ガ・ボー&ガ・ジャルグ誕生日記念SS置き場 作:ロゼ@ファンキル勢
キラープリンセス……それは、武器の名を冠する少女たちの総称。伝承に語られる武具から抽出された因子・キラーズを宿すことで超人的な力を得た戦姫たちの呼び名。
そんなキラープリンセスの中でも、ひときわ卑屈で儚げな少女がいる。彼女の名前はガ・ボー。英雄ディルムッドが振るった二槍一対の槍、その片割れたる黄槍の名を冠する姫だ。
ガ・ボーは己を不完全な存在だと考えていた。ガ・ジャルグがいなければ自分は十全に力を発揮できないのだ、と。
ディルムッドは赤槍を持たずに魔獣に挑んで死を迎えた。ゆえに赤槍――姉たるガ・ジャルグがいなければ、黄槍である己もまた半人前なのだと、そう思い込んでいた。
ゆえにガ・ボーはガ・ジャルグを求め続けた。未熟者と自嘲し、主を守ることなどできないと悲観しながら、迷子の子どものようにいずこかにいる姉を探し続けていた。
それが天上編における彼女の物語。己の未熟さを嘆きながら戦っていたガ・ボーはやがてマスターと出会い、自らを肯定してくれるマスターとともにさまざまな戦場を駆け抜け、自分の弱さを受け入れた上で前向きに歩むことができるようになった。
――だが、これは天上世界の物語ではない。世界を支える大樹・ユグドラシルが喪われ、本来の歴史とは決定的に分かたれてしまった世界線の物語。
地上の覇を競い争う三国の一角・トレイセーマ共和国に囚われ、幻獣の力をその身に刻む「獣刻」の所業により変質してしまった少女の物語だ。
◇
地底の深奥に座す「裁定者」の元へたどり着くため、総軍を動員したハルモニア教皇国、ケイオスリオン帝国、トレイセーマ共和国。地底を舞台とした三国による進軍レースは、ケイオスリオンが大きくリードしていた。
「裁定者」が座す深奥まであと一歩というところまで詰めたケイオスリオン。そのケイオスリオンに追いつき、逆転しようと攻勢を仕掛けるトレイセーマ。
大きく出遅れたハルモニアを尻目に帝国と共和国の両軍が激突し、何度目かわからない戦端が開かれていた。
ニ国の名もなき兵たちが屍を積み上げ、さまざまな斬ル姫が入り乱れる戦場――そんな光景を茫洋とした眼差しで見つめる、ひとりの少女の姿がある。
彼女の名前はガ・ボー。神話に登場する半人半鳥の幻獣を獣刻された斬ル姫であり、姉であるガ・ジャルグを求める少女だ。
「姉様……姉様、姉様、姉様……姉様は今どこに……どこにいるのですか……?」
穢れた翼を持つ卑しき者・ハーピーを獣刻されたことで、ガ・ボーの精神は歪んでしまった。卑屈さに拍車がかかり、獣じみた攻撃的衝動に支配され、他者を顧みることなく本能のおもむくままに姉を探し求める存在と化した。
トレイセーマの洗脳と教導の成果により、かろうじて待機命令が効いているが――ひとたび姉の存在を示唆されれば、手綱を引きちぎって弾丸の如く飛び出す。……たとえそれが、自らを死へと追いやる戦場だろうと。
そんな彼女に、トレイセーマの指揮官から声がかかった。
「――おい、識別系統L・一五」
その言葉に込められているのは、斬ル姫たちを人型の兵器と見なしているがゆえの酷薄な響き。
「ケイオスリオン軍の中に、」
少女を便利な道具として認識し、使い捨てても構わないと考えているがゆえの、無情な言葉が放たれた。
「貴様の姉を発見したそうだ」
「姉様がっ……!!」
弾かれたように顔を上げて槍を持つガ・ボー。もはやその瞳に茫洋とした色はない。爛々と目を輝かせ、狂気に満ちた表情で大地を蹴り、戦場へと飛翔する。
「姉様……姉様姉様姉様……ッ!!」
――それは方便だ。劣勢を打開する捨て駒としてガ・ボーを送り出すため、彼女の狂気を利用した一言。
その嘘に彼女は気づかない。気づけない。盲目的であるがゆえに躊躇なく敵軍の真っ只中へと単騎で突撃する。
「なっ、単騎で突っ込んで――ぐぎゃぁ!?」
驚愕するケイオスリオン軍の兵士に突き立てられた雷槍。ガ・ボーは倒れ伏した兵士の絶命を確認することなく即座に槍を引き抜き、周囲の兵士を薙ぎ払う。
それはまさに迅雷の奇襲。ハーピーの羽をはためかせ、雷鳴の如く疾走して驚き戸惑う兵士たちを切り裂いていく。
「姉様! 姉様はどこですか!? あなたは姉様ですか……ッ!?」
