妄想が広がってしまった、イナリの大冒険(?)です。
一応サマポケの体は成していますが、ぶっちゃけギャグ作品となります。冒頭以後はご都合主義に急展開のオンパレードです。笑って楽しんでもらえるとありがたいです。
「蒼ー、かき氷食べさせてくれー。氷イチゴで」
夏休みも中盤に差し掛かったある日。蒼と恋人同士になった俺は、いつものように一杯のかき氷を注文して、駄菓子屋に入り浸っていた。
「あんたさ、ずっとあたしの顔ばっかり見てて楽しい?」
「うん、楽しい」
俺はいつものベンチに座って、かき氷を作ってくれている蒼の顔を眺めていた。
「うわー。目、輝いちゃってるんだけど」
「蒼の顔を見るだけで、目の保養になってるからな」
「ど、どういう意味よそれっ!?」
蒼の顔が、運んできてくれていた氷イチゴと同じくらい真っ赤になった。うん。今日も蒼は平常運転だ。
ちなみに、俺の座るベンチの下にはイナリが寝ている。こいつも、ここがすっかり定位置になっていた。
「はい、おまたせ」
蒼から大盛の氷イチゴを受け取って、さっそく口に運ぶ。うん。冷たくておいしい。
軒先に吊るされた風鈴が風に舞って、涼しげな音を立てている。蝉の声もどこか遠くに聞こえて、実にのどかだった。
「御免!」
その時、駄菓子屋の入り口に四人組のじーさんが現れた。
全員が筋骨隆々で、逞しい身体をしている。正直、駄菓子屋には似つかわしくない格好だし。なんだろう。この人たち。
「空門嬢はここにおるな?」
「迎えに参った!」
迎えに来たって、どういうことだろう。俺はあっけにとられて、固まってしまう。
その間に、じーさんたちは俺の脇を抜けて店の中に入り、一直線に蒼の方へ向かう。
「へっ?」
じーさんの一人が、唖然としている蒼の細い腕をむんずと掴み、そのまま持っていた大きな麻袋の中に放り込む。
「ちょ、ちょっと---!」
「少し我々と共に来てもらうだけだ。悪いようにはせぬ!」
「出して---!」
麻袋の口をきつく縛り、どっこいせ、と背中に担ぐのを見て、俺も我に返る。
「ちょ、ちょっと待て! 蒼をどこに連れて行くつもりだ!?」
もぞもぞと動く麻袋を担いだじーさんの前に慌てて飛び出す。蒼の彼氏として、ここを黙って通すわけにはいかない。
「どけい! シティーボーイ!」
「どわあああっ!?」
強烈な張り手一発。それは謎の衝撃波を纏っており、俺は周囲の駄菓子もろとも、店の外まで吹っ飛ばされてしまった。
「ふん。我ら四天王に盾突くからだ」
「所詮は一般人。いきがっても良いことはないぞ」
「お情けで、命だけは取らずにおいてやろう」
「では、さらばだ」
「離してーーー!」
自らを四天王と名乗った謎の老人集団は、蒼の入った袋を背負ったまま、どこかへと走り去ってしまった……。
俺はアスファルトの上に情けなくひっくり返ったまま、動けずにいた。俺は無力だった。
「ポーーン!」
そんな俺の所に、イナリが走ってきた。どうやらベンチの下にいたために、難を逃れたみたいだ。
「ごめんなイナリ。お前のご主人、守れなかった」
「ポ、ポンポン!」
どうやら、心配するなと言ってくれているようだ。俺の擦り傷を舐めてくれているみたいだし。
「お、おい羽依里、何があったんだ!?」
その時、道路の向こうから良一が走ってくるのが見えた。
「悪い良一、ちょっと手を貸してくれ」
良一に支えてもらって、なんとか起き上がる。
「あいててて……」
身体を起こして周囲を見ると、アスファルトの地面はめちゃくちゃにひび割れていた。よく生きてたな、俺。
「駄菓子屋も、まるで怪獣でもやってきたみたいにめちゃくちゃになってるし、何があったんだ?」
