サマポケ短編小説集   作:トミー@サマポケ

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サマポケ短編SS(七夕編)

 

 

 

 

 

 

 蒼が眠ってしまってから、もうすぐ一年が経つ。

 

 それでも俺は、誕生日、クリスマス、バレンタイン……ありとあらゆるイベントを蒼と一緒にやってきた。

 

 そして、今日は七夕だ。

 

 俺は前日から島に滞在して、準備に余念がなかった。

 

 

 

「ほらよ羽依里。言われてた笹を用意しておいたぜ」

 

「悪いな、良一」

 

 お昼を過ぎた頃、良一が加藤家にやってきた。

 

 前日の夜、電話で頼んだにもかかわらず、良一は立派な笹を用意してくれていた。

 

 どうやら南の森に生えてるらしく、よく見ると良一の上半身は細かい切り傷だらけだった。もしかして、上半身裸で森に分け入ったんだろうか。

 

「持っていくのは診療所でいいんだろ? 運んどいてやるよ」

 

「ありがとう。俺が許可を取るから、入口にでも立てかけといてくれ」

 

 なんにしても、こういう時、良一は本当に頼りになる。

 

「そうだ。昼から俺たちも蒼のところにお邪魔していいか?」

 

「もちろん。きっと蒼も喜ぶと思う」

 

「それなら、のみきや天善たちにも声をかけてみるぜ」

 

「ああ。良一、色々と手間取らせて悪かったな」

 

「今更だぜ。じゃあ、また後でな」

 

 良一は軽く手を上げると、そのまま立ち去っていった。

 

「よし、俺は俺で準備をしないと」

 

 笹の件は良一に任せて、俺は七夕飾りの材料を買いに、駄菓子屋へと向かうことにした。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 駄菓子屋に入ると、蒼の双子の姉、藍が店番をしていた。

 

「……なんだ。誰かと思えば羽依里さんですか」

 

 藍は来客が俺とわかると、あからさまに声のトーンが下がった。

 

 長い間眠っていた藍は、一年近いリハビリの後に退院。眠り続けている蒼に代わって、駄菓子屋の看板娘を務めているんだけど……。

 

「なあ藍、最近店の売り上げ落ちてるって噂を聞いたんだけど」

 

「は? どこからそんな話が出てきたんですか?」

 

 俺の話に、藍は眉をしかめている。明らかに不機嫌になった。

 

「臨時とはいえ、私は蒼ちゃんが戻ってくるまで、真剣に看板娘を務めているつもりです。全くもって業腹ですね」

 

 そしてカウンターに頬杖をついて座る。たぶん皆、その臨時の看板娘が怖いんだと思うんだけど。

 

 あと藍、スカートなのに足組んで座らないで。色々危ないから。

 

「それで藍、通販代行してもらった品なんだけど、届いてる?」

 

「ああ、例のエロ本ですね。届いてますよ」

 

 ……ちょっと待って。そんなもの頼んだ覚えはないんだけど。

 

「全く、羽依里さんも蒼ちゃんとできなくて欲求不満なのはわかりますが、この手の本に手を出すのはどうかと思いますよ」

 

「いやいや、俺、そんなもの注文した覚えはないんだけど」

 

 俺の言葉を聞いて、藍は訝しげに注文主の欄を確認していた。

 

「……ああ、これは天善ちゃんの注文でした。この間、良一ちゃんも注文していたので、羽依里さんも同じ穴の狢かと思っていました」

 

 いやいや、俺は蒼一筋だから。

 

 それにしても、こういう風に通販代行を利用するから、島の男子の趣味趣向が全部藍にバレてしまうのか。恐ろしい。

 

「羽依里さんの注文はこっちでしたね。はい、どうぞ」

 

 藍から受け取った段ボールの中には、色とりどりの色紙や短冊、七夕飾りの作り方を記した本などが入っていた。

 

「良一ちゃんから話は聞いてますよ。この後、蒼ちゃんのところで飾りつけをするんでしょう?」

 

 良一から話を聞いてるんなら、余計な前振りしないで渡してくれたらいいのに……双子の姉妹でも、こうも違うものなのか。

 

「……羽依里さん、聞いてますか?」

 

「え? ごめん。なんだっけ」

 

「七夕の飾りつけです。私もバイトが終わったら診療所に行きますから、準備は進めておいてくださいね」

 

