サマポケ短編小説集   作:トミー@サマポケ

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勇者イナリの冒険(中編)

 

 

 

 

 俺たちは準備を整え、役所前にやってきた。良一の妹によると、あの役所の中に蒼が捕らわれているらしい。

 

「よし皆、準備は良いか?」

 

「羽依里、ここはイナリに任せないと」

 

 ……そうだった。この物語の主役は俺じゃなく、イナリだった。

 

「ポンー」

 

 イナリは伝説の聖剣エクスイカバーと、伝説の兜パリングルスヘルムを装備してご満悦だった。

 

「まあ伝説の武器と防具が揃ってるんだし、負けることはないよな、よし、行こうぜイナリ!」

 

「ポーンポーン!」

 

 いざ、蒼救出作戦開始だ。

 

「ポポポーン!」

 

 突撃ー! と言わんばかりの勢いでイナリが鳴き、俺たち三人は役所に向かって駆けだす。

 

「どわああ!?」

 

「ポンポンー!?」

 

「ひゃあああっ!?」

 

 ……しかし次の瞬間、上空から謎の水弾攻撃を受け、俺たちは三人まとめて地面に転がっていた。

 

「あいてててて」

 

「ちょっと羽依里、くっつかないで! そんなことしても好感度は上がらないよ!」

 

「だから、今の俺は蒼ルートだって言ったろ! 早く立て! いったん隠れるぞ!」

 

「ポ、ポンポンー!」

 

 俺はびしょ濡れになったイナリを抱きかかえると、ダッシュで適当な建物の陰に隠れる。

 

 それと同時に、近くの鉄塔から大きな声が聞こえてくる。

 

『悪いが、何人たりとも、役所には近づかせるなと言われている!』

 

 俺はその声に聞き覚えがあった。もしかしなくても、良一がフルボッコにされた門番ってのは、のみきのことか。

 

『蒼を狙う悪党がいるとの情報が入っていてな! たとえ彼氏の鷹原でも、蒼に近づかせるわけにはいかない!』

 

 いや、その蒼はすでに悪党に捕まっていて、邪魔をしてるのはのみきのほうなんだけど。何か、大きな勘違いをしているような気がする。

 

「ハイドロ嬢! 俺たちの話を聞いてほぶっ!?」

 

 塀の陰からちょっとだけ顔を出して説得を試みたけど、そこをピンポイントで攻撃してきた。あまりの威力に、首が取れるかと思った。

 

「勇者イナリの従者、大丈夫?」

 

 あ、俺の役職、それに決まったんだ。中編になってようやく、って気もするけど。

 

 それにしても、取りつく島もない。これ、どうしよう。

 

「勇者イナリ、こうなったらエクスイカバーの力を解き放つしかないよ」

 

 え、そんな設定があったの!?

 

「うん。ある程度近づかないと届かないけどね」

 

 よし、そういうことなら、俺も体を張るしかない。

 

 俺はイナリを抱きかかえると、タイミングをうかがう。

 

「よし巫女様、敵の攻撃を防ぐ、スイカバリアーを張ってくれ。少しの間で良いからさ」

 

「え、そんなのないけど」

 

「な、ないのか……」

 

 完全に忘れていたけど、この巫女様はただの同行キャラだった。

 

『お前たち、あと2秒以内に退却しなければ、こちらも全力で排除にかかるぞ!』

 

「いや、2秒って無理だろ! 現実的に考えてくれ!」

 

『問答無用だ! 2秒経過! ファイア!』

 

 次の瞬間、大量の水弾が雨あられと降り注ぐ。その水弾はいとも簡単に民家の屋根や壁を貫通し、アスファルトの地面に無数の穴をあけていく。高圧洗浄機も真っ青だった。

 

「こ、これは駄目だ! 撤退だーーー!」

 

「ポーーーン!」

 

 いくらなんでも、あの攻撃には太刀打ちできない。俺たちは回れ右して、全速力で逃げ出した。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 俺たちはのみきの射程圏外まで、全力で逃げ戻った。

 

 どうなってるんだろう。剣と兜だけ持ってても、先に進めない仕様になってるんだろうか。

 

「あ」

 

 このゲームの攻略本はどこだろうとか考えていると、巫女様が小さな声を上げる。

 

「え、どうしたの?」

 

「今、アイテム欄を見てみたんだけど、イナリは勇者の盾を持ってないね」

 

「ちょっと待って、アイテム欄ってどこから見るの?」

 

「気にしちゃ駄目」

 

「ものすごく気になるけど、わかった。気にしない」

 

 それより話を進めよう。

 

「ところで、勇者の盾もあるのか?」

 

 うん。正しくは、盾の人だけど。

 

「ごめん、意味が解らないんだけど」

 

「とりあえず、占ってあげようか?」

 

 唐突に本業に戻ったよ、この巫女様。

 

「盾の居場所、占ってあげるよ?」

 

「一応聞くけど、それって有料?」

 

「もち」

 

 巫女様、どんどんフランクになっていくような。

 

 でも他に頼れるものもないし。巫女様に占ってもらうべく、俺たちは神社へ向かった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「れいげんいやちこなれー」