「実は……」
俺は良一に、ついさっき起こった出来事を説明した。
「なるほどな。蒼をさらった連中は、最近この島で暴れてる四天王って連中に間違いなさそうだぜ」
「え、四天王?」
確かに四人いたし、そう名乗っていた気がする。
「それで彼氏として、なんとか蒼を助け出したいんだ。良一も手を貸してくれないか?」
「あー、そうだな……手を貸してやりたいのは山々なんだが……」
良一はそこで言いよどむ。
「それより羽依里は、蒼がどこに連れていかれたのか分かるのか?」
「……いや、わからないな」
蒼を助けたい気持ちだけが先走って、何も考えてなかった。
「なら、俺が連中のアジトを突き止めてやる。羽依里は、四天王を倒す手段を考えてみてくれ」
「わかったけど……あいつらを倒す手段、か……」
返事はしたものの、どうやってあの屈強な連中に立ち向かえばいいのだろうか。
「……そうだ。良い場所があるぜ」
「良い場所?」
考え込んでいる俺を見てか、良一がそう助け舟を出してくれた。
「この島に、神社があるだろ」
「神社?」
そう言えば、そんな場所があった気がする。ほとんど行ったことないけど。
「あの神社は鳴瀬神社って言ってな。白の巫女と呼ばれる巫女さんがいるんだ」
「白の巫女?」
「ああ。神通力を持っているとかで、きっと力になってくれるはずだぜ」
神通力って、陰陽師とかじゃないんだから。
「よくわからないけど、今は藁にもすがりたい思いだ。行ってみるよ」
「おう。俺はその間に情報を集めてやる。正午になったら、灯台で落ち合おう」
「わかった。良一も気をつけろよ」
良一と別れ、神社の方へ走りだすと、その後ろをイナリがついてきた。
「おお、お前も行くか?」
「ポン!」
イナリも蒼を助けたいんだろう。すごい決意を感じた。
「よしイナリ、一緒に行こうぜ」
「ポーーン!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
俺とイナリは、島唯一の神社に辿り着いた。そこには、巫女服を着たしろはがいた。
「しろは、こんな所で何やってるんだ」
「違う。白の巫女」
「え、白の?」
そう言えば、良一がそんな名前の巫女さんがいるとか言っていたような。
「それじゃあ、白の巫女さんはここで何をしてくれるんだ?」
せっかくだし、俺もその流れに乗ることにした。
「色々なお告げをします」
お告げ。
なんだろう。ロールプレイングゲームみたいに、行くべき道を示してくれるんだろうか。
「それじゃ、お願いするよ」
「初回特別料金。100円」
しろは……じゃない。白の巫女様はそう言って手を出してきた。
「え、金とるの??」
「違う。お布施」
まあいいか。100円だし。このままだと何も進まなそうだし。
俺は財布から100円を取り出して、白の巫女さんに渡す。
「マイダーリン。それでは、うらなってさしあげみゃしょう」
噛んだ。というか、お告げじゃなくて占いになってるし。
「れいげんいやちこなれー」
がらんがらん、と鈴を鳴らし、賽銭箱の前で何やら呪文を唱えていた。
「わかりました。四天王を倒して蒼い姫を救うのは、青い勇者です」
「え、青い勇者?」
「つまりはイナリのことじゃないの?」
巫女様はぶっきらぼうにそう言った。つまりはそう言うことなんだろうか。
「ポン?」
「つまり、蒼を救うのは彼氏の俺じゃなくて、イナリだと」
「そ、そういうお告げです」
「じゃあ俺は?」
「……勇者の家来か、下僕とか?」
「ほう、下僕」
どうやら俺は、この物語ではイナリより立場が下らしい。
