三ノ輪白銀は異質な勇者である   作:璃空埜

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どうも!ここ最近は何だか筆(?)の調子がすこぶるいい、璃空埜です!

お待たせしました、ゆゆゆ最新話!そして……





このお話から……クロスオーバー化、させます!!






何とクロスオーバーしたのか?……それは本編で分かりますのでお楽しみに!
それでは……どうぞ!


第拾話(前) それは護るべき約束と

ーーーーーーーーーー郡 千景の章

 

白銀くんの部屋の窓際…………そこで私はいつか見た澄んだ蒼色をした…………かつて、私達が勇者として戦っていた時代にリーダーを勤めていた乃木 若葉の精神を受け継いでいるだろう鳥と対面していた。

 

「…………ここは、久しぶり……って言うべきかしら?それとも、あの時はごめんなさい……と言うべきかしら?」

 

私の問いかけに『そんな言葉はいらない』とでも言うように静かに首を振る鳥……。

やはりこの鳥は乃木さんの心を持っている。姿形は変わっていてもよく見ていた仕草のようなものがあるわ……鳥だから分かりにくいけど。

 

『…………』

「…………?」

 

そうしていると窓際に留まっていた鳥乃木さん(変な呼び方になるけど……仕方ないわよね)は白銀くんの机の上に放り出されていたノートの端くれをつつき始めた。最初は何してるのか分からなかったけど……すぐにノートを開いてほしいってことに気づいて机にあった短めの鉛筆を彼女(?)の前に置きつつノートを開いてあげると、すぐさま鉛筆を器用に嘴で咥えてそこに時間をかけながらよれよれの文字で

 

『きみは こおりちかげなのか』

 

と書いてからこちらを見上げてきた。それに頷くと再び時間をかけながらよろよろとかつて書いていたしっかりとしたものではないヘロヘロな文字でかつての口調の言葉を綴っていく。

 

『てにもっている おおはかりからして ほんもののようだな』

「……そんなに簡単に信じていいのかしら」

『じつは せんとうをみていた  あのたたかいかたは わたしのしる ちかげのたたかいかただからな  うたがいようがない』

「そう……」

『して どうしてちかげもてんせいしたんだ』

「……わからない、っていうのが現状よ。できる範囲で探しては見たけれど、ここには高嶋さんも、土居さんも、伊予島さんもいない……でも、あなたと私は確かにここにいる」

 

多分……乃木さんは現在の勇者である友奈さんや乃木さ……乃木ちゃ…………園子さん達を見守るためにいるのだろう。でも……

 

《かつて精霊“七人御先”をその身に宿した勇者様の末裔……奇しくもその勇者様と同じ名を持つ郡千景様?》

 

……私が“過去の私”の記憶を持ってるかどうかを把握しているのかはわからない。だけど…………私はもしかしたら………………。

 

『それと ちかげ』

 

少し考えに耽っていたがコンコンという小さな音がした方を向くと鳥乃木さんが再びノートに何かを書き始めていて……

 

『ちかげと よくいるあのおとこは なにものだ』

「……白銀くんのこと?」

 

それはやはりというか、彼についての質問だった。

 

『せつか というのか  みたところ ゆうしゃのちからを もっているみたいだが』

「…………そうね。私達の時代でも男の……それもシステムではなく自身の体に力を受け継いでいる人はいなかった」

 

…………私が何でこの時代に再び生を受けた理由は分からない。でも、私じゃなくて彼のことなら自信を持って言える事はある。

 

 

「…………でも、彼は確実に私たちと同じ勇者……さしずめ、異質な勇者なのは、確かよ」

 

 

**************

 

ーーーーーーーーーー三ノ輪 白銀の章

 

夜の公園ってのは場所によっては街灯が良い具合に配置されている故か、怖くも幻想的な雰囲気を醸し出す…………

 

「…………まさか1日で2度も来ることになろうとわ」

「でも…………ここに東郷さんが?」

「いる……というか来る可能性が高いってだけだからな?当てにはすんなよ」

 

