やはり俺が765プロで働くのは間違っている。 作:けえす@陸の孤島
ゲッサン版の第7話から第10話に相当する話となります。
中学校の文化祭という都合上、今回は最年長セクシー()アイドルに頑張ってもらいました。
5月の定期公演会から数日が経った。
公演会が終わってから数日間、劇場内での話題は専ら春日のことであった。最上の突然の体調不良によって急遽初めてのステージに立つことになった春日。確かにダンスなどの完成度は低かったが、それでありながらも春日を歓迎していなかった人をも巻き込んだステージ。ほとんどの人が春日のことを褒め称えた。
一方で、最上の体調の方も多くの人が心配していた。定期公演会後には皆の写真にメッセージを添えて送っていたし、箱崎や二階堂さんはお見舞いに行ったようだし。
そして今日は久しぶりに最上が劇場にやってくる日である。様子を見に楽屋まで行ってみたが、当の最上はいなかった。
伊吹によると、最上は時々劇場近くにある施設でテニスをしているからもしかしたらそうしてるかもとのこと。誰にも言えないもやを晴らすために身体を動かしているかと思ってやってきていると、壁打ちをしている最上がいた。どうやら正解だったようだ。
「病み上がりにそんな飛ばして大丈夫か?」
俺の言葉に、最上は壁打ちを中断して俺の方を振り返る。
「比企谷さん……。何か私に用事があるんですか?」
「いや、特には。久しぶりに体を動かしたくなってな。最上が良かったら、俺と乱打でもしないか?」
「えっ? 私は構いませんが……。比企谷さん、テニス出来るんですか?」
「今でも、高校の頃からの友達とたまにするぞ」
「比企谷さんに、友達!?」
いや、俺にも友達いるぞ。戸塚とか天使とかトツカエルとかな。
20分ほど乱打をしていると、最上の動きが鈍くなってきた。そこで自販機のベンチで休憩することにする。
「スポーツドリンクでいいか?」
「ハァハァ……。ありがとうございます。比企谷さん、結構体力あるんですね」
「まぁたまにランニングしたりしてるからな」
「え!? 意外です!」
まぁ、ランニング始めたの大学に上がってからだし。以前戸塚とテニスやったときに体力不足を実感してなぁ……。折角ならずっと戸塚と打ち合っていたいし。
お互いに飲み物を飲んで静かな時間が流れる。そうしていると最上がうつむいた。
「比企谷さん……。この前はすいませんでした」
「ん? あぁあれか。……まぁ、なんだ。今後は練習も程ほどにな」
必死に練習して、結局その場に立てない悔しい思いをしたのだ。これ以上何かを言うのは酷だろう。
「結局、私のせいで皆には迷惑をかけて……」
「まぁそこは否定しないな。特に伊吹と春日には。二人とはちゃんと話したのか?」
「翼とは話したのですが……」
春日とはまだと言うわけか。仲も良かったようだし、祝福したい気持ちと妬ましい気持ちが混ざっててどう接したらいいのか分からないのだろう。
「まぁ謝罪でもデビューおめでとうでもいい。ちゃんと話しとくんだな」
「はい、分かっています」
そう言う最上は、暗い顔をしたままだった。
その後劇場に戻る途中で北沢とすれ違ったが、北沢は北沢で最上に何か言いたいことでもあるのだろうか? まぁどうでもいいけど。
最上と乱打をしてから、数日後。
周りから見て明らかに春日と最上の仲が悪くなっていた。さっきなんか所用で楽屋に行ったとき、同じ部屋にいた横山が二人を気にしすぎて雑誌を上下逆で読んでいたし。
その日の午後、飲み物を買いに自販機に行くと近くのベンチで気を落としている春日を見つけた。 あまり俺には向いていないが、ほっとくわけにもいかないよなぁ……。
「どうかしたのか?」
「あっ、比企谷さん。ええっと……。静香ちゃんに嫌われちゃって……」
「どういうことだ?」
「明後日の文化祭で私が歌うことになったんですけど、静香ちゃんと一緒に歌いたいって言ったんです。そしたら、断られちゃって……。多分、この前のライブが酷かったから一緒に歌いたくないんだと思うんです。静香ちゃん、アイドルに一生懸命だから……」
うまい具合にすれ違ってるなぁ。―まるで生徒会選挙の時の俺たちみたいに― このままほっといたら、この掛け違いが致命的になるかもしれない。
「まぁ、ただの俺の勘だが……。多分理由は他のところにあると思うぞ」
「……そうじゃないなら、私のこと嫌いになったのでしょうか……」
「多分だが、それも多分違うと思うぞ」
「えっ? う~ん……」
「例えばだが、春日が出るはずだったライブに、最上が出ることになったらどう思うか?」
「どうって……。私の分まで頑張ってって思います!」
「そうか……。多分だが、春日には最上の考えが理解できないかもしれない」
「……似たようなこと、志保にも言われました。一生分からないかもって。そんなの……嫌です」
「所詮、春日と最上は他者なんだ。たとえどれだけ言葉を交わそうが、理解できないことはどうしようもなくあると思うぞ」