「ああ、うん。わかってるよ」

 

 その後、俺は藍に代金を支払って、段ボールを持って診療所へ向かった。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 先に良一に頼んでいた通り、診療所の入り口に笹が立てかけてあった。

 

「そういえば今日は七夕だね」

 

「はい。またご迷惑をおかけします」

 

 先生から許可をもらって、蒼の病室に笹と段ボールを運び込ませてもらう。

 

 なにか行事がある度に俺たちが押し掛けているせいか、今回も診療所の皆は笑って許してくれた。

 

 でも去年のクリスマス、サンタとトナカイの格好をした俺と良一が押し掛けた時は、さすがにその笑顔も引きつっていたけど。

 

 

「よう、蒼。また来たぞ」

 

 俺は荷物を運び入れながら、蒼にそう挨拶をする。もちろん、返事はない。

 

 清潔感溢れる白を基調とした部屋の中、これまた真っ白なベットの上で、病院着に身を包んだ蒼は眠り続けている。

 

 その原因は去年の夏、蒼の身体から七影蝶が抜け出てしまったことにある。

 

 そして、彼女の七影蝶は今も島のどこかを彷徨っているはずだ。

 

 以前聞いた話によると、空門の神域に生えている迷い橘の木……その枝に花が咲いている間だけ、灯篭で七影蝶を集めることができるらしい。

 

 つまり、また迷い橘が咲く時期が来れば、蒼を探しに行ける。

 

 最近は暑くなってきてはきているものの、まだ本格的な夏じゃない。

 

 頻繁に迷い橘の様子を確認してはいるけど、開花まではまだもう少しかかりそうだった。

 

 蒼の七影蝶を見つけることができる日まで、俺はできるだけ彼女のそばにいると決めた。それが彼氏としての務めだと思うから。

 

 

「蒼、今日は七夕だぞ。あとで皆も来てくれるってさ」

 

 そう言いながら、蒼の手を握る。部屋に冷房が効いているせいか、少し冷たい。

 

「よし、皆が来る前に、少しでも準備を進めておかないとな」

 

 俺はそう言って、段ボールの中から本や色紙を取り出す。

 

 一緒にハサミやのりも購入しているし、抜かりはない。

 

 俺は蒼が正面に見える位置に椅子を持ってきて、作業を開始する。

 

 

「えっと……投網を作るには、まず三角形に折ってから、互い違いにハサミを入れて……」

 

 俺は本にあるように、七夕飾りを作っていく。

 

「あ」

 

 最後の仕上げに紐をつけようとしたら、指が引っかかって破れてしまった。これはやり直しだ。

 

「うう、本だと簡単にできそうなのに……」

 

 思えば七夕飾りを作るのなんて、子供の頃以来かもしれない。すっかり作り方を忘れている。

 

 なんとか投網を完成させた後は、今度は人形に挑戦してみる。

 

「あれ、なんかバランスが悪い」

 

 本の通りに折ってるはずなのに、頭でっかちになってしまった。俺ってここまで不器用だったっけ。

 

「……まったく、見てられませんね」

 

 頭上から声がして顔を上げると、呆れ顔の藍が腰に両手を当てて立っていた。

 

「蒼ちゃん、お邪魔します。今日も可愛いですね」

 

 藍は俺がいるのも気にせず、一番に蒼に抱きついた。うん。まぁ、姉妹だから良いけど。

 

「それで、飾りつけの進み具合は……聞くまでもないようですね」

 

 俺の膝に置かれた歪な形の飾りを見て、藍はため息をついていた。

 

「余っているハサミと色紙を貸してください」

 

 藍は部屋の隅に置かれていた椅子を引っ張ってきて、俺の隣に座る。

 

「藍も手伝ってくれるのか」

 

「羽依里さんのためじゃないですよ。蒼ちゃんのためです」

 

 

 その後は二人で蒼の寝顔を眺めながら、七夕飾りを作る。

 

 定番の輪飾りに貝飾り、紙人形に吹き流し。藍が作る飾りは、どれも見事な出来栄えだった。悔しいけど、完敗だった。

 

「そういえば、この飾りって一つ一つに意味があるんだよな?」

 

「ええ、確かそのはずです」

 

「この人形は?」

 

「それはえーっと……」

 

「その神衣は、着る物に困らないようにという願いや、裁縫の上達、災いの身代わり等の意味が込められているらしいぞ」

 

