三ノ輪白銀は異質な勇者である   作:璃空埜

8 / 17
こんばんは、璃空埜です。

実はなんですけども忙しい忙しいといいながらも約1ヶ月ほど前、うんよく連休ができたため………………

ーーーーーーーーーー香川行ってきました!

なにげに一人であそこまで旅行するなんて始めてでしたが、宿泊した旅館の方の親切なお話等で香川ライフを満喫することができました!

……そして、帰ってきたらば仕事のお山(´・ω・`)

ですがまた、うまく休みが連なったら行ってみたいです(*^^*)



第伍話(後) 異質な紅い勇者となった少年は時と共に舞う

ーーーーーーーーーー三ノ輪 白銀の章

 

「………しつけぇんだよ!シャドウバーテックスっ!!」

 

薄暗い廃工場ないに響き渡る俺の声に反応したかのように別々の場所から3体の影が飛び出してくる。

まず1番高い何もない虚空に現れ漂っているのはこっちをおちょくるような腹立たしげで奇妙な気味の悪い仮面を着けた顔面だけのバーテックス。そして、俺の前後ろに1体づつ……前の奴はさっき放ってきたであろう三日月型の大鎌を両手に着けた人とカマキリを組み合わせたかのようなバーテックスで、後ろの奴はといえばこちらは全身に何か細長い蔦状のものをところ狭しと巻き付けたバーテックスだ。

 

「チッ……。ご丁寧にどいつも新顔だな」

 

俺を囲むやつらはだいたいの攻撃を予想しやすい姿をしているが、問題は俺の頭上を漂っている顔面だけの奴だ。

昨日、相対した奴にもおかしな頭をしていた奴……結城に話したら宇宙人みたいとか言ってたが……そいつは俺たちの前に影の人形を無数に作り出して襲いかかってきていた。それから察するにおそらく顔面野郎もそれと似たような能力を駆使するとは思うんだが……。

そう考えながら右手のグローブを外してポケットの中にしまう。

この状況にしたのは俺自身の意志なんだが正直言って…………喧嘩ならいくらでもしてきたが命をかけたやり取りなんて慣れるわけねぇし、それを3日も連続してやることになるからな……、さすがに体にも疲労がたまる。その上にまだ左腕がそれなりに痛むんだよな……少し前に水に浸かったせいでもあるんだが。そして今度の敵は全員新顔……どんな能力、攻撃、動きをしてくるのか…………詠むことは少し厳しい。一応はある程度仮説はたててはいるが…………先にも言った通り頭上の奴がネックだ。

だが……まぁ……。

 

「……気味悪りィ奴から狙うかねっ!!」

 

足元にあった元々はとこぞの部品だったであろう鉄の棒を正面にいる虫人型(今命名)目掛けて左足で蹴りあげると、それとほぼ同じタイミングで虫人型は両手を大きく振りかぶり、後ろの植物人型(こっちも今命名)がいる方からは何かが大きく拡がったような気配を受ける。

 

「変身っ!!」

 

蹴りあげた左足が地につくのと同時に勇者の姿に変わると同時に両手に斧を出現させ、最初よりも数段勢いの乗って投擲された大鎌を弾きながら四方八方から同時に襲いかかってきた蔦を虫人型との距離を詰めながら避ける。そして、虫人型の目前まで来た俺は突っ込んだ勢いを殺さずに右足を踏み込み宙返り。

 

『ギャ……』

「遅い!!」

 

虫人型が咄嗟にだした腕に宙返りと突っ込んだ勢いをのせた渾身の踵落としを叩き込む。

 

『ガギィッ……!』

「……グッ…!」

 

バキャッという鈍い音と共に虫人型の腕に大きくヒビが入れたが……俺の踵も砕けてはいないがおそらく同じように骨にヒビが入ったらしく激痛が走る……。

 

こいつ…………くそったれなほどかてぇっ…………!!

