サマポケ短編小説集   作:トミー@サマポケ

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鳥白島の日常②(芸術祭編)

 

 

 

 

 

 

 もうすぐ初夏になろうかというある日。俺はいつものように、連休を利用して鳥白島を訪れていた。

 

 今日こそしろはと楽しい休日を、過ごそうと思っていたんだけど……。

 

「鷹原、やはり来ていたか」

 

 俺が朝食を食べ終わるのを見計らったかのように、のみきがやってきた。

 

 あまりにタイミングが良すぎて、加藤家のどこかに盗聴器でも仕掛けられてるんじゃないかと不安になってくる。

 

「また寄合があるんだが、一緒に来てもらえるか?」

 

「例によって拒否権は無い……よな?」

 

「ああ。無いぞ」

 

 直後、笑顔ののみきの背後から、妙なサングラスをかけた二人組が現れる。

 

 俺は先日と同じように、為す術なく連行されていった……。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「あれっ?」

 

 のみきによって連れてこられたのは、役所ではなく、駄菓子屋だった。

 

 そこには朝早いというのに、しろはや蒼、紬に静久、良一に天善、そして鴎と、見知ったメンバーが揃っていた。

 

「皆、朝から集まってもらってすまないな」

 

 のみきは大き目のファイルとノート、そしてペンを手に、皆の顔を見渡していた。

 

「ところでのみき、今日の寄合は駄菓子屋でやるのか?」

 

 てっきり、また役所の会議室でやるものだと思っていたんだけど。

 

「前回、役所で缶詰になって話し合ったが、まったく話が進まなかっただろう? それを教訓にして、少年団の寄合は駄菓子屋で行うことにしたんだ」

 

 なるほど。確かに、ここなら駄菓子で小腹は満たせるし、飲み物だってある。気分を変えることで、良い案も浮かんでくるかもしれない。

 

 でも、これだとまるで井戸端会議だ。店の前でたむろしてるわけだし、駄菓子屋のおばーさんは迷惑なんじゃないだろうか。

 

「よし、さっそくだが、これでも食べてくれ」

 

 のみきはそう言いながら、アイスケースから人数分のチューベを取り出して、皆に配っていた。

 

「え、これは?」

 

「代金は心配するな。必要経費ということで、役所から出ている。いわゆる場所代というやつだな」

 

 なるほど、払うものは払っているというわけか。そういうことなら、遠慮なくもらっておくことにしよう。

 

「それで、今回の議題なんだが……」

 

 のみきはファイルから『国際芸術プロジェクトin鳥白島(仮題)』と書かれた書類を引っ張りだし、皆に見せる。

 

「なんだこれ?」

 

「これはだな……」

 

 のみきによると、数年に一度、鳥白島とその周辺の島々が共同で芸術をテーマにしたイベントを開催しているらしい。

 

 ちょうど今年が開催年に当たるらしく、俺たちにそのイベントに向けたアイデアを出してほしいとのことだった。

 

「連絡船がやってくる港に、鳥白島のシンボルとなるアートなオブジェを三つ設置する予定らしい」

 

「オブジェって言うと、銅像とか、そういうのか?」

 

「そんな感じだとは思うが、まだ何も決まっていない。例によって、内容についてはご年配の方々から丸投げされてしまってな」

 

 またか。またなのか。

 

「島によっては、海外から芸術家を招いたり、古い家屋を改造して作品を展示しているようだが……」

 

 のみき曰く、今回も鴎の母親がスポンサーになってくれたらしいけど、とてもそんな大規模なことができるほど潤沢な予算ではないらしい。

 

「芸術イベントが始まるのは梅雨明けからとの話だから、製作期間は一ヶ月半と言ったところだな」

 

「それだと、そこまで大掛かりなものは作れないわねー。皆、学校もあるし。中間テストも近いしねー」

 

 蒼がめんどくさそうにそう言う。いつも休みの時にしか島に来ないから実感がなかったけど、俺たちは学生だった。

 

「そうだなー。芸術的で、なるべく金のかからないものか……」

 

 やがて良一が顎に手を当てて、真剣に考えていた。

 

「……そうだ。島の男たちが全身に芸術的なボディペイントを施して、港に立って旅行者を出迎えるってのはどうだ? インパクト抜群だし、安上りだろ?」

 

「え、それはちょっと気持ち悪すぎるよ」

 

 しろは、もうちょっとオブラートに包んだ言い方にしてあげてほしい。直球過ぎる。

 