 その時、入口から声がした。見ると、のみきが顔を覗かせていて、七夕飾りの説明をしてくれた。

 

「よう」

 

「何か手伝えることはあるか?」

 

 のみきに続いて、良一と天善も病室に入ってくる。急に賑やかになった。

 

「それじゃ、さっそく手分けして七夕飾りを作ってくれないか? 数が多いに越したことないし」

 

「ああ、了解した」

 

「まかせておけ」

 

 言うが早いか、三人は持参してきたらしいハサミや色紙を使って七夕飾りを作り始めた。これは俺もうかうかしてられない。蒼のためにも、立派な七夕飾りを作らないと。

 

「ポン!」

 

 再び本の方に視線を戻した時、足元で聴き慣れた鳴き声がした。この声はイナリだろう。

 

「おお、イナリ。お前も手伝いに来てくれたのか」

 

「ポンポン!」

 

 たぶん、のみきたちと一緒に入ってきたんだろう。今日ばかりは、診療所の人も黙認してくれたみたいだ。

 

「……あの」

 

 イナリのお腹を撫でてやっていると、今度は背後の窓から声がした。

 

「え?」

 

 思わず顔を上げて振り返ると、窓の外からしろはがこっちを見ていた。

 

「皆で何してるの?」

 

「しろは、実はさ……」

 

 俺は蒼のために、皆で七夕飾りを作っている旨を伝える。

 

「それ、私も手伝っていいかな」

 

 話を聞いたしろはは、すぐに協力を買って出てくれた。

 

「うん、お願いするよ。蒼も喜ぶと思うし」

 

「じゃあ、そっちに行くね」

 

 その後はしろはも合流して、皆で七夕飾りを作る。皆でやれば早いもので、あっという間に笹が豪華に飾り付けられていく。

 

 中には、どう見てもスイカバーにしか見えない飾りとか、ピンポン玉らしい飾りもあったけど、この際気にしないことにしよう。

 

 

 

 一通り飾り付けが終わった後、最後に皆で短冊に願い事を書く。

 

 

『蒼が早く目を覚ましますように』

 

 

 皆、文章に多少の違いはあれど、書かれた願いは同じだった。

 

「……あれ?」

 

 短冊も結び終わったところで、ふと気がついた。

 

「ところで、七夕って笹を飾りつける以外に、何かやることあったっけ?」

 

 クリスマスならケーキを食べて、プレゼント交換。節分なら豆まきとかあるけど……七夕って何かをするイメージがない。

 

「……そうだな。歌でも歌うか?」

 

「ええっ、私、歌とか苦手なんだけど」

 

 良一の提案に、しろははあからさまに嫌そうな顔をしていた。でも、本当に歌うぐらいしかないような気がする。

 

 結局、皆で七夕の歌を歌った後は、とりとめのない話をすることにした。

 

 学校での良一の武勇伝、藍が駄菓子屋で小耳にはさんだ噂話、しろはのじーさんが獲ってきた変わった魚の話など。

 

 皆、蒼にも聞かせるように、面白おかしく話してくれた。

 

 

 

 やがて陽が落ちてくると、一人、また一人と病室を後にする。

 

「それじゃあ、私も帰ります。羽依里さんも、あまり長居して蒼ちゃんに迷惑をかけないでくださいね」

 

「ああ、わかってるよ」

 

 それにしても、診療所に、じゃなくて、蒼ちゃんに、なんだな。

 

 最後の藍が帰り、気がつくと俺だけが残されていた。

 

 急に静かになった病室で、俺はベッドサイドに張り付くようにして、ずっと蒼の寝顔を見ていた。

 

 時々、その柔らかそうなほっぺをつついてみたり、頭を撫でてみたりする。

 

 くすぐったそうな反応もしているし、ほんと、すぐにでも起きてくれそうなんだけどな。

 

「蒼、もうすぐ起こしてやれるからな」

 

 迷い橘が咲けば、やっと蒼の七影蝶を探すことができる。

 

 蒼は目が覚めたら、一番最初になんて言ってくれるだろう。

 

 久しぶりに蒼の声が聞きたい。

 

 蒼の寝顔を見ながらそんなことを考えていると、急に眠気が襲ってきて……俺の意識は意図せず、まどろみの中へ沈んでしまった。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「……あれ」

 