 

左足に広がる激痛を気力で押し込み、その固さを利用してそのまま虫人型の腕を踏み台にして上に跳躍する。そして姿を表してからなにもせずただただ不気味に浮遊している顔面型(これまた今命名!)に向かって左手の斧を投擲する。狙い通り投擲された斧は寸分たがわず顔面型に……

 

ーーーーーーーーーーあたることなく廃工場の天井に風穴を開けただけだった。

 

ーーーーーーーーーーいや……正確に言えば斧が顔面型を“すり抜けて”いった。

 

「な……!?」

 

おいおい……すり抜けるって一体どうなってんだ!?ああいう奴っていうとこの前の宇宙人型みたいに本体が別にいるっていうのが妥当だろうが……。

天井から降り注ぐ瓦礫から顔を庇いつつそう考えていたその時

前ぶれなく目の前に虫人型の大鎌が迫っていた!

 

「やべっ!?」

 

咄嗟にもう片方の斧で弾くこうと構えるが……斧に当たるか当たらないかというところで霞のように消え代わりに

 

「なっ!?ぐあ……」

 

俺は背後からとんでもない衝撃を受け勢いを殺す間もなく弾き飛ばされ、廃工場の壁を突き破り隣接して建てられていた……元々はここで働いていた人達の宿舎であろう建物まで吹っ飛ばされ、埃の積もった床を勢いよく転がり抜けていき、とある部屋に入ったところでようやく止まった。

 

「…………っ!?……がっ……はぁ……!」

 

口からいくらか血を吐き出す。すごいな勇者服、あの攻撃くらってここまで体の損傷が少ないなんてな。つっても……あばらは何本か折れちまった感じだしさっき血を吐いたから内蔵もいくらかやられてる……。おまけに左腕の傷口がまた開いた上にさっきから動かそうにもすごい激痛が…………。折れちまったな、こりゃ。

それよりもさっきの……顔面の奴を攻撃をすり抜けていったことや目の前に来た大鎌が消えて後ろから攻撃されたこと……それのほうが重大だ。全くもって理解できない現象が起こってやがるからな…………。

恐らくだがあの現象を引き起こしたのは植物人型か顔面型……はたまたその両方。攻撃タイミング的にはあの顔面型の線が一番強いんだが……俺の注意は顔面型に向いていたし植物人型にもあの現象を引き起こすタイミングはあった……。…………駄目だ、決め手に欠けるな……。だが……現状あの現象の事を理解しないとこっちがやられるのは時間の問題だ。

……一旦、あの現象を引き起こした奴を特定すんのは後回しにしてまずはそれへの対処法を考えるか。幸い相手もこっちの出方を伺ってるようだし、こっちもこっちである程度は体を癒さねぇといけねぇから時間は十分にある。

まずあの現象の大本は、恐らく何らかのタイミングで俺に幻惑を見せた幻覚系の能力、または自身や対象を上手く透明にさせる透明化の能力……それかその2つに近しい能力…………と言ったところか…………。

 

「………………あ~!やっぱめんどくせぇ!!」

 

斧を杖がわりに立ち上がる。ある程度はましになったつってもまだまだ全身がめちゃくちゃ痛ぇが……このあと一番重要になる足の痛みはかなりひいているし。

 

「やっぱり問答無用でぶっ倒す!!」

 

一応布石っちゃあ布石みたいなもんを打ってはある。あるんだがな……一度使ったっつうか、使っちまった時があったんだがそのあとすげぇ疲れたからなぁ……だが今回はそんなことをいってられないか!