 

 がらんがらん。

 

 本日四度目の占いが行われた。ちなみに、料金は1000円。ついに漱石さんが飛んで行ってしまった。

 

「出ました。南の入り江に伝説の盾があるそうです」

 

 南の入り江。行ったことないけど、ここからだとだいぶ遠そうだ。

 

「これがその地図らしいです」

 

「ちょっと待って巫女さん、今どこから出したの?」

 

「教えてあげないよ!」

 

 しかもそれ、別キャラの台詞だった。

 

 

 

 

 とにもかくにも、俺たちはその地図を頼りに、家を越え丘を越え、森や洞窟を抜けて、入り江に到着した。

 

 途中の洞窟で、巨大ごきごきや大ムカデと激闘を繰り広げたりしたんだけど、なんで割愛されてるんだろう。かなりスペクタクルな戦いをしたつもりだったんだけど。

 

 ……それにしても、あれだけ戦ったのに全然レベルが上がった気がしない。どういうゲームシステムになってるんだろう。

 

「それで、この入り江のどこに伝説の盾があるんだ?」

 

 見渡す限り砂浜だった。盾らしいものといえば、流れ着いているホタテぐらいのものだった。

 

「どんぶらこー。どんぶらこー」

 

 その時、沖の方からでっかいスーツケースが流れてきた。なんか声も聞こえてくる。

 

「どんぶらこー。どんぶらこー」

 

「さてイナリ、帰ろうか」

 

「えええ、ちょっと待ってよ!」

 

 敢えて見なかったことにしようとしていると、流れ着いたスーツケースのふたが開いて、鴎が出てきた。

 

「ども、盾です」

 

「まさか伝説の盾って、そのスーツケースのことか?」

 

「うんうん。どんな攻撃だって弾き返すよー」

 

 鴎はスーツケースを正面に置いて、得意顔だった。

 

「いざと言う時の自己防衛機能と、自爆能力つき」

 

 待って。伝説の盾に自爆されちゃ困るんだけど。

 

「それじゃ、行こっか」

 

「え、お前も来るの?」

 

「もちろんだよ。私以外に、この盾は装備できないから」

 

 いわゆる専用装備って奴だろうか。いいな、俺も専用装備欲しい。

 

「……さっきから騒がしいな。おちおち体を焼くこともできんぞ」

 

 俺たちが話をしていると、少し離れたところから聞き慣れない声がした。見てみると、やっぱり知らないおじーさんが一人、海パン一丁でビーチマットの上に寝そべっていた。

 

「あ、うるさくしてすみません。すぐに帰りますんで」

 

「まぁいい。遊ぶなら遠くで遊べよ」

 

「はい。すみません」

 

 とりあえず謝って、引き返そうとしていると……。

 

「む? その青タヌキは、まさか勇者イナリか?」

 

「ポン?」

 

 ふいに呼ばれて、イナリがおじーさんの方を向く。

 

「やはり勇者イナリか。ちょうど良い。ここで始末してやろう」

 

 急に雰囲気が変わったおじーさんは、そそくさとビーチマットを片付けて、変わった構えをとる。

 

 なんだろう。このおじーさん。

 

「……ああ! あなたはまさか、四天王の一人、朱雀!?」

 

 その時、勇者の盾である鴎が驚愕の声を上げる。

 

「いかにも!」

 

 え、この人がそうなの? 俺、一度駄菓子屋で会ったはずなんだけど。まったく気が付かなかった。

 

「バカンスの邪魔はさせんぞ!」

 

「ボスバトルは逃げられないね。勇者イナリ、覚悟を決めよう」

 

「ポン!」

 

 よくわからないまま、なんか戦闘モードになった。

 

「スーツケース……じゃない、勇者の盾の力、お見せするよ!」

 

 盾も巫女様もノリノリだけど、俺はイマイチ……いや、まったく状況が飲み込めなかった。超展開についていけない。

 

「いくぞ、勇者イナリ!」

 

 うそだろ、突然炎をまとって暴れ出したんだけど。

 

「うわっちっちっち!」

 

 俺はイナリを抱いたまま逃げ惑う。あんなのに殴られたら、焼きイナリと焼きハイリになってしまう。

 

「くらえ!」

 

「ひええっ!」

 

 距離を取っておけば大丈夫だろうと思っていたら、火を噴いてきた。これは避けられそうにない。

 

「あぶなーーーい!」

 

 その時、スーツケースを持った鴎が間に割って入り、間一髪でその炎を防ぐ。

 

「おお、助かった!」

 

「私はイナリの盾だからね!」

 

 なんというか、ようやく冒険っぽくなってきた。すごく怖いけど。

 

「ちょこざいなスーツケースめ!」

 

 朱雀は一層力を込めて、スーツケースに向けて火を吐き続ける。しかし、鴎のスーツケースはびくともしない。

 

「すごいな、そのスーツケース」

 

「うん。耐火仕様にしてある!」

 

「でも、守ってるだけじゃ勝てないぞ。なんかいい方法がないのか」

 

