「藍、急に呼び出してどうしたんだ?」
少しずつ秋の気配も近づいてきた9月中旬。この週末も蒼ちゃんに会うために島を訪れていた羽依里さんを神社に呼び出します。
「ひとつ、相談があるんですけど」
「え、相談?」
「羽依里さん、蒼ちゃんの誕生日、いつかわかっていますよね?」
「も、もちろん。恋人の誕生日だし、覚えてるけど」
少し視線を泳がせて、照れくさそうに言っています。なんでそこで照れるんですか。
「蒼ちゃんに内緒で誕生日プレゼントを買いに行きましょう。今から」
「え、今から!?」
「そうです。蒼ちゃんの誕生日を祝おう大作戦ですよ!」
私は羽依里さんの目の前まで近づいて、ぶつかるくらいの勢いでそう言い放ちます。
……ところで、なんでこの人はこのタイミングで顔を赤くするんでしょうか。いくら私が蒼ちゃんと似てるからって、今更ですよね?
「それはいいけどさ、そのネーミングはなんとかならなかったのか?」
「う、うるさいですね……別に良いじゃないですか」
「それで、行くって本土?」
「当然です。まさか、駄菓子屋で済ませようなんて思ってないですよね?」
「いや、そんなつもりは毛頭ないけどさ」
両手を振って否定しています。それはそうでしょう。駄菓子屋には蒼ちゃんにふさわしいものは売っていないですし、通販代行したところで店番は蒼ちゃんです。それでは秘密になりません。
「それでは今から1時間後。9時の船で出発しましょう。港で待ってますから、遅れたらひどいですよ」
「え、遅れたらどうなるの」
「今日から蒼ちゃんの誕生日までの間、毎日羽依里さんのあらぬ噂を蒼ちゃんに吹き込み続けます。紬ちゃんと夜遅くまで灯台にいたとか、鴎ちゃんとスーツケースデートしてたとか」
「スーツケースデートの意味が解らないし、できたらやめてほしいんだけど。蒼ならその想像力で、いくらでもピンク方向に話を膨らませてしまいそうだし」
「だったら、遅れずに来てくださいね。待ってますから」
忠告の意味を込めて、羽依里さんの胸をちょんとつついた後、私はその脇を走り抜けて神社を後にしました。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あ、藍、おかえりー」
「蒼ちゃん、ただいまです」
自宅に帰り着くと、笑顔で迎えてくれた蒼ちゃんに満面の笑みを返して、そのまま自分の部屋に飛び込みます。
そして手早く服を着替えて、髪を梳いて、外出の準備を整えます。
「藍、随分慌ててるけど、どこか行くの?」
「はい。ちょっと野暮用です。夕方には帰ってきますから」
部屋のドアから首から先だけを覗かせて、蒼ちゃんがそう聞いてきました。正直に話してしまいたいところですが、これも蒼ちゃんのため。私は涙ながらにそうはぐらかしました。蒼ちゃん、ごめんなさい。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はぁ。ふぅ……」
準備を終えた後、蒼ちゃんに対する思いを振り切るように家を飛び出して、そのまま全速力で港へとやってきました。
九月とは言え、走ると暑いです。流れる汗をハンカチで拭いながら港の時計を見ると、8時45分。船の時間まではもう少し余裕があります。
羽依里さんにああ言った手前、彼より遅く港に到着するわけにはいきませんし。これは勝ったでしょう。
「……おお、さすが言うだけあって、早かったな」
「は?」
息を整えようとベンチに座ったところで、頭上から声がしました。顔を上げると、羽依里さんが何食わぬ顔で立っています。
「……まさか、私より早く来るなんて思いませんでした」
「空門の家より加藤家の方が港に近いしさ。男だから身支度も簡単だし」
そう言って頭を掻いてます。なんか悔しいんですけど。
「それに鏡子さんも出かけてて、外出の理由を伝える相手もいなかったしさ」
「え、鏡子さんがいないってことは、朝ごはん食べてないんじゃないですか?」
「ああ、適当に港で食べようと思って。それより遅れたら、藍が恐いしさ」
……全くこの人は。しょーがないですね。
「私も朝ごはん食べてないので、一緒に食べましょう。確か、もう商店は開いていましたよね」
まだ時間もありますし、先に船のチケットを買った後、港の商店で総菜パンを買うことにしました。
「……このコーンマヨパン、美味しいですね」
「だろ。さすがに朝から竜太サンドは重いだろうし、それくらいがちょうどいいよな」