痛む全身に鞭を入れ、勢いよく駆け出す。そして俺が突っ込んで破壊された穴の縁に足をかけ勢いそのまま飛びだしさっきの工場まで一気に飛び移る。そして、俺がぶっ飛ばされたときに空いた穴から工場内に踏み入れた瞬間

 

「っとぉ!?」

 

今度こそ目の前に虫人型の大鎌が襲いかかり、壁沿いに真上に跳んでからさらに壁を蹴って勢いよく方向転換しながら距離を稼ぐ。

どうにもあの虫人型は脳筋仕様みたいだな……真っ先に仕掛けてきたのもあいつだったし。ま、その方がやりやすいっちゃやりやすいが。

折れている左腕を気にしながら工場内を細かく動き回る。必然的にあの虫人型は俺を追走し始めたんだが……どうにも植物人型の方は…………。

 

「…………見てるだけか?」

 

最初、俺を襲ってきた位置。つまりはさっきからあいつは蔦を伸ばして攻撃してきているだけで移動を全くしていない。一応動いてるのは見たから動けねぇことはないだろうが。更に言っちまうとあそこの植物人型は幻影かもしれないが……。

そう思った瞬間に踏みしめた地面が不意におかしな振動を始めるのを感じて咄嗟に飛び上がる。案の定、コンクリートを突き破って何十本の蔦が現れたが……

 

「……こいつは違う…………」

 

半ば直感で判断して少し高い鉄網の足場に降りたって再び駆け出す。そうするとさっき出てきた蔦とは別方向から今度は一気に襲って来ずにタイミングを少しずらして蔦が襲い掛かってきた!

 

「っぱりか!?」

 

体を捻って避けながら斧を降るって迫り来る蔦のうちの何本かを切り落としながら移動を続ける。そうしてなんとか蔦の海を乗りきった時

 

ーーーーーーーー突如として右足からガクンと力が抜けてしまった。

 

「っ!?」

 

あまりに突然ですぐに体制を建て直すことができず、無様に転がる。少し転がった後、今度はちゃんと力が入った右足で状態を起こしたけど、

 

『キギィ!!』

「っく!」

 

この隙に目の前に迫った虫人型が直接振り下ろしてきた大鎌を鉄網に突き立てた斧でなんとか軌道をそらしたが、うまく衝撃を吸収しきれずに斧を支えていた右腕がしびれてしまう。

 

「っ……!」

 

虫人型が2擊目を振り上げた瞬間突き立てていた斧を蹴りあげ鉄網に大きな切れ込みを入れる。

 

『ギャ!?』

 

すると、虫人型の重みに耐えれなかった鉄網が裂け虫人型がしたに落ちていく。だが一息をつく暇もなく後ろから俺の頭上に影が降りる。

降りてきた影の形から現れた奴が俺の目当ての奴と判断する。

さっきの出来事からして俺の体力……おまけに出血具合がまずい……早々に決めたかったからこいつはありがたいな!!

 

「ようやく見つけた!顔面野郎っ!!」

 

振り向き様に斧を投擲する。その瞬間、一瞬だけ顔面型の能面な瞳にだけ光が入り俺の回りに突然植物型の蔦が現れ、そして

 

 

ーーーーーーーー俺の投げた斧は顔面型をすり抜け………………

 

 

 

ーーーーーーーー逆に植物人型の蔦は俺目掛け一斉に襲いかかり…………。

 

 

**************

 

ーーーーーーーーーー乃木 園子の章

 

「それっ!本当!?」

「は、はい。私も今突然来ましたけれど……」

 

私と巫女ちゃんが楽しくお話ししていると突然、神託……かつての神樹様……今は土地神様の言葉が再び巫女ちゃんに降りてきて……しかもそれが

 

《黒き死の悪意が迫るとき、自身の身を滅ぼす異能を持ちし“調和”の花を持ちし異質な勇者が全ての歴史を救済する》

 

というものみたいなんだけど……なんだけど……。…………ええと~?

 

「どういう意味だろ~……?」

「わ、私も詳しくは…………。で、ですがまたなにか危険なことが迫っているっていうのはなんとなくわかりました」

「危険……」

 

黒き……悪意…………勇者……………………“調和”の花……。

黒き悪意…………もしかして私とセツさん、そしてちーちゃんが遭遇して昨日ゆーゆが命名した、シャドウバーテックスのこと?

