SABER MARIONETTE J to X - REBOOT 作:70-90
所変わって、歌舞伎町にあるアジト。部屋はろくに整理や掃除がなされておらず、古新聞紙などが床に散らばっている。そんなことを気に留めず、例の2人はストレスを抱えながらも、暗中模索を続けていた。“アニキ”はじっとしていられずに何度も同じ所を歩きまわり、下っ端はボロボロのソファーに凭れこんでいた。
未だに、乙女回路を探しているのだった。“アニキ”が確信していた、必ずここにあると。例の住宅街を先ほど探したのだが、この時は既に雄祐に持っていかれた後だった。勿論彼らはそういうことなど知らない。
「ちくしょうちくしょうちくしょう…、畜生!!」
怒り任せにゴミ箱を蹴りあげ、さらに沢山詰まっていたゴミを床に撒き散らす。
未だに下っ端のあの三流の運転技術に因縁をつけていた。下っ端が視界に入るやいなや、ギリギリと歯ぎしりを立てている。
「そんな殺気満ちた目で俺を見ないでくださいよ…。元を言えば、アニキが雑にあの人形を置いてたからじゃないっすか!」
「黙れ!!」
机に置いてある古新聞紙を手で巻き上げ、下っ端に沢山の量をかける。ちらばる紙吹雪の中から彼が出てきて、下っ端の襟首を掴む。
「てめぇ、生意気なこと言ってんじゃねぇぞ、お前だけであんな代物と手に入れられたか?あの技術館のセキュリティはバカみてぇにタイトだった!赤外線センサー、分子反応装置、サーモセンサー…。あんな厳重な守りを俺無しでくぐり抜けられたか??」
「話をすり替えないでくださいよ!」
バシッと、手を振りほどく下っ端。窓を向き、その元へとすたすたと歩いて行く。
それからというもの、どちらも一歩譲らずの上体は続いたままだ。変わったことといえば、何か納得の行かないことを言われて、下っ端が“アニキ”の方に振り向くことぐらいだ。
「じゃあなんだ!?てめぇなりの収納方法があったのか!?だったら先に言えよ!」
「何イミフーなの言ってんすか!収納方法ってなんなんすか!?」
「てめぇ、さっきから口答えばっかしやがっていい加減に―」
怒りが爆発する一歩手前で、ピロロロと電話がなる。クールダウンしつつも、わずかにイライラを残す“アニキ”。
チッと舌打ちを鳴らし、ドカドカと大きな靴音を鳴らして歩き、受話器を雑にとる。
「へい…」
『私だ』
「あっ、あなたでしたか…!」
受話器の奥から、男性の低音が強い声が出てくる。意外な人物だからか、“アニキ”の声色が一気に何オクターブも高くなり、少し言葉も丁寧になっている。下っ端が影で身を引くほどだ。
『依頼の件でそちらに電話をかけたのだが』
「はい…!」
『例のものはどうした?計画通りに手に入ったか?』
元々、2人があのマリオネットを強奪したのは、電話の送信主からの依頼によるものだった。『国立科学館に保存されている重要機密を盗み出してほしい、報酬は今すぐ口座に振り込む』と。
報酬はまさかの億単位だった。最初は2人ともまさかと疑いを持っていた。しかし、仮の口座には本当にその報酬が振り込まれていた。
あんなに仲が悪いように見えるこの2人。しかし、裏の世界では名が知られている悪徳な仕事屋コンビであり、数々の法に触れる行為を行なっては、カモフラージュを行なって足あとを残さない。今回に限らずしくじることはあるのだが。
「そっ、それがその…」
『どうした?』
「一応依頼通りの品はあーだこーだで手に入ったんすけど、ウチの下っ端がムチャな運転をしたんでハートを落としちまって…」
「ひどいっすよアニキ!!全部責任を俺になすりつけるんすか!!?」
「だまっとれ!お客さんとの電話の最中だろうが!…すいません、下っ端があまりにもうるさくて…」
