原作中には、明確に幼少期に訪れたという描写は無かったはずなので、IFストーリーとして楽しんでもらえたら嬉しいです。
また、一部にPocketルートのネタバレを含みますので、ご注意ください。
「加藤のおばーちゃん、元気かしら」
「羽依里が小学校に上がる前に、一度顔を見せておかないとな」
「そうね。羽依里は鳥白島、初めてだものね」
「うん!」
この夏は初めて、島のおばーちゃんのところにやってきた。
青い空に、広い海。空を飛ぶカモメ。何もかも、初めて見るものばかりだった。
「おお、よく来たね」
「お姉さん、いらっしゃい」
港からの一本道を歩いておばーちゃんの家に行くと、おばーちゃんときょーこさんが出迎えてくれた。
おとーさんたちと一緒に挨拶をして、少しの間、居間でお話をする。
……だんだんと難しい話になってきた頃、おかーさんが「羽依里、外で遊んでらっしゃい」と言ってくれた。
「島の人に会ったら、ちゃんと大きな声で挨拶するのよ」
「はーい! いってきまーす!」
待ってましたとばかりに麦わら帽子をかぶり、ぼくは外に飛び出す。
さんさんと照りつける太陽の下、目の前の道路はどこまでも伸びている気がして。
車なんて通らないから、どれだけ走っても怒られない。こんな体験、初めてだ。
ぼくはお日様の眩しさに目を細めながら、住宅地を探検していた。
「……あれ?」
その時、駄菓子屋さんの前を女の子が歩いていた。青い髪をした、女の子だ。
「こんにちは!」
僕は言われた通り、元気よく挨拶をした。
「ひっ!?」
そしたら、怖がられた。あれ? そんなつもりじゃなかったんだけど。
「あのね、ぼく……」
「……あおちゃんになにするの!」
お話をしようとしたとき、同じ顔の女の子が走ってきて、ぼくの頭を棒きれで叩いた。
頭の中にチカチカと火花が散って、ぼくは頭を押さえながら、おばーちゃんの家に走って帰った。
「そりゃあ、空門さんちの双子じゃな」
島のおばーちゃんは愉快そうに言う。麦わら帽子をとると、ぼくの頭にはたんこぶができていた。
……島の女の子、怖い。
「ほらほら、女の子に泣かされてるんじゃないの」
「だってこわいもん」
「なら、男の子と遊んでらっしゃい」
ぼくはおかーさんにすがりついたけど、そのまま家から追い出されてしまった。
今度は駄菓子屋さんに近づかないようにしようと決めて、ぼくは漁港のほうに歩いていった。
「あ!」
すると上半身裸の男の子が、すごく嬉しそうにぼくの方を見ていた。なんか怖い。ううん。すごく怖い。
……僕はまわれ右をして、おばーちゃんの家に逃げ帰った。
「ほっほっほ。それは三谷の良一くんじゃな」
すごく怖かったと伝えるも、「服を脱ぐのはあの家の血筋じゃ」と、よくわからないことを言われた。
「ほれ、めげるな。トライアゲインじゃ」
やがて、そうおばーちゃんに背中を押されて、ぼくはもう一度外に出た。
……少し歩いたら、また女の子がいた。さっきの子とは違う子だ。
「こ、こんにちは!」
「……」
「え、冷たい冷たい! やめて!」
元気に挨拶をしたら、無言で撃たれた。水鉄砲だから痛くないけど、冷たい。
……びしょ濡れになったぼくは、一旦着替えに家に帰った。
「それは野村の美希ちゃんじゃな」
服を着替えるぼくに、おばーちゃんはまた笑いながら言う。叩かれるし撃たれるし、やっぱり島の女の子は怖い。
「今度はまた男の子を探してみなさいな。ちゃんと服を着た子をね」
おかーさんにそう言われて、僕はもう一度外に出た。よぅし。トライアゲインだ。
「あ」
住宅地を歩いていると、眼鏡をかけた男の子がいた。
ちゃんと服も着てるし、優しそうだ。
「こんにちは! あの、ぼくね……」
「……おうぎ! ドラゴンスレーイブ!」
……なんか叫ばれて、ボールをぶつけられた。
そこまで痛くないけど、謎の恐怖を感じたぼくは家に逃げ帰った。
「それは加納さんの子じゃ。最近、卓球を始めたらしいからの」
タッキュウ、というのがよくわからなかったけど、痛い思いをするのはもう嫌だ。
外に出たくないと、ぼくはおばーちゃんに訴える。
「島の子たちに負けてるわよ。お昼ごはんしっかり食べて、午後からも頑張りなさい。トライアゲインよ」
その時、おかーさんが山盛りになったそうめんを持ってやってきた。後ろにいるきょーこさんは、キュウリやトマトが入ったボウルを持っている。
いつの間にかお昼になっていたらしく、それを見たぼくのお腹の虫が元気に鳴いた。
そうめんや島で採れた野菜をたくさん食べて元気が出たぼくは、お昼から思い切って遠出をしてみることにした。
その行き先は、船の上から見えていて、ずっと気になっていた、真っ白い灯台だ。
「うわー、すっごーい!」
長い時間をかけてたどり着いた灯台は、思っていたよりずっと大きくて、綺麗だった。
誰もいないし、まるで自分だけの秘密の場所を見つけたような気分になって、灯台の周りを走り回る。
「おおー、いらっしゃいませー」
「え?」
……誰もいないと思っていたら、いつの間にか金髪のおねーさんがいた。
「ごいっしょしますねー」
怒られるかな? と思ったら、おねーさんはニコニコ顔でぼくのあとをついてくる。
しばらく一緒になって遊んでいると、おねーさんが弾むたび、ちりんちりんと音がしているのに気づいた。