現在、俺は行方不明の東郷の嬢ちゃんが姿を現すであろう場所……そんな場所の1つである、昼間にも訪れた大橋公園に今度は結城の嬢ちゃんと共に訪れている。因みに2人とも既に勇者へと変身を済ませてあるんだが……

 

「…………これなら結城の嬢ちゃんの方が真っ先に狙われそうだな……」

「えぇ!?で、でもそれなら白銀さんだって……」

「俺も確かに赤いが普通のよりも少し暗めな色合いだがな……お前のまっピンクよりかはマシだろうよ」

 

そう話ながら一度勇者の姿から元の服装……暗闇に溶け込む漆黒の服に戻る。

こう比べると更に結城の嬢ちゃんのまっピンク……正確にゃ桜色とか言うんだろうが……そんな色の勇者服が際立つな。…………それと前、千景とメブを迎えにいったときも黒一色だったが……俺はホントに私服は基本真っ黒々なんだ。銀からは『え~……』とか『もったいない……』とかしか言われたことしかねぇけど。

 

「それに俺なら戦闘以外ならこっちの方が目につかねぇからな。少しの間、このままでいさせてもらうぜ」

「ず、ずる~い!!」

「ズルくも何もねぇよ。相手の特性を理解できるのならその抜け穴を探して対応するのは至極当然のことだろ。とにかく……行くぞ」

「あ、うん……」

 

そうして、俺を先頭にして公園内に足を踏み入れた途端……

 

 

ーーーーー突如として体を突き刺すような寒さが襲いかかかった。

 

 

「!……どうにもしょっぱなからビンゴ…………か?」

「さっささ寒い……」

 

気候……いや、これは一定の範囲内……今回で言うと恐らくこの公園すべての気温を下げてやがるのか?ただ下げるのか、調整が可能なのかはわからねぇが。……そんで、もひとつわからねぇのが目的だ。普通、狙われる身である現勇者二名がほんの少し前に戦闘をした場所に戻ってくると考えるか…………?こっちは確かに相手さんを待つつもりで来てはいたが………………相手さんもそうとは考えられねぇ。とするならば目的は……?

 

「結城、こうやって気温を下げてきたであろうシャドウバーテックスは俺も始めてだ。相手がどう攻撃してくるのかわからない以上、慎重に行くぞ」

「うっうん……」

「おいおい……大丈夫か?」

「わわわ私はだだ大丈夫…………。せせせせせ白銀さんは…………?」

「俺?俺はまぁ、寒いなって程度だ。…………そんなに寒いのか?」

「ななななんというかね…………れれれれれれいれい冷凍庫の中にいるみたいだよ…………」

 

…………結城の凍え方がおかしいな。……………………まさか…………!

あまりにガタガタガタガタと寒さに震える結城に違和感を感じた俺は一瞬だけ再び勇者姿へと変身しすぐに解除してみる。すると…………その勇者姿へと変わった一瞬だけ確かに私服姿の時よりもかなり寒く感じた。

 

「…………なるほど、な。結城、お前も一旦変身解け」

「わわわわわわかった………………あ、ホントだ!寒さが和らいだよ!…………でも、どうして?」

「今、少し試してみたがこの気温低下はただ気温が下がっただけじゃねぇらしい。…………そもそも、俺達勇者はそれぞれ何かしらの花をモチーフとしているからな……そこから花の咲かない時期、冬、寒さっつう風に繋げた結果として今回の敵が生み出されたんだろう」

 

しかし……参ったな、これじゃ変身したとて上手く立ち回れない。特にここに来るまでに聞いた東郷の力の特徴からして上手く立ち回れないとなると完全に格好の的なだけだ。

 

「…………さて、どうしたもんかね………………」

 

それに加えて運の悪いことに、俺も結城も近接メイン……特に結城に至ってはバッリバリの超近接ときたもんだ…………。その上、戦闘のフィールドを整えるために今までのように獣じみた相手だけではなく、しっかりとしたブレーンが確立している可能性も十分にありうる現状。…………打開策とするならば……

 

「…………結城、よく聞いてくれーーーーーーーーーー

 

 

 

     ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーーーーーーーーーーっつう風に行こうと思う」

「でも……それじゃ白銀さんが…………」

「アホ。俺にはお前らとは違って異能力がある以上、俺の方がいい。それに前みたいに負荷が大きい訳じゃないから結構扱いやすくなってるから大丈夫だ」

「…………」

「…………安心しろとは言いにくいが……流石にこの前みたいにはならねぇよ。そこら辺の見極めはしっかりして危ないと感じたら距離をとるさ」

 

…………俺の予測が当たっていればの話ではあるがな。だが、これだけの能力を扱っている以上、何かしらの制約があるはず……そこを上手く突ければいいが……どうなっかはそれこそ神のみぞ知るところってね。…………そういえば、この諺嫌われてるんだっけか……知ったこっちゃねぇけど。

 

「ともかく、まずはこの寒気を繰り出してるやつを探して倒すぞ。そうでもしねぇとこっちが戦う前に潰されちまうからな…………。ただ、分かってるとは思うが今の俺達は襲われた……いや……今回の場合は敵に見つかったら時点で確実にアウト、頭をぶち抜かれて即死のジ・エンドだ」

「……だね。でも、隠れて行動してもキツイんじゃないかな?東郷さんがいつも通りならその辺りに対策してくるだろうし……」

「……相手に東郷もいると仮定している以上、そこら辺も重々承知だが…………東郷って秀才か?」

「うん。とっても頭いいし、教え方も上手だよ!」

 

…………わっはぁ~……んな奴に相手におつむが普通の俺が戦略勝負で勝てるかね?…………いや、現状なら勝てるか~…………な?…………どちらにせよ、勝たなきゃならんわけだが。

 

「………………」

 

しかし…………悲しいもんだな。アイツの同級生で、アイツと一緒に戦って、アイツのすぐ隣にいられて、アイツの志を継いでるであろう奴が………………

 

「ッチ…………」

「白銀さん?」

「…………っと……ちょっと、思うとこがあっただけだ。気にすんな」

 

……………………ホント………………

 

 

 

「…………………………頭に来る」

 

 

 

**************

 

それから、流石に開けっ広げなメイン通りを闊歩するわけにもいかず、木々の間をすり抜けるようにして慎重に、慎重に、歩を進めていた俺達は必然的に夕方に千景と共にシャドウバーテックスと戦った場所を通りかかる……と

 

「…………?」

「!何かあったの白銀さん!」

「いや…………さっきの戦闘で吹っ飛んだ場所が元通りになってると思ってな……」

 

そこにあったはずの爆心地のような窪みが跡形もなく消えていたのだ。

あの大きさの窪みを直すとなればこんな短時間じゃ到底無理……それならば…………神樹の力か?

 

「それならきっと神樹様の力だよ。四国以外の土地にまた人が住めるようにしてくれたのも神樹様の力だったし……あ!ちょっと待って!?神樹様が戻ったってことはまた……」

「そりゃねぇだろ。だったら乃木ももっとあわてふためいてるだろうが」

「…………流石にそうだと願いたいけど……」

「乃木ェ…………」

 

いつもアイツはどんな感じなんだと頭を抱えた俺の横を結城が少し苦笑いしつつ無防備に通り抜けた……ーーーーーーーーーー

 

 

ーーーーーーーーーー瞬間、視界の端にキラリと一瞬何かが輝いた!!

 

 

 

「っ!?結城!!」

「へみきゅ!?」

 

咄嗟にその背中に蹴りを入れて弾き飛ばしたのとほとんど同じタイミングで、俺と結城の間を何かがシュンという音と共にすり抜けたと思うとその先の地面が大きく弾ける。結城の方はそのまま密林に頭から転がるように突っ込んでいき、俺は水に濡れるのにお構い無く小池に踏み込み、その先にある石垣の端に身を潜めた。

 

「いたた…………」

「ったく……無防備すぎだろ…!!」

「だからって本気で蹴ることはないと思うよ~……」

「そうでもしなきゃ体のどこかしこ撃ち抜かれ…………!?」

 

そう結城に向かって小さく叫んでいると突然、両足を中心に激痛が走ると共に体の自由が効かなくなり、更に急激に体が凍えてしまう。

 

「クソッ…………」

 