…………あれ?

 

「ちょ、ちょっと待って……」

 

私は少し慌てながらも動揺を圧し殺して私よりも花言葉に詳しいゆーゆに電話を掛ける。

 

『あれ?園ちゃんどうしたの?』

「やっほ~、ゆーゆ。さっきはごめんね~」

「あー、それは大丈夫だよ!さっき白銀さんのお家に泊めてもらうようにお願いしたから!それでね今ね偶然出会ったぐんちゃんさんと……」

「ええと、ごめんね?ひとつゆーゆに聞きたいことがあって……」

「うん?」

 

そして、私はその花の花言葉をゆーゆに訪ねる。

 

「あ~、その花はね色によって変わるけど基本は確か“乙女の純真”とーーーーー

 

 

ーーーーーーーーーーーー“調和”だよ~」

 

っ!!ということは……自身の身を滅ぼす異能をもつ勇者って…………!!

 

『?園ちゃんどうし……』「ゆーゆっ!そこにセツさんは!!」

『ふぇ!?せ、白銀さん……?白銀さんならちょっと前になんか用事があるって……』

「っ!?」

 

まさか……っ!

 

「ゆーゆ!ぐんちゃん先輩とそこにいる人に伝えて!!」

『え?え??』

「このままだと……ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーセツさんの身が危ない!!」

 

 

 

**************

 

ーーーーーーーーーー三ノ輪 白銀の章

 

植物人型の蔦は俺を貫くことはなく俺が立っていた足場だけを粉々にする。そして俺自身はというと……

 

「オラァッ!!」

『!?』

 

顔面型の“後ろ”から延髄斬りを叩き込む。今度はしっかりと手応えがあり顔面型が大きく弾け飛ぶとその“前”から迫っていた斧の直撃を思い切り喰らいその体に突き刺さる。そして……

 

「これで……」

 

俺は一番最初に投擲した斧のあった天井に“移動”し……

 

「終いだぁぁぁぁっ!!」

 

天井を思い切り踏み切って怯んで動けない顔面型目掛けて急降下していき、突き刺さっている斧を掴んで勢いそのままに振り抜いた。

 

「!」

『!?』

 

が、手応え無くすり抜けた……その瞬間、今度は元々俺が浮遊していた位置に“移動”し……

 

「言ったろ?」

 

体に開店をかけながら落下して、勢いをのせた斧を全力で振るう!

 

「これで終いだってなァッ!!」

『!?!?』

 

今度こそしっかりとした手応えと共に顔面型が真っ二つにわれ、その体は砂のようにかき消えていく。

ようやく1体か……。しかもまだ2体残ってやがるし内1体は半端なく硬い鎧があるのがめんどくさい。ならまず数を減らすには……。

考え事をしながら着地をした瞬間、不意に再び地面から植物人型の蔦が一気に現れるが

 

 

ーーーーーーーーーーーー「《時は静止する》っ!!」

 

 

俺が反射的に言った“合言葉”をトリガーにその蔦は俺に触れる前に止まる。……正確に言えば俺が“止めた”んだが。

その内に辺りを見回し、さっきとは違う位置で地面に蔦を突き立てている植物人型の本体を見つけてから片方の斧を投擲し、その背後に回り込んだ後指を鳴らしながら

 

 

ーーーーーーーーーーーー「……《時は再び動き出す》」

 

 

再び“合言葉”を言うと……蔦が動き出して俺の体の替わりに古いドラム缶を貫いていく。俺を狙っていた植物人型は俺がかき消えたことと目の前に勢いよく斧が迫っていることに驚きその体が硬直する。だけど……

 

「残念だけど……」

 

静かにだが威圧をこめながら腰だめに持っている斧を構える。植物人型は咄嗟にこちらに蔦を伸ばそうとするが……もう遅い。

 