「あれ……ちょっと待って良一。今『俺たち』って言った?」

 

「ああ。俺たちで芸術というものを見せてやろうぜ! 羽依里!」

 

「いや、俺はやらないから」

 

 勝手に賛成派にしないでほしい。

 

「マジかよ……お前には島の男のしてのプライドはないのか!?」

 

 良一は半泣きだった。悪いけど、元々島の男じゃないから。肩に置いた手を放して欲しいんだけど。

 

 でもせっかくだし、ちょっとだけ想像してみた。

 

 

「あ、鳥白島が見えて来たよ!」

 

「おお、あれが鳥白島名物のボディペイント集団!」

 

「パーーージ!」

 

「ウェルカムトゥトリシロジマアイランド!」

 

「い裸っしゃいませーーー!」

 

 なんだろう。想像の中だからか、港に色とりどりのボディペイントを施した何十人という良一が並んで、観光客たちを出迎えていた。

 

 

「……」

 

 俺はぶんぶんと頭を振って、そのイメージを打ち消す。

 

「むぎゅ、タカハラさん、どうかしましたか?」

 

「ううん。なんでもないよ」

 

 たぶん、顔が青くなっていたと思う。紬に心配されてしまった。しばらく想像するのはやめよう。

 

「ボディペイントは芸術なんだ。きっと、俺以外にもやりたい奴がいるはずなんだ……!」

 

 皆が完全に引いてるのにも関わらず、良一は必死に訴えていた。なんだか可哀想にも思えてくる。

 

「よし、それなら多数決で決めよう。過半数を超えた場合、採用する」

 

「ああ、望むところだぜ!」

 

 そんな良一を見かねてか、のみきが打開案を提示していた。

 

「では聞くぞ。ボディペイントは芸術作品と思う者は挙手」

 

「はい!」

 

 ……手を挙げたのは良一だけだった。

 

「残念だが、却下だな」

 

「ちくしょー!」

 

 良一は頭を抱えて悔しがっていた。

 

「じゃあ、他の皆はなんか良い案があるのか!?」

 

 良一が皆に訴えかけるように意見を求める。やりたかったんだろうなぁ。ボディペイント。

 

「そうだな……カラフルな卓球台とかどうだ?」

 

 次に意見を出したのは、天善だった。

 

「え、それって芸術なの?」

 

「卓球は芸術だ! そもそも、あの見事な曲線美を描くピンポン玉の軌道、幻想的なラケットの動き、あれを芸術と呼ばずしてなんと」

 

「あー、はいはい。すごいわねー」

 

 天善は力説していたけど、蒼は軽く流していた。

 

「天善、非常に言いにくいが……その、卓球台をモチーフにしたアート作品は、既に別の島がやっているぞ」

 

「そ、そうなのか……皆、目の付け所は同じということだな」

 

 それを聞いて、天善はがっくりと肩を落とす。結局、既出の案ということで却下となってしまった。

 

 

「そうだ。こんなのはどうかな」

 

 次に口を開いたのは、鴎だった。

 

「全国で使われなくなったスーツケースを集めてね」

 

「集めて……どうするんだ?」

 

「……なんか、でっかいの作ろう」

 

 ……もうちょっと具体的にお願いしたい。

 

「……そうだ。巨大なひげ猫の像でも作る?」

 

 具体的だけど、ひげ猫とこの島のつながりがすごくわかりにくい気がする。つながりが無いわけじゃないんだけど。

 

「できることなら、おっきな海賊船とか作りたいんだけど」

 

「さすがにそれには、時間が無さすぎるな……」

 

 一応多数決が取られたけど、半数の票を集めることはできず、鴎の案も却下されてしまった。

 

「着目点は良いんだがな。廃材を利用したオブジェやアート作品というのは、他の島でも行われているポピュラーな手法だぞ」

 

 のみきは笑顔でそう言っていた。確かに発想は良かったけど、その先があやふやすぎた。

 

「……そういえば、ひとつだけ案があるわ」

 

 続いて挙手したのは、静久だった。静久が言うからには、思い当たるフシは一つしかない。

 

「巨大なおっぱいのオブジェはどうかしら。港に置かれて、陽の光を浴びながら、旅人を出迎えるのよ」

 

「静久、さすがにそれはちょっと。芸術作品と言われると微妙な気がするし……」

 

「まぁ、おっぱいは芸術よ!? パイリ君は何もわかってないわ。そもそも有史以前から、おっぱいというものは……」

 

