「……よし、本日も異常なし」
二月を迎え、島の寒さは一段と増している。まだまだ春は遠そうだ。
そんな中でも、私は厚手のコートを着込んで鉄塔に登り、夜の見張りをしていた。
「……とは言え、この寒い時期に、まして夜に外で裸になる人間などいないな」
私は新作の水鉄砲……ハイドロスノーグラッセをしまい、背伸びをする。寒い中、常に水鉄砲を構えていたせいで肩は凝るし、指先もかじかんでくる。
その指先に一度だけ息を吹きかけた後、私は水鉄砲の代わりに双眼鏡を構える。駄菓子屋の通販代行で買った、夜間にも対応した特別な双眼鏡だ。
「……それにしても、あの二人は相変わらずだな」
その双眼鏡で見る先には、田舎道を歩く鷹原としろはがいた。どうやら食堂の営業を終えたしろはを、家まで送っているらしい。
しっかりと手を繋いで、いかにもらぶらぶな感じだ。
「しろはがあんな表情をするようになるなんて、予想もできなかったな……」
……鷹原は去年の夏、この鳥白島にやって来た。
島の外からやってきた同世代の男の子ということで、私も気にならなかったと言えば嘘になる。しかし、少年団の団長としての立場もあるし、夏が終われば本土に帰ってしまう彼に、必要以上に親しくするわけにもいかなかった。
そして気づけば鷹原はしろはと恋仲になり、頻繁に島を訪れるようになっていた。
去年の暮れには、鷹原の両親へのあいさつも済ませたとかいう噂も聞いた。まだ学生の身でありながらその、展開が早すぎやしないか。
恋は盲目というが、しろはも案外積極的なんだな……今も笑顔で手なんて繋いで、その、はじゅかしくないんだろうか。
「……いやいや。私たちはむしろ、鷹原には感謝するべきなのかもしれない。本来なら、しろはの笑顔を取り戻すのは私たちの役目だったはず……」
「ちーっす」
「ひゃあぁーー!?」
その時、急に背後から声をかけられて、普段では決して出さないような声が出てしまった。
「な、なんだ良一か……」
振り返ってみると、皮のジャケットを着こんだ良一がいた。いつの間に鉄塔を登ってきたんだろう。
「……さっきから、一人で何をぶつぶつ言ってんだ? それに、覗きは感心しないぞ?」
「え? ああ、これは違うんだ……ところでお前こそ、この寒い中、何の用だ?」
慌てて双眼鏡をしまいながら、そう誤魔化す。
「のみきに、こいつを持ってきた」
良一はそう言いながら、笑顔で私に缶に入ったおしるこを差し出してくれた。受け取ってみると、持てない程ではないが、なかなかに熱い。
「この寒い中の見張り、ごくろーさん」
「あ、ああ……ありがとう。ところで、このおしるこはどこで手に入れたんだ?」
「島には売ってねーんだから、通販代行に決まってんだろ。せっかく湯煎で温めたんだし、冷める前に早く飲んでくれ」
良一はそう言いながら、私の隣にやってきた。なかなかの狭さだが、おしるこを貰った手前、無理に追い返すわけにもいかない。
「ありがとう。それじゃ、いただくことにするよ」
プルタブを開けて、一口飲む。うん。甘くておいしい。
「……ちなみにそのおしるこは、誕生日プレゼントでもある。のみき、誕生日おめでとう」
「……ぶっ!?」
危うく小豆が変な所に入りそうになった。耳元で何を呟いてくれるんだ。
「げ、げほごほ……い、いきなり何を言うんだ」
「あれ、誕生日、今日じゃなかったか?」
「いや、合っているが……」
「そうだよな。確か、俺の誕生日の一週間前だった記憶があるし」
良一はそう言ってうなずきながら、自分のおしるこを飲む。そうか。今日は私の誕生日か。すっかり忘れていたな。
親元を離れて島にやって来てからは、誕生日を祝われた記憶はあまりないが……まさか良一にお祝いされるとは思わなかった。
「……それにしても、あの二人はいい感じだよな。休みの度に会ってるみたいだしよ」
「何?」
いつの間にか良一が私の双眼鏡を覗き込んでいた。さっき驚いたタイミングで、床に落としてしまっていたらしい。
「こ、こら、返せ」
思わず、飛びつくように双眼鏡を奪い取る。こういう時、背が低いのは本当に不利だ。
「返すのはいいけどよ、先に覗いていたのみきに言われたくないぜ」
「いやその、私は違うぞ。しろはの様子が気になっていただけだ」
何がどう違うのか。やっていることは同じだった。
「……それにしても、取られちまったな。お似合いのカップルだとは思うけどよ」
そんな折、良一が愁いを帯びた顔をしながら、鷹原たちがいる方向を見ていた。
「……まさかお前、しろはに気があったのか?」
「言ってなかったか? 俺、しろはに惚れてたんだぜ」
「……は? お前のおしるこ、酒でも入っているのか」
……思わずそう切り返したが、なぜか胸の奥が苦しい感じがした。
「……ま、小学生の頃の話だけどな」
「な、なんだ……紛らわしいことを言うんじゃない」
良かった……って、私は何を安心しているんだ。
「し、しかし、異性と付き合うとあそこまで変わるものなのか。私にはわからないが、恋とは不思議なものだな」
私は変に気恥ずかしくなり、返してもらった双眼鏡で適当な場所を覗き見ながら、そうはぐらかす。
「……じゃあ、俺たちが付き合ってみないか」
「な、何!?」
隣から聞こえてきた言葉に、私は思わず双眼鏡を取り落としてしまいそうになった。
「鷹原と付き合い始めたしろはの心境が気になるんだろ? なら、俺たちが付き合ったら、のみきもその気持ちを理解できるんじゃないか?」
「わ、私が、お前と……?」
私はしどろもどろになりながら、良一の顔を見る。私の方をまっすぐ見る彼の表情は、普段となんら変わりはない。
「じょ、冗談だよな?」
「……いや、俺は本気だぜ」
……そ、そこは冗談と言ってくれ。本気で反応に困る。
「良一の気持ちは嬉しいが……へ、返事は少し待ってくれ。その、少し時間が欲しい」
「ああ、いつでも構わねーぜ」
良一はそう言うと、軽く手を振ってから、梯子を下りていってしまった。
「はふぅ……」
良一の姿が見えなくなった後、私は腰が抜けたように、へなへなとその場に座り込んでしまった。
……まさか、良一から告白をされるとは。
つい、返答を先延ばしにしてしまったが……良一のやつ、なんて誕生日プレゼントを用意してくれたんだ。
……これは、何と返事をしたものか。
私はすっかり冷めてしまったおしるこを持ったまま、いつまでも冬の澄み切った星空を見上げていた。
~あとがき~
おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。
2/2はのみきの誕生日ということで、誕生日SSを書いてみました。
個人的にのみきと良一のカップリングを推しているので、羽依里とではなく、こんな感じのSSになりました。
この続きとなるSSを、良一の誕生日である2/9にUPする予定ですので、お待ちください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!