どこかバグった神聖円卓領域キャメロット   作:ひらいず

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聖都の民

___

_____

 

 

 

 

「さて、どうしたものか…」

 

「とりあえず、別のルートを探さないといけませんね」

 

「思わぬ足止めを食らったものですね…」

 

「まあ、そう悲観するほどのことでもないよ。いざとなれば秘蔵の万能コテージもあるし、スフィンクスのおかげで、あの神殿の主の大凡の見当はついた」

 

「さっすがダ・ヴィンチちゃん!

……あれ?神殿の方から何かがこっちに向かってきてない…?

まさか、またスフィンクス!?」

 

神殿の方角からの影に、思わず身構える。

どうやらスフィンクスより影が小さいようだが、正体がわからない以上、警戒するに越したことはないだろう。

 

「よし、今すぐ逃げよう!なんとなく髑髏の面が見えた気もするけど、それはそれだ!」

 

「髑髏の面…?もしかして…」

 

髑髏の面と聞いて、ふと、頭の片隅に引っかかるものがあった。

もしや、サーヴァントだろうか?

 

「マスター!?何か気になることでも…!?」

 

「おや…?この数と魔力量…スフィンクスにしては…もしかして、人間?」

 

 

 

「___チ、先回りされたか!兵士を差し向けているとは、流石は太陽王よ!」

 

「あれは…」

 

「アルトリア、どうかした?」

 

「いえ、嫌なことを思い出しただけです…」

 

いつも凛々しいアルトリアが、とても苦々し気な顔をしている。

きっと、それだけの事があったのだろう。

 

「女王を捕まえておれば、怪物どもは手出しはせぬが、相手が人間であれば魔除けも効かぬ…。

時間がない、片付けよ!ただし一人は生かせ!貴重な情報源だ!」

 

よくよく耳を凝らして聞いてみれば、なんて事ない女性の声だ。

それにどことなく、聞き覚えがある。

 

 

 

「……目測ですが、敵影10。みな人間です。迎撃しますか?リツカ。」

 

「うち一人は手足を縛られた女性を抱えているようです!先輩、指示を!」

 

その手足を縛られた女性が、「女王」というヤツなのだろう。

なんて良いタイミングで、来てくれたのだろう。右も左もわからない今回の特異点で、貴重な情報源を引き当てた!

 

「マシュ、アルトリア!迎撃して!峰打ちでね!」

 

「はい!お任せください、マスター!」

 

「了解しました。迎撃します」

 

言うが早いか、アルトリアは難なく一人、また一人と制圧する。

その動きは、獣のように俊敏だが、その瞳に殺気はない。

マシュも負けじと、その巨大な盾を自在に操り、敵を打ち倒す。

 

 

「つぁ!?私の仮面が…!」

 

そして、ついに最後の一人の仮面を弾き飛ばした。

仮面の下には___

 

 

「___ ハサンじゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだその反応は!気安く私たちの名を呼ぶな、バカモノ!」

 

「申し訳ありませぬ、百貌様!こやつらまっとうな兵士ではありませぬ!

あの娘らの鎧の紋様、おそらくは聖都の___ 」

 

「貴様たちは下がっていろ! 敵はサーヴァントだ、貴様らでは容易く殺され……ては、いないな。……峰打ち、というヤツか。

……余裕のつもりか? 嘲りか?我ら山の民など殺すに値しないと?貴様らは、常に優位に立ち、我らを見下した態度でいる。……精々余裕ぶっていろ…必ずその喉元を掻っ切ってやる…ッ!」

 

峰打ちを嘲笑と捉えたのか、ハサンから殺気が上がる。

しかし、それよりも……

 

「聖都…?山の民…?なにかの略称…?」

 

この土地に関係する言葉だろうか?