 しまった。つい反論してしまったせいで、なんかスイッチ入っちゃったらしい。静久が熱く語りだした。

 

「裸婦をモデルにした作品は数あれど、やっぱり一番のおっぱいは……」

 

「わかった。わかったから」

 

 お願いだから、おっぱいおっぱい連呼しないでほしい。

 

 百歩譲って芸術だったとしても、おっぱいの形をしたオブジェがシンボルの島なんて嫌だ。

 

「その、水織先輩。一応多数決を取ろうと思うんだが、構わないだろうか」

 

 興奮気味に話す静久に対し、のみきは慎重に言葉を選んでいた。

 

 静久には悪いけど、さすがにおっぱいのオブジェに賛同するつもりはないので、俺は多数決の間、また想像を膨らませてみた。

 

 

「あ、鳥白島が見えて来たよ!」

 

「おお、あれが鳥白島名物のおっぱ」

 

 ……だめだだめだ。色々な意味でモザイクものだ。俺は頭の中に浮かんだ邪なイメージを必死に打ち消す。

 

「ねぇ羽依里、さっきからどうしたの?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

 鴎からすごく心配そうな顔をされた。俺は正常だぞ。

 

 そして多数決の結果も、静久と紬しか手を挙げなかったようで、予想通りに却下されていた。

 

 なんだろう。特定の分野に熱いメンバーばかりで、疲れてきた。

 

「なぁ、しろはは何か良い案がないか?」

 

「巨大なスイカバーの……ううん。なんでもない」

 

「え、何?」

 

 巨大なスイカバーの……なんなんだろう。続きが凄く気になる。

 

「お、教えてあげないよ!」

 

「気になるから教えて」

 

「駄目!」

 

 そこまで言われると、よけいに気になる。

 

「お願い、後でこっそり教えて」

 

「どすこい!」

 

「ぐはっ!?」

 

 どすこい言われてしまった。

 

「出た。しろはの生どすこい、久しぶりに聞いたわ」

 

 蒼、可哀想なものを見るような目で見ないで。俺は今、謎のダメージを受けてるんだから。

 

「と、ところで、蒼は良い案がないのか?」

 

「へっ? うーん、芸術ねー」

 

 蒼が大きな胸の前で腕を組んで、考え込んでいた。なんとなく、一番芸術とは縁遠そうな感じもするけど。

 

「ねぇ羽依里、なんか失礼なこと考えてない?」

 

「いや、気のせいだと思うぞ」

 

「そうねー。それじゃ、イナリのオブジェとかどう?」

 

「ポン?」

 

 名前を呼ばれたと思ったのか、いつの間にかベンチの下で寝ていたイナリが、ひょこりと顔を覗かせる。

 

 せっかくだし、俺はまた想像してみる。

 

 

「あ、鳥白島が見えて来たよ!」

 

「おお、あれが鳥白島名物、イナリの像!」

 

「夜になるとライトアップされて、目が光るらしいぞ」

 

「ええー、かっこいー!」

 

「しかも、時々鳴くらしい。その鳴き声を聞いた直後におまじないをすると、幸せになれるらしい」

 

 

「アオイキツネト、ミドリノタヌキ……」

 

「え、ちょっと。どうしたの羽依里」

 

 気がつくと、しろはが心配そうな表情を俺に向けていた。

 

「いやその、想像が膨らんで」

 

「……よくわからないけど、しっかり話を聞いていてね。今、審議中だから」

 

「え? ライトアップするの!?」

 

「……何の話?」

 

「いや、なんでもない……」

 

 意識を現実に戻してみると、蒼の出した案について、のみきを中心になにやら論議が交わされていた。

 

 数分間の話し合いの末、多数決が行われて、三つのうちの一つはイナリの像に決まった。

 

「これは専門の制作業者に依頼するとしよう。すまないがイナリ、後で数枚写真を撮らせてくれ」

 

「ポンポン!」

 

 意図を理解したのか、飛び跳ねるようにして全身で喜びを表現していた。イナリ、まさかのメジャーデビューだった。

 

 これでイナリが人気者になれば、写真集とか、ぬいぐるみが作られるかもしれない。それが思わぬ副収入になって、島の財政も潤うかも。

 

 

「さて、一つは決まったが、あと二つ考えなければならない。正直なところ、予算は一層厳しくなったが、何とかして案を出してほしい」

 

 

「あの、パリングルスを使った巨大なオブジェはどうでしょーか」

 