「おめぇも終わりだ」

 

横凪ぎに斧を一閃し、植物人型を両断する。悲鳴をあげること無く植物人型もまた顔面型のように消えていった。

だが、囮用に投げていた斧を衝撃を殺しながらある程度はましになった左腕で掴んで一息をついた瞬間心臓が大きく跳ねると同時に全身に今までとは違った激痛が走り抜け俺も膝をついてしまう。

 

「…………ッく!………がっあ…………」

 

おまけに左目にも焼かれたような激痛が走り始めると共に世界の半分がぼやけ始める。

これが能力の代償……か……。前使ったときはこんなことなかったがあれだけの力だ。代償も大きいとは予測はしていんたが…………。

 

「…………こ……こ…………まで…………か…………っ……」

 

この能力……《物体との位置交換》と《時間停止》の能力。実は初めて変身したあの夜に1度使っている。あのときは間違って《時間停止》で乃木の嬢ちゃんとその回りを止めてしまってあいつを窮地に追い込んじまった……。一応そのあとすぐに《物体との位置交換》で乃木の嬢ちゃんの頭上を舞っていた木の葉と俺の位置を変え何とか間に合わせたが…………つまりは正直にいうと俺自身、この能力は扱いきれてないし今日このときまで能力を使用したときの代償まで分からなかった。まぁ……《物体との位置交換》……略して《物体置換》の方には回数制限……感覚的に一気にやれる……要するにストック的なのはだいたい4~7回ぐらいだってのはわかってたんだが、今回こうなっちまったのは恐らく《時間停止》の使用又は《物体置換》との併用のインターバル不足、俺の体力低下による反動……といったところか。ただ前ん時は(乃木、待っててくれ!)という俺の“思い”が《時間停止》のトリガーになり、それ故に乃木の嬢ちゃんとその回りの時が止まっていた。そこから推察して今回は“合言葉”を使ってみたが……ドンピシャだったな。しばらく《時間停止》を使うときは“合言葉”を使っていくか。

 

「…………はぁ……はぁ…………」

 

よし………ある程度は落ち着いてきたか…………。

少しだけ息を荒げながらも斧を杖替わりにしながら何とか立ち上がる。

さっきの状態からして《時間停止》は使えねぇ。使えるなら《物体置換》か。《物体置換》なら《時間停止》よりインターバルは遥かに短いしさっきいった通り回数のストックがある。……つってもさっきそれを結構使っちまったし……ストックが増えるのにはまだもう少し時間が必要だ。ならば……

 

「ちょっと……休憩だな……」

 

都合よく今俺がいるのは工場の一角にある小部屋。ここなら少しの間なら隠れられるはず。休憩ついでに目を閉じマーキングした場所を改めて把握する。

さっき《時間停止》には俺の“思い”がトリガーになっているっていったが《物体置換》にももちろんそういうトリガー……というか交換できるものの制限がある。それは“基本的には俺の視界内の物同士しかできない”というものだ。まぁ、俺自身の体や俺が使っている斧は見ずとも位置交換できるんだがな。……で、“基本的”じゃない物は何かっていうと、さっき俺が言った“マーキング”……厳密に言うと俺の華紋がある右手に触れた場所ならば俺の視界になくても交換ができるというものだ。ただまぁ、このマーキング自体は俺の意思か交換できる距離から外れない限りは消えることはないがつけれるマーキングの数にも限度があり、7箇所が限界……だと思うんだよな。今回、さっき走り回っているときに色々なところに着けておいたんだが…。

 

「…………!」

 

そうしていると部屋の外が少し賑やかになり始めた。どうも、虫人型が俺を探しまくっているみたいだが……。

こいつの固さはホントにどうするかなんだよな…………。作戦はあると言えばあるんだが………………とにかくやるしかないか!