「それでも……。私は静香ちゃんとちゃんと話したい。もっと、ちゃんと。それでも分からないかもしれないけど、今のままじゃ、やです」
さっきまで俯いていた様子と違い、その目には強い意志が宿っていた。
「そうか……。ならその春日の考えをちゃんと最上に伝えないとな。伝えることで壊れるものがあるかもしれんが……それでもお前はそうしたいんだろ?」
「はい。ただ、最近は私を避けてるみたいで……」
「ならいっそのこと文化祭を利用してみてもいいかもな」
「文化祭を……ですか?」
「あぁ。春日のところがどうかは知らんが、もしかしたら春日のステージが全校放送されるかもしれない。そうだったら、たとえステージにいなくても学校内にいるだろう最上にも聞こえるしな」
「なるほど……。比企谷さん、ありがとうございます!」
俺の話を聞いた春日はベンチから立ち上がり、早々に走り出してしまった。
「いや、全校放送されなかったらどうするんだよ……」
*
二日後、春日や最上が通う中学校の文化祭当日である。事務所で書類整理をしているのだが、どうにも落ち着かない。結局、あの後春日と話す機会も無かったしなぁ……
ちょっと気分を変えようと自販機に向かっていると、このみさんと遭遇した。どうやら彼女も飲み物を買いに来たようだ。
「あら、比企谷くんじゃない―ってどうしたの? 落ち着かないようだけど」
「いや、そんなことないですよ」
「バレバレよ……。もしかして、未来ちゃんや静香ちゃんのことかしら?」
「そうですね……。春日が最上に歌で思ってることを伝えるんだって言ってたんですけど、そもそもステージが全校放送されるかも分からないし、色々と不安でして……」
「あ~、確かに未来ちゃんだけだと不安よね……」
「かと言っても、文化祭には保護者を除くと中学生しか入れませんし……」
これはもう詰んでいるんだよなぁ……
「比企谷くん、少しは周りを頼ってみてもいいんじゃない?」
「周り……ですか? でも今時間がありそうな中学生メンバーが行っても……」
今時間がありそうな中学生は箱崎、望月、北沢といったところか。行ってくれるかもしれない箱崎や望月には悪いが正直言って少し不安だし、北沢はそもそも行ってくれないだろう。
「他にもいるでしょ?」
「他……ですか?」
今日劇場に来ていた人と彼女たちの予定を思い返すが、その三人以外はレッスンなどが入っていたはずである。それ以外に文化祭に行けそうな人……まさか
「……本当にいいんですか?」
この人にとって、中学生、下手すると小学生に間違えられる見た目は触れてはいけないはずだ。
「自分から中学生に扮するっていうのは私のアダルティには許しがたいことだけど……」
俺の方を見て、ウインクをするこのみさん。
「それよりも、困っている学生一人を見捨てる方がアダルティ失格よ♪」
本当、見た目以外は大人な女性である。4月の定期公演会前日の俺の行動理由も、この人には筒抜けだったようだしなぁ。
「すいません、それじゃあよろしくお願いします。」
「えぇ、任せておいて!」
そう言ってこのみさんは歩いていった。恐らく春日たちの中学校へ向かってくれたのだろう。
……ところでアダルティってadultyとは別の言葉なのだろうか……
*
比企谷くんと話した後、楽屋に戻った私はどうにか星梨花ちゃんと杏奈ちゃんの保護者として静香ちゃん達の学校の文化祭に行くことになった。入口にいた実行委員の人からは「票花」なるものを疑われることも無く貰えたし潜入は成功といったところね。ちなみに、制服は星梨花ちゃんのを借りている。サイズも合ってたし……
先ずは静香ちゃんがどこにいるのかを確認しなきゃね。ただ、私達が見つかっちゃうと静香ちゃんも片意地になっちゃうだろうしこっそり確認したいわね……。うまい具合に星梨花ちゃん達とはぐれないと。
その後、幸い教室前で声をかけられたときにうまい具合に彼女達とはぐれることができた。その隙に静香ちゃんの居場所を探すと、饂飩を出してる屋台で見つけることが出来た。ここまで拘るとは饂飩への愛は本物っていったところかしら。
この場所だと未来ちゃんが歌うであろう体育館とは結構離れているわね……。ここからだと全く体育館の様子が全く分からないわ。幸い、スピーカーは近くにあるから放送部次第では静香ちゃんに届けられるけど……。現状体育館の様子が中継されてる訳じゃないから放送部と交渉するなりしないとダメね。
体育館の方に向かうと、いつの間にか杏奈ちゃんがステージの上にいた。星梨花ちゃんに話を聞くと、ステージまで案内してくれた実行委員の人に765プロ所属であることがばれてしまったみたい。
でも、正直言うとこの状況は有り難いわ。実行委員の腕章を付けている人はどこにいるかしら……っと、私の方を見ているわね。タイミングばっちり。
無邪気な感じってなると、育ちゃんあたりかしら? 普段の育ちゃんの言動……
「わぁ~、本物のアイドルだ! お外の皆にも聴いてほしいなぁ!」
う~ん、中々子どもらしさって難しいわね……。不自然じゃなかったかしら?
