなく左右にフリックさせていると、そうアナウンスが聞こえた。私はその電源を切って、顔を上げる。
おとーさんにはああ言ったけど、実際のところ、島ではスマホなんて使わない。こんなものなくても、楽しいことはいっぱいあるし。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……ゆっくりと着岸した船から降りたのは、私とおとーさんだけだった。もう夏休みも終わってるし、当然と言えば当然だけど。
本当なら私も今日から新学期なんだけど、誕生日はこの島で過ごすことになっている。我が家の数少ない決まりごとの一つだった。
「それじゃ、鳴瀬家に行こうか」
「うん」
一度空を見上げ、まだまだ強い日差しに目を細めた後、おとーさんが先立って歩き出した。
私もその背中を追うようにしてついていく。確かに暑いけど、時折吹く潮風が気持ち良かった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
田舎道を歩いて、住宅地へ。そこから山に向かって道を逸れて、山道を少し登った先に大きな家がある。そこが鳴瀬家。おかーさんの実家だった。
「この家に来るの、随分と久しぶりだなー」
「お盆もお仕事が忙しくて来れなかったもんね。ひーじーじ、きっと怒ってるよ」
「そ、それは怖いな。どうしよう」
……なんてね。今日はひーじーじは家にいないの。
本当は一緒にお祝いしてほしかったんだけど、電話で話をしたら「そういうのは若い者同士でやればいい。年寄りの出る幕ではない」とかなんとか言って、プレゼントだけ送ってきた。もちろん嬉しいんだけど、お洋服のプレゼント、今年だけで45着目なんだよね……。
「……あ。二人とも、来たわねー」
「羽未ちゃん、待ってたよー!」
そんなことを考えながら玄関扉に手をかけたところで、左手側にある庭から声をかけられた。
「おお、蒼に鴎じゃないか。二人とも、久しぶりだな」
「蒼さん、鴎さん、こんにちは」
軽く手を挙げるおとーさんに続いて、私も挨拶をする。去年と同じように、この二人も手伝いに来てくれたみたい。
「鴎はヨーロッパに行ってたんじゃなかったのか? もしかして、わざわざ来てくれたのか?」
「当たり前だよ! 年に一度の大切な行事だし、七つの海だって越えて来るよ!」
大きなスーツケースに寄りかかるようにしながら、鴎さんがそう言って笑う。本当、綺麗な人だよね。
「青年団ののみきや良一の他に、水織先輩や紬も手伝いに来てくれてるわよー。あと、いつものように居間を使わせてもらってるから」
「ああ、構わないよ。いつもありがとうな」
「いいのよー。あたしたちも楽しいしね」
おとーさんがお礼を言う。毎年の恒例行事なっていると言っても、島だと色々準備が大変そう。蒼さんが持ってる花飾りとかも、たぶん駄菓子屋の通販代行で取り寄せてくれたのかもしれない。
「……それじゃ、中の皆にも挨拶してくるよ。会うのが久しぶりの顔も居そうだしさ」
二人と少し話をした後、そう言って玄関を開けるおとーさんと一緒に私も鳴瀬の家に上がる。
そのまま左手側にさっきの庭を見ながら、長い廊下を進む。その途中にふすまが開け放たれた部屋があって、そこが居間だった。
「お、主賓の登場だな」
「予定より早かったんじゃないか? てっきり、来るのは昼前だと思っていたが」
「本当ね。羽未ちゃんが来る前に準備を終わらせて、びっくりさせようと思っていたのに」
「そですね!」
毎年のことだから驚くも何もないと思うけど、静久さんと紬さんは顔を見合わせて楽しそうに笑っていた。その奥で壁に輪飾りをつけてくれている良一さんと天善さんも、どこか楽しそうだった。
「おお、来たようだな」
その時、廊下の方からフリフリのエプロンをつけたのみきさんがやってきた。この家、普段はひーじーじしか住んでないはずなんだけど。あのエプロン、この家のなのかな。
「ところで……羽未ちゃん、最近また背が伸びたんじゃないか? これは、私もうかうかしていられないな」
そんなのみきさんの姿を見ていたら、何とも言えない視線を向けられた。確かに私、成長期だけど。
「本当。羽未ちゃん、また大きくなっているわ。これは紬もうかうかしていられないわよ」
「むぎゅ!?」
……静久さん、視線が私の胸に行ってるんだけど。そ、そりゃあ、成長期だもん!