というか、ますますロールプレイングゲームみたいになってきた。
勇者イナリは、四天王にさらわれた姫を助け出せるんだろうか。。
「イナリ、頑張ってね」
「ポン!」
「……ところで巫女様、イナリが勇者ってことはわかったけど、これから先どうすればいいんだ?」
「え、知らないよ」
「こういう時って、四天王を倒せる特別な武器とか、一気に強くなるための修行とか、新たな仲間が来るとか、そういうイベントが必ずあるよな?」
「ごめん。言ってることの意味が分からないんだけど」
「俺が昔やってたゲームだとそうだった」
「……じゃあ、もう一回占ってみようか?」
「よろしく頼むぞ、巫女様」
「じゃあ、200円」
金額が上がっていた。
文句を言っても話が進みそうにないので、俺は黙って財布から200円を取り出して、巫女様に手渡す。
「マイダーリン。それでは。れいげんいやちこなれー」
がらんがらん、と鈴を鳴らし、賽銭箱の前で再び呪文を唱えていた。
「わかりました。青き勇者イナリが四天王に打ち勝つには、伝説の聖剣と兜が必要みたいです」
聖剣と兜……そんなものどこにあるんだろう。
「イナリ、お前が主役だろ。何か心当たりはないのか?」
「ポンー」
首をかしげていた。全く心当たりはないみたいだ。勇者様、しっかりしてほしい。
「それじゃあ巫女様、伝説の聖剣のありかから占ってくれないか?」
「占ってもいいけど、なんで剣からなの?」
「強い武器があれば、強敵が現れてもゴリ押しできそうな気がする」
「うわ、脳筋プレイ」
……なんか妙なことを言われたような気がした。
「……こほん。よくわからないけど、占ってあげてもいいよ?」
「ぜひ頼む」
「ほい、500円」
……ますますお布施の金額が上がっていた。
「まぁ、背に腹は代えられないしな。ほれ」
「マイダーリン」
この神社だけで、すでに800円も取られてしまった。とんだぼったくり神社だ。
「れいげんいやちこなれー」
がらんがらん。三度、鈴の音が境内に響き渡る。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
白の巫女様の占いの結果、伝説の聖剣はため池の中にあるということが分かり、俺たちは一路ため池へと向かっていた。
「……なんで私がついていかないといけないの」
「だって占いでそう出たんだろ。文句言わずついてこい」
「不本意すぎる……」
不本意なのね。
まぁ、今の俺は蒼ルートだし。しろはルートじゃないから、別に好かれなくてもいいけどさ。
「言っておくけど、私は同行人扱いだから。パーティー編成画面には表示されないし、戦闘にも参加できないから注意してね」
ごめんしろは、言ってることの意味が分からない。
やがて俺たちはため池へとやってきた。
「イナリ、どこかに聖剣の気配を感じたりしないか?」
「ポン?」
なにそれ? みたいな目で見ないでほしい。俺が痛い子みたいじゃないか。
「お告げによると、ここで合言葉を言えば、聖剣への道が開けるらしいよ」
「え、合い言葉?」
そんなの知らないんだけど。『ゆうき』とか『のばら』だろうか。
「れいだーん!」
白の巫女様が指鉄砲を作ってそう叫ぶと、轟音と共にため池の水が左右に割れて、池の底へと続く階段が出てきた。うそだろ。
「こ、この先に聖剣があるんだな。イナリ、行こうぜ」
「ポン!」
多少怖気づきながらも、三人で階段を下りていく。そこにはザリガニやヤゴ、コイ等、水が引いた際に逃げられなかったらしい生き物たちがうごめいていた。