中々話が見えてこない…。

 

「いや……いいや、それならそれでよい。命さえあれば、我らの勝ちよ。

幸い、今回の目的である女王の奪取は終えている。この女さえ手に入ればスフィンクス共なぞ___ 」

 

「それが……百貌様。戦いの隙に、あの珍妙な格好の手品師に…その…」

 

「はぁい♪ 珍妙な格好の手品師じゃない、天才だってば。抜け目ない、ね」

 

いつ間にやら、ダ・ヴィンチちゃんが、縛られた女性を抱えていた。

ホントに抜け目ない…。

 

「…! 貴様ら、何者だ! オジマンディアスの手の者か!?」

 

「オジマン……誰です?」

 

またも新しい単語が出てきた。

しかし、今度は人名だ。先程までとは違い、わかりやすい。

 

「誰と言われてもな……貴様、ただの阿呆か…?」

 

「百貌様!スフィンクス共が戻ってきます!メジェドとか言う生き物も!」

 

「ええい!メジェドと目を合わせないようにしつつ撤退だ!奪取した食料は落とすなよ!

そして盾の娘、剣の娘…?あれ、男の格好?……まあいい!杖の女…あれ?女?……ええい! とにかく剣と杖のサーヴァント!そして子狼のような人間よ! 覚えていろ! この恨みは忘れぬぞ!」

 

「あ、待って!聞きたいことが山ほど___!」

 

「ふははは!待てと言われて待つハサンがいるか!さらばだ、ノロマども!砂嵐は、我らにとって風除け魔除けの加護ぞある!」

 

 

 

「……砂嵐が酷くなってきましたね。こうなってしまえば、追跡は不可能ですね…。」

 

「せっかく話の出来る人達と出会えたのですが…」

 

「話……出来たかなぁ…?」

 

「それは…はい。何を言っても逆効果な雰囲気でした…」

 

「…あっ!ダ・ヴィンチちゃん!縄解いてあげて!」

 

「はいはい、任せて。

……んー、眠らされているのかな? おーい、ぺしぺし。

キミ、起きたまえよー?」

 

ダ・ヴィンチちゃんは、なんとも手際よく縄と猿ぐつわを外し、頬を軽く叩いている。

 

「ん、いけません…ファラオ、そのように私の髪を引っ張られては…それは、耳のように見えるかもしれませんが、ホルスを表す魔術触媒…決して寝癖では………は!?」

 

「あ、起きた」

 

 

「__________。」

 

 

「(あっ、マズイかな、これは)」

 

「(はい、固まってらっしゃいますね。)」

 

「(無理もありません、いきなり連れ去られて、いきなり助け出されているわけですから…)」

 

皆が、刺激しないように小声で会話する。

が_____ 、

 

 

 

「____おのれ無礼者たち、何者です!

私をファラオ、ニトクリスと知っての狼藉ですか!」

 

 

「(ニトクリス!彼女は、古代エジプトの魔術女王です、マスター!)」

 

「(威厳は台無しだが、紀元前二千年前の神秘を備えた強力な英霊だ、確実に現代の魔術師とは一線を画しているはずだ!)」

 

「(お気の毒に…これで、威厳が保てていれば完璧だったでしょうに…)」

 

「(やめたげてよぉ!状況が状況なんだからしょうがないよ!)」

 

 

「…おのれ、こそこそと小声で話して!私を笑いものにするのですかッ!」

 

ギクッ!

べ、別に笑いものにはしてないよ!

 

「いえ、笑いものにしたのですね!薬で眠らせ、神殿の外まで連れ出し、あまつさえ寝顔を眺めて楽しむなど!」

 

いや、そこまではやってない!

無実の罪まで被せられてる!

 

「その蛮行、もはや温情はかけられません!

あなた達はまず、蛮勇を以て、この私の情けを得なければいけません!」

 

「ま、待ってよ!私たちはただ___、 」

 

「黙りなさい!

冥界の鏡よ、いでませぇい!この者どもに我が恥辱を万倍増しでかえしてください!」

 

「話を聞いてくれない!!