「それじゃ俺、ちょっと仏壇に手を合わせて来るよ。今年のお盆、帰れなかったからさ」
皆が忙しそうに準備しているのを見て、おとーさんがそう言って隣の部屋へと向かう。私もなんとなく居心地が悪くなって、それについて行き、一緒に手を合わせた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……その後は誕生会の準備ができるまで、私だけ別室で待たされた。
毎年の流れなんだけど、この時は少し緊張する。正座待機だし。
……しばらくして「羽未ちゃん、入ってきていいわよー」と蒼さんの声が聞こえた。私は半分痺れた足を引きずるようにしながら、居間へと向かった。
「「羽未ちゃん、誕生日おめでと―――!」」
……居間に足を踏み入れた瞬間、たくさんのクラッカーが鳴り響いて、紙吹雪が舞った。
予想はしていたけど、年々派手になってきてるような。
「ウミさん、お誕生日おめでとうございます!」
「羽未ちゃん、ハッピーバースデー!」
皆がお祝いの言葉をかけてくれながら、次々とプレゼントを渡してくれる。
「私からは料理の本だよ! チャーハン今昔物語! 外国の本で、日本語版を探すのに苦労したんだから!」
「鴎さん、ありがとうございます!」
一瞬レシピ本かと思ったけど、なんだか違うみたい。珍しい本らしいし、後で読むのが楽しみ。
「羽未ちゃん、俺からのプレゼントだ。受け取ってくれ」
鴎さんに続いて、天善さんが綺麗にリボンが巻かれたピンポン玉をくれた。
「俺も13歳の誕生日に貰ったピンポン玉は今も大事に取ってある。羽未ちゃんも大事にしてくれると嬉しい」
「あ、ありがとうございます。大切にしますね」
気持ちは嬉しいんだけど、毎年ピンポン玉ばっかり増えてる。そろそろラケットが欲しいような、そうでないような。
「天善、相手は女の子だぞ。もう少し考えてプレゼントを渡せ」
そう言うけど、のみきさんがプレゼントしてくれたのは、これまた綺麗にラッピングされた水鉄砲だった。
……そんな波状攻撃に圧倒されているうちに、私の両手はたちまちプレゼントでいっぱいになってしまった。
せっかく貰った贈り物を落とさないように必死になりながら、その場にいる人たちの顔を見る。おとーさん、良一さん、のみきさん、蒼さん、紬さんに静久さん。鴎さん、天善さん。皆、おとーさんの大事なお友達。
「……えっと、皆さん、今日は私のために、ありがとうございます」
私はそうお礼を言う。この年になると、嬉しいような恥ずかしいような、不思議な気分になる。
「……ところで、しろははどこいったんだ? 娘の誕生会なのに」
その時、おとーさんがそう言って部屋を見渡す。
「あれ? そう言えばいないわねー。さっきまでいたのに」
おとーさんの言葉を聞いて、蒼さんが同じようにきょろきょろと周囲を見渡していた。言われてみれば、おかーさんの姿がない。
「……あ、もう始めちゃった?」
その時、おかーさんが台所から大きなお皿に盛られたチャーハンを持ってやってきた。
「蒼、チャーハンケーキの最終確認するから、始めるのはもう少し待っててって言ったのに。もう、プレゼントまで渡しちゃうなんて」
「ご、ごめん……」
その特大チャーハンをテーブルに置きながら、おかーさんが蒼さんを睨む。たぶん蒼さん、途中で気づいたんだろうけど、流れを止められなかったんじゃないかな。
「まぁいいじゃないか。俺としろはからのプレゼントはまだ渡してないしさ。ギリギリセーフだよ」
「なら、いいけど……」
おとーさんは不満そうな顔をするおかーさんをなだめながら、綺麗にラッピングされた包みを渡していた。
「ほら、しろはから渡したらいいよ」
「でも、買ってきてくれたのは羽依里だし……」
「俺は本土で働いてるしさ。それはしょうがないよ」
おとーさんはそう言って苦笑いを浮かべていた。
……実はお仕事の関係で、今はおとーさんだけ本土で暮らしてる。いわゆる単身赴任ってやつ。
私とおかーさんは鳥白島で暮らしているから、おとーさんは週末になると私たちに会いに島に帰ってくるんだけど、今日は私のために特別に休みを取ってくれていた。
「それじゃ……羽未ちゃん。おかーさんとおとーさんからだよ」
やがて納得してくれたのか、おかーさんが笑顔で私にプレゼントの包みを手渡してくれた。