エンカウントしない辺り、この辺りは雑魚モンスターとしても認識されていないみたいだ。楽だけど、これからどうやってレベル上げるんだろう。
「……ねぇ、さっきから何をぶつぶつ言っているの?」
「いや、なんでもないよ」
どうやら、心の声が漏れてしまったみたいだ。俺もだいぶゲーム脳になってきたらしい。
……しばらくすると、ため池の底に到着した。
「イナリ、あれを見ろ!」
ちょうど中央当たりに立派な台座があり、剣が刺さっていた。
「おお、本当に聖剣があった」
緑色の束に、深紅の刀身。いかにもな感じの剣だった。
でも、やけに小さかった。
「小さいな……スイカバーぐらいの大きさしかないぞ」
「イナリサイズだからじゃないの?」
「ああ、そういうことか」
俺とイナリ、白の巫女様の三人で聖剣を取り囲み、しげしげと観察する。
「よしイナリ、抜け」
「ポーン!」
イナリが気合を入れて、聖剣の刺さった台座に飛び乗る。
しかし、この流れはまるでアーサー王伝説だ。イナリは泉の妖精に選ばれて、聖剣の主となるのだろうか。
「ポキュキュキュキュ」
「あれ? 抜けないのか?」
「ポンー」
イナリは必死に剣を抜こうとしたが、聖剣は微動だにしなかった。どうなってるんだろう。
「その聖剣エクスイカバーは試練を乗り越えた者にしか抜くことができないんですよ!」
背後からの声に驚いて振り返ると、そこにはうみちゃんがいた。
「あれ、うみちゃん何してるの?」
「違います! 私はうみの妖精です!」
「え、泉の妖精じゃなくて?」
アーサー王伝説になぞらえるなら、ここは泉の妖精のはずなんだけど。
「だから、うみの妖精です!」
ここは確固として譲らないみたいだった。もう、どうでもいいや。
「ところで、やっぱりこの剣の名前はエクスカリバーなんだね」
いかにも伝説の聖剣といった名前だった。
「いえ、エクスイカバーです」
「エクスイカバー!?」
まさかのスイカバーだった。言われてみれば、刀身が紅いし、スイカバーっぽい。
「それで、イナリさんには妖精の試練を受けてもらいます!」
「え、試練って何」
「これです!」
うみちゃんが手に持っていた可愛らしい杖を振ると、光の飛沫が生じて、どこからともなくガスコンロや中華鍋、調味料の類が出てきた。
「こ、これってまさか」
「妖精とのチャーハン勝負です! これに勝てれば、聖剣をお渡しします!」
「ポンー」
しかし、うみちゃんから勝負を申し込まれたイナリは申し訳なさそうな顔をしていた。確かに、キツネにチャーハンを作れなんて無理難題もいいところだ。
「うみちゃん、さすがにイナリにチャーハンは無理なんじゃないかな」
「ええー、それじゃあどうするんですか? 鷹原さん、代わりに作ります?」
……なんか、妖精さんの素が出てきた。
「いや、俺は料理作れないから。代わりに白の巫女様が作るよ」
「さ、さよなら」
俺の言葉の意味を理解したのか、しろはが回れ右して逃げようとする。
「おか……しろはさん! にゃにを言っているんですか! 試練を途中で投げ出そうとすると、この左右の水が閉じて、皆溺れ死ぬんですよ!」
うみ妖精が杖を振ると、左右の水壁が音を立てながら揺れ始めた。そんなの恐ろしすぎる。
「しろは頼む。俺の代わりに、チャーハン勝負をしてくれ」
俺は土下座して頼み込む。今、このタイミングで水が閉じたら、俺は間違いなく溺れる。
「そ、そこまで言うなら」
巫女様はいつの間にかエプロンをつけて、コンロの前に立つ。
「では、行きますよ! いざ、尋常に勝負です!」
うみちゃんもエプロンをつけて、しろはの隣に並ぶ。今ここに、聖剣を賭けた、チャーハン勝負が始まる!