フェンスにもたれて船を待ちながら、羽依里さんとパンを食べます。なんでしょう。この状況は。
「おお、空門さんとこの。朝からデートみたいだぜ」
「本当だねぇ。若いって良いわねぇ」
私たちの姿を見て、同じ船に乗る島民の皆さんが何か言ってます。この人たち、私と蒼ちゃんを間違えてるんじゃないでしょうか。
それに勘違いしないでください。これは蒼ちゃんの誕生日プレゼントを買いに行くための外出であって、他意はないんですから。
「ところで、わざわざ本土に行くってことは、行きたい店とかあるのか?」
「特に決めてはいませんが、ショッピングモールに行きましょう。あそこなら色々なお店がありますし、きっと蒼ちゃんに似合うものがあるはずです」
「わかった。確か、駅の方にあった気がするな」
「羽依里さんは本土の人ですし、そういうの詳しいんですよね?」
「え?」
「詳しいんですよね? よろしくお願いします」
「お、おう……」
私は念を押すように笑顔で二度繰り返します。どうしたんですか羽依里さん。たじろいでいるように見えますけど。
……その時、汽笛を鳴らしながら船が港に入ってきました。早く乗り込んでしまいましょう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
20分ほどの船旅を終えて、宇都港に降り立ちます。予想はしてましたけど、週末ですし人が多いですね。
羽依里さん曰く、ショッピングモールは港から少し歩いた駅の中にあるそうです。さすがシティーボーイさんです。これは、道案内は任せて良さそうですね。
「藍、なんか歩きにくそうだな」
「え? そんなことはないですけど」
「あれだったら、くっついてもらっていいぞ?」
「は?」
何言ってるんですかこの人。まさか、羽依里さんも私と蒼ちゃんと間違えてるんじゃないですよね?
「いや、変な意味じゃなくてさ……その、これだけの人混みは慣れてないだろ?」
「それはそうですけど……さすがにくっつくのは恥ずかしいので、後ろを歩きます」
そ、そういう意味だったんですね。せっかくですし、人波を避ける盾になってもらいましょう。
そんな風に羽依里さんの背中に隠れるようにしながら、せわしなく行き交う人々の間を縫って駅へ入り、そこからエスカレーターを登ってようやくショッピングモールへ辿り着きました。
……はぁ。島に人が少ないせいか、少し移動しただけですごく疲れちゃったんですけど。
「色々な店があって目移りするな。どこにしようかな」
そんな私に対して、羽依里さんは軒並ぶたくさんのお店を見渡しながらそう言っています。さすが元気ですね。
「じゃあ、あのお店とかどうですか?」
同じように視線を運んで、たまたま目についた和食器の店に入ってみることにしました。案外、いいものがあるかもしれません。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
お店に足を踏み入れると、独特の香りが鼻をつきます。切ったばかりの木材って、こんな匂いしますよね。
木製の食器や小物が並ぶ棚を適当に羽依里さんと見て歩きますが、なかなかピンとくるものがありません。このお茶碗とか可愛いんですけど、蒼ちゃんに似合うかというと、どうも違う気がします。
「蒼とお揃いの茶碗とかどう?」
羽依里さんはそう言って、二つ一組になった色違いのお茶碗を私に見せてきます。
「なんですかそれ。夫婦茶碗とでもいうつもりですか?」
「いや、そんなつもりじゃないけど」
私がそう言うと、羽依里さんはしどろもどろになりながら顔を赤くします。まったく、ラブラブですね。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……次にやってきたのは、ウニクロです。羽依里さん曰く、最近日本中にできてる洋服店らしいです。私、初めて入りました。ものすごい数の服に圧倒されてしまいます。
「そろそろ秋物が出てるし、それとかいいんじゃないか?」
「そ、そうですね。この辺とか、蒼ちゃんに似合うかもしれません」
よくわからないまま羽依里さんについて歩き、それっぽいコーナーの前で立ち止まります。秋セーター特集だそうです。
「でもさ、服を本人に内緒で買うのは無理があるんじゃないか? サイズとかさ」
「私は蒼ちゃんのスリーサイズを知ってますが。まさか、羽依里さんは知らないんですか? 蒼ちゃんの彼氏さんなのに?」
私は思わず蔑むような視線を羽依里さんに向けます。それでも彼氏さんですか?