しかし、我慢ができない下っ端。あーだこーだと、脇で色々と悪態をついてばかりである。結局「何だとぉっ!?」と、我を忘れて爆発してしまい、先ほどの続きが始まってしまう。
『シャラップ!!』
電話からの怒鳴り声で、アジト内が静まり返る。それは下っ端にも聞こえ、ソファーの背もたれからひっくり返ってしまう。“アニキ”もまた電話を耳元から離してしまう。そして、ゆっくりと恐る恐る耳を近づけていく。
『電話越しとはいえ、茶々な喧嘩をするとは言語道断。2人共処分してもらいたいか』
「ひぃい…!それは勘弁してください!」
『ならば黙って私の話を粛然にして耳を傾けっ!!』
一目も置いたことがない。ただどこかの世界を掌握する、ボス的存在であるのは確かだろう。膨大な金が口座に振り込まれている以上、どこかでしくじったらしっぺ返しを受けるのは目に見えている。
『今君達のライフポイントは私の意中にある。既に報酬は君達の用意した口座に振込済みだ。その代わり、もし頓挫したならば何かしらのペナルティを与えなければならない。私が狙っているのは最上級の代物だ、価値は報酬金では足りないのだがね』
「へっ、へい…!」
『しかし、最後のチャンスを与えてしまっては、私も鬼ではない。ちょうど今、奥の手を君達の元に向かわせたところだ。それが名誉あるミッションに役立つことを期待しておこう。期限は明日。…以上だ、私はこれで失礼する』
ガチャっと向こうから電話が切れた。流れる沈黙の中、生気が抜けたまま2人は顔を見合わせた。
「まずい…。まずいまずいまずい…!!」
「やられる…。これじゃあ本当に
「ったく…、元々仕事屋と依頼者の立場がひっくり返っちまって、それも納得行かねぇ!…愚痴をこぼすのは後だ。とにかく明日中に見つけねえと!」
「明日!?そんな無茶な!!」
「わーってるよんなこたぁよぉ!!…待てよ…、奥の手とはなんぞや…?」
「奥の手…?」
その言葉を口にした刹那、誰かが外で着地する。音にしてはドスンと重すぎる感じだ。そして、こすり合う金属が付与された足音がフェードインしてくる。まさかの奥の手が来たのかと。
シャッターがからがらと開く。影が2人を覆う。3体もいる。どの影も赤い影を持ち、2人をじっと見つめている。
「あっ、アニキ…、これはいってぇ…!?アニキ…?」
「ふふふ、ふはははははは!!最高だぜ!!」
ついつい有頂天になってしまった“アニキ”。あの成金野郎め、こんな代物を用意してきたとは。確かに、奥の手という価値はある。困惑している下っ端をよそに、彼の心は踊っていた。
再び電話が鳴る。すぐに彼は電話のもとに行く。
「へい…、あっ、はい!」
『2度も掛けてすまない。もう一つ是非してもらいたい依頼がある。勿論報酬は重ね済みだ』
***
翌日。日中の歌舞伎町は警察で詰まっていた。いくつかの赤ランプが回転しながら点滅し、沢山の警察車両が現場の周囲を取り囲んでいる。
「面倒くせぇな、いちいち…」
助手席に乗ったまま、ビルをずっと見つめる。しかし、この初老の刑事というのはどうも不機嫌で、悪態をついてばかりだった。
黄色いテープが貼られているが、それに沿って野次馬が数十人も見物しており、携帯で写メをとる人や、報道陣が世紀のスクープを撮ろうとして必死だ。
「平嶋さん、車内で煙草を吸うのやめてくださいよ。禁煙の世の中じゃないですか」
「ちっ…。ぶりっこもいい加減にしろってぇの」
初老の刑事は、顔色がいらつきで濁ったまま、ドアを開けて出てくる。出た瞬間に、近頃多くなった白髪が日光を反射する。
箱から一本タバコを取り出して火をつけ、そして吸う。現場の方向に向かって吐き出すと、ぼやき始める。