ところで俺たち、ため池の底で何やってるんだろう。
……なんだかんだで作るのはチャーハンなので、けっこう早いうちに勝負は決した。
「ま、負けました……」
うみの妖精はがっくりと膝をついていた。勝負はしろはの勝ちだった。
「勇者イナリのために、ネギ抜きチャーハンを作ったのが仇になってしまいました……!」
「私もネギは入れなかったよ。うみちゃんは玉砂利を使って、基本の修行からやり直した方が良いよ」
「あんですとーー!?」
うみの妖精はめっちゃ悔しそうだった。
ちなみに、審査員は俺とイナリが務めた。聖剣のために贔屓したとかじゃなく、純粋にしろはのチャーハンの方が美味しかった。
「それではイナリさん、伝説の聖剣エクスイカバーをどうぞ!」
「ポンー」
うみちゃんが杖を一振りすると、聖剣はいとも簡単に台座から抜け放たれ、まるで意志があるかのように宙を舞った後、イナリの手に納まる。
「え、それってイナリが気合を込めて引き抜いたりするんじゃないの?」
「あ、そういう演出が必要でしたか?」
中華鍋やガスコンロを魔法でどこかにしまいながら、うみの妖精がそう言っていた。いや、もういいけどさ。
まぁ、伝説の剣は手に入れたし、思わぬところでお昼ご飯も食べられたし、良しとしよう。
「そうそう。手に入れた武器は装備しないと意味がないから、パーティー画面を開いて、きちんと装備してね」
だからしろは、時々意味の分からないことを言わないで。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
俺たちはため池を後にして、住宅地まで戻ってきた。
「聖剣は手に入れたし、次は伝説の兜だな」
兜についてはノーヒントだし、これはもしかして、また神社に頼らないといけないんだろうか。財布の中身も残り少ないし、あまり気が進まないんだけど。
「それじゃあ、ここでスペシャルヒント。女神に貢ぎ物をせよ。だって」
「いや巫女様、スペシャルヒントって何?」
「無料で教えてあげたんだから、文句言わないで」
「ポン!」
そうだよー。みたいな感じでイナリが鳴く。巫女様の腕の中に納まっちゃって、気持ち良さそうだった。
「それにしても、女神ね……」
正直、なんの女神なのか、何を貢ぎ物にすればいいのか、まったくわからなかった。スペシャルヒントは、大したヒントになって無かった。
俺たちは住宅地の真ん中で、途方に暮れた。
「む、鷹原たち、こんなところで何をしてるんだ」
その時、村人Aから声をかけられた。
「待て鷹原、誰が村人Aだ」
「お前こそ、勝手に地の文を読むな!」
「そうだよ卓球野郎。今は役に徹して」
しれっとしろはがひどいことを言っていた。
「もう、卓球野郎でも構わないさ……ところで、どうした」
「実は、かくかくしかじか。なんだ……」
「なるほどな。四天王にさらわれた蒼を助けようとしているのか」
こういう時、この言葉って便利だよな。
「それで、イナリに伝説の兜を見つけてやりたいんだが、女神のいる場所がわからなくてな」
「女神がいる場所と言えば、灯台だろう」
「え、そうなのか?」
「ああ、この島の常識だぞ」
そんな常識は初耳だ。
「それじゃ、貢ぎ物っていうのは?」
「島の伝承によると、パリングルスかワタアメをお供えすると良いらしい」
島の伝承とかも初耳なんだけど。それにしても、えらく具体的だな。
「ただし、女神の怒りに触れると、神隠しに逢うらしいぞ」
さすが女神。怒らせると怖いみたいだ。注意しないと。
「それじゃ、駄菓子屋でパリングルスとワタアメを買ってこよう」
「ポン!」
その後、駄菓子屋でパリングルスとワタアメを買って、灯台へと向かった。
ちなみに、めちゃくちゃに破壊されたはずの駄菓子屋は綺麗になっていて、何事もなかったかのようにおばーさんが店番をしていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「こんにちわ」
灯台に到着すると、そこには一人の女の子がいた。