覚悟を決めこの部屋から少し離れた位置においてあるドラム缶と再び入れ替わった瞬間に少し前まで俺がいた部屋の壁を虫人型が突き破っていた。俺はすぐに動かせる右の斧を投擲してから左に持っていた斧を持ちかえ無防備な虫人型の背に向かって勢いよく突撃をする。

 

「オラァッ!!」

『ギィ!!』

「っとおっ!?」

 

しかし、俺の一撃は空をきってしまう。勢いを殺すことができずにつんのめるも何とか体制を建て直して振り向くとさっきまでいたはずの虫人型の姿は無く、替わりに俺の頭上を奇妙な形をした虫が3匹、飛び回っていた。

 

「な……!?」

 

どうやらあの虫人型も奥の手を隠していたみたいだ。恐らく今頭上をブンブン飛び回っている姿こそあいつらの本来の姿で……俺と戦うときだけ合体していたんだろう。

そう考えている内に虫たちの動きに変化が現れ……

 

「…………どこの合体ロボだよ!?」

 

遥か昔にあったと言う3機の小型機が合体する今なおその手のゲームの主役として登場する日本の誇るスーパーロボットのような合体劇を見せて現れたのは、最初のをカマキリとするならば今度はスズメバチを彷彿とさせる両手が鋭い槍となった細身の身軽な姿。

……なんだろうね。思わず突っ込んじまったけど、恐らくこいつの元になった野郎は何故だか俺と同じ趣味を持っていたような気がしてならん。

そして、俺が呆れて溜め息をついた瞬間、目の前の虫人型が消える。

 

「……!」

 

“消えた”ではないな、ただの高速移動だ。

何とか動きは目で追うことはできて、突き出された槍を回避したはいいものの…………。

 

「っち……」

 

こっちが反撃に移る前にまた虫人型の姿はかき消えた。

これは……あれだ。相性が最悪なやつだ。一応俺にはこいつに対抗できる能力《物体置換》が残ってはいるものの…基本的に俺はパワー型。こいつのように早さがある訳じゃない。………その上、俺としては奴の……いや、奴等のどれかマーキングして一撃をぶちこまないと倒せないと推測してんだよな。だがなぁ………さっき1回使っちまって残り置換できる回数って言うと後2回……そして、泣きの1回がある程度。付け加えると俺がやろうとしていることは出来るかどうかもわからない一か八かの賭けにもなる…………。

 

「っ!とあっ!!」

 

そう考えている間にも虫人型は容赦なく移動しては刺し、移動しては刺しを繰り返して俺も弾いたり身を捻ったりして避けてはいるが連続しての能力使用&折れて動かしにくい左腕の事もあって徐々に押され始めて、かすり傷ではあるが傷も増えつつあった。考える余裕がある分ましと言えばましだが…………。

 

「…………」

 

……ううむ。そろそろ乃木の嬢ちゃん辺りが気がつきそうなんだよな。それにこの場所、少し前に千景にちょこっと話しちまってるから……恐らく1発でバレるからそろそろ決めないとっ…………!

 

………………やるしかないか!!

 

俺は今まで構えをといて、斧をしまい無防備になり……

 

 

ーーーーーーーーーーーー「白銀くんっ!!」

 

 

千景の俺を呼ぶ声がした瞬間に背後から突き出された槍と、直感的に俺が振り向き様、放った拳が交錯したーーーーーーーー。

 

**************

 

ーーーーーーーーーー郡 千景の章

 

「白銀くんっ!!」

 

友奈さんから「とにかく白銀さんが危ない」と泣きながら突然話されたものだから楠さんと慌てて事情を聞くと、「園ちゃんから慌てててよくわからないけど白銀さんが死んじゃうかもしれない!!」と言われて、私が知る限り白銀くんがこっそりと行きそうな場所にがむしゃらに急いで来てみれば、今まさに破壊尽くされた廃工場で蜂の形をしたシャドウバーテックスと血まみれの白銀くんが交錯した!

