年月が流れ、時は数年後。リアスは石碑に名を刻み、王(キング)の証として『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を渡され、既に女王(クイーン)、騎士(ナイト)戦車(ルーク)僧侶(ビショップ)を一人ずつ持ち『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』の名を冥界の世間に響かせた。
ある日、リアスはジャージ姿で執事であるシンと共にグレモリー家が所持しているスタジアムに来ていた。内容はグレモリー眷属の鍛錬。勝負は一対四。すなわちシン一人に対して眷属(僧侶を除く)全員である。勝敗条件は簡単、シンまたはグレモリー眷属全員のどちらかが倒れるまで。なお、降参(リザイン)は不可だ。なんというドS(スパルタ)。
「ハアァ!」
ザンッ!バシッ!
「…えいっ」
ドカッ!トスッ!
「そこっ!」
「そこですわ!」
ドウッ!ピシャッ!
「…」
ビュウォォォォ!!
騎士の全力の斬撃を指一本で受け流し、戦車の本気の拳も同じく指一本で受け止める。王と女王の最大限まで溜めた滅びの魔力と雷はシンの拳から発せられたオーラによって掻き消された。サーゼクスやセラフォルー、グレイフィアなどから先生、師匠と呼ばれるのも伊達ではないのだ。
さらには『三大勢力の要』とも呼ばれる始末。本人はその気はサラサラ無いが。
「そこまで!」
シンの一声でグレモリー眷属全員が動きを止め、誰もが汗だくで肩で息をしている状態になった。それにひきかえ、シンはこれぐらい朝飯前とも言うぐらいに汗を一滴たりとも流れていない。
「ハァ…ハァ…やっぱりシンには勝てないわね。今まで千回以上してきたのに一撃も当てられないわ」
「容易く当たる訳ないだろう?せめてサーゼクスとセラフォルー、あとの魔王二人か、グレイフィアぐらいにならないとな」
「魔王四人に悪魔の女王最強ぐらいって、シンって本当に人間なの?私の滅びの魔力と朱乃の雷撃はオーラで掻き消すし」
「僕の剣も指一本で受け流しますしね」
「…私の本気のパンチも簡単に止められました」
「だからこそ、思う存分攻撃し放題できますしね。うふふ」
彼女たちもここ数年サボることなく、鍛錬に励み、段違いに、そして格段に実力は上がっていた。若手悪魔のトップクラスと謳われているほどだ。だが、それでもシンから見ればまだまだ未熟の域。人間ながらに悪魔たちを色々な意味で魅力させるカリスマ性。まさに『人王』と呼ばれるべき存在。
尚、鍛錬となるとシンの口調は素に戻る。
「まだまだお前たち若手に傷を負われるほど衰えてはいない。どれ、少し見せてやろうか。木場祐斗、適当に剣を創ってくれ。あ、お前たち全員離れていろ。久しぶりに少し魔力の枷を外す。大丈夫だと思うが念のためにな」
「えっ、わ、わかったわ。祐斗、お願いね」
「了解です。ではシンさん、これを…」
木場が何の変哲もない剣を創り出し、シンに渡した。受け取ると眷属全員はシンから離れ、シンは剣に意識を集中させる。
そして次の光景にリアスたちは驚愕した。シンの周りを炎、水、土、風、光、闇と様々な力が集まりだしたからだ。
全ての力は剣へと吸い込まれていき、七色に輝きだして、シンは何もない緑の空へと剣先を向けて振るった。
「煉獄斬り」
ボボゥ!
「オーシャンブラスト」
ザバァァ!
「大真空斬」
ジャキン!
「グランドクロス」
ザンッ!
「ジゴスパーク」
シュウゥゥバチチッ!
色とりどりの技が空の彼方へと飛んでいった。これは余談だがとある一団の一部にシンの放った技が直撃し、壊滅寸前になった……らしい。
「…これが三大勢力の要と言われているシンの力。未知の領域と言わざるを得ない光景だわ」
「と言っても今のは魔力の一割に満たないぞ?」
「「「「!?」」」」
驚愕するのも無理はない。先程の技が魔力の一割を満たさないぐらいとするとシンの魔力は底知れない。
「……もう表舞台に姿を出せば良くない?一応、シンが『執事』として活動してるのを知ってるのはシンと親しい間柄の貴族と、各勢力のトップ。その他にもいるんだし」
「ここの上層部には『シン・ソロモンは死亡』と報告したことになっている。今更、表舞台に立とうとは思っていない。それにやりたいことが出来たしな。実は今日、ここに集めたのは鍛錬の他に、ある事を伝えたかったからだ」
「伝えたいこと?」
「ああ……今日をもって、俺は冥界から離れることにした」
「「「「……ええッ!?」」」」
またまた驚愕するのも仕方ない。
冥界を離れる。つまり、シンが冥界を去るということは去る=愛想が尽きたと思われても可笑しくないこと。シンが過去に言ったことには『協力』としか言っていない。だからいつ去っても可笑しくない状況だった。
「どうして!?もしかして私たちのこと嫌いに…?」
シンは苦笑しながら言った。
「いや、そうじゃない。今まで、言いづらいかった理由は他勢力からの誘いが煩いからだ」
「え?」
まあ、シンが言いづらかったのも無理はない。既にシンは多くの勢力に目をつけられている。何処に誘い込まれても立場にある。それ故、シンは上層部からの命令を下されることを思い、ソロモンの名を隠して、サーゼクスとグレイフィア、他の悪魔たちにも事情を話して上層部の目には入らないように頼み、ただの『ただの人間』シンとしてグレモリー家の執事として働いていた。
「そうだったのね…。でも少し安心した。もしかしたらあなたに嫌われたと思ったわ」
「嫌いになる理由がないな。寧ろ、感謝しているよ。グレモリー家や他の貴族たちにも感謝しきれない。だがそれも長くはないだろう。ここ最近、良くないうわさが流れていてな。現魔王に反対していた輩たちが何処かに集まっているらしい」
「それは…危険極まりない話ね」
「全くだ。一応、この話は極秘でな。絶対に漏らさないように。いいな?」
「わかったわ。それで今日冥界を離れて、何処に行くの?」
「伝は様々あるが、最初は北欧に行こうと思っている。オーディンの爺に呼ばれているからな」
「北欧の主神、オーディン様をを爺呼ばわりって…」
「年はかなり離れているが、彼奴からの受けた苦労を思えばこれぐらいが妥当だよ」
呆気にとられているグレモリー眷属全員に、シンは清々しい笑顔を向けた。
翌日、各勢力にシンが北欧へ向かう途中で行方不明の情報が送られてきたのだった…。