悪態をつきながら動かなくなった体を何とかして動かしていくと体からパラパラと薄氷が落ちていき、両足以外ならば何とかまともに動かせるようにはなったが……両足に至ってはアキレス腱辺りからガッチガチに池ごと凍りつかされていて、びくともせず……無理に引き抜こうならば確実に足を失うであろう状態に……

 

「白銀さんっ!!」

「結城っ!さっきの射撃、多分だが東郷だろ!!」

「た、多分そうだけど……!!」

「ならさっさと行きやがれ!!シャドウバーテックスはこっちが引き受ける!!」

「で、でも……!!」

「良くも悪くも一応こっちの作戦の筋書きにのってんだよ!!!俺なら大丈夫だからさっさと行って親友助けてこいっつーのッッ!!!!」

「っ…………絶対無理しちゃダメだよ!!」

 

こっちの剣幕に少し怯えながらも、草木を掻き分けつつ撃たれた方向……恐らくは神樹の社がある辺りに向かっていくのを見送った後、大きく息を吐きながら辺りを見回して凍らせた元凶を探してみるも、辺りにそれらしき姿は見当たらない…………

 

「…………っ…」

 

…………さて、どうするか。こっちは行動不能、相手さんの姿は見えず、結城はさっきの射撃ポイントへ、射手の行動先は不明……。…………しかし、気になるのはさっきの一発だ。アレ……よくよく弾道をみて考えると本来なら俺や結城を狙ったものじゃなかった可能性があるんだよな……。…………恐らくアレは俺が立ち止まった場所の手前を撃ち抜いて敵に見られていることを把握させ、水が多い場所……俺が身を隠す盾とした石垣辺りへと身を潜まさせた後池を凍らせて行動できなくする…………そんなシナリオだろうな。しかし、結果的には無意識に先走った結城が俺を抜かしたことにより、彼女を狙った一撃になり、俺がそれに反応して蹴っ飛ばした事で彼女を捕らえることは失敗……ってところか?

………………それは一旦置いとくとして今はこの動けない現状をどうしようかね。変身してもいいが……まだ気温を操ってるやつの効果があるとここから物体交換で移動する間もなくカチカチに凍っちまう可能性がある以上、迂闊に変身できない。…………まてよ?さっき変身した時の寒さでも、この小池を凍らせれる程の冷え込みじゃなかったぞ?………………と、するなら…………

 

「………………賭けてみっか……っ!!」

 

ここでいきなり俺は勇者の姿へと変身し、そこから間髪いれずに巨斧を天高く投擲する。しかし、それと同時に両手両足の先から一気に体が氷塊に包まれ始め………

 

「っ!!」

 

全身を覆われる直前、天高く放り投げた巨斧と位置を入れ換え何とか脱出し、少し下の降りた草むらに着地するやいなやどこからともなく虚空に現れた氷槍がこちら向かって放たれる。俺は躱し切れないと判断してもうひとつの斧を取り出し高速回転させ、放たれた氷槍を全弾、何とか弾き飛ばしてやり過ごす。

 

「………く…」

 

氷槍を弾き飛ばしたためにできた白い霧のようなものを、巨斧を振るって掻き消すと……いつの間にか氷槍が放たれた虚空に小さな蒼色の球体が浮遊しており、こちらが攻撃する前に地面近くへゆっくりと降りてきたと思うと、ガキンという耳障りな音をたてつつ巨大な氷塊にその球体が包まれたかと思うと、すぐにガラスを壮大に割ったような音と共に氷塊が弾け飛び、そこから細身の人影のようなものが空中に飛び出して来ると同時にそこから俺に向かって氷弾を放ってきた。

 

「なろ…………!」

 

それを巨斧で弾きつつ再び池の方へ駆け出し、先程俺が立っていた辺りにできていた氷塊の中に閉じ込められていたもう一本の巨斧を、氷塊を蹴破りながらそのまま柄を蹴り弾き上げ、その勢いのまま俺は先程の石垣を蹴って反転し、弾き上げた斧を掴んでから先程の草原に再び着地する。顔をあげた俺の視線の先には痩せ細った人型をしつつも全身が淡い水色で明らかに小さく歪な頭部をした両足がほとんど刃のようになり、両手が握りつぶせるようなハサミをした背中に小さな蝶のような透明な羽を生やした新たなシャドウバーテックスの姿があった。