「やっぱり、勇者イナリがエクスイカバーの力を解放するしかないよね!」

 

 あ、やっぱりその設定あるんだ。

 

「だそうだけど、イナリ、いけるか?」

 

 俺は腕の中のイナリに問いかける。

 

「……ポン?」

 

 いや、そこで首をかしげないで欲しいんだけど。こっちとしても反応に困るし。

 

「……エクスイカバーを敵に向けて思いっきり振り下ろせば、その力が発動するはずだけど」

 

「だそうだ。よくわからないけどイナリ、頼んだぞ」

 

 俺が朱雀の方に向き直り、イナリがその正面に向くように調整する。

 

「ポーン!」

 

 次の瞬間、イナリが頭上高く掲げたエクスイカバーを思いっきり振り下ろす。同時に強烈な光の波と衝撃波が巻き起こる。

 

「おお、すごい」

 

「甘いわ! 当たらなければ、どうということはない!」

 

 しかし、イナリの攻撃は簡単に避けられてしまった。一見した感じ、攻撃範囲が狭い上に直線的だった。たぶんこれ、距離が開いていると当たらないパターンだ。

 

「イナリ焼きにしてくれる!」

 

「うわっと!」

 

 朱雀のカウンター攻撃に対しては、鴎が防御に入ってくれて事なきを得る。

 

 でもあの攻撃を当て類は、どうにかして隙を作らないと厳しいかもしれない。

 

「なあ、なんとかして朱雀の注意をそらせないか?」

 

「そんなこと言われても、私はただの同行キャラだし、鴎は防御で手一杯だよ?」

 

 確かに巫女様の言う通りだった。どうしよう。

 

「それなら羽依里、これ使って!」

 

 鴎はそう言うと、スーツケースから何の変哲もないバケツを取り出して、俺に投げてよこす。

 

「トラエモンかお前は!? これでどうしろって言うんだ!?」

 

「知らないよ! 自分で考えて!」

 

 逆ギレされてしまった。どうしようこれ。

 

「うおおおおおっ!」

 

 俺は半ばヤケクソになり、波打ち際にダッシュ。バケツに海水をすくって、そのまま朱雀に向けてぶっかける。

 

「ぎゃあああ!」

 

 ……あれっ、効いてる?

 

「もう一回!」

 

「ぎえええぇえ!」

 

 ……やっぱり効いてる。なんでだろう。

 

「きっと、朱雀は火属性だからだよ。水は弱点属性だし」

 

 巫女様がそう言う。このゲーム、属性相性とかあったんだ。

 

「よし、そうと分かれば!」

 

 俺は矢継ぎ早に海水をすくっては、朱雀に向けてかけ続けた。

 

「ぐおおおっ!」

 

「おおー、効いてる効いてる!」

 

 朱雀が苦しんでいる。弱点を突くと、本当に有利に戦えるんだな。

 

「相手が弱っている! チャンスだ、イナリ!」

 

 俺は某ペケモントレーナーになった気分で、イナリに指示を送る。

 

「ポポポーーーン!」

 

 イナリは俺の指示を受けて、朱雀の背後へと跳躍。そこからエクスイカバーを一閃。

 

「ぬぅっ……ぬかったわ……ぐわああああっ!」

 

 そして、光の衝撃波で周囲の砂地ごと、朱雀を消し去る。

 

 

「おお、勝った!」

 

「うん。さすが勇者イナリだね」

 

「さすがだよー」

 

 戦いに勝利し、勇者の盾と白の巫女がイナリを取り囲み、称賛する。

 

 ……あれ? 俺の頑張りは?

 

 まあいっか。四天王の一角を倒したし、イナリの盾も手に入った。成果としては十分だし。

 

「それじゃ、住宅地までパッと戻ろっか?」

 

 鴎が笑顔でそう言う。

 

「え、なにそれ?」

 

「ちゃんとチェックポイントは起動してきたんでしょー? パッと戻ろうよ!」

 

 ごめん鴎、言ってることの意味が解らない。

 

 結局チェックポイントやらは起動して無かったみたいで、俺たちは徒歩で住宅地へと戻ることになった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 ……いっぽう、そのころ。

 

 

 

「……ほう。朱雀がやられたか」

 

「だが、奴は四天王の中でも最弱」

 

「勇者イナリごときにやられるとは、四天王の面汚しよ」

 

「……あんたたち、それっぽい会話して楽しんでるだけでしょ?」

 

「うむ。空門嬢、ご機嫌はいかがかな?」

 

「ブルーハワイ食べ放題っていう条件は悪くないんだけど、そろそろ帰りたいかも」

 

「悪いがそうはいかん。ボスからの指示でな」

 

「はぁ、あんたたちのボスは何を考えてるのかしらねー」

 

「どうも、お主とシティーボーイの関係を憂いでいるようだ」

 

「変な虫が付いてしまったと、業腹のようだったしな」

 

「あーもー、妹の心配してくれるのはわかるけど、さすがにやりすぎよー!」

 

 ふかふかのソファーの腰かけながら、蒼は頭を抱えていた。

 

 

 

勇者イナリの冒険(中編)・完

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