「こうやって世間にアピールしようと目立つようじゃあ、後でしっぺ返しを食らうんだがなぁ…」
この事件は以前から、平嶋を含む担当班が請け負っていた。
一昨日から始まった事件ではない。以前から犯行予告を伺わせるファックスや電子メールが警察や報道機関に送りつけられていた。最初はいたずらものにしか過ぎないと見送っていた。平嶋も下らねぇなと、挑発的な口調で吐き捨てていた。いや、不可能だと言い切れる自信があった。
国立博物館に3体の内、1体が厳重に保管されている。また、3体の場所は各々異なっている。その意図は警察に対しても機密事項であった。1体に対してもセキュリティが堅い。赤外線センサー、サーモセンサー、質量変化感知装置…、数々に渡る種類の装置が設置されている。そこまで国の税金をはたいてまで守ろうだなんて、どういうつもりなんだと関係者世間から批判の声が上がっている。
「気に食わねぇ…」
「アピールだなんてそんな…」
「それに元々、これは俺達が担当しているはずだぞ。俺達が捜査し、俺達が何かしらの手段を取るはずだが…。国の宝が盗まれただろうが、誰かが殺されたか壊されただろうが、俺達にゃあ関係ねぇ。俺達の仕事は悪い連中を縛につかせることだからな。けどよぉ、こんな時に限ってなんでお偉いさんが頭を突っ込んでくる?」
若手が「本当は1人中心で動いてるくせに…」と陰口をたたく。後の流れはよくある話だ。
平嶋は基本的に独り身で進めることが多く、悪人を捕まえるにはどんな手段も厭わないことで、警察も裏世界でも名が知られており、“鬼泣かせ”と呼ばれている。平嶋は承知しているが、「勝手にしろ」とのこと。
どうも団体行動は気に食わない。これが突入作戦の一環だと?とっとと突入して、とっとと捕まえりゃいいものを。こっちが焦らしているうちに奴らがすっぽかしてきたら、何か手段を整えているのか?
平嶋による通常の捜査はもっと速い。しかし、これだけ遅くなっているのは、最重要機密を傷つけないためだと、上層部が告げている。頭の堅い連中が最も、平嶋が忌み嫌う存在である。
「目撃者から、昨晩誰かがこのアジトに入り込んだとの情報が…」
「何だと?」
「ええ。何やら銀色の服を着こなしていたようだと」
「銀色の服、だと?」
爆発音が響いた。平嶋が咄嗟に向くと、建物の前で大きな炎が沸き上がっている。ワーキャーと悲鳴を上げながら、野次馬が一目散に逃げていく。
「くそっ、焦らしてねぇで一気に突っ込んでしまえばとっとと済んだってぇのに…!」
炎に影が浮かび上がる。3体も。ゆっくりと歩き寄ってくる。ズシンズシンと重い足音を立てる。
影から浮かび上がったのは、銀色の身体をしたマリオネットだった。赤い目がこっちを見つめてくる。伸ばした爪を下ろしたまま。
「銀色の服!?何を聞き間違えてんだバカが!」
「いえ、確かにそう言って!」
「そいつの目は節穴か!どう見たって身体にしか違いねぇだろが!どこであんな獣をかっぱらってきやがった?!」
警官たちが次々と銃を向ける。制止するよう呼びかける。
しかし、心というものがないのか。ただマスターに言われたのだろうか、無表情のまま足を止める様子はない。
一人が射撃命令を出し、幾つもの銃弾が命中する。しかし、命中したものの、傷ひとつもつかずただ弾き返すばかりだった。
今度は、3体の内1体が飛び出し、爪を振り上げてパトカーに突き刺す。そして、他の車両に投げる。ただ警官たちは逃げるばかりだった。他の2体も同様な行為を行う。
次の瞬間、白い軽トラがアクセル全開で飛び出す。助手席に座る男が警察に向かって中指を立てて、満足気な笑みを浮かべる。それから開いた道を進み、消えていった。