 どうやら気を抜いた拍子に、眠ってしまったらしい。背後の窓から、優しい月明かりが差し込んでいた。

 

 消灯時間も過ぎてしまったようで、部屋の明かりも消されていて、辺りは静寂に包まれていた。

 

「しまった。まさか寝ちゃうなんて」

 

 そう口にしながら身体を起こして……俺は目を疑った。

 

「あ、蒼……?」

 

 さっきまで寝ていたはずの蒼が体を起こして、七夕飾りに手を伸ばしていた。

 

「……きれーね。これ」

 

 そう言って、にへらと笑う。

 

 ちょっとやつれちゃってるけど、ずっと見たかった蒼の笑顔だった。

 

「あ、ああ。皆が手伝ってくれたんだぞ」

 

 なんだろう、色々話したいことがあったはずなのに。いざ本人を目の前にすると、何を話せばいいのかわからなくなる。

 

「そっか。今日七夕なのね。せっかくだし、あたしも短冊書いていい?」

 

「も、もちろん」

 

 俺は出しっぱなしになっていたペンと、余っていた短冊を渡す。

 

 角度の関係で蒼が何を書いているのかはわからなかったけど、細い指でさらさらとペンを走らせていた。

 

「ところで蒼、お前、なんで起きてるんだ」

 

「んー?」

 

 ほぼ一年振りに会話をしているはずなのに、あたかも昨日今日別れたばっかりのような、不思議な空気だった。

 

「だって今日、七夕でしょ?」

 

「え?」

 

「普段は離れ離れになっている織姫と彦星が年に一度だけ会える日だし。こういう奇跡があっても、良いんじゃない?」

 

 ペンを俺に返し、蒼が微笑む。それがすごく儚いものに見えて、思わず抱きしめようと、俺は手を伸ばす。

 

 しかし、俺の伸ばした手が蒼に触れた瞬間、蒼の姿は無数の蝶となって、かき消えてしまう。

 

「……蒼!」

 

 思わず名前を叫んだその時、俺の意識は途切れてしまった。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「……あれ」

 

 気がつくと、朝日が差し込んでいた。

 

 鳥のさえずりも聞こえるし、どうやら七夕飾りを作った後、そのまま眠ってしまったらしい。

 

「……そうだ。蒼」

 

 俺は思い出したように声をかける。でも蒼は昨日までと同じように、すやすやと眠っていた。

 

 ……もしかして、夜のは夢だったのかな。

 

 夢ならせめて、抱きしめてキスくらいしてあげるべきだった。久しぶりに蒼と話ができたのに。

 

 俺はなんとも言えないやりきれなさを感じながら、一度立ちあがってから背伸びをする。妙な姿勢で寝てしまったせいか、パキポキといい音が鳴る。

 

 そのまま首を左に向けると、昨日皆で作った七夕飾りが目についた。

 

「そうだ。願いがちゃんと天に届くように、短冊は神社に持って行かなきゃいけないんだっけ」

 

 昨日、のみきがそう言っていたことを思い出し、俺は皆の短冊を取り外しにかかった。

 

「これが良一で、これがしろは……」

 

 順番に短冊を外していき……最後の一枚というところで、その手が止まる。

 

「……これって」

 

 

『待ってるから、早く起こしてよね』

 

 

 

 ……忘れるはずがない、蒼の字だった。

 

 ……ああ。やっぱり昨日の出来事は夢じゃなかったんだ。

 

 一夜限りの再会。蒼の言う通り、七夕だし、そんな奇跡があっても良いのかもしれない。

 

 俺は蒼の短冊を笹から優しく外して、他の短冊と一緒にポケットにしまう。

 

「……蒼。悪いけど、もう少し待っててくれよ」

 

 静かに眠る蒼にそう声をかけると、心なしか少しだけ微笑んでくれた気がした。

 

 もうすぐ、夏がやってくる。

 

 

 

 

サマポケ短編SS(七夕編)・完






~あとがき~
おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。
今回は七夕SSということで、蒼ルートが終わった翌年の七夕のお話を書いてみました。時期的にまだ迷い橘が咲いておらず、蒼の七影蝶を探しに行けないタイミングです。
書いていると何故か、鴎と甲板で再会するあのシーンが浮かんでしまいました。蒼の話のはずなのに!
最後に私自身、あまりシリアスシーンを書いたことがないので、中途半端になってしまっていたらすみません。最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!
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