 紬がそう発言していた。けっこう芸術っぽいけど、可能なのかな。

 

「廃材利用の芸術作品として、注目されるかもしれないな」

 

「そですね! シゲンのユーコーカツヨーです!」

 

 思いの他、皆の反応が良かったせいか、紬は笑顔だった。

 

「問題は、そのパリングルスで何を作るかだが……」

 

「そうだ。チャーハンのオブジェとかどう?」

 

 ごめんしろは、意味が解らない。

 

「チャーハンの……いいかもしれないね」

 

「ああ、まさにこの島を象徴するものだ」

 

「チャーハン、その手があったか……!」

 

 ……あれ? なんだか皆、目から鱗が落ちたような反応なんだけど。

 

 困惑している俺や鴎、静久を尻目に、とんとん拍子で話が進み、パリングルスで巨大なチャーハンのオブジェを作ることが決まった。

 

「港に巨大なチャーハン……?」

 

 俺はまたまた想像してみる。

 

 

「あ、鳥白島が見えて来たよ!」

 

「おお、あれが鳥白島名物、チャーハンのオブジェ!」

 

「でもこの島って、そんなにチャーハンが有名なの?」

 

「ああ、この島では、一家にひとつはチャーハン用の中華鍋があるという噂だぞ」

 

「えー!?」

 

「チャーハン暗黒武闘会なるイベントも、秘密裏に行われているとかいないとか」

 

「うっそだー!」

 

 

「うーん。まさにチャーハンラプソディー」

 

「羽依里、遠い目をしてるけど大丈夫?」

 

「え? ああ、大丈夫だよ」

 

 その後はチャーハンのオブジェの作成方法について、細かい打ち合わせがされた。

 

 一方で、最後の一つはなかなか良い案が出ず、一度休憩をとることになった。

 

 

 

 

 代金は場所代含めてあるとのことで、適当にラムネを貰って、奥の座敷入口に腰掛けて飲む。

 

 目の前の棚には、色々な駄菓子に混ざって、かんしゃく玉やクモの糸、メンコなどの懐かしいおもちゃが見える。

 

「あれ」

 

 そんな中、少し奥まった場所に昆虫採集セットが置いてあった。

 

「懐かしいなこれ」

 

 俺はラムネを飲みながら少し腰を浮かして、昆虫採集セットを手に取ってみる。

 

 さすがに封がされてあって中は見れないけど、カブトムシやチョウのイラストが描いてあって、それに注射器が刺されている。今になって思うと、なかなかにシュールなパッケージだった。

 

「羽依里、何見てるのー?」

 

 そこに蒼がやってきた。ピンク色の棒ゼリーを食べている。

 

「これ。懐かしいよな」

 

「あ、昆虫採集セット? 羽依里も男の子だし、小さいときはよくやったんじゃないのー?」

 

 蒼は俺の隣に腰掛けて、懐かしそうに覗き込んでくる。

 

「いや、俺が子供の頃に住んでいた場所は、そこまで昆虫も居なかったし。この島だと、このキットもそれなりに売れそうだよな」

 

「そうなのよー。この島には色々な蝶がいるから、集める方も楽しいしねー」

 

 あれっ、まるでやったことあるような口ぶりなんだけど。でも、女の子が昆虫採集?

 

「あ、それよ!」

 

 その時、蒼が大きな声をあげる。

 

 そのまま跳ねるように立ち上がって、のみきたちの方へ走っていった。

 

 どうしたんだろう。昆虫採集キットで、何かいい案が思いついたんだろうか。

 

「……ほう。それはなかなか良い案だな。一度、多数決を取ってみよう」

 

 のみきがそう言っているのが聞こえたので、俺は素早く残りのラムネを飲みあげて、皆の元へと向かった。

 

 

 

 

「えっと蒼、何かいいアイデアでも出たのか?」

 

「うん。海岸の漂着物を使って、蝶の形をしたオブジェを作ろうって案なんだけど」

 

 なるほど、それなら廃材利用になるし、予算はほとんどかからないんじゃないかな。

 

「でも、なんで蝶?」

 

「七影蝶って言ってね。この島に伝わる都市伝説みたいなものがあるのよー」

 

「ああ、なるほど」

 

 その島特有の、謂れにまつわる創作物って、なかなかに良いかもしれない。ちょっとオカルトっぽいし。

 

「では、この案について、多数決をとろう」

 

 直後、のみきの音頭で多数決が取られる。過半数の賛成を獲得し、蝶のオブジェの制作が決まった。

 