「いや、たとえ彼氏でも普通は知らないと思うんだけどさ……じゃあ、藍が選んでくれよ。これとかどうかな?」
そう言って、二着の秋セーターを私に見せてきます。ピンクと青色のセーター。確かに蒼ちゃんのイメージカラーはピンクですけど、青色のもあるのは何故でしょう。まさか、そっちは羽依里さんが着るんですか? ペアルックとか言っちゃう感じですか?
[……いくらなんでも、それはどうかと]
「そっか。似合うと思うんだけどなぁ」
思わず正直な感想を口にしてしまった私を尻目に、羽依里さんは手にしたセーターと私を交互に見て、残念そうにしています。なんですか。私を通して蒼ちゃんの体形でも想像してるんですか?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……その後、何番目かに入ったお店で私はオルゴールを買いました。
双子の星という童話に使われた、星めぐりの歌という曲らしいです。試しに聞いてみましたが、どこか聞き覚えがあって、良い曲でした。
一方で、羽依里さんはなかなか決めきれず、気がつけばお昼になっていました。お腹も空いたので、羽依里さんの案内でお昼ご飯にすることにしました。
「ここがジャイフルだよ」
……やってきたのは、ショッピングモールから少し離れたところにあるレストランです。
羽依里さんによると、リーズナブルな価格で美味しいハンバーグが食べられるファミレスチェーン店らしいです。確かに、すごくおいしそうな匂いがします。
「えーっと、どれにしようかな」
「そ、そうですね」
店員さんに勧められるがまま、一番奥の席に腰を落ち着けて、二人してメニューを眺めます。
実は、この手のお店に入るのも初めてだったりします。蒼ちゃんと喫茶店には入ったことありますけど、そことは違って、ものすごくたくさんのメニューがあります。
……結局私は決めきれず、羽依里さんと同じものを注文しました。鉄板の鉄板焼きハンバーグセット。美味しかったです。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……うぷ」
……先のハンバーグ、私にはちょっと量が多かったかもしれません。少し苦しかったですけど、羽依里さんの前で残すのもしゃくですし、頑張ってしまいました。
「藍、大丈夫か? 苦しいんなら、そこらへんで少し休んでも構わないぞ?」
「だ、大丈夫です。それより、早く羽依里さんはプレゼントを決めてください」
食事を済ませて、もう一度ショッピングモールに戻ってきました。今度はさっきと反対方向に行ってみましょう。変わったお店があるかもしれませんし。
「……このお店、ちょっと入ってみていい?」
「ええ、構いませんよ」
道なりにしばらく歩いた後、羽依里さんが立ち寄ったのは小さなアクセサリーショップでした。奥のショーケースには綺麗な宝石がたくさん並んでいます。
「いらっしゃいませ」
入ってきた私たちを見て、店員のおにーさんが声をかけてきました。その場は羽依里さんにお任せして、私はその傍を離れて、適当にお店の棚を眺めることにします。
……あ。この髪飾りとか、蒼ちゃんに似合うかもしれません。ポニーテール蒼ちゃん、大いにありです。
「なぁ藍、ちょっといいか?」
「え?」
その時、羽依里さんから声をかけられました。せっかく妄想を楽しんでいたのに、なんですかね。
「これ、どっちかつけてみてくれないか?」
「いいですけど……これ、なんです?」
「こっちがサファイア、こっちがアイオライトだってさ。どっちも9月20日の誕生石なんだって」
近づいてみると、羽依里さんは手に持ったネックレスを見せてくれます。それぞれ、落ち着いた青紫色と、澄んだ青色をしています。
私は悩んだ末、アイオライトのネックレスをつけてみます。
「おお、似合うな」
……いや、羽依里さんに褒められても嬉しくないですから。また私を通して蒼ちゃんをイメージしてる感じですか。
そりゃあ、私と蒼ちゃんは双子ですし、見た目は似てるでしょうけど。
やっぱり、蒼ちゃんの誕生日に託けて、ペアグッズ買う気ですね。まったく、油断も隙もないんですから。
「彼女さん、別の宝石も試着もできますよ」
「は? 彼女じゃないですけど」
「え、違うんですか」
ネックレスを外して羽依里さんに返していると、店員さんからそう言われたので一蹴しておきました。何を勘違いしてるんですか。業腹なんですけど。
……その後はまた一人、入口の方でアクセサリーを見ていました。
しばらくすると、ようやくプレゼントが決まったのか、綺麗な包みを持った羽依里さんがこっちにやってきました。