「もしかして、君が灯台の女神?」
「違います。私は三谷良一の妹です。兄の代わりにやってきました」
「あ!」
そういえば、良一と正午に灯台で待ち合わせをしてたんだっけ。手元の腕時計を見てみると、13時をとうに過ぎていた。すっかり忘れていた。
「結論を言いますと、兄は来ません」
「え、そうなの」
思いっきり遅刻をしておいてあれだけど、正直、あまり期待はしてなかった。もしかして、逃げたんだろうか。
「逃げてはいません。返り討ちに遭っただけです」
「君も地の文を読むんだね」
「兄は四天王のアジトを突き止めました。しかし、そこには強力な門番が居て、ボコボコにやられて、家に逃げ帰ってきたのです」
「やっぱり逃げたんじゃないか」
「違います。それより、重要なのはここからです。四天王のアジトは、役所にあります」
「近っ。アジト、めっちゃ近っ」
「ああいうのって、行くのが大変な崖の上とか、絶海の孤島とかにあるもんなんじゃない?」
「羽依里、それはゲームのやりすぎだよ」
「そうですよ。孤島なんかに建てたら、食料の調達も大変です。家賃とかは安そうですけど」
良一の妹も一緒になって、ステレオで否定されてしまった。頭がおかしくなってくる。
「四天王のアジトは役所。これが兄からの伝言です」
「ありがとう。それじゃ、伝説の兜を手に入れたら、役所の方に行ってみることにするよ」
「ポン!」
その役所の門番ってのが、ちょっとだけ気になるけど。
「それでは、私はこれで失礼します」
「うん。わざわざありがとうね」
良一の妹を見送った後、俺たちはパリングルスやワタアメを灯台の扉の前に供える。
作法なんて知らないので、お供えをした後は何をするでもなく、ぼーっとしていた。
「……ねぇ、こんなので本当に女神様が出て来るのかな?」
「ポンー」
「とりあえず、もう少し待ってみよう」
灯台は多少風があるけど、直射日光がきつい。女神様、早く出てこないかな。
「暑い……スイカバー食べたい」
巫女様、そこでイナリの持ってるエクスイカバーをこれ見よがしに見ないで。
それから少し時間が経ち、その扉が音を立てて開いた。
「どもです」
「あれ、紬?」
「いえ、今はめがみです」
紬はえっへん。という感じで、控えめな胸を張っていた。
そういうことなら、流れに乗っておこう。
「めがみさま、どうぞ、お納めください」
「ポンー」
俺とイナリは、供物のお菓子をめがみさまの前に差し出す。
「おおー、おそなえものとは、しゅしょーなこころがけです」
めがみさまはパリングルスとワタアメを両手いっぱいに抱えて、満足そうだった。
「では、さようならー」
「まってー!」
そのまま扉の向こうに消えていこうとしたためがみさまを、慌てて呼び止める。
「むぎゅ。こう見えて、めがみは忙しいのですが」
「そりゃ、忙しいだろうけどさ……お供え物をしたんだし、こっちの願いも聞いてほしいんだけど」
「えーっと、おっぱい体操の後でもいいですか」
「いえ、できればその前に、伝説の兜が欲しいのですが」
「むぎゅ? どうやらワケアリですか?」
「はい。実は……」
俺はめがみさまに、これまでの経緯を説明した。
「おおー、それならちょうどいいものがあります! ちょっと待っていてください!」
めがみさまは一度灯台の中に引っ込み、すぐに謎の物体を持って戻ってきた。
「これがイナリさん専用の伝説の兜、パリングルスヘルムです! どうぞ!」
「ポンー」
めがみさまがその兜をイナリの頭にかぶせる。めちゃくちゃ似合っていた。
「え、これが伝説の兜?」
「そです!」
どう見ても、紙で作った兜だった。耐久性とか、大丈夫かこれ。
「パリングルスだし、大丈夫なんじゃないの?」
「大丈夫、か……?」
白の巫女様は根拠のない自信を見せる。
「ポンポン!」
一方の勇者イナリも、剣と兜を装備して、満足そうだった。兜も紙でできているせいか、動きやすそうだった。
何にしても、これで伝説の武器と防具が揃ったわけだ。これで蒼を救出に向かえる。
俺たちは意気揚々と、灯台を後にしたのだった。