冥界の最古参執事   作:カフェ・オーレ

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改名せし人王

 

 シンがヴァルハラに来て、翌日。

 

「突然だが、ロスヴァイセ。俺は名を変えようと思うんだが…」

 

「はい、そうですか……って、えぇぇえぇぇぇ!?何でですか!?」

 

 場所はヴァルハラにあるロスヴァイセの自宅。まあ、いきなりのシンによる発言に臣下となったロスヴァイセが驚くのも無理はない。シンが名を捨てるというのはつまり、人王という立場を捨てるということを意味する。だがロスヴァイセは聞き間違いをしている。

 

「まさか、人王の名を捨てると!?」

 

「捨てるんじゃない、『変える』んだ。そこを聞き間違えるな」

 

「す、すみません。ですが、何故急に?まだ変えなくても良いのでは…?」

 

 シンは考える素振りをしながら話す。

 

「いや、それでは遅い。いくら冥界を離れたとはいえ、あの『シン・ソロモン』が突如行方不明になった。もしかしたら襲撃された。あるいは突然死した。しかし、その真実を知っているのは…」

 

「今のところ、このヴァルハラにいる一部の人物とクソジ……オーディン様と私ですね」

 

 サラッとロスヴァイセが主神のオーディンをクソジジイと呼ぼうとするのをシンは敢えて聞き流す。

 

「ああ、かと言ってオーディンの言ったようにいつ俺がヴァルハラに滞在しているという噂が流れ出ても可笑しくない状況。そこで名を変えるという案に至った」

 

「なるほど、確かにそうですね。では、新しく名乗る名はどういったものでしょうか?」

 

 ロスヴァイセはハラハラしながらもキラキラとシンに輝く目を向ける。が、シンは微妙な表情をした。

 

「そこだ。俺はどうやらネーミングセンスというのが無い、いや苦手でな。名乗る名をまだ決めてないんだ」

 

「は、はあ…」

 

「簡単なものでいい、ロスヴァイセがつけてくれないか?」

 

「わ、わわ私がですかっ!?そんな恐れ多いことできません!……でも、私的には『ソロ』なんて名前が良いじゃないかな〜なんて(ボソッ」

 

 さり気なく自分の案を言うロスヴァイセ。

 

 だが、ここでシンの人王クオリティ(地獄耳)が発動した。

 

「ふむ、ソロ……一人という意味がある。ある意味、人間の『一人』としては悪くない名だな。良し、今日から俺は『ソロ・アイン』と名乗ろう」

 

「…え?えええぇええ!?」

 

 今ここに突然として『人王』は姿を隠し、『新たな人間』として誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…と、言う訳で。こちらにも一応顔を出して言った方が良いと思って来ました」

 

「なるほどのぉ。してシ、いやソロ殿。その敬語は何とかならんのか?」

 

「いくら『天照(アマテラス)』殿の命でも、流石に無理というものが御座います。しかし、どうしても言うのならタメ口にさせてもらいますが…」

 

 数日後。ヴァルハラから日本を訪れ、今代である主神アマテラスに会いに来ていた。シンと言う名を隠し、新たにソロの名に変えたことを報告するため。ちなみにロスヴァイセも同行している。一応ヴァルハラに属していた彼女からすれば、かなりの冷や汗ものだが。

 

「寧ろタメ口で構わぬ。そなたは我等や妖怪たちの代わりに各地で好き勝手に暴れていたはぐれ悪魔や他勢力の者共を退治してくれた。その礼じゃ」

 

「では……ふぅ、あの馬鹿共は元々俺の馬鹿弟子たちが造った代物を埋め込まれ、その主を様々な理由で殺し自由の身となった者ばかりだ。色欲、暴力、金、女……そのせいでこの国にと手が及んだ」

 

 シン…ソロは悲痛な表情で語る。

 

「俺はただ、馬鹿弟子たちのしてきたことの尻拭いをしたに過ぎん。他勢力は者共はそのついでだ。だが、悪魔たちのことは指導していた俺にも非がある。この場にいない、あの馬鹿弟子共に代わりに改めて謝罪する。誠に…申し訳なかった!」

 

 その光景にロスヴァイセ、アマテラスを含むこの場にいる全員が動揺した。自分たちを凌ぐ程の力を持つあの人王が床に手をつき頭を擦り付ける、謂わば『土下座』を自分たちにしているのだ。

 これには、流石に日本の各神々たちも慌てた。

 

「あ、頭を上げてくだされシン殿!?元はと言えば、悪魔の駒とやらを創り出した者たちを責めればいいもの!貴方さまが頭を下げる必要などありませぬ!」

 

「そうとも!悪魔たちが行ったことであり、貴方程の者が土下座をしなくても――」

 

「いや、悪魔の駒を提案された場には俺もそこに在席していた。その時に反対していれば良かったのだ!そのような代物を造るのは却下だと……ッ」

 

 その言葉に全員は黙ってしまう。確かにシンが止めていれば、被害を出さずに済んだかもしれない。だが、日本勢力は他勢力から見ればかなり実力差があり、いつ滅んでしまうも可笑しくない可能性があった。そこをシンが支えたことにより、滅びずに済んだとも見て取れる。

 アマテラスはシンに声をかけた。

 

「…顔を上げてくれ、『シン・ソロモン』」

 

「…」

 

 天照の声に、シンはゆっくりと顔を上げた。その顔には双方の眼から一筋の涙が流れていた痕が残っていた。

 

「ふ、お主も泣く時があるじゃな♪」

 

「ッ//……俺も人間だ。涙を流すことだってある!」

 

(シ、シンの素直じゃないところ…か、可愛い!!)

 

 顔を着用していたローブの袖で擦り、むすっとする。その表情にロスヴァイセは内心転げまくっていた。

 シンはコホンと一咳して、立ち上がった。

 

「失礼した。では、次は八坂の方に…」

 

「ああ、八坂に会いに行くのは控えた方が良いぞ。魔王の小娘が来ておるからな」

 

「!セラフォルーが来ているのか。そういえば、アイツは外交関係担当だったな。ならば言うとおりにしておく」

 

「それが良い。では……ツクヨミよ」

 

「はい。ではシン殿、こちらを…」

 

 ドスン!ドスンッ!ドスンッッ!!

 

「「…は?」」

 

 天照の妹である月詠が降ろした物にシンとロスヴァイセは絶句した。

 

 

 

 

 

 

 シンの前に米俵がいくつも置かれ、さらには金、銀、銅と金属製の日用品もあり、最後には日本円がギッシリ詰まった袋を渡された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石のシンもこれは貰い過ぎだと抗議するも、神々から多いに越したことはないと宥められ、ロスヴァイセと一緒にヴァルハラに持って帰っていったとさ。

 

 

 

 

 

 




次から原作だと思います…。

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