「ようやく決まったんですね」
「ああ、おまたせ」
後ろ手に組みながら迎えると、満ち足りたような顔をしています。蒼ちゃんのプレゼントですし、さぞ良いものを選んでくれたんでしょう。
「それじゃ、帰りましょう。今からなら、ちょうどいい時間に船がありそうですし」
「……あ。もしかして、羽依里君と空門さん?」
そう言って振り返った矢先、誰かに名前を呼ばれました。
「きょ、鏡子さん、どうしてこんな所に!?」
「ちょっと用事で来てたんだけど、ここの近くに美味しいうどん屋さんがあるらしくて、気になっちゃってね」
鏡子さんと呼ばれた女性はそう言ってウインクしてみせました。ああ、羽依里さんがお世話になってる加藤家の家主さんって、この人ですか。
「それにしても、こんな場所で羽依里君に会えるなんて思わなかったよ」
「俺も、あなたに出会ってしまうとは思いませんでした……」
そう言いながら、羽依里さんの目は泳いでいます。これは、まずい現場を見られました。
「もしかして、二人はデート?」
……ほら、こういう流れになってしまいました。
「ち、違います! これはですね……!」
「じゃあ、お邪魔しちゃ悪いかな。それじゃあね」
「「あああ」」
私は必死に弁解しようとしましたが、鏡子さんは聞く耳持たず。人波へと消えていきました。
思わず、羽依里さんと同じ叫び声をあげてしまいました。盛大に勘違いをされた気がします。
「……帰ろうか」
「そ、そうですね……」
でも今更、後の祭りです。こうなれば鏡子さんより早く島に戻って、変な噂が立つ前になんとかするしかありません。
……それから島に帰るまでの時間、私と羽依里さんはびくびくしながら過ごしていたのでした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……そして、その外出から数日後。蒼ちゃんの誕生日の日がやってきました。
島の皆の他に、紬ちゃんや鴎ちゃんにも協力してもらって、飾りつけもばっちりです。
「ていうかよー。藍も誕生日なんだから、わざわざ準備を主導しなくてもいいんじゃないか?」
「私の誕生日なんて二の次です。蒼ちゃんの誕生日をお祝いする事が大事なんです。ほら良一ちゃん、テーブルクロスにシワがついていますよ」
「はいはいー! 直します―!」
「……本当に藍は島の男子を顎で使ってるのな」
良一ちゃんに指示を出していると、羽依里さんがそう言っていました。船の関係で一番最後にやってきたくせに、結構な御身分です。さすが彼氏さんですね。
「だが、良一の言う通りだぞ。今日は藍も主役なんだから、準備は私達にやらせてくれ」
「そうよー。藍も準備は皆に任せて、あたしの隣に座ってなさい」
その時、美希ちゃんに続いて、蒼ちゃんがそう言ってくれます。蒼ちゃんがそう言うのなら仕方がありません。私は大人しく、蒼ちゃんの隣に腰を下ろします。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「「二人とも、誕生日おめでとうーーー!」」
やがて準備が整い、クラッカーの音が鳴り響きます。
「ケーキも手作りだよ。ふたりとも、おめでとう」
「ありがとう、しろはちゃん」
「しろは、ありがとねー」
しろはちゃんが用意してくれたバースデーケーキには、砂糖菓子で作られた私と蒼ちゃんの人形が乗っています。この蒼ちゃん、食べちゃっていいんでしょうか。
「アオさん、アイさん、おめでとうございます! シズクと一緒に作りました!」
蒼ちゃんと一緒にローソクの火を吹き消すと、皆が次々とプレゼントを渡してくれます。
紬ちゃんからは、クマのぬいぐるみをもらいました。蒼ちゃんがピンクで、私がブルー。アクセントにリボンもついていて、かわいいです。
「私からはこれ! スニーカーだよ!」
どこで用意してくれたんでしょう。鴎ちゃんからのプレゼントはスニーカーでした。これまたピンクとブルー。なんというか、鴎ちゃんらしいです。
「私からはこれだ。先の二人に比べると見劣りするがな」
そう言ってみきちゃんがくれたのは、これまたピンクとブルーのハンカチ。どうやら、私と蒼ちゃんのイメージカラーはその色みたいです。
「ダブルス結成記念日を祝して、俺から二人にお祝いのピンポン玉を贈ろう」
「天善ちゃん、それはいらないから」
「そ、そうか……」
綺麗にラッピングされたピンポン玉を差し出されたけど、そっちは丁重にお断りした。
「はっはー。天善は毎年ワンパターンだからなー! よーし! 俺は祝いの腹踊りを」