「じゃあ、決まりねー」

 

 蒼は嬉しそうだった。自分の案が通ったんだし、その気持ちもわかる。

 

「作品の制作は灯台で行うことにしよう。工具の手配も私がやっておく」

 

 のみきが最後のまとめをしていた。確かに灯台ならパリングルスの空き容器も、漂着物もある。材料の調達には困らないだろう。

 

 そこまで話し合ったところで、その日は解散となった。俺は次の連休まで皆を手伝うことはできないけど、どんな作品が出来あがるんだろうか。次に島に来る時が楽しみだ。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 それから一か月後、ようやく連休が取れた俺は、再び鳥白島にやってきていた。

 

 前日、しろはに電話で聞いたところによると、各作品も完成間近ということで、俺は制作場所になっている灯台へと足を運ぶ。

 

 ちなみに、イナリのオブジェはすでに完成し、港の方に鎮座していた。

 

 一目見ておこうと思ったけど、今日のところはまだ目隠し布がかけられていた。どうやら、数日中に除幕式が行われるらしい。

 

 

「皆、制作の方はどんな感じ?」

 

 灯台に到着してみると、漂着物を使って巨大な蝶を作る班と、パリングルスを使って巨大なチャーハンを作る班に分かれて作業をしているみたいだった。

 

 どちらもほとんど完成と言っても良い状態まで仕上がっていた。

 

 俺は最初に、紬や鴎、天善としろはが作業をしているチャーハンの方に行ってみた。

 

 パリングルスを組んで作られたらしい巨大な皿の中に、ごはんに見立てられた黄色いパリングルスが盛りに盛られていた。

 

 その上部に赤や青、緑といったカラフルなパリングルスが散りばめられていた。これはたぶん、チャーハンの具を表現しているんだろう。

 

「これはなかなかにすごいな」

 

「だろう。全ての具は一ミリの狂いもなく同じ大きさに加工してある。これぞ、職人技だ」

 

 天善は巨大なチャーハンを見上げながら、満足そうだった。恐らく、材料のカットを担当したんだろう。

 

「なあ天善、お前ちょっと太ったんじゃないか?」

 

「空き容器確保のために、毎日パリングルスを食べ続けていたからな。だが、こんなもの苦じゃない」

 

 もしかしなくても、静久に頼まれたんだろうなぁ。天善のことだから、絶対に断らないだろうし。

 

「紬、そっちの具材のバランスが悪いよ。左のほう。緑が足りないから、赤を減らして、緑を足して」

 

「はい!」

 

 しろはは少し離れたところで、チャーハン全体のバランスを見ていた。さすが、チャーハンの鬼だった。

 

「実際に炒めるわけにはいかないから、色々大変だけどね」

 

「うーん、こっちはだいたいこんなものかなー」

 

 その時、下の方から声が聞こえた。

 

 気になって見てみると、鴎が台座の間から顔を出していた。

 

「鴎は何やってるんだ?」

 

「台座の最終調整をねー」

 

 よく見ると、チャーハンの台座は無数のスーツケースで作られていた。もしかして、このスーツケースは鴎が集めたんだろうか。

 

「ちなみにね、スーツケースの中には特別な香料をしみこませた布がたくさん入っていて、チャーハンみたいなにおいが浸み出るようにしてある!」

 

 さっきから漂ってる胡麻油のようなにおいの正体はそれだったのか。このオブジェ、まさかの香り付きだったなんて。

 

「鴎、台座が終わったらこっちに来て。細かい作業を頼みたいの」

 

「いいよー」

 

 しろは監督が鴎に指示を出していた。

 

 手伝えないだろうかと思って作業の様子を見ると、何やら布を縫い合わせていた。これは、俺は手を出せなさそうだ。

 

 こっちでは俺にできそうなことはないと判断して、蝶のオブジェの方に行ってみることにした。

 

 

 

 

 そこでは蒼、良一、静久の三人が作業をしていた。俺はその中で、一番近くにいた蒼に声をかけようと、近寄っていく。

 

「ガーラスにーひーよくのー♪」

 

 なんか歌ってた。ご機嫌みたいだ。

 

「よう、蒼」

 

「あ、来たのねー」

 

「もう大分完成したんじゃないか?」

 

「そうねー。もう少しってとこかしら」

 

 太めの針金で蝶の形を作り、そこを軸に様々な漂着物をくっ付けているみたいだ。

 