もう!総員、戦闘態勢!戦闘の間に、頭冷やしてもらうからね!」

 

「うーん、杖でこづいたのが悪かったかな。

ま、過ぎたことだし、あの女王は人の話聞かなそうだし!」

 

「全くですね。

なぜ、あそこまで頑なに話を聞こうとしないのでしょう」

 

 

「………………。」

 

なんとなく、アルトリアは同じタイプのような気がした。

したけど、咄嗟に言葉を飲み込んだ。敵が一人増えそうだし。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「寝起きで、半分の力も出せない私ですが、それでもここまで追い詰められるとは…」

 

「絶対嘘だ!途中から完全に本気だったでしょ!?」

 

「流石に、宝具を二回連続で展開された時は、肝が冷えたね…」

 

一回放った宝具を再装填するまでが早すぎる。

明らかに、本気だった。

冥界の鏡もまさか、ものの数秒で呼び出されると思っていなかったのか、困惑していた。

 

 

「…そ、そこまでで、丁度半分程度なのですよ!」

 

「……その割には、ファラオから預かったという神獣を惜しみなく使ってきましたね…。」

 

「…………。」

 

あ、目が泳ぎだした。

やはり、本当は使うつもりは無かったんじゃないだろうか。

 

「女王ニトクリス、私たちは本当に、暗殺者に捕まっていた貴女を助けだしただけなのです。」

 

マシュが意を決して、説得を試みてくれる。

 

 

 

「____破廉恥な。信じてもらえると思いますか?

そもそも確証がありません!

なぜ貴女たちは名前も知らない私をわざわざ助けたりしたのですか?

本当に偶然居合わせたと、どうして言い切れます!

この終末の地において、無償で人を助けるなどと、それこそあり得ない話です!」

 

「___立香ちゃん、これはもう彼女を倒すしかないかもだ。」

 

「………それは、ダメだよ。

もし信じて貰えなかったとしても、彼女はきっと、悪い人なんかじゃないから」

 

……?

ニトクリスの顔が曇った?

信じようとしてくれてる…のかな?

 

 

「……その鎧は、聖都の騎士たちのものです!信用できません!

いきますよ、スフィンクスたちよ!この者たちに偉大なりし、太陽王の裁きを!」

 

「ま、待ってニトクリ____、 」

 

雑念を振り払うように、ニトクリスがかぶりを振った。

あと一手!あと一手で信用してもらえそうなのに!

 

 

_____その時、それまでずっと黙っていたアルトリアが口を開いた。

 

 

 

「___この鎧が、聖都の騎士のものとは、どういうことでしょうか」

 

「言葉のままです!鎧だけでは、ありません!

その剣が、その鎧が、その格好そのものが、聖都の騎士と瓜二つではないですか!」

 

「つまり___、聖都という場所には、私に似た装備の騎士(・・・・・・・・・)がいるのですね」

 

「………なるほど、少し事情が見えてきたね。聖都とやらには、円卓の騎士が関係してるかもしれない」

 

「え、でも、最初の情報では、十字軍がどうのこうのって…」

 

「そこまでの情報は、揃ってない。けど、ニトクリスに加えて、ハサンたちも私たちを聖都の騎士と勘違いしていた。何があったまではわからないけど、事前の情報と状況が全く異なるのは、確かだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「____不敬者!私を放って、なにを盛り上がっているのですか!」

 

 

「……女王ニトクリス、少し質問があるのですが」

 

 

「この期に及んで、なにを聞くというのです!」

 

 

「私たちが、どのような立場ならば、貴女は納得してくれるのですか?」

 

 

「我がエジプト、ファラオ・オジマンディアスの臣民であれば、少しは納得できるでしょう!」

 

 

「なら、もう一つ。先程、貴女を攫った者たちは、自らを山の民と名乗っていました。貴女は、聖都と山の民、どちらからも狙われているのですか?」

 

 

「え、う、いや……よく考えてみれば、聖都の騎士は、私のことを攫う必要は無いかもしれませんが…。」

 

 

「聞く限りでは、『聖都の騎士』と『山の民』、それから貴女たち『エジプトの民』は三つ巴のような関係にあるようですね。

ならば、我々を聖都の騎士と仮定して、我々が山の民と手を組んだというのなら辻褄が合うでしょう。」

 

 

「………それは……。」

 

 

「しかし、三つ巴のうち二つの勢力が手を組み、残りの一つがそれに気づかないなど、余程の無能でない限りは、あり得ません。」

 

 

「……………。」

 

 