「良一ちゃん、それもいらない」
「はい……」
天善ちゃん以上に冷たく言い放つ。良一ちゃんは一度脱ぎかけた服を整えて、静かに着席した。
……でも、皆がお祝いしてくれるのは、やっぱり嬉しい。なにより、蒼ちゃんが楽しそうにしているし。感無量です。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
賑やかな誕生会が終わった後、空門の家には私と蒼ちゃん、そして羽依里さんの三人だけが残りました。
「あ、そうでした」
……そういえばお祝いされてばかりで、私としたことが蒼ちゃんにプレゼントを渡し損ねていました。
「蒼ちゃん、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとー。それじゃ、あたしからも」
どうやら、蒼ちゃんも同じだったみたいで、笑顔でプレゼントを渡してくれました。
「蒼ちゃん、ありがとうございます。開けてみていいですか」
「いいわよー。それじゃ、あたしも開けるわねー」
ほとんど同じ動きで包みを開いていきます。なんでしょうか。
「「……え」」
そして中から出てきた品物を見て、私と蒼ちゃんの声は、思わず重なってしまいました。
……お互いのプレゼントの中身は、全く同じオルゴールでした。
動かしてみると、入っている楽曲も同じでした。双子の星の『星めぐりの歌』。
「まさか、藍と同じの選んじゃうなんてねー」
蒼ちゃんはそう言って笑います。どうやら、お互いに秘密でプレゼントを買いに行った結果、同じものを買ってしまったみたいです。やっぱり、私達は双子でした。
「それでさ、えっと……俺からも。誕生日おめでとう」
嬉しいような恥ずかしいような。そんな気持ちで蒼ちゃんと笑い合っていると、羽依里さんが私と蒼ちゃんに小さな箱を渡してくれました。
開けてみると、蒼ちゃんの箱にはサファイアのネックレスが、私の箱にはアイオライトのネックレスが入っていました。
……あれ、これって。
「綺麗ねー。羽依里、ありがとー」
さっそくネックレスをつけていた蒼ちゃんとは裏腹に、私は驚きでいっぱいでした。
「羽依里さん、このネックレス、蒼ちゃんとのペアグッズじゃなかったんですか?」
「なんで二人の誕生日なのに、俺の分を買わなきゃならないんだ? 双子なんだし、今日は藍も誕生日だろ?」
「そ、それは、確かにそうですけど……」
思わずそう尋ねると、羽依里さんから純粋な笑顔でそう返されました。そう言われてしまうと、私は言葉に詰まります。
……蒼とお揃いの茶碗とかどう?
……なんですかそれ。夫婦茶碗とでもいうつもりですか?
……いや、そんなつもりじゃないけど。
……そろそろ秋物が出てるし、それとかいいんじゃないか?
……いくらなんでも、それはどうかと。
……そっか。似合うと思うんだけどなぁ。
……もしかしてあの日、羽依里さんはずっと私と蒼ちゃんのプレゼントを選んでくれていたんですか?
それなのに、私は一人で勘違いをして。
は、恥ずかしいです……!
「……あれ、もしかして藍は宝石とかあまり好きじゃなかった?」
「そ、そんなことはありません。嬉しいですよ。名前が藍だからアイオライトを選んでくれたんですよね?」
「そんな安直な理由じゃないから。ちゃんと誕生石だったからさ」
……そんなムキにならなくても、ちゃんとわかっていますよ。
できるだけ冷静を装いますけど、たぶん私、顔真っ赤になってます。
「そのトンボ玉には負けるけどさ。せっかくだし、姉妹でお揃いのつけてくれたら良いと思って。ふたりとも、改めて誕生日おめでとう」
「羽依里、ありがとねー」
「……ありがとうございます」
そう言って笑う彼の顔を、私は何故か見れなくて。蒼ちゃんと一緒にお礼を言うのが精一杯でした。
……なんでしょう。このもやもやした気持ちは。
嬉しさの中に、何とも言えない不思議な感情が入り混じる、そんな誕生日でした。
あとがき
皆さんこんにちは、トミーです。
今回は空門姉妹誕生日SSとのことで、藍視点で書いてみました。私の作品は羽依里君視点が多いので、たまにはこういうのもいいかと思いまして。
前半は妹の蒼ちゃんに対して一途になるあまり、全く周りが見えていない藍おねーちゃんを楽しんでいただけたら幸いです。
後半は羽依里の意図に気づいて、ドギマギしてる感じですね。本人は気づいていませんが、最後はもう恋しちゃってる感じもしますよねぇ。
最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!