ちらっと実行委員の人を確認すると、何かはっとした顔でどこかに向かっていった。10分くらいすると体育館に人が集まりだしたし、どうやら全校放送に切り替わったのだろう。上手くいってよかったわ。
さて、私に出来るのはここまでね。後はあなたの仕事よ、未来ちゃん。
それから静香ちゃんがいる屋台に向かった。やっぱり全校放送になっており、多くの人が体育館に向かっている。
屋台まで戻ると、静香ちゃんはスピーカーの方を見てぼうっとしていた。スピーカーからは三人が歌う「Thank you!」が流れている。
「誰に向かって、Thank youって言ってるのかしらね?」
「えっ、このみさん!? 何してるんですか?」
「折角だから、未来ちゃんのステージを観に行こうと思ってね」
「……もしかして、未来から何か頼まれたんですか? 私はステージに行きませんよ」
「いいえ、私は未来ちゃんからは何も頼まれてないわよ?」
未来ちゃんからはね。
「そういえば、未来ちゃんは今回のステージを誰かに聞いてほしいって言ってたけど……誰なんでしょうね?」
「そんなの……私には関係ありません」
そう言いながらも、スピーカーの方を気にしている静香ちゃん。本当、素直じゃないわねぇ。後一押しといったところかしら?
結局、Thank you!も終わってしまった。最後の曲だったようだけど、客席のアンコールによってもう一曲歌うことになったようね。スピーカーからは未来ちゃんの声が聞こえてくる。
『皆、アンコールありがとう! 杏奈がステージを盛り上げて、星梨花が背中を押してくれて、皆の声援があったから全力で歌えました! 次が最後の曲だけど、どうしてもこのマイクを受け取ってほしい人がいるの……』
静香ちゃんがその言葉にはっとする。
『私がアイドルになるきっかけをくれた、私にとっての一番のアイドル……静香ちゃんに!』
その瞬間、静香ちゃんが屋台から飛び出そうとしたが、手に持っていたうどんてぼを見て立ち止まる。本当、真面目な子よね。
「行ってきなさい、静香ちゃん。ここはお姉さんが何とかするわ」
「あっ、ありがとうございます、このみさん!」
そう言いながらうどんてぼを私に手渡して、静香ちゃんは今度こそ走り出した。
*
「そして、静香ちゃんは無事ステージで歌って、未来ちゃんと仲直りしたってところね」
「なるほど、中々大変だったんですね……。このみさん、今回はその、ありがとうございました」
後日、俺はこのみさんから文化祭の様子を聞いていた。全校放送に切り替えさせたり、うどんの屋台番を代わったり、色々とやることがあったようだ。
「うふっ、そうね。それなら、今度日本酒をご馳走してくれるかしら?」
「いや、それは……。このみさんと行くと職質受けそうなんで……」
見た目小学生と日本酒を飲む目の腐った男とか絶対ヤバいだろ。
「あら、それは残念……。なら今度の屋上バーベキュー会の時にでも一緒に飲みましょうね♪」
「まぁそれなら……」
ただこの人、お酒飲みすぎる傾向にあるんだよなぁ
ふと会話が途切れて静かになると、近くから春日と最上の声が聞こえてくる。どうやら春日の宿題状況に対して最上が叱っているようだ。このみさんもそれが聞こえたのか、優しい微笑みを浮かべている。
「本当、あの二人は仲がいいわね。本当、今回は仲直り出来て良かったわ」
「文化祭の件は本当にありがとうございます。俺だけではどうしようもなかったです」
「でも、それでいいと思うわよ?」
「……負担になっていませんか?」
今回の件だけじゃない。普段から、このみさんは周りをよく見ている。アイドルでは年長者ということもあって、相談されることも多いだろう。
「心配してくれてありがとう。でも無理はしてないし大丈夫よ。それに、みんなから頼りにされるのって嬉しく思うしね。比企谷くんもそう思うんじゃない?」
「いえ、そんなことはありません。面倒事はなるべく避けたいと思ってます」
「うふっ、そういうことにしておくわね。それにしてはいつも比企谷くんは色々と大変そうだから、今回みたいに私でもいいし、高木社長やミリP、小鳥ちゃんや美咲でもいいから……」
このみさんは俺の方を見てウインクする。
「大変な時は、ちゃんと周囲を頼るのよ? お姉さんとの約束ね♪」
来年度から私の環境が大きく変わるため、その準備や各種対応で更新速度が遅くなると思います。