 

「せ、白銀さんっ!?」

「っ!これって……!!」

 

楠さんと友奈さんが遅れて着いた時、虫のシャドウバーテックスの全身が小刻み震えたかと思うと3匹に分裂し、どこかへと飛んでいこうとする。

 

「逃すか!!」

 

しかし、それを白銀くんが逃すはずもなく右手をかざすと3匹の動きがピタリと止まり、今度は何かを引き寄せるかのように手を引くと見えない紐に引っ張られたかのように勢いよく3匹が白銀くんの元に引き寄せられ

 

「うらぁぁぁぁっ!!」

 

3匹が引き寄せられる間に白銀くんは斧を取り出し、3匹同時に薙ぐ。そして……

 

『キギャァァァァァ…………』

 

気味の悪い断末魔を残して3匹となった虫のシャドウバーテックスは塵となって消えていき、白銀くんもそれをしっかりと見届け大きく息をつき、

 

ーーーーーーーーーーーーそのままびたーん!と前にぶっ倒れた。

 

「な!?」

「わーーっ!?」

「白銀くんっ!?」

 

再び大慌てとなりながらもかけよって抱き起こす。その時には勇者の姿も解けてしまった。

 

「ぜぇ…………ぜぇ………………し、死ぬかと…………おもった…………」

 

虚ろな目をして息を荒くさせ全身の細かい傷からそれなりな量の血が流れ出ているけれど……。パッと見て一番ひどいのは左腕ね。昨日の傷も開いて、その上あらぬ方向をむいてしまっている。

 

「うわぁぁぁぁぁん!!白銀さぁぁぁん!!しっかり!しっかりしてぇぇぇぇげっ!!」

「げほっ……だ、大丈夫…………死にはしねぇよ………だから………揺らすな……揺らすな…………」

「とか言いながら血を吐いてるでしょ!!大人しくしていなさい!!」

「友奈さんはとにかく乃木さんに連絡を!!楠さんは綺麗な布と木を探して!!」

 

血を吐いているってことは内蔵とかにも結構ダメージ入ってるわね。でも呼吸や意識がしっかりしているところをみると……死にはしないはず。

そう判断した私は楠さんと友奈さんに指示を飛ばした。……だけども友奈さんがそれはもうボロボロ大泣きし始めちゃって少し手間取ってしまって……

 

「ええいっ!これくらいなら死にゃせんからさっさと乃木んとこに連絡してこいや!!逆に俺を殺すk…げほっ!!ごほっ!!」

「ひゃ、ひゃいぃぃぃ……」

 

結局白銀くんの一喝で泣きながらも連絡を取るために離れていった。

 

「はぁぁ…………。アイツはいいやつだが…………こういうときは…………少し足手まといだ………………」

「…………ねぇ」

「…………なんだ?」

 

2人きりになって私はさっきまで隠していた感情……

 

「貴方…………バカでしょうっ!!」

 

怒りと悲しみをおもいっきりぶつけた。

 

「昨日っ!昨日私言ったわよねっ!!勇者って言うのは!!」

「…………覚えてるさ…………簡単に死んじまうんだろ?」

「なら……ならっ!!何で!?何で貴方はここまでっ」

「…………げほっ……簡単だ……

 

 

ーーーーーーーーーーーー……お前らがいたからだよ」

 

 

「っ!!」

「……ぶっちゃけ色々話を聞いて俺が乃木の嬢ちゃんや結城の嬢ちゃんとは違う“異質”なところがあんのは自覚してるさ…………。でも“勇者”であることにゃ変わりなんてねぇ……よ」

 

きっと全身に激痛が走っているんだろう、顔中血と汗が入り交じった状態の白銀くんはそれでも……それでもいつも、どんなに私があしらっても向けた笑顔をして……

 