「おねーさん、なに持ってるの?」
「よくぞ聞いてくれました! 実は、こんなものを持っています!」
得意顔のおねーさんのスカートのポケットから、ハンドベルが出てきた。
「最近、ポケットベルというものが流行っているらしいので。わたしも手に入れてみました」
言って、鈴を振る。ちりんちりん。涼しげな音が鳴った。
「たくさんあるので、おひとつ差し上げます!」
ぼくが呆気にとられていると、おねーさんはそう言って、赤いハンドベルをくれた。
「漂着物なので少し色がくすんでいますが、音色は問題ありません!」
「ありがとう! おねーさん!」
ひょーちゃくぶつ、ってのがよくわからないけど、プレゼントをもらって嬉しくなったぼくは、それをポケットに入れて持って帰った。
……だけど、帰っておかーさんに見せたら、不思議そうな顔をされた。とうしてだろう。
……夜になったら、皆で晩ごはんを食べに行く。島には小さなお店があるらしい。
「鳴瀬さん、今日はお世話になります」
「加藤さんからお話は聞いてますよ。どうぞ座ってください」
お店に入ると、男の人と女の人がカウンターの向こうにいて、奥の座敷に案内してくれた。
そこには、大きなお皿いっぱいのお刺身や、名前の分からない色々な料理が並んでいた。
「これだけの料理をわざわざ用意してくれたんですか? 恐れ入ります」
「はは、この島では、渡りの人は歓待するのが習わしですので」
……なんだか難しい話をしているなぁと思いながら、お店の中を見渡していると、カウンターの隅に女の子がいて、こっちを見ていた。ぼくと目が合う。
「あ」
声をかけようとしたら、カウンターの向こうに隠れちゃった。
「こら、しろは。隠れてないで、ちゃんと挨拶しなさい」
女の人が自分の足元を見ながら言う。姿は見えないけど、その足に抱きついてるのかな。
「ごめんよ。しろはは恥ずかしがりやでさ」
男の人が言った。島の女の子は皆怖かったけど、あんな子もいるんだ。しろはちゃんか。
お話できないかな……なんて思っていたけど、その子がカウンターの奥から出てきてくれることはなかった。
……それから三人でご飯を食べた。
おとーさんはお酒を飲んで、いつもよりごきげんだった。だけど、ぼくはあまり食べられなかった。お魚、あまり好きじゃない。骨があるし。
「はは、羽依里くんにはまだ魚の美味しさはわからないか」
「どうもすみません」
箸が止まっているぼくを見て、男の人が笑い、おかーさんが謝る。
「よーし、それなら、特製チャーハンを作ってあげようか」
男の人は腕組をしながらぼくのほうを見たあと、そう言った。
「メニューにはないようですが、いいんですか?」
「この人の作るチャーハン、美味しいのよー。羽依里くんもきっと気に入るから、食べてみて」
おとーさんが尋ねると、女の人がそう嬉しそうに言う。美味しいチャーハン。食べてみたい。
「少し待っててくれな」と言って男の人がカウンターの奥に引っ込む。
それから数分後、できたてのチャーハンが運ばれてきた。
「わぁ」
いい匂いに、ぼくは思わず声が出た。すごくおいしそう。
「さあ、特製チャーハンだ。たんと食べてくれ」
「うん! いただきまーす!」
手を合わせてから、パラパラのチャーハンをスプーンですくって、口に運ぶ。
「……おいしい!」
これまで食べたことのないおいしさに、ぼくは驚き、飛び跳ねそうになる。
「こんなおいしいチャーハン、はじめて!」
ひたすらに「おいしい」と言いながら、夢中になってチャーハンを食べる。
そんなぼくを皆が嬉しそうに目を細め、見守ってくれていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……あれ?」
目が覚めると、すっかり見慣れた加藤家の天井がそこにあった。
俺は思わず上体を起こす。なにか、懐かしい夢を見たような。
「羽依里、おはよう……どうしたの?」
物音で目が覚めたのか、隣で寝ていたしろはも体を起こし、不思議そうに俺を見ていた。
「おはよう、しろはちゃん」
「……なぜ唐突にちゃん付け?」
「……なんでだろう。なんか夢を見てさ。その影響かも」
「どんな夢?」
「子供の頃の夢だったと思うんだけど……忘れちゃったな」
「夢なんてそんなものだよ。それより、今日も食堂に行くの?」
「ああ、しろはのチャーハン、教えてほしいからな」
「……そう言ってもう、何ヶ月経つの?」
「俺は諦めないぞ。加藤家の呪いがあるけど、あのチャーハンだけは作れるようにならないといけない気がするんだ」
「羽依里の決意は相変わらずだね。じゃあ、今日も中華鍋のお手入れから。そのあとは塩を使った訓練だよ」
「の、望むところだ」
現状、中華鍋に具材を投じることさえ許されていないけど、俺はそう虚勢を張る。
……鳥白島のチャーハンマスターへの道。まだまだ、先は長そうだった。
こんにちは。トミーです。
もし、羽依里くんが幼少期に鳥白島にやってきて、島の皆と交流していたら……という設定で書いてみました。最後は夢オチのようになってしまいましたが、いかがだったでしょうか。
妹を守るためによそ者を棒で殴る姉がいたり、裸になってる少年がいたり、それとわかるように書いているので、クスリと笑っていただけたら幸いです。