「あんにゃろ…!グズグズしてねぇで追うぞ!」
「は、はい…!」
残った車両はわずか。その1台を持つ平嶋ら2人は乗り込む。田口という部下は、本部と通信を繋げて応援要請を行った。
「くそったれが…、警察をナメんな!」
その一方で、軽トラと3体は人目を気にせずに逃亡を行なっていた。信号を無視し、通り過ぎる車を避けて避けて何度も避けて街中を走る。3体は道路上を走り、軽トラの中では2人は大笑いしていた。
「ざまあみやがれ!!」
「最高ですねアニキ!」
「最高だな!さてと、後は俺達の宝を奪い返すだけだ。こいつでな!」
“アニキ”に見つめられる、運転席と助手席に置かれる画面には地図上に点滅する一点が映し出されていた。ある学校上に。
***
公立高校。今日も皆の様子は変わらない。普通に授業を受け、普通に馬鹿騒ぎを起こし、普通に生活を営んでいる。聖佳に対する仕打ちも相変わらずだ。雄祐も普通に授業を受けているつもりだった。シャープペンの頭を何度も頬に当てながら。しかし昨日のことで、頭に入ってこない。片耳を通って片耳をすり抜けるか、頭が反射させているのか、よくわからない状態だ。例の乙女回路は、雄祐の鞄に入っている。
歌舞伎町であの出来事が起こっている最中、この時学校は昼休みに入っていた。今はあまり腹が減っていないため、軽くすまそうと売店で菓子パンを買う。後にしようとした時、水縹色の髪の女子を目にする。しかし、一瞬見ただけで何も話しかけず、彼女の横を通り過ぎていった。
天井に上り、柵に手をかけてパンを頬張る雄祐。この時間帯、雄祐ぐらいしか滅多にこの場所には来ない。大体グルを作って一緒に食べるのがここでの一般なる習慣だ。しかし、コッチのほうが雄祐の好みであった。彼らの空気に拒絶感を抱いていたのだ。
高層ビルがいくつか立ち並ぶ街の方からサイレンが微かに鳴り響く。ただすぐに音は遠のいていく。たまに遭遇する景色である。
こうして自分達は変わらぬ日々を過ごしている。ただ退屈のまま過ごしている。
「はぁ…」
鞄から筒状の装置を取り出し、手首を動かしながら見つめる。丸みを帯びている緑色のLEDが反射して光っている。
この獲物を狙う奴が現る。要するに、其奴は本体を持っている可能性がある。ならば、こっちから誘き寄せてそっちも奪ってやろうじゃないか。サーフェスならそう言う。別にそこまで刺激を求めているわけじゃない。逆に面倒だ。でももう避けられない。
誰かがドアを開けて出てくる。すぐに雄祐は筒を鞄にしまった。
ドアのそばに1人の女子が立っている。あの薄水色の髪の女子だ。「なんだ」と思って顔を再び街の方に戻したが、またもや彼女の方に戻した。しかし、彼女に自分を怪しむような様子は見せなかった。微動に動きを見せず、ただポーカーフェイスを維持していた。もしかしたら、自分に気づいていないんじゃないのかとも、微かに感じた。
ちょっと話しかけてみるかと、彼女に近づいた。気づいたのか、彼女は自分に顔を向ける。
「もしかして、あんたが零子か?」
「はい、何でしょうか?」
「お前も、いつもここに?」
「いえ、今日は聖佳様からここにいるように申し付けられたので」
たまにしか、雄祐は屋上に来ない。もしくは、屋上に来るのはおそらく雄祐だけだろう。こんなところに零子を向かわせるということはよほど警戒しているのだろう。ただ、やっぱりナーバスすぎる、雄祐は今でも口にしたいほどだった。
ところで、別に何を話そうかは考えていない。何故話しかけたんだろ、自分でもそう思った。とりあえず、何かしらを繋げるか。
「俺、聖佳と同じクラスのもので、倉科雄祐っていうんだけどさ―」
「A組…。申し訳ありませんが、そのクラスの方々との話はご遠慮させていただいています」
