第32話 画家と幼女
《sideヒトラー》
私の名は
私は、確かに死んだはずだった。
だが、まるで神が私にもう一度人生をやり直せと言わんばかりに、もう一度アドルフ・ヒトラーとしての生を受けた。
今回の人生で私は、まだ大ドイツ帝国が健在であった時代を探訪することとした。
私は、ドイツ産まれではないが、偉大なるゲルマン人である。故にドイツに行くこととした。
そして、若かりし日に中退した学校を卒業しきちんとした学歴をもってウィーン美術アカデミーに行き落選した。
やはりかつての時同様、この時代に風景画は売れないのだろう。面接官に進められた建築家としての道を歩んだ。しかし、画家の夢は捨てられずいつしか完全な風景の模写を会得したといわれた。
私には、まだまだ荒いと感じるがまあいい。
エヴァ・ブラウンとの再会。向こうは私の事を知らないようだが今の私は国家と婚姻している訳ではないから、彼女との正式な結婚をし、2児の父である。
そんな折、ある教会の修繕を目的とした大改装を行うという契約が入った。私の運命の出会いがここにあった。
その教会は、いかにも中世からそのまま改装されていない作り、非常に脆くも美しいその外見に少々見惚れた。
そこでふと東洋からきたあの男が話していた教会を思い出した。そういえばこの教会はあの男が言っていたものに非常によく似た特徴をしていると、そしてある幼女を手助けしてほしいと言われた。
私も生活は楽ではないからここから連れ帰るのは無理であろう。まあ、子供たちの遊び相手になってくれれば幸いである。
果たしてその子供はそこにいた。既に話から8年の月日が経っていたがそれでも特徴と一致する。
私はさりげなく怖がらせないようにその子に近付いた。
その後長い付き合いになるとは夢にも思わなかった。
《sideターニャ》
その日は、私がこの世界に来てからいくつかの驚きと恐怖を味わった中でもかなりのインパクトがあった日だった。
シスターたちの話によればその日教会の改装のために下見で建築家が来ると言っていた、その時に精神的に一番成長している私が接待をせよと言っていたのが印象深い。
だが、私から接待と言うものが頭から飛び出すほどに驚きがそこにはあった。
なんと目の前にはチョビヒゲを生やしいかにも鋭い眼光をしている。アドルフ・ヒトラーがいたのだ。しかも私が話を切り出す前に話しかけてきた。そして、私の事をある男から聞いたといっていた。
まさか、と思いその男の事を聞いてみた。シスターたちも知らないその男はかつて私がこの世界に来て間もない頃私を訪ねてきた男だった。
そして、あの男もこの男も転生者であったということだ。特に目の前のヒトラーは、本物出会ったことには驚きだ。そして、私の絵を描きたいといってきた。シスターたちに、了承をとっていたらしい。絵も私が知っているものよりも遥かにうまい。
ここで私は、内心ホッとしていた。何故なら存在Xに抗うもの達が私以外にいるのだこんなに嬉しいことはない。
最後にあの男の名前を聞いた。ケノービと名乗っていと。
それ、完全にスターウォーズだよと内心突っ込みをいれていた。
それからというもの私が軍に入ってからも年に数回私の絵を描いてくれた。もしも誰もが忘れてもこの絵だけはきっと残すと言って。
《side黒帯》
裏から手を回してヒトラーがあの子に接触するように仕組むのは至難の技であった。
何せヒトラーは、最高の建築家と呼ばれるほどの男だ。ガウディ並みの建築家だと今では欧州では持ちきりだ。そんな人物を古びた教会の修繕のために送るのはまあ、難しかったが不可能ではなかった。
これで、彼女に一人ではないというものを感じさせることが出来るだろう。それに、急がねばならない。
徐々にではあるが合衆国の方でシスの反応が現れている。消えたり増えたりしていることから内輪揉めをしている可能性が高い。これは間違いなく脅威である。最悪の場合は合衆国自体を解体せねばならない。
そうならないよう願いたいものだ。