こいつが気温を下げていた張本人だろう。正確には気温を下げていたのではなく……冷気を産み出し、操っているってのが奴本来の力か。

 

「とにもかくにもさっさと倒して…………!!」

 

そう俺が呟いた瞬間、奴の左ハサミが開かれた状態でこちらへと向けられるのとほとんど同時にそこから真白なレーザーのようなものが放たれ、反射的に身を前方に倒し躱したが俺の右頬スレスレを通過して背後に着弾、そこから瞬く間に巨大な氷壁を作り出した。更に息つく間もなく今度は逆のハサミをこちらへ向けられレーザーが放たれるも、同時に前方に身を倒した不安定な姿勢から地面を抉りつつ左の斧を投擲し2射目のレーザーへと当てる。発生した凍える風をまとった衝撃波が辺りの雑草を白く凍らせ、激突した場所を中心に巨大な氷壁が作り出され、それから1拍置いて氷壁の左右から高速回転している円盤状の何かが片方3つ、両側合計6つ現れ僅かな時間差をつけてこちらに向かってくるも俺はそれが一定の距離に迫った所で時を止め、幾つかの円盤を足場にして氷壁を飛び越えて真白のシャドウバーテックスに向かって巨斧を振り上げたところで時止めを解除し……

 

「もら……いぃっ!!」

 

渾身の力込めて巨斧を振り下ろす…………が、それが奴の頭にあたる直前でガキィンと甲高い衝突音と共に奴がいつの間にか空間に産み出していた氷の剣に受け止められてしまう。

 

「!…………詠まれてたかっ……!!」

 

俺はそこから奴の剣を力点にして前宙して奴と背中合わせになるように降り立ち様、瞬く間もなく振り返りつつ巨斧を振るい背後から迫っていた奴の剣を受け止め鍔迫り合いに持ち込もうとするが受け止めた部分から一気に斧へ氷が走り始めたのを見、反射的にシャドウバーテックスの体を力一杯蹴り飛ばし、その反動を利用して俺は奴の距離をあけ……

 

「……っ!!」

 

隠し持っていた先程放たれた円盤を2つ投げつけるが、同じタイミングで相手も金切り音と共に空間が歪むほどの振動派を放ち、俺が放った円盤とその空間から距離をあけた俺の背後にあった林の木々を跡形もなく粉砕する。

 

「っうぇ……巻き込まれてたらどうなってたんだよ…………」

 

思わずそう愚痴りつつ、適当な位置までくるとそこから先程足場にすると同時にマーキングしておいた円盤が突き刺さっている場所…………俺が距離をあけた林とは真逆の氷壁の裏側にして、俺と奴が初対面した場所に戻ってきて大きく息を吐く。

 

「ふぃ……」

 

こいつ…………能力は氷結……いや、冷気を操るっつうところか。んで、多分だがアイツはあの三段変形虫人型のとは違う形で戦闘スタイルを変え、そこから能力の使い方が大きく変わってくる……っていった感じで、件の戦闘スタイルは最初の蒼色の球体状が支援型、さっきまでの人型が戦闘型……だな。

 

「…………そっして、その戦闘型は今まで戦ったシャドウバーテックスの中でも郡を抜いて強い、と」

 

現状で確認できているシャドウバーテックスの中で、だが。……あーあ、何度か相手取ってても基本的には前の形態の強化型だとか、同一個体ばかりで俺達が確認できている種別はすくねぇってのが痛いな。

 

「………………」

 

………………けど、それでもさっさと倒して結城に追い付かねぇと。こいつよりも東郷がどうなってるのか、そっちの方がいろんな意味ではるかに重要だ。何せ……

 

「…………約束、したもんな……」

 

もちろん、約束だからってだけじゃない。俺自身、東郷を助けたいと思ってるしそれを実行できる力も得ている。…………ま、俺の場合、力がなくたって何とかしようとは考えて動くだろうが。