「へっ…?」
「まだ一言も話してねぇよ」と言いたいところだが…。とりあえず名乗りを上げたが、早速断られた。もはや門前払いと同じようなものだ。
「聖佳様に申し付けられています。あのクラスの人達には近付いてはならないと―」
「…あんだけ冷やかされちゃなぁ…。ナーバスになるのも仕方がないか」
「A組」と、彼女は微かに言った。自分もその組だ。おそらく、聖佳に言われているのだろう。そのクラスの連中に近づくな、ああいう奴らばかりだから、一度気づかれては何が起こるかは目に見えている。
「じゃあ1つだけ。そうしないと虫が収まらんからな」
「しかし…」
また断ろうとした。しかし、彼女の台詞が止まった。
メモリーから一つの引き出しが開く。そういえば、母からプログラムされている。「自分が言いたいことは必ず思いっきり言う。我慢すると逆に毒になる」と。
「わかりました。特別に貴方からお話を聞かせていただきます」
「物覚えのいい奴、かな…?ま、いいや」
急に立場を変えてきた零子。まあ、とりあえず根本的なことを聞いてみようか。
「今どんな感じ?」
「何がでしょうか?」
「高校生活。最近大変だろ?散々冷やかされ放題でさ、お前の姉さんピリピリと来てるぞ」
聖佳とはあまり話したことがない。あるとすれば極端なことだが、班行動の時ぐらいである。しかし、あまり話す機会がないものの、彼女の行動はたまに見かける。
「いえ、不快感を持ったことなど特にありません」
スラーっと彼女は答えてみせた。どうも人間らしくない。
「でも、たまにあれっと思ったりイライラしたりする事あるだろ?どうしてこうなるんだとか、自分が人間じゃないことにさ」
彼女の身体が一瞬震え、両目は下を向いた。やっぱりそう思っているのじゃないか、“心”を持っているから。
しかし、そんな人間らしさは垣間見えただけで、零子はすぐにポーカーフェイスに戻って平然さを取り戻した。
「そのようなことなど一切ありません。聖佳様およびご両親の方々に仕え、そしてお守りすることが私の役目です。それに…」
「それに?」
「聖佳様は私のマスターであり、姉でもありますから」
この時、零子は何もかも受け入れるような形で穏やかに笑みを浮かべた。雄祐はわずかに動揺した。
もう、何を言ってもこいつらには無駄なのか、それとも、妹としての自覚を持っていると認めていいのか、判別がつかない。とにかくサーフェスの台詞通り、マリオネットはまだ人間には程遠い存在でしかないのか…。今のところ、そう結論づけるしかない。
「あと1キロメートル」
いきなりサーフェスが、メートル単位でカウントダウンをし始めた。雄祐は学ランの上着のポケットから端末を取り出す。
画面上には地図が移され、学校を囲む円の外に3つの点が点滅を繰り返している。そして、繰り返すごとにゆっくりと円の中に入っていく。
「あと500メートル」
「何故にカウントダウン?」
「…来るぞ」
「来るって、誰が…?」
刹那、爆発音が響く。校庭側の柵に走ると、外では地面から今屋上にいる彼の目の高さほどの黒煙が黙々と立っている。地面では炎がメラメラと燃えている。
「なんだ、これは?」
「私にも見せろ」
今度は、1台のパトカーが校庭に投げ出され、グラウンドの一部が燃える。生徒達の悲鳴が聞こえ始めた。
端末がその人影に合うやいなや、直ぐ様認識した。
「軍事用量産型セイバーマリオネット…、SM-P77“ワイバーン”…。何故3体も…?」
「軍事用って…、それじゃあガチでやばいもんじゃねぇか…!」
ここからのサーフェスの説明によれば、欧米の軍事機密として管理されているセイバーマリオネット―戦闘に特化したマリオネット―である。両手に鋭利な鍵爪を装備し、胴体や四肢に特殊な装甲を張るなど、近接戦闘に特化している。