「おかーさん、おとーさん、ありがとう」
だから私も負けないくらいの笑顔でそれを受け取る。
「開けてみていい?」
「もちろん」
包装紙を破いてしまわないように、丁寧に包みを解く。袋の中には、綺麗な帽子が入っていた。
「わぁ……」
「デザインとか色は電話でおかーさんにアドバイスもらいながら、おとーさんが選んだんだけど、ちょっと子供っぽかったかな」
「ううん、嬉しい」
私はその帽子を頭に被ってみる。
……なんだろう。初めて被ったはずの帽子なのに、すごく馴染んでいる気がする。計ってもいないのに、サイズもピッタリだし。
「よーし、両親からのプレゼントも受け取ったことだし、ケーキにローソクを立てるぜ!」
それを見て、良一さんがチャーハンケーキにローソクを立て始める。
……これ、すごくシュールな光景なんだけど。毎年のことだし、違和感感じなくなってきたなぁ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……そうして歳の数だけ立てられたロウソクの火を吹き消した後は、大きなチャーハンケーキを皆で切り分けて食べる。
どうやってるのかわからないけど、包丁で切っても崩れないくらいに固められているはずのチャーハンなのに、口に入れるとほろりとほどけて、おかーさんのチャーハンの味が口いっぱいに広がる。誕生日は甘いケーキっていうけど、私はこっちがいい。やっぱり美味しい。
「チャーハンケーキには負けるけど、他にも色々な料理を用意してあるから食べてね!」
「鶏のトマト煮込みもあるよ!」
どうやら静久さんや鴎さんも料理を用意してくれたみたい。主賓ということで、おとーさんとおかーさんの間にいる私の前には食べきれないほどの料理がどかどかと運ばれてくる。
「にしても羽依里よー。最近忙しいって言ってたのに、良く休みが取れたな」
「親方に頭下げて、なんとかさ。まさか、羽未が宇都港まで迎えに来てくれてるとは思わなかったけど」
そう言って苦笑するおとーさんの隣には良一さんと天善さんが座っていた。三人とも缶ビールなんて飲んじゃってるし、これ、誕生会にかこつけて騒ぎたいだけだよね? 私は全然かまわないけど。
「ほら、おかーさんが言った通りだったでしょ? 羽未ちゃんが迎えに行ってあげた方が、絶対おとーさん、喜ぶと思ったし」
「うん。ずっとニヤニヤしてたよ」
「え、顔に出してるつもりはなかったんだけど」
おとーさんはそう言いながら顔をパンパンと叩く。嘘だよ。
「それで羽依里、鳥白島への移住計画は進んでいるのか?」
「ああ。それなりに進んではいるよ」
おとーさんは本土で電気工事の仕事をしているんだけど、いずれは独り立ちして、島に戻って働く計画らしい。
「でも現実的に考えて、島に戻れるのは羽未が高校に入るくらいかなぁ」
そう言って笑う。私にはよくわからないけど、資格の関係ですぐには無理なんだって。
……それにしても、高校かぁ。
ゆくゆくはおかーさんと同じ制服を着て、二人に見送られながら本土の学校に通うようになるのかな。そんな未来も、良いかもしれない。
「……よーし! それじゃ、余興の時間だ!」
物思いにふけっていると、お酒が回ったのか良一さんが服に手をかける。
「僭越ながら、お祝いの裸踊りを……」
「脱ぐな」
……そんな良一さんを、のみきさんが容赦なく撃っていた。この二人も結婚して長いはずなんだけど、おとーさん曰く、このやりとりは昔かららしい。
……その光景を見て、この場にいる皆が笑う。つられて私も笑顔になる。
右を見ると、笑顔のおとーさん。
左を見ると、笑顔のおかーさん。
そんな二人の間に、私が居る。
この幸せな時間が、いつまでも続きますように。
~あとがき~
皆様こんにちは、トミーです。
今回は羽未ちゃんの誕生日SSを書いてみました。始まり方からして、羽未と羽依里だけの少し悲しめなお話かを予想した方もいるのではないでしょうか。仏壇に手を合わせたり、いかにもな描写を入れましたが、しろはも健在な、幸せな未来のお話です。
設定面で気になるところもあるかもしれませんが、そこはifのストーリーということでご理解をお願いします。
では、最後にもう一度。
うみちゃん、誕生日おめでとう!