 

「…………そのついでに説教もしねぇといけねぇしっと……」

 

俺がそうぼやきつつ、一旦斧をしまって足元の残りの氷の円盤を拾って懐にしまったタイミングで辺りの気温が一気に冷え込み始め、1拍置いてから俺がその場から前方に跳躍した瞬間に今まで俺が屈んでいた場所に3本の氷の槍が突き刺さる。

 

「っ!冷気を操ってこっちの場所を特定したか!!」

 

更に続けて放たれた3本の氷槍を取り出した巨斧の片方を勢いよく回転させ、全て弾き飛ばす。しかし、そのタイミングでどこからともなく現れた奇怪人型(今命名)が両鋏を大きく降るい、そこに作り出してあった氷刃を俺がよくやる巨斧の投擲さながらに高速回転させこちらへと放つ。それに対して俺は回転させて氷槍を弾いていた巨斧をその勢いのまま氷刃に向かって投擲した瞬間に時を止めると、空中で止まっている斧や氷刃を避けて一気に奴の懐へ潜り込み、人間の鳩尾にあたる部分に渾身の力を込めた左拳を叩き込み、そこから少し距離をとってから時を動かす。

 

《……!!》

 

その途端、両者が投擲した武器が増大な音をたてて衝突すると共に奇怪人型の腹がガラスを砕いたような甲高い音をあげて粉々に吹き飛が、その破片が地面に落ちるよりも早く砕け散った腹部は元通りに再生してしまう。

 

「……チィッ!」

 

……最初みたあの結晶体を砕かねぇとダメか。

俺がそう考え次の行動を起こそうと先程投擲した斧を手元に戻して構え直した時、奇怪人型が地面を強く蹴り上げて飛び上がったと思うと空中でその姿を変え始める。

 

「おいおい……!まだ他の型があったのかよ!?」

 

俺が驚愕している内に人型だった奴の体が異常な膨れ上がりを見せたと思うと、その姿は全ての面が鏡のように辺りを反射している正八面体へと変わったと思うと、あの蒼色の結晶体を中心に形を再び変化させ4本の槍の切っ先が一点に集められたゲームでよく見るような姿になり、その4本の槍の切っ先を高速回転させ始め……

 

 

ーーーーーーーー甲高い悲鳴のような音をさせつつ、いきなり真白な野太いビールをこちらへとぶっぱなしてきた!

 

 

「っ!?」

 

咄嗟に一瞬だけ時を止めてすぐさまそこから離れ、ある程度距離を開けたところで時を動かすも直後に着弾した時の衝撃波に耐えきれず弾き飛ばされ地面を何度も転がってしまう。そこから反動をつけて立ち上がり、両足を踏ん張ってなんとか飛ばされた勢いを殺して顔をあげると、ついさっきまで俺が直前までいた場所を始点として一直線に巨体な氷柱か乱立し、果ては大橋の一角も少し当たって凍ったのか白くなっているのが見えた。

 

「…………人1人に対して撃っていいもんじゃねぇだろ……」

 

喰らってたら原型が分からなくなるほどに凍らされてたな、こりゃ。おまけに、さっきの一撃で回りの空気も一気に冷えたのか辺りが白い霧に包まれてきたのに加えてこっちの体も奴の能力の余波か何かで動かしにくくなって来やがったし…………最悪じゃねぇか。

 

「…………へっ」

 

だが…………前の3体相手にしてる時よりかぁ楽だな。

そんなことを思い、うっすらと口角が上がるのを自覚しつつ動きにくい腕をなんとか動かし、体を捻りつつ両斧を真横に構えていると白い霧の向こうでいくつもの黒い影が俺を取り囲み始めた。恐らくは形態をさっきまでの奇怪人型へと戻り辺りに自身と似たような氷像を作ってるのだろうが……

 

「……関係ねぇな!!!」

 

巨斧の柄を力強く握り締めると、俺の叫び呼応したかのように先端の円形の窪み内に紅の花が現れると思うと直後にそこから紅蓮の炎が勢いよく立ち上るとともに先程の花と同じ色の花弁が一気に辺りに舞い始め……

 

「っっっらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

体の枷が外れた瞬間に雄叫びとともに全力で体を回転させると、空に向かって紅い花弁とともに豪炎の竜巻が生まれ、辺りの霧と影を強引にかき消していく。そして、回転の合間に見えた唯一溶けなかった影へ向けて最後の一閃を振るうと豪炎の竜巻はその形を保ったままそちらへ向かってゆっくりながらも進んでいく。

 

「…………さしずめ“豪炎灼巻(ごうえんしゃっかん)”……いや、よそう。ゲームとかみたいに技名なんてつけなくていいよな、叫ぶのにもなんか抵抗あるし」

 

そんなことを呟いてい内にある程度進んだ竜巻は虚空に霧散し、竜巻が進んだ場所は真っ黒に焼け焦げた後と煙が残るのみとなった。

 

「………………」

 

砕いたりするのは違って熱で溶かされたとなれば相手の回復も遅くなるとは思うが…………それでも、恐らくまだ奴には決定打を与えれてねぇはずだ。

そう思った瞬間、予想通り煙の中から前後左右から同時に4本の氷刃がこちらに向かって迫り、左後ろに飛んでそれを躱して着地様に背後に振り向きつつ右の巨斧を振るう。すると、案の定奇怪人が横凪ぎに振るってきた右鋏から伸ばした氷刃とぶつかり合い甲高い音が響き渡る。

 

《……!!》

「ッチッ!あれでも片腕だけかよ……つっ!?」

 

そこには左肩に該当する辺りが原型中をなくした奇怪人型がおり、そのまま鍔迫り合いに持ち込んだが突然左手に激痛が走り、素早く確認すると殴りつけた左手が完全に氷に包まれ、徐々に腕をはい登りつつあった。

 

「…………っく、さっき仕込まれたかっ…………!」

 

それに加えてこのまま時間がたつと左腕どころか体中を凍らされる可能性がある。しかも厄介なのが…………これ、どうにも表面だけじゃなく腕の中も凍らされているようで、このままだとヤバい状態。さっきの炎を出そうにも左腕は動かせないし逆腕はそんなことに構っている猶予はない。だが……

 

「簡単な話だ……俺が凍る前にお前を倒しゃぁいいんだろう?」

《…………》

「なら……そうすりゃいいだけだっ!!」

《!!》

 

凍った左腕で奴の頭を殴り付けた後、そのまま奴の体を足場としてバク宙しつつ一度斧をしまい懐に隠していた円盤を2つ投擲するも、それは刃をしまった奇怪人型の射撃によって簡単に撃ち落とされてしまう。

 

「そう簡単にはいかねぇよな……」

 

こっから突撃してもよかったんだが…………恐らく受け止められてこっちが凍り漬けにされるか、大きな痛手を貰うっつう直感が働いたんだよな。急がなきゃいけないが、この後のことも考えるとこれ以上ダメージを食らうのはあんまり宜しくねぇし、能力の使用も控えねぇと…………実際問題、さっきの炎を扱った後から僅かに頭痛がしはじめてる…………流石に1日にこうも連戦すると負荷がきついか。

 

「ッスゥーーーーーーッ…」

 

そう考えつつ軽く息を吐きながら、再び取り出した斧の峰で先程の打撃でひびが入った左手表面の氷を砕きある程度は使えるようにして構え直している間に、奇怪人型も左腕を元通りに修復させ背中の羽回りの虚空に自身の大きさほどの大剣を4つ作り、左右の鋏からはそれぞれ大きな刃とアニメで見るようなビーム砲の砲身の様なものを覗かせていた。

 

「……焼けば大体回復までに1分弱…けど、回復オンリーに回せばもっと早いか…………」

 

今後ことも考えると閉めて俺の能力は各1回使うだけに留めたいとこだが…………奴さん、どうにも全力で来るみたいだから……

 

「最悪、出し惜しみなしでの連戦も覚悟しねぇとな…………」

 

…………そう俺が呟いた瞬間だった。

 

 

ーーーーー…………ハハハハ!!ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 

俺たちが対峙している場所の奥の林から静寂を切り裂く叫び声が聞こえてきたのは。

 