 主にビンやペットボトルの破片、半透明のビニール等が使われている。光の加減で色々な色に見えるし、風にそよいで、綺麗な音も聞こえる。

 

「これはすごいな」

 

「ふっふーん。良い感じでしょー?」

 

「だな、予想以上だ」

 

 正直、ここまで綺麗だとは思わなかった。

 

「おお、こっちも完成に近づいたようだな」

 

 そこに、のみきがやってきた。

 

「あれ、のみき、どうしたのー?」

 

「パンフレットや地元の新聞に載せるために、作品のタイトルが必要なんだそうだ」

 

「え、タイトルなんて、なんでもいいんじゃない?」

 

「そう言うわけにはいかないぞ。何か考えてくれ」

 

「そうねー。じゃあ『旅する蝶』」

 

「『旅する蝶』だな。了解した。そう伝えておこう」

 

「ちゃんと謂れも伝えといてよー?」

 

「ああ、わかっている」

 

 七影蝶だっけ。よくわからないけど、そう言う謂れが作品の写真と一緒に載っていれば、興味をそそられるかもしれない。

 

「ところでのみき、向こうの巨大チャーハンの作品名は?」

 

 俺は同じく最終段階に入っている巨大なチャーハンのオブジェを指し示しながら、のみきに聞いてみる。

 

「確か、『鳥白島の魂』だったな」

 

 確かに、色々な意味で島民の願いが込められている気がする。まさに、島の魂だった。

 

「じゃあ、港のイナリ像のタイトルは?」

 

「『イナリテイル』よー」

 

 のみきに聞いたんだけど、蒼がこっちを振り向くことなく、そう答えてくれた。

 

 うん。たくさんの夏を感じることができそうで、良いんじゃないかな。

 

 

 

 

「よし、完成ー!」

 

 その日の夕方、ついにチャーハンと蝶ののオブジェが完成した。

 

「こうやってみると、壮観ねー」

 

「うんうん、綺麗だねー」

 

 俺はほんの少ししか手伝えなかったけど、最初から最後まで携わった島の皆の感動はひとしおのようだった。

 

 でもその、西日を受けて七色に輝く蝶は良いとして、茜色に染まるチャーハンは、すごくシュールだった。

 

「この蝶も本当に綺麗ね」

 

「でしょー」

 

「最初はできるか不安だったけどよー、案外いい感じに仕上がったよな」

 

「そですね! これは美術館モノです!」

 

「……ねえ。そういえばこれ、どうやって港まで持って行くの?」

 

「「あ」」

 

 皆で労をねぎらっていると、しろはがぽそりと呟く。

 

 ……そうだった。制作環境を優先して灯台で作っていたけど、これは港に置く予定のオブジェだった。

 

「チャーハンのほうは、台座のスーツケースをうまく利用すれば運べそうじゃない?」

 

 いや鴎、できないことはなさそうだけど、もしバランスを崩して倒れたりしたら目も当てられないぞ。

 

 せっかく作ったチャーハンがパラパラ……いや、バラバラになってしまう。

 

「よし。後日、業者に頼んで運んでもらおう」

 

 のみきが無理矢理そうまとめていた。どうも、それが最適解のような気がした。

 

「じゃあ、今日の所はこれで解散だな」

 

「そうだな。皆、お疲れ様」

 

「うん。なんにしても、完成してよかったね」

 

 夕焼けに映える灯台に背を向け、俺たちは歩き出した。

 

 次に鳥白島に来る頃……恐らく夏休みになるだろうけど、その頃には港に三つのオブジェが並んで、俺を出迎えてくれることだろう。

 

 俺はその日を楽しみにしながら、帰路についたのだった。

 

 

 

 

鳥白島の日常②(芸術祭編)・完




鳥白島の日常②(芸術祭編)・あとがき



おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。

今回は、サマポケの聖地が瀬戸内の島々ということで、ちょうど今年行われている瀬戸内国際芸術祭に鳥白島が参加したらこんな感じなんだろうなーと想像して書いてみました。
公式ガイドブックを見た限り、本物の芸術祭も島ごとに工夫を凝らしたアート作品があり、魅力にあふれている感じなので、是非行ってみたいですね(*´ω`*)

さて、今回のSSは前回と違って、最後の方は寄合じゃなくなってましたけど、こういうのも有りかなーと思いました。
個人的にイナリの像と、ボディペイント集団はちょっと見てみたいです。ボディペイントは見たいだけで、近寄りたくはないですが(笑

今回も、最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました!
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