「なぜ聖都の騎士は貴女を攫わないのか、それはわかりません。そもそも攫う気がないのかもしれませんからね。

余程高潔な、人質など絶対にとらないと言える人物が聖都の指揮を執っているのなら話は別です。選択肢のうちから消し、他の方法で攻めてくるでしょう。

しかし、戦の相手である以上は、敵の戦力をそぐことに力をいれるでしょう。敵の英霊を攫うことのできる好機など、逃すはずもない。

 

どちらにせよ、貴女の神殿内に侵入する術を持たなければ、選択肢に入れることすらできませんが。」

 

 

「………………。」

 

 

「山の民の集団の先頭にいた人物は、山の翁と呼ばれる非常に隠密に長けた人物でした。

山の翁に匹敵するほど、隠密に長けた人物が聖都にいなければ、貴女の神殿の警戒を掻い潜り、貴女を神殿の外に攫うことなどできないのではないでしょうか。」

 

 

「…………………。」

 

 

「さらに言えば、薬で眠らされたと貴女は言いましたが、聖都の薬は神秘を備えた英霊に対して、そこまで強力に作用するのでしょうか?

その点、山の翁たちは、暗殺者集団です。

睡眠薬の調合など、山の薬草の知識に長け、数多の英霊の入り混じる聖杯戦争でも使用してきた彼らからすれば、そこまで難しいことでもないでしょう。

どの点においても、山の翁たち率いる山の民に攫われた可能性が高いように感じます。」

 

 

「………………………。」

 

 

「ここまでの私の見解を踏まえて、もう一度お聞きします。私たちは、何処の何者に見えるのでしょうか」

 

 

「聖都の……騎士にみえます………」

 

 

「つまり、貴女を攫ったのは、私たちなのでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうやめてあげて!アルトリア!」

 

「そうです!これ以上ニトクリスさんを傷付けないでください!」

 

「流石の天才も擁護出来ないよ…」

 

思わず、三人ともニトクリスの擁護に回ってしまう。

それほどまでに、ニトクリスはしゅんとしてしまっている。

 

 

「むっ…!私は別に、彼女を傷付けようとしていたわけではありませんよ!」

 

「傷付けるためにやってたら、それはそれで問題だよ!」

 

「すいません、ニトクリスさん…。アルトリアさんも悪気があったわけでは…」

 

「………いいのです、私の短気が悪いのです…。

ごめんなさい、旅の方。助けてくれたこと、感謝しています…。」

 

「…と、ところで、この辺に水場って無いかな!私、喉乾いちゃった!」

 

なんとか話題を逸らすんだ、私…!

空気が、空気が重い…!

 

「水ですか…?

近場にオアシスがあったと思いますが、案内しましょうか?」

 

「わぁ!ありがと____ 」

 

「____私は、果物が食べたいですね」

 

「アルトリアさん!?」

 

アルトリア…?

いきなり何を言いだすのだ、このアホ毛は…?

しかし、それを見たダ・ヴィンチちゃんが悪い顔をし出した。

 

「___そうだ、そうだー!水浴びもしたいし、休憩もしたいぞー!」

 

「ダ・ヴィンチちゃんまで!?」

 

「(立香ちゃん、マシュ、いいから話を合わせて)」

 

ダ・ヴィンチちゃんが小声で、語りかけてくる。

………あ、なるほど!

 

「ご、ごめん。ニトクリス、私もお腹空いてきちゃった…」

 

「せ、せんぱい????」

 

マシュだけが、目を白黒させている。

ごめんね、後で説明するからね…。

 

 

 

「……た、確かに、誤解の上でいきなり言いがかりを付け、あまつさえ助けてくれた相手に向かって冥界の鏡まで持ち出すなど…いや、でも、しかし……うーん、うーん……」

 

 

ニトクリスは長い間、一人でうんうん唸っていたものの、最終的に、

 

 

「…………コホン。いいでしょう!特例として、貴女たちを私の客人として招待します!

もてなしを受けたいのならば、私を神殿まで、護衛しなさい!この砂漠で、最も栄えた理想の国、光輝の大複合神殿(ラムセイム・テンティリス)に立ち入る栄誉を与えます!」

 

 

まさに私たちの狙い通りの、返答を返してきてくれた。

 

 

 

 


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