雷撃を帯びた槍が閃くたびに血飛沫が乱れ舞う。色褪せた翼を、くすんだ金色の髪を、儚げな柔肌を鮮血に染めながらガ・ボーは戦場に爪痕を刻んでいく。
だが、乱舞する狂気の斬撃に勢いがあったのは最初だけだった。
「チッ、トレイセーマはクレイジーな斬ル姫が多すぎる! お前ら、取り囲め! 動きを止めてから八つ裂きにしてやれッ!!」
態勢を立て直した指揮官の号令により、兵士たちが統率された動きでガ・ボーを包囲しつつあった。
そもハーピーを獣刻されたガ・ボーの持ち味は、対策が難しい空からの奇襲と高機動を生かした一撃離脱によるヒット・アンド・アウェイ戦術。一騎当千できるほどの力は彼女にはない。
「姉様ッ、どこですか!? ボーはここです、ここにいますッ!!」
加えて今のガ・ボーは姉の幻影を追い続け、ありもしない姉の姿を瞳に映している。自身が包囲されつつあることに気づくはずもない。
だから、その時が訪れるのは必然だった。
「……――ぇ?」
ガクン、と、少女の動きが止まる。ガ・ボーが視線を向けた先には、自らの腹部に突き立てられた敵兵の槍。
乱舞の間隙を縫って放たれた槍が深々と肉を抉っていた。
「今だッ、やれ!畳み掛けろ!!」
動きが止まった一瞬を指揮官は見逃さない。即座に号令をかけて一斉攻撃をけしかける。
「オラァ、死ねぇ! 死にやがれ、薄汚い斬ル姫がッ!」
「ヒャハハ、仲間の仇だ! おら、死ね! 死んじまえ!」
一度動きが止まってしまえばハーピーの少女は脆かった。本能に刻まれた戦いの経験が槍を突き動かすが、多勢に無勢。次々と刃が突き立てられて、肉を削がれ、臓腑を穿たれて己の血に染まっていく。
「ィギッ……ぐ、うぅ……姉様、ボーは、ここに……――ッ!?」
斧を叩きつけられた衝撃で吹き飛び、抵抗すらできずに背中から大地に叩きつけられる。
「カハッ――ボーは……ねえ、さま……ぇ、さま……」
虚ろな瞳で姉を求めるガ・ボー。うわ言のように「姉様」と繰り返す彼女を、ケイオスリオン兵たちは気持ち悪いものを見たかのような表情で見下ろす。
「相変わらず斬ル姫ってのは化け物じみた生命力だな」
「首を刎ねちまおうぜ。そうすりゃ流石に死ぬだろ」
兵士たちが何を言っているのか、ガ・ボーにはわからない。命の灯火が消えかけている今の彼女には、余分な機能に割く余裕などない。必死にかき集めた余力で、ただひたすらに姉のことを想う。
「……、……、………………」
だがそれも数秒のことだ。さしたる間もなく彼女の意識は遠のき、描いた姉の姿も薄れていく。
そうして、意識が断絶する直前に。
「――ダメよ。その子から離れなさい」
ボロボロになった少女は、凛とした美しい音色を聞いた気がした。
◇
“彼女”は、空から優雅に舞い降りた。
「もう一度だけ言うわ。その子から離れなさい」
燃えるような赤髪をなびかせ、荘厳な白の翼を広げ、虹色の輝きを身にまとった優美な斬ル姫。その姿にケイオスリオン兵たちは動揺する。
「新手の斬ル姫だと……!?」
驚き戸惑いながらも武器を構えようとする兵士たち。だが、彼らは一様に動くことができなかった。迂闊に動けば次の瞬間に自身の首が飛ぶと、本能が叫んでいたがゆえに。
「ごめんなさい……わたしのせいで、こんな酷い状態になるまで戦わせてしまって」
舞い降りた少女は、兵たちに向けていた威圧するような眼差しから一転、悲しみ湛えた表情を浮かべる。意識を失っているガ・ボーの傍に屈み、その頬をそっと撫でた。そして、懐から取り出した生命薬を傷口に振りまいて応急処置をする。
「話したいことも、話さなきゃいけないこともいろいろあるけど……今はゆっくり眠っていてちょうだい。後はわたしが何とかするから」
生命役の小瓶をそっと地面に置いて、赤と虹の色彩を持つ少女はケイオスリオン兵たちを睥睨する。
「さて、妹がずいぶん世話になったみたいね。――わたしは識別系統L・〇三。魔を貫き祓う魔槍ガ・ジャルグ。虹の女神イーリスを獣刻されし者」
ふわりと翼を翻し、名乗りは優雅に。その槍先に必滅の意志を携えて、高らかに少女は宣言する。
「――あなたたちに、完全なる力というものを見せてあげる」
ストーリーを読んで居ても立ってもいられなくて書いた。展開はわりとそのままだけど、姉様成分マシマシ。この流れから次の話に続く予定。
……しかし、SS書くの数年ぶりだけど、だいぶ書くのが下手になってるなぁ。つらみ。