あちこちの教室では先生が避難の指示を出す。しかし、この場にいる生徒は既に感情が爆発し、なんとかに逃れようと入り口に詰め込んでいる。
「てめぇら勉強仕舞いの生徒や先公共には用はねぇ!ただここんとこのガキが俺の持ちもんを持っているらしいからな!隈なく探さしてもらうぞコイツらに!」
古びたYシャツとジーパンを来た、無精髭の男が校舎に入ってくる。後ろから2機のワイバーンがゆっくりと歩いてくる。
背後ではパトカーが校門を囲んでおり、銃を向けているが、ワイバーンにパトカーを次々と破壊されていく。さらにワイバーンにはナマクラの銃弾が一切通用せず、ただ跳ね返される。警官達はどうすればいいのか困惑したままで、ただ狼狽するしかない。
校舎内では続々と、先生達の指示通りに生徒達が降りていく。その中に聖佳も含まれていたが、姉としての自覚がそこで覚めた。
「零子…!」
生徒達とは逆の方向を向き、掻き分けて突き進んでいく。零子という名を何度も叫び続けて。
その群衆の中に、鳴海も混ざっていた。彼もまた避難の道を辿っていたが、すれ違った際に彼女に気づいた。
「聖佳さん…!そっちは逆です…!」
彼もまた彼女を追おうとしたが、剣道部の部長である彼でもただ生徒達の流れに巻き込まれていくだけだった。そして、一気に2人の差が広がっていく。
それに気づかぬまま、聖佳は突き進んでいく。なんでこんな時に限ってと、校舎に向かわせたことを公開していた。置いてけぼりにしたら、両親になんて言われるか。焦りを隠せない彼女。
気づいてみれば、壁側に移動していた。だが、ここでかき分けながら進んだほうがスムーズに行きやすい。壁に這いつくばるようにして、聖佳は進む。しかし、トイレの入り口に差し掛かったところだった。
「きゃっ!!」
刹那、右腕に強い力が入った。押されているのではない。誰かが自分の腕を掴んで引っ張っているのだ。
必死に逆らうが、相手のほうが強く、男子トイレの方に吸い込まれた。
―ちょっと、離して、…!!
「ぐえっ…!!」
背後から聖佳の口元に布ものを強くあてがわれる。空気の通り道を一つなくしたために、それを欲して勢い良く吸い込んでしまう。彼女は暴れだし、“下っ端”は腹に肘を当てられる。しかし、彼の腕の力は抜けず、布に染み込んでいた液体の匂いで、聖佳の視界は徐々に薄くなっていった。そして、一瞬足りとも動かなくなり、グッタリと力が抜けた。
男はバッと支える。「悪く思うなよ」とつぶやくと、ビニール状の袋に包んでからせっせと運んでいった。
実はと言うと、これも依頼によるものだった。“下っ端”は、先に軽トラが学校付近に近づいて、業者を名乗って裏の入口から忍び込んでいたのだった。また、どういう手段を依頼者は使ったのかは2人にはわからなかったが、彼にこの学校の構造、クラス別々による避難ルートなどを教えてもらい、待ち伏せしていた。1回は見逃しを食らったものの、2回はその時聖佳は零子を探しに向かっていたところだから、彼には絶好の機会だった。
追加された数台のパトカーが後から駆けつけてきた。制服かスーツを着た数人の警官が降りてきて、銃を向ける。静止を求める。
しかし、当然耳を傾ける男2人。代わりに1体のワイバーンが急接近、パトカーを一台、下から爪を引っ掛けてひっくり返す。横回転して宙を舞い、もう一台のパトカーの元に落下、大爆発した。警官はただ逃げるだけしか、方法の判断ができなかった。
銃で応戦するが、ワイバーンには痛みどころか痒みさえも感じない。もう1台に爪を突き刺し、横投げ。これでも、警察の取る手段は同じだった。