「っ!!新手か!?」

 

そして、俺が声がした方向に注意を向けた瞬間、奇怪人型はその隙をついて突撃をしつつ左鋏の砲身をこちらへと向けてくる。しかし、それを半ば予測していた俺は一歩踏み込んで奴の懐へと入り込んで突き出された砲身を踏み込んだ際に地面に突き刺した右の斧で後方へ反らしてから、奴の後頭部に蹴りを入れそのまま吹き飛ばす。その直後……

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!死ね死ね死ね死ねぇっ!!!!」

 

茂みから俺に向かって一直線に飛び込んできた何者かが、その両手に持っていたばかでかい物を振り下ろして来た!

 

「ッチッ!!」

 

俺は蹴りぬいた勢いでそのまま回転しながら地面に突き刺していた斧を抜き放つと、左手の斧と交差させて振り下ろされた物を受け止めると、あまりのパワーに両足が地面へと少しめり込んでしまう。

 

「っく!?重っ…………いな!!」

「お?お??ハハハハッ!!受け止めやがったか!!!」

「て……め、何もんだ!!」

 

これ……大剣か!?にしては変な形だな……!!

相手の武器を考察している間もギチギチと鍔迫り合いしていると側面から俺達二人を狙ったビームが迫り、舌打ちしながら二人同時にそれぞれ後ろに飛び下がると俺達のいた空間を氷壁が包み込む。すると、飛び下がった先で今度は背後から二本の剣が高速回転しながらこちらへと向かってきたが左の斧を一度片付けた後、片手で飛んできた剣を何とか掴むと直ぐ様ビームが放たれた方向と襲ってきた奴が避けた方向に向かって投擲するのと同時に白い影がフェイントを入れつつ素早く俺の右背後へと回ってくる。

 

「もう…………てめぇのその手は詠んでんだよ!!」

 

叫びながら振り向き様右手の斧を振るうが…………手応えなく無情にも空を切り裂いてしまう。そして、その大きな隙を奇怪人型を逃すわけもなく……俺の頭目掛けて片方の鋏に生やした剣で貫こうと突き立てて来た。………………が

 

「言ったろうが…………その手は詠んでるってなっ!!」

 

そのタイミングで俺はビームが放たれた方向に投擲した氷剣と俺の位置を入れ換える。しかし、入れ替わった直後に氷壁の奥から漆黒の……暗くて上手く分からないが恐らくは炎が立ち昇ったかと思うとそれは巨大な剣の形となり、こちらへと振り下ろしてくる。

 

「そんなんありかっ!?」

 

しっかも、このタイミングでか!?くっそ…………!!

やむを得ず襲撃してきた奴の方に投擲した氷剣と連続して位置を入れ換えた直後、俺が先程までいた場所にその剣が振り下ろされ氷壁を含めたそこにあったものを全て“消し”去り、剣の直線上に同じ様な漆黒の炎の道を作り出した。

 

「いいっ!?」

 

まてまてまて!?あの炎……触れたら消し炭どころか骨まで残らねぇレベルの温度か!!?

 

「これも避けるか!!良いねぇ良いねぇ!!楽しくなって来たぜ!!」

 

襲撃してきた奴は楽しそうにしながらこちらを振り向く。そこで辺りに揺らめく炎と差し込んだ月光でようやくその正体がわかる。

 

「…………は?」

 

髪色こそ違えど、ソイツは確かに…………

 

 

 

…………俺と千景の中学時代のクラスメイト、白上フブキだった……

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇一方……◆◇◆◇◆◇◆◇

 

  東郷さん。

 

 

私と東郷さんはいつも互いに助けあって来たよね。

 

 

 

  ……だから……

 

 

 「私が…………絶対助けるよ。

 

 

 

 

 

  東郷さん!!」

 

 

 

 

 

               第拾話  ー前ー 終




以上、ゆゆゆ最新話でした!


そして、クロスオーバーしたのはホロライブ!!
……結構話にあっていて個人的にもびっくり。(この先も含めた全体的に)

いやはや……やってみるもんですね。


…………そして、今夜は??
……お次に行ってみましょう♪

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