「俺は…………アイツの意思を継いだ。きっとそれはアイツの大好きだった世界を守ってほしいって言う願いからだろうよ……。…………だけどな、それなら…………まずアイツや俺の身近なやつらからしっかり護らねぇとな…………ま、おめぇらの勇者の力が戻ったらこんな無茶することは早々ねぇだろうけどな…………」

 

「けっけっけっ」といつもからかう時の笑い声をした後、私の顔を改めて見て優しい微笑みに変わる。

 

「だからさ………………お前まで泣くなって」

 

そう言って血だらけの右手で私の頭を優しく撫でる。

 

「…………っく……だって…………だっ…………て…………っ!」

「白…………」

「あ…………」

「…………」

「め、メブ…………??…………もしかして今のを??」

「………………っ…」

「ちょ!げほっ!!おめぇもかよ!?」

「………………ううっ…………う~……」

「…………ばかぁ…………ばかせつぅ…………」

「………あ~………乃木の嬢ちゃんや~…………はよ来てちょ~……」

 

そのあと、連絡して来た友奈さんもこの輪に加わりまるで白銀くんが死んだかのようにわんわん号泣してしまい、更に救急車と一緒に来た乃木さんも一緒に泣き始め…………

 

「あ~…………誰かこいつらのケアたのんます……」

 

怪我人である白銀くんが私たちのアフターケアを頼むという変な構図が出来上がってしまったのだった。

 

 

**************

 

 

ーーーーーーーーーー??? ???の章

 

「…………巫女様?」

「ごめんなさい……この忙しいときに」

「いえ……それよりも如何なされましたか?」

「はい……」

 

私は巫女。土地様たちのご神託を…………本当は伝えたくないことでも伝えなければならない。

 

「神託がありました……」

「!ど、どのような……」

 

これはきっと……また戦いの日々の幕開けの狼煙となるだろう。せっかく世界を取り戻したのに…………また……またなの?

 

「…………っ」

「………………」

 

「近々………………ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー再び神樹様が現れ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー勇者の戦いがまた始まる……とのことです」

 

 

 

 

 

 

                  

               第伍話  ー後ー 終




以上ゆゆゆ、第伍話後編でした。そして作品タイトル完全解放?でいいのかな?
前編後編のタイトル……結構長くなっちゃいました。

    ~シャドウバーテックス紹介コーナー~
さて突然始まったこのコーナー。前話でお話しした通り今後ここでは登場したシャドウバーテックスの紹介をしていこうと思います。今回は以下の三体となります!

・獣人型
(バーテックスモデル:バイオハザードシリーズより、リッカー)   
7体1集団で行動する、どちらかというと暗殺メインで戦闘能力はほとんどないに等しいシャドウバーテックス。特徴は両手の鉤爪と伸縮する体、そして合体。一応話すことはできるが単語を繰り返しいったりする程度で会話は少し厳しい。

・宇宙人型
(バーテックスモデル:ウルトラセブンより、チブル星人)
個人としての戦闘能力は全くないが無限に影人形を作り出すことができる。特徴はあり得ないほど肥大かした頭。影人形を作り出す時、自身は透明化しているため見つけるまて倒すまでが中々に時間のかかる面倒なシャドウバーテックス。

・機械人形型
(バーテックスモデル:DmC デビルメイクライより、レッサースティジアン)
最初は骨人形のような気味の悪い姿をしているが本体は小さなひし形の結晶。両腕が棍棒のようになっておりこれで初擊を打ち込んだ場所付近にあるものを集め大きな人形を作り出す。元になったものによって戦いかたを変えないといけない。

以上!後あくまでモデルは姿のモデルなので…………これはクロスオーバーにはいるのかな?そこのところもご意見募集中です。

さてさて次回の投稿は少し空いてしまうと思います。作品としてはストライクウィッチーズか……その他の作品かと言ったところです。
気長にお待ちいただければ幸いです。

では、改めて誤字脱字その他、ご意見ご指摘ご感想あれば受け付けておりますのでよろしくお願いいたします!

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